第2首 ザ・『古典部』活動開始!
こぢんまりした部室の中にはテーブルと椅子があり、本棚には古典部がこれまでに発行した小冊子が並んでいた。
テーブルの上には学校から借りたノートパソコンが置いてあった。公式の部活には部の管理などに活用するために無償で貸し出される。
古典部活動初日、椅子に腰かけた4人の部員を前に風間部長が挨拶をした。
「古典ホラー映画部にようこそ」
星河さんがさっと挙手をした。
「古典ホラー映画部? それって古典部とはぜんぜん関係ないじゃん!」
「はっはっはっ! ようやく気がついたか! だがもう遅い!」
星河さんは隣の生神さんに問いかける。
「レイさんはいいの?」
「わたしは全然かまいませんよ。古典ホラー映画もまた趣があってよいのではないでしょうか」
「はあーーっ。それで風間、この部活って具体的になにやんの?」
「わたしも気になります」
「よくぞ聞いてくれた!」
質問を受けて風間部長は嬉々として話しだした。
「第一の活動は『古典ホラー映画の鑑賞』だ」
「うへえ……」
西園翠澪さんが乙女らしからぬうめき声もらした。
「第二の活動は『文化的な成果物の作成』だ。文化部は文化祭でなんらかの成果物を出展する義務がある。よってそれに向けて小冊子を発行する」
「具体的には何を発行するの?」
と質問すると風間部長の顔がパッと輝いた。
「そこはぬかりがねえ。発行するのは『リーガン写真集』だ。過去から現在に至るまでリーガンの写真集が出版されたことがあっただろうか、いやない! いつもポケットにリーガン、こんなホラーファン垂涎の画期的な企画なんて文化祭にはもってこいだろう」
「確かに。一冊まるまる悪魔に憑りつかれたリーガンを詰め込んだ写真集なんてありませんわね。リーガン人気はワールドワイド、出版されれば世界中のファンが歓喜する様子が想像に難くありませんわ」
ホラー映画の苦手な西園書記長も同意する。
「いやいやいや、そんなもん誰が買うのよ?」
星河さんの質問に部長は胸を張って答える。
「俺だったら三冊は確実に買う。観賞用と保存用と布教用だ!」
「あんたを基準に考えるんじゃないわよ!」
星河さんが突っ込みを入れる。この部の突っ込み担当は彼女できまりね。
「リーガンはどう考えますの? 写真集を出版するとなるとあなたの写真を撮ることになりましてよ?」
と言って西園さんがこちらを見る。
「ヌードでなければいいよ」
すかさず風間くんが食いついた。
「水着はオーケーってことか!?」
「あ……それもNGで」
ガックリとうなだれる風間部長はこれくらいではへこたれない。
「セーラー服姿のリーガンだけでも十分刺激的だぜ!」
「成果物に関してはこれから議論するとして、今日は何をするの?」
とりあえず話を先に進めるよう促す。
「古典ホラー映画部の記念すべき第一日目の活動はこれだ!」
部長は一枚のディスクをかざした。
「『エクソシスト・ディレクターズカット』鑑賞会」
その日、古典部の部室から不気味な声と少女の悲鳴が漏れ聞こえ、部室の前を通った生徒たちが気味悪がったのは言うまでもない。
* * *
大島ひとみの心はずっしりと重かった。
「顧問の義務として時々部活の様子を見に行かなくてはならないなんて……ああ、行きたくないわ」
古典部の部室のドアの前まで来ると、中から風間部長のはずんだ声が聞こえてきた。
「今日はイタリアの古典ホラー映画の名作『フェノミナ』鑑賞会だぜ」
え? 大島ひとみの心臓がピクンと飛び跳ねた。
「公開当時、主人公のジェニファー・コネリーが話題になったイタリアの巨匠ダリオ・アルジェント監督の作品だ。ジェニファーのかわいさは秀逸だが、当時のホラー映画の醍醐味と言えば音楽にあると思う。映画のエンドタイトルに流れるテーマ曲は、ホラー映画音楽の名曲のひとつと考えて間違いない」
ドキドキドキ……。心臓が耳元でうるさく音をたてる。
大島ひとみには秘密がある。自分はジェニファー・コネリーの生まれ変わりではないかというものだ。その証拠に鏡の中の自分と映画の中のジェニファーがまるで他人とは思えないほど似ているのだが、悲しいことに誰もそのことに気がつかない。
「もしも私をジェニファーと呼ぶ殿方が現れたらたちまち恋に落ちてしまうだろう」そんな予感さえしていた。
部室のドアに手を掛けて恐る恐る開けてみる。
「本日の主役のご登場だ!」
性格には難があるものの顔だけはやたらといい風間部長が大島ひとみ顧問を出迎えた。
「視察に来たわよ。つつがなく活動しているようでなによりだわ」
「こちらへどうぞ」
西園書記長に案内されて真ん中の席に着くと風間部長がニコリと微笑む。
「何を隠そう本日のチョイスは先生からインスピレーションを受けたんだぜ」
「え?」
「だって先生ってジェニファー・コネリーにそっくりじゃん」
ビビビッ! 体中に電撃が走ったような衝撃だった。
(私の存在に気づいてくれたひとがここにいた!)
「古典ホラー映画部活動開始!」
と風間部長が宣言すると北川祐莉がノートパソコンのエンターキーを押した。
* * *
あの日の古典部で過ごした一時間半の記憶が曖昧だった。いつもならキャーキャー悲鳴を上げて視るホラー映画なのにちっとも頭に入ってこない。
ずっと心を占めているのは……ついに現れてしまった運命の人。
運命の人がよりにもよって教え子だったなんて……。
大島ひとみは夢を見た。
顔だけはやたらいいが成績はいまひとつの風間シュウを自宅に招き個人授業をするという夢。最初は真面目に授業をしていたはずなのだが、いつしかベッドの中での個人授業に変わっていた。
「これからは先生のことをジェニファーって呼んでいいか?」
「しょうがないわね。誰もいない場所でならね」
風間シュウの顔が近付いてきて大島ひとみの唇を奪った。
彼の指が体中を這い、熱く滾ったペニスが彼女の中に挿し込まれる。
若い彼のリズムに翻弄されながら快楽への階段を駆け上っていく。
そうして夢の中でオーガズムを迎えた瞬間に目を覚ます。大島ひとみは掛け布団を頭の上までかぶりいやいやをした。
行き着くところまで行き着いてしまった大島ひとみ先生
愛とは快楽を貪ること




