6枚翅の、トンボ
マレーズトラップのほうはといえば、大収穫のようである。
テントの上を眺めれば、緑色や茶色の「ごきぶり」やより小さな、類縁関係のよくわからない昆虫が、クリスマスツリーの飾りみたいにちりばめられていた。
手のひら大のムカシアミバネムシ類も2、3匹ほどいる。昨日採集された種と同じものもいた。
「これ、持って!」
アリアが手渡したのは、手のひらより大きいくらいの、ひときわ大きな…なんだ、これは。
まぁ、広義で言えば、トンボみたいなものである。
しかし、へたくそな人が何となく書いたかのような、「とんぼ」。
ぽってりと太った、指みたいな胴体に、幅広の翅。そして前胸の“肩”のような部分からは、前向きに2枚の小さな翅が、耳みたいに、斜め前上方にそそり立っている。
昨日見たムカシアミバネムシ類も6枚翅だったが、こちらは前2枚はすっかり退化していて、奇妙な装飾物としての役割しか果たしていなかった。
見た目といえばトンボに似ていないまでもないが、敢えてトンボと言い切れるようなものでもない。
バタバタと羽ばたくたび、前翅に連動して、後翅がばさばさと動いた。
その力強さは確かにトンボを思わせるものがあって、けっしてあのトンボの偽物みたいな、臭いツノトンボのそれではなかった。
トンボとは、似て非なる生き物だ。
全重量も、妙に重たい。どの程度俊敏に飛べるのか確かめてみたかったが、いかんせん一匹しか取れていない。おそらくトンボに近い仲間ではあるのだろう。
標本にして翅脈をあとでじっくり読みつつ、胴部の形態記載を行わねばなるまい…
そう考えこむ私を、アリアはやたら撮るのだった。
ひとしきり昆虫を回収すると、しばらく活かしておく分だけでも大荷物になってしまった。こちらもタイマーをつけた保存液を満たしたボトルに、先端を付け替え。
ギリギリ、終了。ウィーン、という音を立てて、ボトルの口が開口した。
ここから24時間でどれだけの虫が入るか、が今回の調査の肝心どころである。
「ね、マレーズトラップのほうがイケてるでしょ」
そう、アリアはいう。
「ね、って言われても。だってマレーズ1つしか仕掛けてなかったじゃん、FITはあんなにしかけたのに。」
「結局、サイズ!やっぱりデカいほうがよくかかるけど、でかいの沢山ってわけにもいかないじゃない?」
というので、
「セッティングも楽だし、今度はでっかいFITかけようよ」
というと、
「それがねー、前回やったときは案外微妙で。風を受けて倒れやすくて案外そう簡単でもない、生け捕りにするのが難しくなりがち、採集物の処理が面倒って。あと、意外と成果に差がある」
「へぇ、そんな感想なかったけどなあ」
「やっぱり、上に登る性質が強いんじゃない?って思ってるけど。」
アリアがそう言った矢先に、一匹の「ごきぶり」がマレーズトラップの布に着地した。迷わず上にかけ上っていく。
そして――保存液に落ちた。
動きがまんまゴキブリ。
そうこういっているうちに、今度は地面からかけ上っていって、また一匹かかる。
せかせか駆け回りながら保存液に沈んでいって、すぐ動かなくなった。
「飛ぶのが苦手。だから高くまで登って行って、保存液にダイブ!するわけ」
「あー、石炭紀ならではのマレーズ有利…たしかに、ね」
「じゃ、私たちは立ち去らないと」
そう、今日の調査は、昨日調査できなかった、工場と港湾施設を挟んで、町の向こう側である。
トラップの成果に影響を与えないためにも、早々に立ち去ることが望ましかった。




