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クライマックスシーン

何とか疑いも晴れて 戻ってきたレイ

撮影も佳境に入る

だが 新人のユウリはベッドシーンに戸惑いを隠せない

ひさしぶりのリュウのマンションで、ユウリはなんだかあれから何年も経った様な気がしていたが


実際は一ヶ月ほどしかたっていない。


部屋はなにも変わっておらず まず柴ちゃんがユウリに背中の産毛の始末をするからと裸にさせた。


「まあユウリちゃんはもともと肌が綺麗だし 無駄毛も少ないからね 

そんなに必要ないんだけど 

リュウさんは完璧主義だからね。

ちょっと恥ずかしいだろうけど我慢してね。」


柴ちゃんは背中から腕・足と

全身くまなく無駄毛を処理すると

マッサージクリームを塗って体をほぐした。そのあと一度お風呂で流してくるよう指示した。


あがるとまた全身パックで何だか、宮殿のお姫様になった気分だった。


髪も爪も全ての手入れをすると


「今日はお腹が出ないような消化のいいものだけ、ほんの少量食べるだけよ。」


とそういって流動食のようなものをテーブルに用意してくれた。 


また体に線のつかない、縫い目のほとんどないストンとしたワンピースのようなものを

念を入れて裏返しに着せた。


「あの下着は・・・」


もじもじしながらユウリが聞くと


「もちろん着けないのよ。

明日の本番直前までは着ちゃだめよ。」



もう何にも言えないユウリ。


しかしそれには構わず


「あらもうこんな時間 お肌に差し支えるわ 

早くこれ食べて 休んでね。」

と柴崎は荷物を片付け始めた。


「え~ まだ5時だけど 今これ食べると後からお腹空いちゃう。」



ほんのおやつ程度の流動食に目をやり 思わずユウリが訴える。


「あら ユウリちゃん 女優は就寝する3時間まえには食事は終えておくのは常識よ。


今日は特に大事な撮影を控えているんだから、10時前には寝てよ。


明日頑張ってね。」



そういうとさっさと柴ちゃんは帰っていく。

流動食はコラーゲンの塊なのか

あんまり美味しいものではなく少量で良かったかもとユウリは思った。

とりあえず食べ終わると台本を読み返してみる。



********************



恭介:「ひばり 好きなんだ。ずっとおまえだけを愛していたんだ。」


恭介がひばりの体に手をまわして静かにベッドに導いていく


ひばり:「兄さん・・・ 私」


恭介がこれから何をしようとしているか悟り 

ひばりはあわててベッドから降りようとするが、恭介に押さえつけられてしまう。


恭介:「兄さんなんて もう呼ばないでくれ。

俺達は本当の兄妹じゃないんだよ。

少なくとも俺は、お前の事を妹だなんて一度も思った事はない。」



恭介の手がひばりの体を這い回り、優しく唇を押し付ける。



**********************



「ああ どうしよう・・・はずかしい!」



ひとりでユウリは身もだえした。


「そんなに恥ずかしい?」


いつからいたのだろう・・・レイがソファの後ろに立っていた。


「レイ・・・」


ふわっと後ろからユウリを抱きしめたレイは 


ユウリの耳元に


「・・・これから二人きりで リハーサルしようか?」と囁いた。


思わず身を固くしてうつむくユウリの隣に座り両手を包み

ユウリを見つめてレイはさらに続ける。


「それともやっぱり 紀子さんに承諾書かいてもらってからのほうがいいかな?」


とちょっと畏まる。



ふいに顔をあげて 目が合うと二人同時に噴出す。



「そんなことでうちのママに承諾書なんて書かせないでよ~。」


「ハハハ だってユウリはお子様だからな~」


「ユウリ絶対怖くはしないから 大好きだよ・・愛してる。」


「うん 私も大好き。レイといつも一緒にいたいって思ってるの・・・愛してる。」


決して恐くてじゃなくて なみだが滲んだまぶたからそっとレイが唇を落としてくれた。


暖かいレイの体温を感じて ユウリは心から先に暖かくなっていく。


優しく包み込むようにレイはユウリに触れてくる。


どうして今までこんなに怖がってたのか、不思議に思うほど ユウリはしだいに緊張がほぐれていった。


レイの唇が指がユウリの体に触れる度に 勝手に身体が反応する。


もっと触れて欲しいって どこかで考えていることに 驚いている ユウリ。


レイは度々 

「ユウリ綺麗だよ・・・」


「可愛いよ ユウリ」


と 感極まって囁いている。


それが尚一層 言葉によっても愛撫されているようで ユウリは興奮してしまうのである。


「もう 我慢できな・・い。」


静かにレイが入ってきたときも

不思議と怖くは無かった。


固く閉じていた扉に鍵を差し込まれたように 身体とともに心の扉も静かに開放されていった。

切なげに顔をしかめて、必死にゆっくりと焦らないようレイは自制してくれている。


ユウリの顔色を伺いながらそっと動くレイを見上げて、


逆に愛おしいと思えたほどだ。


(そうか・・・男の人ってこんな必死の思いで女性に挑んでくるのね。


恭介もひばりの体を突発的に奪ったように見えるけど


ずっと愛していたからそれまで沢山の葛藤の中を乗り越えて

やっと その行為に及んだんだ・・・


それがわかったからひばりも兄を愛おしく感じて、抗えなかったのかもしれないわ。)


実際はかなりの痛みを伴ったものだったが

レイの優しさと切なさを直接受けとったようにユウリは感じて、嬉しくなった。


それから ユウリの体のどこにも無駄なところはないかのように

大事に慈しんだ後 

安心したように眠るユウリをそっと抱いて、レイは目を閉じる。


「ユウリ 愛してる・・・」


最初に二人で眠った夜の様に

丸く小さく寄せ合うように小鳥達は眠った。


翌朝起きるとレイはもう先に出ていたようで、

顔を合わすのは照れくさいと思っていたユウリはほっとした。


それから ひとりユウリはゆったりまたお風呂にはいって昨夜柴崎に渡されたローションを全身に塗った。


「なんだかこのローション蜂蜜みたいな匂いがする。<赤面」


いいつけどおり下着はつけずに外出用の縫い目のないワンピースに袖を通してオレンジジュースだけ飲んだ。


「お腹すいた・・・」


(すっきりお腹はいいけれど早く何か食べたいな・・・)


「なんだ結構余裕あるじゃないか?」


リュウが迎えにきた。


「おはよう、リュウ。」


振り向いたユウリを見て

「ふ~ん」とひとつリュウは頷くと


「舌出して」と命令する。


「え~~!またやるのあれ?」


「今日は大事なシーンなんだから 当然だろ!」


しかたなく舌をチロっとだすと

リュウはすかさずユウリの体を引き寄せて唇を覆った。


「ん・・ぅん。」


リュウの舌が奥の方まで入ってきて 一瞬目を瞠るユウリ。


戸惑いながらも いつしか目を閉じて ついされるがままになって その舌の動きが心地よいとさえ感じてしまう・・・


だがふと腰に違和感を感じて気がつくと いつのまにかユウリはリュウの背中に手をまわして まるっきり口付けをかわす 恋人どおしのような姿勢をとってしまっていることに気づいた。


(私ったら なに夢中になってたのかしら 恥ずかしい・・・ それにこのおなかの辺りに当たってるのって・・・)赤面するユウリ。

リュウはと言えば 口腔の中まで存分に時間をかけて 

味わいつくしたはずなのにまだ体をキツクユウリを抱きしめて 

腰を押し付けたまま離さない・・・


ガツッ!! 「うっ」


「リュウ ・・・チェック長すぎ! それに関係ないとこまで 押し付けてこないで!! 変態!」


リュウの固まりかけた股間に思いっきり膝を打ち付けた。


「痛っ・・わ 悪りぃ お前 だって随分色っぽくなってんだもん。」


入念にうがいと歯磨きを繰り返すユウリの後ろで


「どんだけ 嫌がってんの 俺のチェック・・・?」

とぼやきながらも

「今日は成功するぞ あれ?性交とかけたわけじゃないから はっははは。」


そう笑い転げるリュウにチロリと冷たい視線をなげかけ

「くっだらない。」

とユウリがぼそっとつぶやくと さすがに冷静に時計をみる。


「そろそろいくぞ。」といつもの顔に戻った。


(あんな濃厚なキスするなんて・・・何だか同じキスでもレイと全然ちがうのね。)


すこし顔を赤くしながらも車に乗り込む。


「おはようございます。」


ユウリが入ってくるとみんな大事なシーンということで気遣ってくれたのか男性スタッフが極力少なく

今日はほとんど女性スタッフが占めているような気がする。


*********************

 

恭介:「兄さんなんて もう呼ばないでくれ。

俺達は本当の兄妹じゃないんだよ。

少なくとも俺はお前の事を妹だなんて一度も思った事はない。」


恭介の手がひばりの体を這い回り優しく唇を体中に押し付ける。


ひばり:「嫌・・・やめて。」


だが実際泣いているのは兄の方だった・・・


恭介は泣きながら懇願するように、きつくひばりを抱きしめて 固く閉じた体をそっと押し開こうとしている・・・


いつしかひばりは抵抗やめて

恭介の頭をやさしく包み込み 

苦しげにゆがむ義兄の頬やまぶたに溢れる涙を唇でさがして吸いとり 

その位置をたしかめると薄く開いた唇を深く重ねて 恭介を探し当てると 微笑みさえ浮かべた・・・


ひばり:「恭介・・・」


恭介:「ひばり・・・」


名前で呼び合うと しばらく二人は最初からひとつだったように固く抱き合ったまま動かずお互いの呼吸音と鼓動だけを聞いていた。


恭介:「愛してるよ ひばり」

ひばり:「わたし ずっとその言葉を聴きたかったんだわ・・・私も愛してる 恭介。

もっと強く抱いて 私を離さないで・・・」

恭介:「離すもんか・・・ひばり。」


お互いを深く求め合うようなキスをする二人・・・


**********************


「ハイ カーット!」


「すばらしいよお ユウリちゃん 綺麗だったよお。

頑張ったねえ。レイちゃんも切なさが画面中に溢れてて スタッフみんないっちゃってるよお。」


女性スタッフの中には涙を潤ませているものもいた。


化粧直しに近寄った柴崎も


「ユウリちゃん すっごく色っぽくて綺麗で 良かったよ。」


と鼻を赤くしている。


なんだか照れくさくてスタジオの隅に下がって休憩をとる。


レイもさすがに疲れたのか脱力して隣の椅子に座ってきた。


「ユウリぃ・・最後のキスで逝きそうになっちゃった 俺・・・」


「え・・・」


レイが火照った顔のまま囁く。


「いつ覚えたんだよ ちくしょうあんなキス・・・。やばかった。」


(そういえば思わず今朝のリュウの濃厚な製品チェックを無意識に思い出して、

再現してしまったのかもしれない。)


「さあ 帰るぞ ユウリ。お腹空いたろう なんでも好きなもの食べさせてやるからな ~。」


リュウがユウリの肩をポンとたたくのに


「ヒャッ」

と変に反応したので レイが訝しげにちょっと振り返ったが すぐに


「俺も一緒にご馳走してよ~。」


といつもどおりリュウに甘えてくる。


「なんだぁ お前今日はもう仕事無いのか?

しかたねえなぁ たまに大盤振る舞いするか。

じゃあ 他のスタッフも連れて行くぞ!」


今日は女性スタッフが多かったので気を使ったのだろう みんなに声をかけて近くのしゃぶしゃぶを食べに行った。


「ユウリ お前 リュウと何かあったろう?」


突然レイにそう言われ

「えっ なんで?」


ドギマギしながら思わず箸でつまんだお肉が無駄にスープの中で踊る。


「リュウの奴 ひかり君ひかり君って言ってたのに本人が男に興味ないから諦めたか・・・

ユウリおまえもう少し自覚しろ。

こないだだまされて懲りたろう。

リュウだって兄貴みたいに信頼してるけど

一応男なんだからな・・・

アイツはバイだからなあ。」


(バイって何だろう?)


時々業界用語が入るのかレイの言葉がわからないユウリ。


すこしお酒が入っているのかレイは愚痴っぽくなっているようだ。


「わかってるよ。ところでバイって何?」

ブッと横で柴ちゃんが噴出す。

はぁっとレイが溜息をつく。


「レイ君苦労してるね。」


気の毒そうに柴ちゃんが声をかける。


「わかってくれる?柴ちゃん。」



明日も撮影があるのでとほどなくしゃぶしゃぶ屋を後にして

アルコールを嗜んだリュウは福田社長を呼んで一緒にユウリと後部座席に乗りこんだ。


「レイの奴 さすがに勘がするどいな。」


リュウがネクタイを緩ませながらつぶやく。


「ユウリお前も良くやったよ。 今日はゆっくり休め。」


玄関まで車を降りて送ってくれた リュウは


「おやすみ。」


とユウリの身体をそっと抱きしめると背中をスーッと撫でていった。


「!!!?」


感電したように 全身震えるユウリを残して リュウは「じゃあな。」と去っていく。


(なに・・・?いまの なんでリュウに触られたくらいで こんなになっちゃうの?

私 リュウを意識してるのかな・・・リュウなんてオヤジじゃないの!?)


翌朝 登校するといきなりひかりに呼び止められる。


「ユウリちゃん おはよう!

なんだか今日はふらふらしてるけど 大丈夫?」


「ひかりくん おはよう。別に大丈夫だよ。」


「・・・ところで あのシーンは撮り終えたの?」


「あの シーンって・・・あれのこと?」

ひかりが何を言おうとしているのか分かっていたが 聞かずにはいられなかった。


「そう 他にないじゃん。」弱気なひかりにしては珍しく真正面からユウリを見つめている。


「無事・・・ 終わったよ。」ちょっと声が震えていたかもしれない。


「じゃあちゃんとできたんだね。良かったじゃないか・・・これでまたユウリちゃんと僕も仕事ができる。」


「そうだね パート2の企画がってレイが言ってたけどまだ全部最終回までいかないと反応わからないし・・・」


そういうとひかりはにこっと笑い「大丈夫絶対 高視聴率まちがいないよ。」と請け負った。


その夜から予告としてユウリとレイのシーンの一部が放映され学校でも話題を呼んだ。


家では極力テレビは見ないようにしていたが、紀子は細かくチェックを入れているようだった。


「あんた声がかすれ気味ね。すこし喉にいい飲み物でも作ってあげるわね。」


それでも横からサポートするのみで あまり現場のことを聞いてこないのでありがたい。


最近マスコミの方でもユウリの日常を取り上げる事が増えており、何気なく立ち寄った先で突然シャッター音かして驚くことがあった。


電車の中吊りにも「僕らの妹 ユウリ!校庭を走る姿に萌え!」なんて見出しがあったりする。


しかしたいてい普通に暮らしていても地味な格好の芽衣はユウリだと一般人に気づかれる事は少なかった。



最終シーンの撮影のため その日は外でのロケとなった。


(あ~ぁ この撮影が終われば しばらく レイとも会えなくなるんだな・・・

元々人気俳優だし パート2まで ポッと出の新人の私の事なんて忘れてしまうかもしれない・・・)


今日で最後だというのに 曇り空の天気と同じで ユウリは心が折れそうに辛かった。


「今日は寒いよね~ ユウリちゃん なにか暖かい飲み物でも買ってくるね。」


柴ちゃんが気を利かせてワゴンを降りていった。


一瞬外の喧騒が聞こえてくる。


レイのロケバスを囲んで ファンが集まっているのであろう。


一人ワゴンの中で その歓声を聞いて (やっぱり 違う世界の人かも・・・)と 益々 寂しくなるユウリ。


(だめだめ 最後のシーンなのに レイ君に迷惑かけちゃう・・・)


ユウリは気持ちを奮い立てて

再度 台本に目を通した。


今日は恭介とひばりが愛を確かめあう 重要なシーンである。


恭介に愛を伝えることなら きっと本当に感情込めて 言える気がした。


(だって 私も レイの事 愛してるもの・・・)


ガチャ

「「キャーレイく~~ん」」


すごい歓声が入ってくるのと同時にレイが ユウリのワゴンに乗ってきた。


「レ レイ・・・」


「ユウリ 調子はどう?」


キュウゥと抱きしめられて じんわり胸が熱くなり 嬉しくなるユウリ。


今二人のいるワゴンはロケ用なので 外には見えないようにマジックシートか張ってあって 密室状態なのだ。


「うん 大丈夫だよ。」


「ユウリ 今日で撮影最後だけど オフの時は必ず連絡するからね。」


「うん。」


(いま 会いにきてくれただけでも 嬉しいよ・・・)


「それから 手だして・・・」


「?」



乗せられたのは 小さな紙包みだった。



包みを開くと あるマンションの鍵と 地図が書いてあった。


「明後日は休みだろう?一人でここまで来れるね ユウリ。」


そういうと ユウリの額にチュッとキスをして「じゃあ ラストカット頑張ろうな。」といってワゴンを降りていった。


(これって レイのマンションの鍵?)


すっごく嬉しくて 涙が出そうで もう既にメイクをして貰った後であることを思い出して グッと堪える。


そこへ柴崎が戻ってきた。


「あれ 今レイくん来てた?」


「・・・うん 頑張ろうねって。」


「優しいですね~ レイくん。」


また少し赤面するユウリ。


********************


ひばりと恭介 今日は散歩に出てきていた。

しばらくして公園のベンチで休む。


ひばり:「兄さん 私 いつも兄さんのこと どうしてか恐かったの・・・

 

大好きなのにどうしてだろうって 思ってた。


でもそれは いつも一緒に居る兄さんがこんな足でまといの私を置いて


いつかいなくなってしまうんじゃないかって 心のどこかで思っていて

 兄さんを失うのが恐かったのかも・・・」


恭介:「いや もっと早くにお前と俺が血の繋がりなんてないことを 伝えておけば良かったんだ。」


ひばり:「ううん 今ならわかるよ。 

恭介はできるだけ わたしの兄であろうと努力してくれていたんだね。」


恭介:「ひばり・・・」


ひばり:「恭介 もう兄さんって呼ばないわ・・・恭介 愛してる。」


恭介:「ひばり・・・俺のひばり・・・ 君を愛してる。」


恭介はひばりの肩をぐっと引き寄せ ひばりの頬をやさしく包んで くちづけをした。


*******************


「はいカーット お疲れ様です。」


脱力する ユウリとレイ。


いつのまにかスタッフが二人にと大きな花束を持って現れ

拍手と声援の中 ただただ涙が溢れるユウリをレイが恭介の様に支えた。


「あの・・・ みなさん 本当にありがとうございます。

私みたいな・・・素人を よく最後まで見捨てずに 引っ張っていってくれたこと 心から感謝しています。」


精一杯の挨拶をしたユウリに監督からも

「よくやったよお ユウリちゃん すごくステキな作品が出来たよお。ありがとね~」

とたたえてくれた。


「今回 ユウリさんと出会えて 僕も役者としてすごく勉強になりました。

井川さんのことはすごく残念でしたけど 皆さんの応援で最後まで続けさせていただく事ができました。

本当に・・・ありがとうございます。」


レイも感極まっているのだろう。

すこし声が震えているような気がする。


打ち上げになって リュウとひかりが顔を出した。


「リュウ 来てくれないのかと思ったよ~」


「馬~鹿 なわけないだろう。お疲れさん 頑張ったな ユウリ。」


リュウの指先がユウリの耳からうなじにかけてスゥーと撫でるように滑っていった。


(あ・・・) 


とたんに感電したように 身体をこわばらせるユウリ。


すぐ横にいたレイがちょっと気色ばむ。


「ユウリちゃん お疲れ ユウリちゃんとレイくんのお陰で僕も パートⅡに出演させてもらえる事になったんだ。

ありがとう。」


「良かったね ひかり君 わたしもパートⅡ楽しみだよ。」


(リュウ ちょっと話がある・・・)


レイが周りの者に気づかれないように 目でリュウを誘い出した。 


-------------------


「俺のマンションのキー ユウリに渡してあるから。」


挑むように切り出したのに ちょっと照れて笑ったレイは

「じゃあ それだけ。」

と言って宴会に戻ろうとする。


「レイ。」


振り向くといつになく真面目な顔をしているリュウがいた。


(事務所のマネとして 一言やっぱり言われちゃうかな・・・?)

ちょっと警戒するレイ。


「俺も ユウリに対して本気になっているかもしれない・・・。」


「やっぱりな・・・上等だよ。負けないからな リュウ。」


「ああ。」


------------------------


程なく レイとリュウが戻ってきたが 別に普段と変わりなく しゃべっている。


(なあんだ 良かった。)

と胸をなでおろすユウリ。


「レイ リュウに呼び出された?」


「ん? いや 連れション。」


「ヤダ!もう 食事中に~」


そういいながら レイがユウリの右隣に座ると リュウも反対の左隣に座った。


「ユウリ また学校行っている間も 怠らず柴崎の言っていたスキンケアはちゃんとやっとくんだぞ。

あっというまにパートⅡ撮影あるからな。」


リュウがユウリのほっぺをつまんでプニプニする。


「わかってるってば ヤダ ほっぺが伸びちゃうでしょ!」


「マッサージしてやってるんだ。ほらこうやってな?」


と今度は背中を指でスーッと走らせるように撫でる。


「キャッ」

顔を赤らめてしまうくらい 大きな声を出してしまったユウリ。


キッとレイがリュウを睨みつける。


「なによ! もう恥ずかしい変なとこ触らないで!リュウ。」


「おおッ コワッ!」


「まだ飲んでもいないのに まったく・・・」


レイが眉間にしわを寄せて ユウリの手をそっと握ってきた。

ユウリも指を組み合わせるように握り返す・・・


(ああ もうこんな席でリュウったら 勘弁してほしいな・・・ レイに勘違いされそう。)



それほど遅くならない内に 福田が迎えに来てくれた。

今日もしこたま飲んだリュウは当然運転は出来ない。


名残惜しかったが 明日もまた学校があるユウリもひかりは 早めに切り上げて帰ることになった。


「いつもすみません 福田社長。」


「いいえ ユウリさんもひかりさんも またパートⅡ頑張ってくださいね。」


ほどなく 先にユウリの家に着く。


「じゃあ ひかりくん また学校でね。

リュウ 福田社長 送ってくれてありがとう。」


「ユウリ!」


リュウが窓から顔をだして呼び止めた。


「また 電話するからな・・・」


右手を差し出すリュウ。


(お疲れ?の握手・・・かな。)


ユウリは何も考えず右手をさしだした。


リュウの大きな手がそっとユウリの手を包み込んだ。


だが その内の一番長い中指をそっとリュウは伸ばすと 


ユウリの手首をカリッと引っかいた。


(あぁっ・・!)


ドクンと胸が波打ちのを感じるユウリ。


(な 何やってるんだろう・・・早くこの手を外さなくちゃ。)


だがリュウの指は別の人格を持っているように滑らかに ユウリの手首を愛撫して 周りがあまりに長い握手に訝しく思い始める頃になって やっと開放してくれた。


「じゃあな ユウリ。ゆっくり休めよ。」


リュウはジィッとユウリの反応を楽しむように見つめた後ウィンドウを上げて 去っていった。


心臓がありえないほど ドキドキしておさまらない・・・


(なにあれ? リュウったらどういうつもりなんだろう・・・)


しばらくリュウたちの車のテールランプを眼で追った後


遅い時間に一人外に突っ立っている状態を思い出して 慌てて家の中に入る。


(なんだか・・・体が熱い。)




「リュウさん なんだか関心しないですね・・・あれってさっきも感じたけど性感マッサージじゃないですか?」

ひかりがリュウを咎めるように言った。


「良く知ってるね。ひかり君

俺は気功術やマッサージの心得があるんだ。」


ふふふとリュウが笑いながら白状した。

「なんでそれをユウリちゃんに使うんですか?」


「俺は本気でユウリを感度のいい大女優にする気になってきたんだ・・・。レイには言うなよ。あいつはいい方向に勘違いしてくれてるから。」


「なんだか 怖いな。あんまりユウリちゃんを苛めないでほしいんだけど・・・」

ひかりが警戒した目付きでリュウをバックミラー越しに見つめる。


「ひかり君 君だって同じだよ。俺は本気だ。もともと君がユウリの事を好きだっていうのは本当だろうけど・・・それは君が女の子の理想として好きって事なんだろう?」


「えっ」思わず 目をそらし車の窓に映る自分のうろたえた顔に冷や汗が流れるひかり。


「性同一性障害なのは本当なんだろう。だから君のパート2の役はやはり女の子として恭介とひばりと三角関係になるという設定になるはずだ。」


「リュウさん・・・」


福田は聞こえないふりをしてるのか二人の話には一切口をさしはさまなかった。


「じゃあ パート2の撮影に入る時はまた泊まりにおいで。」


そういうとリュウはひかりのおでこにキスをして去っていった。


(なんで・・・わかったんだろう。)



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