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石炭紀紀行(鱗木SF・改)  作者: 夢幻考路 Powered by IV-7
凍てつく地でも、採集を。
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泡、鎖帷子 -太古の魚は、鱗も取れぬ-≪登場古生物: パレオニスクス類≫

陽は、もう高く昇っている。

時計を見れば、昼の11時。

日差しは柔らかく、霧に霞む。

ひんやりとした風に、温泉から漏れ出た湯気がふきちらされていた。

湯煙でかすむ、灰白色の箱が並んだみたいな居住区を抜けると、さび付いたクレーンや鉄塔の、ごつごつとした輪郭が空を切り取っていた。

こつり、と足に触れるものがある。

真っ黒な小石がひっくり返って、その断面が鮮やかなピンク色であることに気づいた。――マンガンか。

気にしてみると、足元に転がっているのは石炭やら鉄鉱石やら石灰岩やら、回収時に零れ落ちたのであろう、さまざまな鉱石の破片であって、ただの石ころ――ただの石ころなんてものはないのだが――なんてものは、一つたりとて転がってはいなかった。

薄灰色に濁った大河には、浚渫によって切り開かれた航路が、川面からでもはっきりと見えた。川底も見えぬ濁り水というのに、波間の動きがその水底を教えてくれるとは、なんとも興味深い光景であった。おそらく、深い場所では流れが速くなり、また川底の起伏が水面に与える影響が少なくなって、一層速く、静かな水面として見えるのであろう。

港をみやれば、今日は静かに止まる一隻のみ。

働く人は、一人もなかった。

働く日は働き、働かぬ日は働かぬ。そういう土地柄であるらしい。

ただ5人ほど、釣り糸を垂れるものがあるのみであった。


「ねぇあなた、撮ってもいい?」

アリアは声をかけて回った。おう、どんどん撮ってけ、というものから、軽くうなづくだけのものもいる。

魚籠には、15㎝ほどの魚が10匹ほど、入っていた。

黄土色の魚体を覆う鱗は硬く鎧のようであり、菱形のタイルのようであった。

濁った水中、魚体は見えぬ。

しかし、彼は仕掛けを的確に、狙ったかのように入れるのである。

そして、すぐにあたりが来る。

竿がくい、としなり、びくびくとした振動とともに魚体が上がる。

見事な手際に、私は口をぽっかりとあけるほかなかった。

「どうやってるんですか?」

と聞くと、

「見とれ、泡が上がるだろ」

そう、彼は指さした。

たしかに、ふつふつと泡が上がっている。

――古典的な魚の描写でもあるまいし、

そう思っていると、水面に素早く一匹が上がってきて、“息継ぎ”をした。

「ほれ、息を吐いたあぶくが群れの上にできる、そこだ、餌を垂らしてみい」

そういって竿をぽん、と手渡されると、あぁたしかに、10秒とたたずにびくびくとした振動がきた。おぉ。

軽く合わせを入れると、ぐいっと引き込んで、手にぐいぐいと振動が来る。

「結構大きいな」

そして、ようやく顔が出た――その顔は少しカタクチイワシにも似たものである、大きさは20㎝かそこらあるだろうか。

ちょうどよいたも網があればいいが、いかんせん手持ちがない。

ごぼう抜き、できるか?

しかしこの魚、顔が水面に出ても一向に抵抗をやめない。

ええいっ。私は勢いをつけて、竿のしなりを生かして魚を上へ放り出した。

堤防の上に上がったそれは、先ほどとよく似た、鎖帷子のような鱗で身を固めた魚だった。鰭を右へ左へとうねうねと動かし、まるで這いまわるように進む。

さて――この魚もまた、正体の見当もつかぬ。

原始的な条鰭類、ではあるのだろう。

いわゆる、パレオニスクス類と言われがちな、ごく初期の条鰭類。

原始的過ぎて、どの仲間というかは非常に難しい。

「これこれ、焼いてべりっと剥いて食べるやつ!ジュラ紀の野宿でおなじみ」

と、アリア。

なるほど、ガーパイクの食べ方と同じというわけか。

「火を通すとカパッと剥けるのよね、剥いて背中をパクっと。釣っても釣っても可食部はほんのちょっと。山積みにして酒のつまみにするやつね」

リリィのいう食べ方は、どっちかというとアメリカザリガニ料理を思わせる。

サイズ的にも、労力対効果はあまり見込めなさそうだった。


さて――このような原始的な鱗を持つ魚は、今ではポリプテルスくらいである。

パレオニスコイド鱗(パレオニスクス鱗)といって、骨質、象牙質、ガノイン層からなっている。そう、歯に似た構造をかなり残しているといえるのだ。ガーパイクやアミアをはじめとして似たような鱗を持つ魚はいるが、どれもあるていど改変されてしまっていて、オリジナルなものはめったに見られない。

鎧のようにビッチリと硬く覆っているのは、これらの魚の鱗には突出部とそれに対応するソケットがあって、それがぱちぱちと噛み合って関節しているためである。

逆撫でしても、つるり。

鱗の重なりあいは、ほぼない。

「鱗を取る」ことはほぼ不可能、皮を剥くしかないのも納得である。


原始的といえば、空気で息をするのもそうである。

あまり知られていないことだが――硬骨魚においては、肺を呼吸に使うほうが原始的なのだ。

概ねそんな内容の解説をしながら、動画に撮られた。なんとも言えない、という話ばかりだったが、それで良かったのか。

さて、みな同じ種のようだったので、5匹ほどを標本としていただくこととして、港を発つ。

川面からたつ霧のむこう、工場の裏側から、ざわざわと、風に吹かれるこずえのざわめき。今日の目的地は、港と工場を越えた向こう、そこに広がる森なのである。


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