休日
撮影が終わって レイと離れ離れになってしまうと寂しく思っていたが
なんと最後の撮影の時に マンションの鍵を渡されてしまう・・・
「ここかなぁ・・・」
ユウリの家から電車で五つ程はなれた街にそのマンションはあった。
メモに書いてあった暗証番号を押してエレベーターに乗り込む
(そういえばリュウのマンションに最初に行ったときは目隠しして行ったんだったわ。)
最上階に着き一応インターホンを押したがやはり留守のようだった。
カチャ
鍵を使い「お邪魔します。」と中に入る。
明るく暖かい色調でまとまったレイらしい部屋だった。
大型の家具がどっしりとあったリュウの部屋とくらべると 雑貨が多く飾られてほっとするようなにぎやかさがある。
木製のやわらかい味わいのテーブルにケーキが載っている。
{いらっしゃい。なるべく早めに戻るのでケーキ食べててね。 レイ}
カードに伝言が書いてあった。
(手作りケーキなんて・・・なんだか女の子のお家に招待されたみたい。 笑)
観葉植物よりもお花が多い。
ポスターよりも子供の頃の写真。
クリーム色やライトグリーンのクッション。
いつもわたしを癒すレイそのままの雰囲気の部屋だわ。
「ふふ レイ可愛い♪」
5歳くらいの時の写真だろうか・・・沢山の子供達と一緒に写っている。
遠足や運動会などの写真と家族で写したものもあった。
「あれ これリュウ?」
小学生のレイの横に高校生位のリュウに似た男の子が写っている。
「ユウリぃ ただいま~」
「お帰りなさい レイ。」
ギューっとハグしてキスの雨を降らすレイ。
「すぐわかった?ケーキまだ食ってなかったの 美味しいよ。」
「うん 今写真見てたよ。一緒に食べよう。お茶いれるね。」
「ああ」とにっこり笑ってくつろぐ レイ。
「うれしいな ユウリがこの部屋で待っててくれているなんて。
ここで一緒に暮らせたらいいのに・・・まだ高校生だから無理だよね。」
「レイったら。(赤面)・・・ねえ リュウとは随分前から知り合いなのね。」
「え?・・・ああ この写真ね。そうだよ 俺は一時リュウの家族だったんだ。」
「家族?」
運んだ紅茶を一口飲み にっこり笑うとレイは
「そう 家族だったんだ。俺の父親は小さい時に亡くなっててね。
小学生までずっと母親と二人暮しだったんだよ。
母親はずっと働いていたから、いやおう無く俺が食事を作る事になってたんだ。」
別になんてことないようにレイは続ける。
「小学3年の時にリュウの父親と俺の母親が結婚してさ・・・
俺は新しくできた兄貴に夢中になったんだ。だけどリュウの方はもう大人だったから 俺の母親とあんまりしっくりいかなくて、高校の途中で劇団員になるって出てったんだ。
・・・すっごいショックだった。」
ユウリはレイにそっと寄り添い
「ごめん変な事聞いて・・・」
とあやまった。
「いいよ。兄貴が出て行ってから まもなく離婚しちゃってさ。
でも俺はリュウが好きでまだ兄貴だと思っているから、こうしていつまでも離れられないんだ。」
「レイ 話してくれてありがとう。リュウもレイの事 大好きみたいだよ。」
「ああ 知ってる。」ふふふと笑いあう。
「ねえ ケーキ食べようよ。もう一度お茶入れるね。」
「ありがとう ユウリ。」
忙しいレイのどこにこんな時間が取れるのだろう しっとりとしたブランデーにつけこんだドライフルーツがたっぷりのパウンドケーキだった。
「すんごい美味しい~~~」
「おれは天才だから~。笑」
「ごめん レイ何にも持ってこなかったよ。あたし 気が利かないね・・・」
くすっとレイは笑うと
「何言ってるの ユウリ自身が一番のおみやげなんだから いいよ。」
「あ・・そう。」
思わず赤くなるユウリの唇にふわっと被さるレイの唇。
「ねえ ユウリ・・・ こないだみたいなHなキスして・・・」
「ん・・いいよ やってみる。」
赤面しながらもユウリは薄く唇を開いてレイの頭を両手で捕らえた。
唇が合わさった瞬間「う・・・ん」と陶然としたようなレイの声が漏れる。
いつのまにか レイの寝室に運ばれて夢中で深くキスを重ねあう。
「ユウリ 最高だよ・・・ほしかったんだ。ずっと・・・」
目元を興奮で赤く染めてレイが囁く。
その時 レイの指がユウリのウナジを掠めた。
ビクゥ!
「ユウリ?」
問いかけるように再度同じ場所をレイはくちびるで愛撫する。
「あ あぁっ だめレイ!」
(どうしたんだろうう?あたしなんか体が・・・変。)
「ユウリ・・・」
レイはもう火がついたように止まらずユウリの体から邪魔者を取り払うように 脱がすと夢中で全身に唇を押し付けていく。
ユウリとレイはこれが二度目であるのに いつのまにかユウリの体が開発されたように進化している・・・
(これってここ数日リュウに触れられたポイントと同じ・・・?)
あっというまに果ててしまったレイが 照れくさそうにユウリを再度だきしめて、
「ユウリ・・・ごめん。 俺、余裕なくて・・・止まんなくなっちゃった。
なんで そんなに色っぽいんだ・・・」
レイはユウリをその後 何度も求めていった。
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夕方 仕事に向かったレイと別れて 少し疲れた体で駅へと歩く。
ファ ファーン
振り向くとリュウが車の中から顔をだしている。
「おかえりですか? お嬢様。」
ふざけた調子でリュウが声をかける。
「リュウ・・・あたしちょっと聞きたいことあるんだけど。」
ユウリはちょっと眉間にしわを寄せてにらみつける。
「おお こわっ 嫁入り前の娘がそんな怖い顔をしちゃいけませんね~
お送りしますので、どうぞお乗りください。」
車の中でもリュウはチラチラ後部座席のユウリを見ながらなにか楽しんでいるようだ。
「リュウ ここ最近 私に何かしてるでしょ?」
思い切って 切り出したユウリ。
「はぁ?なんのことでしょう?
お嬢様 なにか楽しい事でもおありでしたか?」
知らず体が熱くなってくる・・・
(だめだ・・・ますますリュウを喜ばせている。)
「いいわよ!もう。」
ふふふと笑いながらリュウは
「レイの処に行ってきたんだろう? だがあんまり頻繁に行くとマスコミに嗅ぎつかれるから十分注意しろよ。」
とちょっとマジな顔をしてたしなめる。
「わかってるよ。・・・そういえばリュウってレイのお義兄さんだったんだね。」
「ああ そうだよ。可愛い義弟なんだ。
だからあんまり苛めないでくれよ。」
「どちらかといえば その義兄にあたしが苛められている気がするけど?」
「ハハハ よくわかってるじゃんか。 いやいや可愛がってるんだよ ユウリ。
お前は俺が生んだ大事な娘だからな・・・。」
「・・・娘ね。」
「ユウリ 実はCMの仕事がひとつ入っているんだ。」
「CM?」
そんなドラマにひとつ出たくらいのぽっと出の女優を つかう企業なんてあるのだろうか?
「明日は日曜だろう。8時に迎えに行くからな。」
今日はユウリが警戒を解かないので特に無理に近づこうとはせずリュウは開放してくれた。
「ねぇ 何のCMなの?」
「それは 明日のお楽しみだ。
ちゃんと柴崎から言われているスキンケアは やっとくんだぞ!」
と楽しそうに笑うリュウの顔が憎らしい。
「ちゃんとやってるわよ。ケチ!」
「じゃあな。」
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翌朝迎えにきたリュウと車で30分位乗っていただろうか・・・あるスタジオについた。
「おはようございま~す。」
リュウに伴われ入っていくとドラマ撮影とは違って
スーツを着た企業の関係者らしい人達が多く見受けられた。
「ブルームーン化粧品宣伝部の八木橋です。」
「ユウリです。よろしくお願いします。」
(リュウ あたしまだ16歳なのに・・・化粧品のCMなの?)
「さすが 若いしお肌きれいですね。じゃあこちらへ・・・」
いつものヘアメイク担当の柴崎ではなく
ブルームーンの美容スタッフ達が数人ユウリを囲んで
念入りだがあくまでナチュラルなメイクを施していく。
衣装も白いカシミヤのやわらかいニットワンピースで髪もふんわりゆるく流している。
仕上がってスタジオに入ると細身で背の高い男がスッと近寄ってきた。
「ユウリちゃん ロバート・コナーズです。今日はよろしくね。」
瞳は深いグリーンではあるが流暢な日本語で挨拶してきた。
「よろしくお願いします。」
背の高さはリュウと変わらないかもしれない。
モデルのように全体整った体つきをしている。
「メンズ雑誌のモデルをやっているんだ。今日お前と共演してくれる。」
リュウがそっと教えてくれた。
「今回のCMのコンセプトは{誘うくちびる}です。
ロバート君扮する天使ルシファが地上に堕ちてまで 求めてしまう ユウリちゃんの甘い くちびるというのが狙い目です。」
(え~~っ こんな綺麗な外人モデルさん誘うほどの魅力出せるわけ無いよ・・・)
とたんに怖気づくユウリ。
それでもセットの前にぺたんと座らされる。
ロバートの方は大きな天使の羽を背中に載せて ローブのような衣装をつけている。
絵コンテによると・・・・
ロバート扮するルシファが雲の合間から垣間見た下界の娘に恋をする
魅惑的なくちびるに誘われて思わず天から堕ちたルシファは 天界の女神から盗んだリップクリームの蓋を開けると
薬指でユウリのくちびるに塗り、その魅惑的な輝きに誘われて思わずキスをする・・・
そんな流れだった。
カメラに向けた視線の位置など細かく支持された後 フイにリュウが近づいて
(いつもどおりやればいいから・・・)
と囁きかける際 ツッと耳朶に舌を差し入れた。
「リュウ!・・・また?」
耳を思わず押さえて震えるユウリ。
当の本人は「じゃあお願いしま~す。」とそ知らぬ顔でスタジオの隅に下がっていく。
「はい 本番いきま~す。」
ロバートはセットの雲からユウリの表情を見つめる。
(さっきは平凡な女の子だと思ったのに一瞬で変わったな・・・面白い <笑)
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寒々しい冬景色の中 雪原にポツリと座る少女。
ばら色の頬に濡れる眼差し。
天使ルシファがそっと下界に下りたつ。
天界の天使が近づいてくるのに驚き怖がる娘の頬をそっと撫でて
懐から取り出したリップクリームを薬指にとり 娘のくちびるの上を這わせる。
ふぅっとルシファは溜息を漏らし娘の唇に吸い寄せられるように口付ける。
・・・・誘うくちびる 天使のリップ ブルームーン化粧品
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「ハイカーット!」何パターンか撮影して終わるともう夜の8時くらいになっていた。
(こんなに一日に何度もキスしたのはじめて・・・)
「ユウリちゃん お疲れ。ありがとう また今度一緒に仕事したいな。」
ロバートが声を掛けてくれた。
「ロバートさんありがとうございました。
すいません何度も撮り直しさせて。」
ユウリがあわててペコリとお辞儀をする。
「いや ユウリちゃんのNGというより 僕の方が・・・」
「ロバート君 新人相手に大変だっただろう?お疲れ様。さあユウリ明日学校だろう?帰るぞ。」
リュウがすぐ割ってはいるようにユウリを迎えにきた。
(あの子 16歳にしては時々はっとするほど色気があるなぁ・・・
興奮しすぎた俺のNG方が多かったかも・・・中高生向けのリップのCMなのに。
リュウ 相変わらず すごいな・・・)
ロバートはリュウに追い立てられるように去っていくユウリをみつめて苦笑した。
「ちょっと効きすぎたな・・・」
と一人ごちるリュウ。
「何が?ちょっとリュウあんまり押さないでよ。転ぶでしょ!」
「ああ アイツ・・・ロバートって たらしで有名だから。一応言っとくけどね。」
リュウがユウリの肩をやっと離して言う。
「たらし? ああ女ったらしってことね?大丈夫よ。
私みたいな子供なんて、あの人相手にしないわよ。
もう・・・お腹すいた~」
「そうだな 俺も腹ペコだよ。何食べたい?」
「ラーメン!」
「女優っぽくないな~ 色気ねえ。」
「元々ないよ そんなの~。」
(わかっちゃいないね~)
くすっと笑ってリュウは車を発進させた。
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「芽衣ちゃん 文化祭は出れるんでしょう?」
月曜朝 CM撮影で疲れた頭に突然こう振られて一瞬ピンとこなかった。
「え? いつだっけ・・・」
目の前のクラスメイト高田 恵理子は最近仲良くなったひとりだ。
「やだなぁ。今週の木・金・土だよ。来週の月曜は代休で休みだからね! 間違って来ないでよ。」クスッと笑って教えてくれた。
「恵理ちゃん うちは何を出すの?」
「うちはね~喫茶店だすんだよね。でね 芽衣にもフロアに出てほしいんだけど・・・ 出れそうかな?」
「うん 出る出る。準備もしてるんでしょ? それも参加するよ。」
「それがさ ウエイトレスの衣装作りは鮎川くんが参加してくれてるんだけど・・・」
ちろっと恵理子は鮎川を見て
「すっごく器用で ほとんど彼が作っちゃったの。」
「え?」
「鮎川く~ん 芽衣も参加するって~!」
「やっぱり そうくると思ってたよ。」
そういうとひかりは棚に積んだダンボールを降ろし 中から色とりどりの衣装を出した。
「今回はコスプレ喫茶だからね。」
「こ これは・・・」どれもこれも中世のロマンティックドールのようなフリル レース リボン盛りだくさんの衣装であった。
(やっぱり ひかり君そういう方向なのね・・・)
「これなんか 佐々木さんに似合うんじゃないかな・・・って勝手に参加してくれると決めつけて密かに作っておいたんだ。」
「うわ~~ すごい!」
「被り物も考えないとね。やっぱり とことんやるなら縦巻きロールがいいと思うんだけど。」
とひかりはかなり形にこだわっているようだ。
次第にまわりに喫茶担当が集まってきて意見を出し合った。
「それはちょっと予算的にどうかなぁ・・・」
「演劇部は今年源氏物語をやるっていうから 洋物の被り物借りられるんじゃないの?」
「そうかぁ 聞いてみようか?」
(なんだかひかりちゃん生き生きしてる。好きなんだな こういうの・・・)
そういう芽衣もいつのまにか引き込まれて一緒に意見を出し合い ドンドン文化祭の準備が整っていった。
「ここか・・・ユウリちゃんの学校は。」
一台の赤いバイクが高校の前に横付けされてヘルメットを被ったまま一人の男が下校する生徒を見守っていた。
「おい 見ろよ。あれモトグッティのCORSAじゃねえ?
かっこいいな~~。おい鮎川もバイク興味あんだっけ?見ろよ!」
「え?」
たしかに赤いちょっとこの辺では見かけないようなレース仕様のバイクのようだった。
「いや 今はあんまり興味ないけど・・・」
「いいから。見ろよ。」
男はこちらを見上げてヘルメットをとった。
「あれ?ロバートじゃない?」
「そうだよ! メンズアンアンのロバートだ!キャー!!」
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「頼むよ・・・」
いきなり メンズ雑誌のロバートに声をかけられ固まる女生徒。さらに追い討ちをかけるように
「呼んでもらえる?」とずっと整った顔を近づけられ・・・
「・・・ハイ。」とうなづいて夢遊病のように校舎へかけもどる。
「さ 佐々木さん。ロバートが・・・」
息を荒く乱した隣のクラスの女生徒がそれだけいうと
「キャー話しかけられた!」と叫ぶ。
(なんだろう・・・?)
芽衣が出て行くのについてひかりも追っていった。
「ロバート!どうしたの?」
本当にロバートだった。天使の羽をつけて時の様子とはまったく印象はちがう。
黒い革ジャンに赤いバイク・・・日本人と違って長い足のロバートには嫌味なくらい様になっている。
「ちょっと普段のユウリちゃんを見たくなったんだ。」
「別に普通の女子高生ですよ。」
「本当に普通過ぎるくらい普通だよね。」
「も もちろん。」
(なんとなくけなされている気がするのは気のせいかしら・・・)
「あの すごくかっこいいバイクですね。」
「ああ ありがとう。君はユウリちゃんのボーイフレンド?」
「いえ クラスメイトです。」
同じプロダクション所属だとはまだ世間には明かしたくないらしい。
「どう 君またがってみる?」
「え いいんですか?」
ひかりがバイクに跨ると後ろにロバートも乗り。ひかりの腰に手をまわす。
「ふ~ん 君もかわいいね。」
そう言われてひかりが赤くなる。
(そっち?赤くなるポイントって?
やっぱりレイの前では私のこと好きだとか言ったらしいけど 本当のひかり君は・・・)
芽衣はひかりの様子を見て疑惑を深める。
「ねえユウリちゃん 今度の土曜日、一緒にこのバイクで出かけない?」
(もしかして デートに誘われてる?わたし・・・)
「だめですよ。佐々木さんは文化祭でウエイトレスやるんですから。」
(そうだった。さっき恵理子に教えてもらったんだ。)
「文化祭?」
「そうなんです。せっかく誘ってくれたのにすみません。」
断るよい口実があってよかった。
「じゃあ いつならいい?」
「だめです。ユウリちゃんはちゃんと好きな人いるんですから。」
「なに・・・?君はユウリの保護者なの?」
ロバートがひかりの腰をぐっと引き寄せ 耳元で囁くように問い詰める。
まるでウサギをとらえた狼のようによだれを垂らさんばかりに見える。
「あ そういう訳じゃないけど・・・」とひかりがぴくっと身じろぐ・・・
(ひかりちゃんが襲われちゃう。)
ととっさに感じた芽衣は
「ひかりちゃんを放してください。」とロバートの腕を掴んだ。
「おや 保護者はこっちだったか?」
素直にロバートはひかりを解放した。
芽衣がひかりの肩を抱くとちょっと震えている。
「まあ いいさ。今日は帰るよユウリちゃん。 ひかり君?またね。フフフ。」
ちらっとまたユウリとひかりを見てCORSAにまたがり爆音を鳴らしてロバートは去っていった。
「大丈夫?ひかりちゃん。」
芽衣が声をかけても ひかりはキュッと自分の体を両手で抱いてうつむいている。
「なにか・・・された?」
そう聞いたとたんにひかりの体が震えた。
「ユウリちゃん・・・僕。」
ひかりはそのまま芽衣から逃げるように退く。
「ひかりちゃん・・・?」
「大丈夫・・・だから。」
と頬を染めて息遣いも荒く ひかりは走り去っていった。
(あの人 耳元で話しかけながら、いきなりあそこを掴んできた・・・ひどい。)
思い出して、知らずブルッと震えるひかり。
芽衣の勘はあたっていたのである。
ひかりは普段女の子でいたいと願うため 男性器を握られてしまったということは
無理やり別の性を己に思い出させられて 実際かなりのダメージを受けてしまったのである。
(僕は女の子としてリュウさんを好きなのに・・・他の男にこんなことされたくない。)リュウ以外の男性には・・・触れられたくないという気持ちも強かった。
それでも 文化祭まではいつものひかりに戻って あわただしさの中 いつしかロバートの事も忘れていった。
文化祭当日
コスプレ衣装を着たユウリはドラマの影響もあって朝から大盛況の中 座る暇もないほどフロア中 走り回っていた。
昼の交代時間を30分ほど過ぎていたが客のピークが重なってナカナカ抜けられない。
「ねえ そこの姫君! ぼくにもコーヒーを。」
突然腕を捕まえられ
「はい。ただいま 王子様!」
と芽衣が振り返るとサングラスにロン毛のヘアピースを被ったレイであった。
(レイ!なにやってんの?ばれたら大騒ぎだよ!)
(大丈夫だって。)
(待ってて もういい加減に休憩いれさせてもらうから・・・)
「ごめんねオーバーしちゃって でも後半日だから・・・悪いけど一時間で戻ってきてね。」
「え ひかり君が交代要員だったっけ?」
「うん 皆にすすめられて 僕が女装しても誰も気づかないからって えへ。」
(たしかに・・・)
”ハニースィートドールひかり”に変身できて本人も満足げに手鏡を見ている。
「じゃあ お願いね・・・」
(わたしなんかより ずっと売り上げ伸びそう・・・)
となにやら複雑な思いでレイのところへ戻った。
「お待たせ。」
コスプレの格好のままであるがふたりは教室を後にした。
ふたりで校庭で販売されているハンバーガーをもって芝生の上で食べることにした。
「ロバートとCMやったんだって?」
開口一番 レイは気になっていることを聞いてくる。
「うん。リップのね・・・」
そういえばリュウを別にしても レイ以外の男性と仕事とはいえ一日中キスをかわしたのである。
やきもち焼きのレイが黙っているはずがなかった。
「アイツってコマシで有名だから、なんかされなかった?」
言うべきか迷ったがレイには隠し事をしたくないと思ったので正直に先日 ロバートが突然学校に現れたことを説明した。
「やっぱり そうか・・・油断するなよ。CMって一回で終わらずシリーズ化することもあるからね。
でも学校まで調べてくるなんて・・・むかつく。」
「あたしは大丈夫だけど むしろ ひかりちゃんに興味を持ったみたい。」
先日のひかりの様子を話すと
「う~ん・・・そうなんだ。どっちにしても危ない奴だな。それより 月曜日休みなんだって?」
「うん代休でね。」
「じゃあさ 日曜の夜に泊まりに来れないかな・・・」
(え お泊り・・・<赤面)
「・・・ねえレイ。 わたし まだ高校一年生なんだよ。16歳だよ。いくらなんでも無理。」
(・・・なんて目で見つめるの。)
ジィーッとレイがユウリを真正面から 瞳を捕らえて離さない。
そんなお願い!みたいな目で見つめられても無理なものはむりである。
「ぷふっ。冗談だよ でもお泊りは本当だよ。
・・・リュウもひかり君も一緒にだけどね。
リュウから今朝、紀子さんには了解とってあるから大丈夫。」
「え~~ もう!なんなの・・・レイったら びっくりした。」
はずかしくて真っ赤になった芽衣がポカポカ殴るのを
「ごめんわりぃ!」とあわてて謝る。
「新シリーズの予告編ってことで 二日間かけて撮るらしいんだけど 北海道ロケなんだ。」
「うわぁ あたし初めて!楽しみぃ♪」
「なんとかリュウたちを撒いて二人っきりの時間取るからね。」
そういってレイは芽衣の肩をぐっと抱き寄せる。
(さすがに学校の敷地内でキスはできないよね・・・)
とちょっぴり寂しく思っていると、
「あ!! UFOが!!」
とレイが大声で叫んだ。
広い校庭の芝生にいた者達が一斉にレイの指す西の空を振り返りみる。
芽衣も例外ではない 一緒にレイの指す方向を仰ぎ見た。
「え?どこ・・うっ」
次の瞬間 芽衣の体は強引に向きを変えられ
驚いて半ば開いた唇はレイの唇によって捕らえられていたのだった。
「バーカ まただまされた。」
唇を離したレイはまだ熱い吐息を吐きながらもそういって笑った。
「レイ・・・もう。」
(だいすき。私もすっかりレイに心を捕らわれてしまった・・・)
「ユウリ 今日のカッコ可愛かったよ。じゃあまたな・・・」
その後休憩時間ギリギリまで一緒にいてくれたレイは仕事があるためまた帰ってしまった。