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石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
凍てつく地でも、採集を。
118/233

―描写を支える科学的背景― カブトエビ伝説―本当に「生きた化石」か?

解説回です。

「エビ伝説」を楽しんだことのある方は多いだろう。

容器に砂みたいなものをほんの少し入れて、水をそそぐと小さな卵が孵化し、うまくいけば餌をモリモリ食べながら2~3週間で成長していく。自前でカブトエビを育てようとすると案外難しいので、たいへんよくできた飼育キットである。

さてこのカブトエビだが、しばしば「1億年以上現生種がいる」という話がしばしば記されており、かつてはヨーロッパカブトエビが地球史上最古の種とみなされてきた。これは三畳紀からヨーロッパカブトエビの化石が見つかるという話で、ドイツの後期三畳紀(1)、フランスの前期三畳紀(2)、アメリカ合衆国バージニア州の後期三畳紀(3)から報告があるものの、これらは現在ではTriops属との違いが指摘されている(4)。さらに、分子時計からも、現生のカブトエビ属TriopsとヘラオカブトエビLepidurusがかなり近縁であり、両属が分岐したのはおそらく新生代であろう、とする結果が出ている(5)。不思議なことに、ヘラオカブトエビ属Lepidurusでは大型の肛上板が「ヘラオ」の語源となっているが、肛上板が発達したヘラオカブトエビ風のカブトエビ類と肛上板が発達しないカブトエビ風のカブトエビ類がペルム紀以降幾つも確認されている。これは肛上板が発達することが繰り返し起こったため、と考えざるを得ない(5)。

ただそれでもカブトエビ類(鰓脚綱背甲目)は極めて形態的に保守的であり、後期デボンファメニアンに見られるStrudopsから外見上はほとんど変化していない。(Strudopsを背甲目と言い切れるかどうかには諸説あるが、見た目上はカブトエビそのものである。)(6)Strudopsが出ているベルギーのStrud石切り場からは言うまでもなく最初期の四足動物であるイクチオステガ類(7)や、最初期の種子植物であるMoresnetiaや最初の木本であるArchaeopterisなどの植物相(8)が産出している。これら最初の種子植物や陸上四足動物からすれば、カブトエビの形態が極めて古風であるということは言うまでもない。

さて、石炭紀からのカブトエビ類は石炭紀末期からのThuringiopsが知られている。これもかつて最古のTriops属と呼ばれていたものである(9)。

さて、ステムグループ・カブトエビ類に現生種とは異なる突飛なものがいなかったのかと言われれば、Kazacharthra目が挙げられる。これはカブトエビを含む背甲目NotostracaとともにCalmanostracaを構成するもので、基本的に大型で甲皮は幅広ないし前後に短く胴体が非常に長い傾向があり、しばしば甲皮に装飾が認められ、かつより硬質な背甲をもち、尾節は団扇状に広がることが殆どである。このグループはおもに、三畳紀から知られている。

2億年以上生きた単一種としての「伝説」は失ってしまったが、それでも今なお、カブトエビは「生きた化石」であり続けているといえるだろう。また、化石カブトエビ類は現在記載ラッシュで、ここ数年はほぼ毎年、数種が新種記載されている。

(1)Trusheim, F. 1938. Triopsiden (Crust. Phyll.) aus dem Keuper Frankens. Paläontologische Zeitschrift, 19, 198–216.

(2)Guthörl, P. 1934. Die Arthropoden aus dem Carbon und Perm des Saar-Nahe-Pfalz-Gebietes. Abhandlungen der preußischen Geologischen Landes-Anstalt, N. F., 164, 1–219.

(3)Gore, P. J. W. 1986. Triassic notostracans in the Newark Supergroup, Culpeper Basin, northern Virginia, with a contribution on the palynology by Alfred Traverse. Journal of Paleontology, 60, 1086–1096.

(4)Geyer, G., Hegna, T. A., & Kelber, K. P. (2024). The end of the ‘living fossil’tale? A new look at Triassic specimens assigned to the tadpole shrimp Triops cancriformis (Notostraca) and associated phyllopods from the Vosges region (eastern France). Papers in Palaeontology, 10(5), e1589.

(5)Vanschoenwinkel, B., Pinceel, T., Vanhove, M. P., Denis, C., Jocque, M., Timms, B. V., & Brendonck, L. (2012). Toward a global phylogeny of the “living fossil" crustacean order of the Notostraca. PLoS One, 7(4), e34998.

(6)Lagebro, L., Gueriau, P., Hegna, T. A., Rabet, N., Butler, A. D., & Budd, G. E. (2015). The oldest notostracan (U pper D evonian S trud locality, B elgium). Palaeontology, 58(3), 497-509.

(7)Clément, G., Ahlberg, P. E., Blieck, A., Blom, H., Clack, J. A., Poty, E., Thorez, J. and Janvier, P. 2004. Palaeogeography: devonian tetrapod from western Europe. Nature, 427 (6973), 412–413.

(8)Prestianni, C., Streel, M., Thorez, J., & Gerrienne, P. (2007). Strud: old quarry, new discoveries. Preliminary report. Carnets de Géologie/Notebooks on Geology, (M01/07), 43-47.

(9)Werneburg, R., & Schneider, J. W. (2022). New branchiopod crustaceans from the late Carboniferous and early Permian of the Thuringian Forest Basin, Germany, with a review of Permian notostracans from the Lodève basin, France. Semana, 37, 57-103.


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