第1首 ザ・『古典部』
「リーガン、部活どうすんだ?」
教室に行くと前の席の風間くんがめずらしく映画以外の話題を振ってきた。
部活……なんて新鮮な響き。中学生になったら部活のひとつくらいやってみたいなって思ってた。
強制ではなく自分の意思で選択し、気の置けない仲間たちと過ごす放課後。
「部活……あこがれちゃうわ。だけどやりたいことも入りたい部も特にないんだよね。よーく考えたらあたしって無趣味?」
強いてあげるなら『飼い猫と戯れる』という趣味ならあるけどそんな部活があるとは思えない。
風間くんの目がキランと輝いた。
「なら朗報だ。俺と一緒に新しい部を作らないか」
入りたい部がないなら自分たちで作っちゃえばいいじゃない、ってやつだね。
「新しい部ってどんなの?」
「その名もザ・『古典部』だぜ!」
映画ファンの風間くんの口から『古典』という言葉が出てくるなんて意外。
「風間くんって古典が好きだったの? 知らんかったわ」
「チッチッチッ」
風間くんは人差し指を立てて横に振った。
「古典部は古典部でも、古典ホラー映画部だぜ」
「あーっ、そっちの方ね。略して古典部かあ。でもそれって詐欺になんない? 古典部だと勘違いした入部希望者が古典ホラー映画部だと知って激怒する姿が目に浮かぶんだけど」
「略すのは詐欺とは言わないから問題なし!」
自信満々に断言する風間くん。
「まあそうだよね。だけど部員はどうするのさ? 確か四人以上必要だったはずだよ。それに部を作るとなると顧問の先生が必須だからね」
「まかせろ!」
風間くんは親指を立ててニッと笑った。
* * *
当然の成り行きというか、風間くんが次に声をかけたのはひとつ前の席の西園翠澪さんだ。
教室に入ってきた西園さんをさっそく勧誘する。
「古典部ですの? ちょっと知的で落ち着いた雰囲気もあってなかなか目の付け所がいいと思いますわよ」
いい感じに興味を持ってくれた。だけど……。
「じゃあ決まりだな。三人目の部員ゲットだぜ!」
「あのー、西園さん」
風間くんに誘われて嬉しそうなところに水を差すみたいで悪いんだけど、きちんと説明しておかなければ駄目だと感じた次第。
「古典部って古典ホラー映画部の略称で古典部とは別物なんだけどいい?」
「ええっ!?」
ホラー映画は苦手だと以前言っていた西園さん、顔を青くしたり赤くしたりしてしばらくの間考えていたが、やがて彼女なりの答えを出したようだ。
「だいじょうぶですわ!」
* * *
「あと一人だね」
「あてはある!」
風間くんはおもむろに立ち上がると教室の後ろで占いをしている女子に声をかけた。
「おーい、灰色ネズミとそこの女子、ちょっとこい」
すると灰色ネズミと呼ばれた女生徒が不満顔でやってきた。
「あたしの名前は灰色ネズミじゃないんだけど」
清水くんを睨む灰色ネズミさん?
「星河詩織というきれいな名前があるのよね」
と言ったのは一緒にやって来た生神玲さん。深窓の令嬢と呼ばれているおしとやかなお嬢様だ。
「星河さんは生まれつき髪の色が灰色で、小学校で飼っていたネズミの色とそっくりだったから、以降灰色ネズミと呼ばれるようになったのよね」
「その灰色ネズミと呼んだのが風間シュウ、あんただってこと覚えてる?」
そう言って灰色ネズミ改め星河詩織さんは風間くんをギロリと睨んだ。
「えーーっ、そうだっけ。覚えてないなーーっ」
「こういうやつなんだよ風間は! それで何の用?」
「大事な話があるんだ。西園書記長、説明してやってくれ」
ゴホンと咳ばらいをして西園さんは話しを進めた。
「わたくしたちは新たなる部活『古典部』の設立を目論んでいますの。その計画にあなたたちも参加していただきたいのですわ。えーと、星河さんと生神さん?」
「あたしたち占い部に入る予定なんだけど」と星河さん。
「占いなんてどこでもできるだろ? 古典部の部室でやりゃあいいじゃねえか」
「ええええーーっ、やだあああーーっ。あたし古典苦手だもん」
星河さんは生神さんのほうを見る。
「そういえばレイさん、古典得意だったよね」
「得意というほどではありませんよ」
「もしかして『古典部』のほうに入りたいんじゃない?」
生神さんは頬に手を添えておっとりと答える。
「心惹かれないと言えば嘘になりますねえ。北川さんもいますし」
「「えっ?」」
同時に声を上げたのは星河さんとあたし。嬉しそうにしている風間くん。
「おっ、生神もリーガンの魅力が分かる口か!」
「それはもう興味深いですね」
「じゃあ決まりだな。別に占い部とかけもちでもかまわねえから、そこらへんは自由にしてくれ」
「結局入っちゃうのね。うう……」
「うふふふふふ」
こうして部員が5人集まった。
部員が揃えば次にやることは自ずと決まってくる。
「顧問の先生は誰にするの?」
あたしが質問すると皆の視線が風間くんに集中する。
ニタァーーッと笑う風間くん。
その笑顔でみんな分かってしまった。悪魔のいけにえに誰が選ばれたのか。
* * *
一年C組の担任大島ひとみのもとへ風間シュウが部活設立の申請書を持ってやってきた。
「古典部を作りたいですって?」
「はい!」
「確かに去年までは古典部は存在していたわね。三年生の卒業とともに自然消滅してしまったけれど。部室はまだ残っていたはずよ」
「おおっ、ラッキー!」
「で、風間くん。備考に書かれてある『古典ホラー映画の鑑賞を含む』っていうのは何なのかしら?」
「端的に言うならば、古典部は古典ホラー映画部の略称だ。偶然同じ名称になっちまっただけで旧古典部とは無関係だぜ」
申請書の部員欄を見ると西園翠澪と北川祐莉の名前があった。一年C組の天使と悪魔と呼ばれているこの二人は意外と仲がいい。あと二人は星河詩織と生神玲……この二人も仲がいいのよね。
男子ひとりに女子四人……風間シュウはハーレムでも作る気なのか?
大島ひとみはこめかみに手を当ててため息をついた。
「はーーっ。部活は遊びじゃないのよ」
「もちろんだぜ。俺は遊びで古典部を設立しようと考えているんじゃねえ。人生を賭けるつもりでやってるんだ。そこに遊び心は一切無いと言えば嘘になっちまうけどな。遊び心が無駄だと言うのならこの世の全ての部活は成立しねえんじゃね?」
「こんな個人の趣味まるだしの部活が通るかしら」
「古典ホラー映画は十分教養の範疇に含まれると思うぜ。なにしろ『古典』なんだからな。言い替えるなら人類の遺産ともいえる歴史的作品なんだぜ」
「そうかもしれないけれど、この部活は将来的にいったいどこへ繋がるのかという疑問が残るわ」
「それを言うなら先生、運動部も文化部もプロを目指す人以外活動厳禁になっちまうんじゃね? 先生に聞くが、この中学校の部活からプロを排出した割合はいかほどだ?」
「さあ、プロになったという話は聞いたことないわ」
「だったら運動部も文化部もただの遊びと変わらねえじゃんか。俺たちの部活と五十歩百歩だと思うぜ。それにさ、生徒の自主性を重んじるのは学校側も大いに推奨してるだろ?」
「とりあえず、申請書は受け取っておくわ。通るかどうかは確約できないけれど」
「よろしくたのんます。それで先生、顧問をお願いしてもいいか?」
「はあっ!?」
* * *
『古典部』復活という大義名分をひっさげて申請書は難なく通過した。顧問の欄に大島ひとみの名前が書き記されて。
「みなさん絶対に備考欄を見てないわね」
大島ひとみはがっくりと肩をおとした。
全4話の予定です
楽しんで頂けると幸いです




