酒盛り5日目(後編)
この俺、佐藤 弌正は初対面の異世界人らしき人に人生の幕を閉じられようとしている。ここで俺に2つの疑問が浮かんだ。こんな時でも脳ミソは働きたいらしい。それでその疑問というのが、
1つ目、二世界平和連盟とは何か。名前を聞く限り、異世界とここの世界が平和を目指そうとしていると言うことだろうか。つまり、異世界とここの世界の間で繋がっている人間がいる…ということか?
2つ目、何故異世界人がここの世界に居るのか。
その答えは3つの内どれかだろう。
1、ライトが移動させた。
2、他にライトのような能力を持っている奴が居る。
3、その他。
なのだが、1番目は絶対に無い。ライトはそんな事しないと、俺はそう信じている。あと2択なのだが、今そんな事は分かるわけない。とか考えてたら、もう男が15mぐらい近づいていた。
「俺の人生短いもんだな。」
いつの間にか独り言を溢す。それに続き男は言う。
「お前が罪を犯さなければ少し長生き出来たんじゃないか?」
「少しぃ?悲しいなぁ。」
俺が唯一出来ること。それは時間稼ぎ。いい案が浮かぶか、ライトが助けに来るまで時間を…!時間稼ぎの為の台詞を考える。そこで、男が持っていたトランシーバーが音を発した。
「ガッガーッ!お前の近くにライト様が居る。早急にそいつを片付けろ!」
「何?ライト様が近くにいるのか?なら速く任務遂行しないとな。」
と言いながらナイフを投げる構えをする。そこから俺にそれが飛んできたのはすぐだった。…そろそろタヒぬのに、走馬灯が全く出ない。人生振り返りたかったな。と思っていたら目の前にあったナイフが消えた。
「へ?!」
そんなことあり得るのか?まるで、どっかに瞬間移動したような…
「僕の能力のオマケはもう一つあってね。"見た物を異世界に移動させる能力"。危なかったよ。それじゃあ君も移動させるね。」
「…貴方様のせいで残業になりそうです。」
と言って男がパッと消える。俺は振り返りながら言う。
「ライトォ〜凄く怖かったゾォ〜」
「何でこの状況でふざけれるの?そのメンタル見習いたいよ。」
「それと、質問がどんどん湧いてくるから質問しまくっていいか?」
「うん、それじゃあ次東京行くぞー!」
「ふざけてるのライトでは?」
そんなこんなで2軒目に呑みに行った。最後のあの男の言葉の「貴方様」てことは会ったことがあるのか?ライトの濡れ衣の事件と何か関係が?
「うーーむ。」
さらに頭が痛くなったような気がした。
「「カンパーイ」」
と言っても俺は二日酔いのせいでオレンジジュース飲んでるんだけどね。
「ライトの質問コォーナァー!!」
「いつも以上にテンション高いな。ライト。」
「陰気のままだとお酒の味が落ちるでしょ。」
「俺飲んでるのオレンジジュースなんですけど?」
「そんなことより、質問はないのー?」
「えぇっと…これは知っていたらでいいんだが、二世界平和連盟って何だ?」
「それは簡単に言ったら、異世界に逃げた容疑者を二つの世界が協力し合ってとっ捕まえようーみたいな組織の事。」
「なら、どうやって異世界人がここの世界に来れるんだ?さっきライトが異世界に飛ばした奴だって能力を持っていたぞ?」
「それは、僕のお兄ちゃんが移動させてると思う。同じ血筋だと能力も同じ様になるから。」
「へー。それじゃあ、ライトのご先祖様も同じ能力を持っていた人もいたかもしれないな。」
「いや、それはないよ。」
「なんでぇ?」
「過去も未来も絶対同じ能力の人が現れることはないんだ。261年間調べているけど能力が被ったことは未だに無いんだ。」
「ほへー。また一つ異世界について賢くなったわ。」
「後聞きたいことはー?」
「これも知ってたらでいいんだが、ライトが異世界に飛ばした奴のこと知ってるのか?ライトの事"貴方様"とか言っていたが?」
「アイツは二世界平和連盟の下っ端だと思う。知っていたのは単に僕がじきに王になるから知ってただけでしょ。異世界では誰しもが知っているみたいな感じったし。ちなみに、二世界平和連盟のなかの立場は強さに比例するよ。」
「もう二度と二世界平和連盟と関わりたく無い。」
「幹部クラスになると異世界に飛ばす事すら難しいんじゃないかな?
「もうヤダ。(泣)マジで人生終わるじゃん。」
「そんな君にプレゼントー!」
「あー、沖縄にいるときプレゼントあるとか言ってたな。」
「その気になるプレゼントはー!」
「なんだぁー?酒かぁ?」
「じゃーん『魔法入門之書』!!」
「…思ってたんとちゃう。酒かと思った。」
「この魔法は護身用としても使えるから、覚えといて損ないよ。」
「結構有難いかも。けど、俺が魔法使えんの?多分、魔力とか無いぞ?」
「この世界の人は全員魔力を持ってるよ。」
「ウッソだー。」
「本当だって。異世界の人より魔力を使える人が少ないだけで持ってるんだよ。」
「へー。それじゃあ早速使いますか。その本見して。…コレやってみよう。」
「いいけど、1ヶ月ぐらい練習しないと魔法は使え…」
「出来た。」
「えエ江ヱ絵ェぇ?!」
俺の掌の上には小さい火が揺れていた。いやはや、こんな直ぐ出来るもんなんだな、魔法って。それじゃあ、ガス代無くなる?!ヨッシャー!魔法って便利だなぁー。
「何でそんな速く"発動"が…?!」
「何?その"発動"って?」
「あぁ、魔法には主に7つの行程があって、
鑑定(相性鑑定)→増幅(魔力増幅)→放出(魔力放出)→発動(魔法発動)→放出(魔法放出)→変化(魔法変化)→発現(能力発現)
がある。君が今やった物は発動(魔法発動)で、初めてで出来る人は見た事ない。正直、いっくんの事怖いって思ってきた。」
「…何かすごい事なんだな!俺、センスあるのかなぁー?」
「その内、ここら一帯は余裕で火の海に出来る様になるよ。ちなみに、水出せる?」
「せっかく水出すんなら、ビール出してやるぜ!」
「おいおい、いっくん?ビール出せたら、それはもう変化(魔法変化)の段階だよ。ただでさえ二属性の魔法を操るのすら難しくてだね…」
「見ろ!シャワッシュワのビールだー!」
「え?いっくん、それはもう凄すぎて一周回って驚けないぞ?」
「へー。まぁ、ビールがタダで呑めるしいいか。ジョッキに注いでっと。」
「二日酔いはどうしたんだよ、いっくん?」
「魔法で治してやったわ。」
と言いながら、ビールを呑む。やはり、ビールは美味い。
「世界滅亡並に恐ろしいことやってるの自覚ある?いっくん?」
「ない。あと、ライトが魔法使ってるのメニュー表浮かせてるところしか見た事ないんだが?」
「それはね、最後の行程の発現(能力発現)をしたら魔法は使えなくなるからなんだ。」
「それじゃあ、メニュー表浮かせてたのは何だったんだ?」
「それは魔力を操ってメニュー表を持ち上げたんだ。魔法が発動出来なくても、魔力自体は存在してて、魔力を操作して物を上げたり、飛ばしたり出来る。」
「ほぉーん。俺の能力は何だろうな。楽しみだ。」
「残念ながら、ここの世界の人は発現(能力発現)が出来ないんだ。まぁ、いっくんには魔法があるから大丈夫だよ。」
「なるほどな。俺も能力欲しかったなぁー。」
「…もう3時ですし、帰りますか。」
「そだな。」
これで俺とライトの長い長い酒盛りは終わった。
能力が発動出来ないことだけ心残りだが、魔法だけでも俺の厨二病心は腹一杯と言っている。しかし、ほんの少しだけ考えてしまう。
「俺…異世界に生まれてたら、どんな能力だったんだろう。」
おっと、つい口が滑ってしまった。…どうせ、碌でもない能力なのだろう。あー漫画みたいなチート能力欲しい。そう思う今日この頃だ。