―描写を支える科学的背景― 石炭紀は「シダ」の時代か?(いや、そうではない)
石炭紀といえばシダ植物の時代だ!とよく言われている。
この「シダ植物」というのがよくよく聞いてみるとリンボク類やカラミテスだったりするのだが、一般にシダというものの概念とはどうなっているのだろうか?
まずヒカゲノカズラ類やイワヒバ類やリンボク類やミズニラ類をシダ植物というのをやめよう。杉の葉のようなヒカゲノカズラや、ヒノキの葉を思わせるイワヒバなどを、シダであると認識する人間はまずいないだろう。これらをシダだという誤解が生じてしまうのは、胞子で増えるからシダですよ、と、誤った刷り込み教育をさせられるせいである。シダじゃないという直観が正解。
小葉植物と呼びなさい。
これらは、シルル紀以前にはほかのグループから分岐して独自の進化を遂げたグループであり、種子植物やトクサや所謂シダ植物とは一線を画するグループである。
これらの植物をシダ植物と呼ぶことは許しがたい傲慢であって、まったく許容されるべきではない。
何度でも繰り返す。
今すぐシダと呼ぶのをやめろ。小葉植物と呼ぼう。
さて、ヒカゲノカズラのたぐいを一掃した、残りの維管束植物の概念…大葉植物に目を向けてみよう。
おそらく普通の人間はここに
・トクサ類
・マツバラン
・”シダ”類
・種子植物
を認識するのではないだろうか。
概ね当たりである。
ー種子植物
ーートクサ類
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ー”シダ類”+マツバラン類
こういう形になる。
トクサやスギナを見て、「シダが茂ってますね」という人間を私はほぼ見ない。
一般人にとってのシダ植物というと、あの三角形の羽状複葉をもつ、胞子で増えるアレではないだろうか。地下茎の有無や下草かどうか等は、ヘゴなどの木性シダの概念があるので融通が利くと思われる。
さて、現在においてこの一般的な、「シダっぽい」植物は、比較的類縁関係の強いものたちといえる。胞子で増殖する、シダ様の植物(上のでっち上げ系統樹だと”シダ類”とした)は従来、真正シダ類と呼ばれてきた。
しかしこの命名に関しては、直観的ではあるものの、現在ではあまり用いられていない。
定義を改変して真嚢シダ+薄嚢シダというくくりにしてマツバランという例外を含めてしまえば、単系統になるのだが…。
これにトクサ類をさらに足した、大葉シダ植物という分類が現在一般に使われている。
ただトクサ類はやはりかなり長い進化史をもっていて、後期デボン紀には他の大葉シダ植物からは独立したグループであるのには留意が必要であろう。
さて、現在において、シダらしい植物は、シダのような葉をあたかも専売特許のようにつけているが、このシダ状の葉というものは植物の進化において獲得しやすかった形態のようである。
薄嚢シダ類、リュウビンタイ類、ハナヤスリ類の葉は見かけ上よく似ているが、どうやら独自に獲得されたもののようである。
古生代には、さらにほかのグループでもよく似た葉が獲得された。
種子植物は、トクサ類よりも早期に分岐したグループであって、アルカエオプテリスなどの前裸子植物(紛らわしい名前だが、種子植物的な幹をもつ木本で、種子植物は大葉シダ植物ではなくこちらから進化してきた)などと同じグループといえる。
種子植物の系譜においても最初は葉を持っていたわけではないようで、もともと二分岐を繰り返す棒状の植物であったと考えられている。
前裸子植物においてもシダ状の葉が獲得され、それが種子植物の葉と本当に相同なのかはいまひとつ、はっきりしない。
そうした最初期の種子植物において最初期に見られる葉はスフェノプテリス型の、シダ状の葉である。このスフェノプテリス型の葉というのが極めて厄介で、さまざまなグループで繰り返し生じてくるために、分類にはほとんど役に立たない。
スフェノプテリス型の葉から種子植物の葉が発達するにつれ、その形態はしばしばシダ植物のものに酷似するようになっていくものが多かった。
古生代から中生代にかけてみられるそうした形態を、シダ種子植物と呼んでいる。
ここまで長い説明をして、わかったような、わからなかったような?と戸惑う方が多いだろう。
簡潔にまとめるならば
1.
現生のシダは概ね単系統にまとめられるから、そのグループ(大葉シダ植物からトクサ類を引いた単系統群)がおそらく、シダと認識される概念に最も近い。(例外としてマツバラン類のみを認めるだけで済む)
2.古生代においては、現代と違ってシダ状の葉を持っているからと言ってシダとは限らないし、シダのような葉は進化の上で何度も現れる
3.リンボク類のような小葉植物は遥か早くに分岐したまったく異なる植物であるからシダと呼んではいけない。一般的な認識でもシダとは受け入れられがたい。
ということである。
さて、石炭紀の「シダ植物」の化石に胞子嚢が伴わないことは古くから問題視されてきたし、そうしたものが実際には「シダのような葉をもつ種子植物」であったこともまた、事実である。シダ種子植物とシダ植物の葉を見分けることはしばしば困難で、まったく同じような形態を獲得しうるのであるが、少なくとも後期石炭紀の前半においては概ね、シダ種子植物のほうが多い。大葉シダ植物で栄えるグループはおもにトクサ類とリュウビンタイ類、あとはジゴプテリス類など、くらいで、これら大葉シダ植物がさらに勢力を増していくのは、カシモビアン以降の後期石炭紀の後半、ユーラメリカにおけるリンボク類の森が壊滅したあとの話である。




