<Prequel 第二部 そして、旅へ> 急 変わる、世界
超時空ゲートが開通し、人類が時空を超えて進出するようになってから、すでに半世紀がたっている。
人類が宇宙に進出して、すでに久しい。
人類の版図は地球―月圏を版図とする地球勢力と、主に地球軌道より外側を支配する火星連邦に大きく二分されていた。
資源・エネルギー不足による数世紀に及ぶ中世的停滞を越え、途方もない年月をかけて地球勢力は、政権や政体の変遷を経ながらも地球―月ラグランジュ点に超時空ゲートを建設し、開通した。
超時空ゲートの開通が共通時空暦元年と定められてから、およそ半世紀。
それでも――地球の重力に縛られた人々にとって、それは遠い世界の話であった。
暦が変わって少し豊かになった、以上の感想を持つものは、まだいない。
そこでは、旧来の体制が、人々をいまだ大地に、縛り付けていた。
共通時空暦52年、某総合商社の会社員ケイ・ヤマナカは、空気を読まない言動、とくに度重なる会議中の問題指摘行為からすっかり、忌み嫌われていた。成人女性にもかかわらず男子小学生にしか見えないその外見もまた、周囲の憎悪を呼ぶきっかけとなっていた。そんなケイは、浴場に生えたキノコを石炭で焼いて食わされる羽目になる。アトラスが「キノコ不在のために石炭ができた」という俗説を披露、ケイと衝突する。「石炭で焼いたキノコの味はデータがない」というアトラスに、ケイは言い放つ。「ハラワタも持たないやつが、味を語るな」その晩、腹痛に苦しむケイのもとに、大学時代の友人、アリアからメッセージが届く。歴史的建造物を改修した高級カフェ「Rustic」への誘いだった。そこでアリアから、石炭紀への旅に同行してくれと頼まれる。ケイははじめ断りながらも、石炭を作り、人類の飛躍の原点となった石炭紀への旅を決意した。
いっぽうで、社内では静かに、激変が起こっていた。
登場人物
ケイ・ヤマナカ・・・主人公。成人女性だが、男子小学生のような外見。大卒、現在は会社員。
アトラス・・・万能人工知能。
社会ではあたかも神のように扱われており、社会のあらゆる面に浸透している。
地球においては、ほぼ全員がアカウントを持ち、人々を「正しい」方向へと導く。
ツールとしても普及し、一部の会社ではヒト型筐体を持つタイプが社員として在籍中。
実は俗説を話していることも多く、ポンコツ疑惑がある。
TWINS・・・ケイがモニターとして使っている、試作型AI。
感情模倣に特化しているが、情報ソースは大学図書館所蔵の資料のみ。
開発目標は「大学卒業者の生活支援」だが、世話焼き道化AIと化している。
アリア・エンバートン・・・
ケイの大学時代の友人。恐竜研究者、動画配信者。
中生代のフィールドワークを、そのまま荒々しく映した冒険動画は、
恐竜を「博物館の古びた骨」から「会いに行けるサファリ」へと押し上げた。
世間的にはスターだが、大学時代はケイにノートをせびっていた。火星出身で母国語は英語。
グエン・・・ケイの同僚、新入社員。ケイには少なくとも悪感情は持っていない。
フェイ・・・ケイの同僚。大学の後輩だが中退。ケイに憧れて入社したらしい。
某総合商社、デスク。
課題を午前中のうちにサクッと片付けて、惰眠を貪ろうとしていたケイは、ふと違和感を覚える。
――あんなにエスカレートしていた悪口が、なぜかピタリと止んでいた。
足音を消しながら――二か月ぶりほどに、おそるおそるトイレに入った。
――何もされなかったし、何も言われない。
会っても、何のリアクションすらない。果てには、挨拶までされる。
おかしい、静かすぎる。
TWINSの文字が躍る。
《気づかれましたか、ご主人様。どうもですが、そもそもいじめていた連中がそもそもおらんのです。ようするに、ですよ。もっと恐ろしいことが起きているかもしれんということですよ。何が起こってるのか、調査してみませんか》
「そんな噂を覗きに行って、自分もまきこまれたらどうするんだよ」
――ともあれ、いまは久しぶりに、他人の目を恐れずに行動できているのだ。
応接室には、大きなテレビがある。
大きな画面を家庭で囲んで見る、という習慣は、何度も復活と衰退を繰り返し、今では大きな画面に映る公共放送をテレビジョンというようになっていた。
公共放送を生成しているのは――やはりアトラスである。
ソファに腰掛けると、自動生成されたAIニュースキャスターが、今日のニュースリストを提示してくれる。
人差し指を伸ばしてさっとなでると、画面が滑らかに動く。
モーションキャプチャーによって、遠隔でもタッチパネルをスワイプするかのような操作感を実現しているのである。
見たいニュースを探すが、いまいちしっくりくるものがない。というより、どれも中途半端に見たい内容である。勝手に、いろいろ流してくれればいいのに。
ソファーに2人の若手男性社員が腰掛けてきたので、ケイはギクッと肩をすくめる。年は16、7くらいだろうか?
浅黒い肌をしたその若手社員は、ソファに手をつきながら自己紹介した。
「おう、俺はグエン。こっちはフェイ、よろしくな」
――挨拶、だと。――
「…ケ、ケイ・ヤ、ヤマナカ、です…」
「この前のキノコ、災難だったよな、毒かもしれないのに食えってさ」
「ま、まあ仕方ないですから…」
「なあ、フェイもなんか言ってやれよ」
その、フェイと呼ばれた色白の男は、少し顔を赤らめて、目を合わせずに口走る。短い癖っ毛がうねり、妙に前のめりになりながら。
そして――あまりにも、聞き苦しい声。
「――で、でも、あ、あの状況で食べるって言える先輩は、すごいです、僕だったら、その…食べるふりして、口に含んで後で捨ててたと思います、だだ、だって、飲んでましたよね、その自信、どこから来たんですか…ほんと」
――先輩?
グエンがあきれた調子で言う。
「同期がすまんなあ、要するにだ、ファンなんだよ。大学の後輩でさ。直接話すって言ったらこの調子だよ。普段はちゃんと話せるんだけどな」
ケイは訝しむ。見覚えが、ない。人の名前と顔はまったく一致しないけど、こいつは見てない。
「ごめん――知らない」
「そ、そりゃ、そ、そうですよ。僕が知ってるのはそ、そう、あのフィールドノートだけですから。」
フェイと呼ばれた男は、しどろもどろに話す。
――フィールドノート。たしかに、大学時代あちこちに行って採りためたフィールドノートを、卒業時に部室に放置してきた。データはすでに保存・整理してあったし、紙媒体でおいておいても、どうせ誰も読まないだろうから――
「すごかったです、あのな、内容は、普通には書けないです。ぼ、ぼくはぜ、全然追いつけないと思って」
――おかしい。大学の在籍年数は最低4年。そして今年で卒業してから、3年。部室には卒業まで顔を出していたから――在籍期間に一度も顔を合わせていない部員が、卒業してここにいるわけがない。
「卒業は、してるんだよね・・・?」
――いかん、TWINSが即座に《ご主人様!それは失言です‼違和感は流すのです!》と視界の隅で悲鳴を上げている。
フェイはそれを聞くなり、また目を合わせられずに、うつむいていう。
「あ、あの…一年目で、辞めたんです、あれを書ける人でも残れないなら、って…」
TWINSが文字を走らせる。
《ご主人様、こやつは危険です。ようするに、ですよ。厄介ファンというやつです。なぜこの会社に来たかこやつに尋ねてみなされ、たぶん言いますよ、ご主人様がここに就職したからって。そうなったら私めは》
――おまえは私の何なんだ、と心の中でツッコミを入れるが、残念ながら思念入力機能は備わってはいない。
ケイは腹を据える。
「それは――失敗だね。つまり君は、外圧を受けて仕方なく大学を辞めざるを得なかったんじゃなくて、人生の中で一番おいしい時間を自分から捨てたってことだよね。それは――あまりにも、腹立たしいことだよ。人生を冒涜している。」
《ご主人様⁉ 何を言うんですか!》
――拒絶しないとまずいって、君が言ったじゃないか。
「わ、わかってるつもりでは、あったんです。僕は自然に詳しいつもりでは、あったんです。でも、ずっと、ずっと、詳しい人がまだいるって知ったんです。その中で戦えるわけがないって思ったんです。そんな人でもアカデミアに残らずに就職した。だったら僕がいられる場所なんてないじゃないですか」
フェイは目をそらしながら、そう言った。
――よし、振ったぞ
《逆です。アレを見てみなされ。めちゃくちゃ嬉しそうじゃないですか》
フェイは目を細めていた。元から目が細い奴だが――ほとんど糸みたいだ。そしてその口元は、ふにゃりとにやけていた。
「同期がほんとごめんな。ニュースでも見ようぜ、な、フェイ。どうせフラれるっていったろ?」
グエンはそう言いながら、ニュースをつけた。
「今日のニュースをお伝えします。小惑星差し押さえ!!上がる金属相場、今後どうなる?」
「パラジウムは、触媒に欠かせない希少金属です。地球においては純粋なパラジウムはまれで、ほかの白金族元素と混じって産出し、その分離には大きなコストと耐腐食設備が必要です。しかしながら、一部の小惑星には高純度のパラジウムを含んでいることから、現在地球で使われているパラジウムのほとんどは火星経済圏から輸入された小惑星に依存しています。――今年輸入される小惑星は、地球での需要30年分に相応するはずでした。ところが。」
ニュースの画面が切り替わる。
「こちら月面、第9外軌道監視ステーションから届けております。パラジウム輸入用の小惑星に、規約違反の加速器が取り付けられていたとのことです――この軌道を見てください。」
ピンクの線で見えているのが、小惑星の軌道。そこに、青い軌道が交差しようとしている――すると、ピンクの軌道がわずかに、ズレた。
「無人のはずの小惑星が、通信の痕跡も一切ないまま、自動で本来航行に影響のないレベルのスペースデブリを「回避」しました。つまり――この小惑星は、地球にもし衝突しそうになった場合、迎撃システムが作動したとしても――迎撃システムを回避し、そのまま地球に落下する恐れがあります。」
「地球政府は、実質的な新型IPGMである、と火星連邦政府に抗議していますが、いまのところ、正式コメントはありません。地球政府は月面宇宙艦隊を派遣し推進機を破壊、制圧する方針です。しかし――この一件により小惑星輸入は当面すべて差し押さえ、現在地球に向かっている小惑星に関しても、逐次検分が入る方針です。」
「IPGMって?」
グエンの素朴な疑問に、ニュースキャスターが振り向く。
「IPGMというのは、InterPlanetal Guided Meteorの訳で、小惑星を誘導して惑星に落下させる大量破壊兵器です。小惑星輸送も小惑星を誘導して地球軌道に乗せる技術ですが、IPGMとよばれるものは精密かつ強力な自動操縦技術により迎撃回避すること、また迎撃妨害システムを搭載していること、の二点を満たし、地球衝突軌道に入った際の阻止を妨害可能なもの、としています。」
「今回の隕石がもし制圧できずに衝突すると、どうなる?」
「半径5㎞が焦土と化すレベルです。」
ニュースキャスターが淡々と続ける。
「なお、この件に関連して、地球に資源を供給している複数の民間鉱山にも一時差し押さえ命令が出ています。ただし例外的に、月面上に軟着陸させた小惑星鉱山を複数私有するエンバートン財団の供給は継続予定です。政府筋によれば、当該鉱山は完全に地球側の監視下にあり、推進器がそもそもなく、火星側との関与は一切認められないため、ということです。」
グエンが舌打ちする。
「またエンバートンか。結局火星人が儲かるんだな」
フェイが小声で付け加える。
「……でも、そのおかげでパラジウムがまだ市場に出回るんですよ。無ければ、触媒工場も止まるし、食糧プラントも動かないし……」
ケイは無言で画面を見ていた。
――アリアの家か。
ニュースキャスターが続ける。
「この事件で各種レアメタルが大幅に値上がりしています。これを踏まえ、エンバートン財団は保有するパラジウムおよびイリジウムの一部を市場に放出し、供給安定を図るとのことです。政府関係者は“投機的混乱を防ぐためにも重要な措置だ”と評価していますが、一方で“価格操作の余地を一族が握ることになる”との懸念も根強く残っています。」
グエンがまた尋ねる。
「火星人ってなんで地球をいちいち爆撃したがるわけさ。」
ニュースキャスターが即座に反応する。
「火星連邦によるIPGM開発の背景には、資源経済の依存関係があります。火星は低重力を活かした資源輸送や、木星圏および小惑星帯の利権を確保し、資源確保の面で地球を圧倒しました。しかし居住環境は脆弱であり、地球側の市場と人口に依存せざるを得ませんでした。とくに、超時空ゲートの開通後は地球側の資源需要が激減し、政治的・軍事的圧力を繰り返すことで価格交渉力を維持する必要があったとされています。」
フェイが小声で口を挟む。
「……要するに、“爆撃したい”んじゃなくて、“爆撃できるぞ”って言い続けなきゃならない状況、ですよね。」
グエンが突っ込む。
「つったって落ちたら半径5キロが焼け野原って、さすがにやりすぎだろ」
ニュースキャスターが応じる。
「火星にとって隕石爆撃は“最も低コストの抑止力”なのです。通常兵器を整備するより、資源輸送用の小惑星をほんのわずか操作する方がはるかに安い。そしてその結果、迎撃に莫大なコストを強いることができる。火星は“もっとも安価で、もっとも効率的な”手段を選んだにすぎません。」
「以上、本件に関して火星連邦からの正式コメントはいまだ得られておらず、地球側の公式立場は“規約違反の疑い”に留まっています」
ケイはまだ沈黙していたが、一つ思うことがあった。
――火星は、弱った、と。
今回のIPGM騒ぎにしても、火星側が「いつでも落とせるぞ」と脅しをかけるのではなく、回避したことに対して地球側が火星に抗議している。小惑星に伴走船と称する、事実上の護衛艦隊がついていたり、大気圏突入用の陽陸城や強襲揚陸艦が建造されていた時代ももう、三十年も昔のこと
――調べようとしなければ、知らなくて済む話なのだ。
今のニュースキャスターだって、そんな火星の過去について、まったく触れてはいなかった。
けたたましい呼び出し音に、応接室の空気が一瞬止まった。
――音声通信。
フェイが小さく息を呑み、眉をひそめた。
「……まさか、音声? まだ拒否してないんですか……」
その声は驚きよりもむしろ、呆れと困惑の入り混じった調子だった。
ケイは思わず端末を握り直す。
こんなことをするやつは、一人しか思い当たらない。
――「もしもしケイ?今日お茶しない?」
「アリア、ここ会社だよ、それに音声通信回線はものすごく迷惑になるから――」
「火星では音声が一番よ。それに――だっていま、昼休みでしょ?」
「しってるけどさ…他にも人がいるから」
「そう?恥ずかしいんだ。聞いてるやつがいたら伝えてやりなさい?私の獲物に、手を出すなって」
応接室の空気は、もうコンクリーションしていた。
フェイは顔を赤らめて視線を逸らし、グエンは吹き出しそうになるのを必死に堪えている。
――やめろ。頼むからやめろ。
ケイは頭を抱えながら、端末を握る手をぎゅっと強めた。
「なあフェイ…知ってるかもしれんが、火星じゃ同性婚が当たり前らしいぜ?」
グエンが言うと、フェイはがっくりと肩を落とす。
「…違うと思います。だってげんに――せ、先輩に手を出してた連中、みんな……『いなくなっちゃった』じゃないですか…」
***
「は?いなくなった???」
アリア・エンバートンは目を見開いていた。
第6層のファストフード店、フライドポテトをほおばりながら。
「さっき古書堂に寄ったら、店長に“ケイがいじめられてるんじゃないか”って聞かされてさ。だから慌てて電話したんだけど――」
「思いっきり逆効果だよ。フェイなんかこんなこと言って怯えてたよ。「せ、先輩に手を出してた連中、みんな……『いなくなっちゃった』じゃないですか…」って。」
アリアはゴン、とげんこつを机に打ち付ける。
「ん~~~しまった!それだと悪の火星人が会社を侵略しに来た~~って感じになっちゃうじゃない。わたしは火星人にも善良な人もいる!って言いたいのに」
「恐竜狩りながらよく言うよ。めっちゃ戦闘民族じゃん」
「ただ――フェイに取られるのも癪だし、悪くもないかな。だって――会うといつも「ケイ先輩、ケイ先輩」って。」
TWINSが挟む。《完全にストーカー公認ですね》
「知り合いなんだ」
「まあ、ね――一年で退学しちゃったから、そんなに長くはないけど。で、ケイのいる会社に就職したって言ってたから猛アプローチされてるのかと思ったけど――」
「今日初めて会ったよ」
「……あら、拍子抜け。てっきり社内ストーカー大作戦かと思ったのに」
――って、いるじゃん。フードコートの向かい側の店に!
手に持ったハンバーガーのバンズからケチャップが垂れて、フェイの袖を伝っている。グエンが、フェイの石化した顔の前で手をひらひらさせていた。
ケイは声を殺して、囁く。
「ほんとにいるんだけど・・・どうしよ」
「いっそキスとかしちゃう?」
「やめてよ、もう。スキャンダル報道とかされちゃうよ」
《逆にスキャンダル効果で視聴率アップが狙えます!スキャンダル報道があれば、二人どうなる?って石炭紀配信を見てくれるはずです!私は応援していますよ?》
おいTWINS、乗るな。
「じゃ、場所変えよっか」
「そだね、ここだとなんか集中できないし」
去り際にフェイの顔を見ると、涙が伝っていた。
ごめん。
***
「気を取り直して」
――また随分と豪華な――魚の煮つけとか、久しぶりに見たよ。ギンダラかな。
高級割烹の個室、2人で向かい合う。
薄い障子が防音加工されているのだろうか、しん、と静まり返っている。
「今日は貸し切りだから」
――またか。
ケイはあきれ半分に思う。
「ニュース見たよ。家、いろいろ大変そうだけど大丈夫?」
「いつものこと。それに――私は私、家は家。自立して別の道を歩めって言われてる。」
アリアは笑って、煮付けの魚を箸でひょいとほぐした。
「箸の使い方、うまくなったね」
「便利だから、いろいろと――ほら、脊髄神経背枝。」
「煮魚解剖教室、いろいろやったねえ」
「ピンセットがないと解剖できないし、食卓でどうしようって思ってたら。ケイがひょいひょいって食器で剖出しちゃうもんだから、えっ何⁉って。」
「参加者数増えてくると、魚の周囲に人がたかっちゃって後ろのほう見えないんだよね」
「そうそう。解説するほうも占有スペースが気になっちゃって。自分でもできないかなーって真似して、マイ箸買って、もうむきになって練習したわ。ようやく追いつけたかなって」
「じゃ、箸で折り鶴折ろうか」
「前言撤回」
アリアがため息をつくと、障子の向こうの静けさが、妙に可笑しく感じられた。
「で、旅のことだけどーーペイロードが結構厳しいの」
「なるほど」
「超時空ゲートって宇宙にあるじゃない?ってなると荷物を前もって送るにしてもロケットか軌道エレベーター。つまり、聡明なあなたならわかるよね?」
「旧式装備を刷新してくれってことだね」
「いや、研究室の装備を使っていいって許可とってきた。足りない分は私の手持ちから。だって資金、余裕ないでしょ?」
「ありがたい…」
「ただ条件。大学に顔を見せること。配信はなかば、大学の広報活動だから。会いたがってる先生もたくさんいるし」
ケイは思う――そういや、またすぐきます!って言っておいて、もう半年以上も足を運べていなかった。たしかに――顔を出さなければだけれど、顔を出すと言っておいた手前出せなかったことを踏まえると、正直、気まずい。
だがアリアは、そんなことをまるで気にしていない。
「そしたらあした、大学で荷物詰めて発送ってことで」
――もう?だって出発は3週間後だよね?
アリアはやれやれ、と首を振りながら言う。
「これでもギリギリ。石炭紀便は便数少ないから」
感想・ブクマ、高評価ありがとうございます!
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