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嫉妬

同級生の 鮎川 彼は性同一性障害だった

しかも 今回おなじオレプロに入ると言う・・・


いつのまに眠ったのだろう

レイが隣に眠っているのとは違い 安全に目覚めた朝 隣には可愛い天使が眠っている。

リュウもまだひどい寝相で熟睡していた。


(そういえば昨夜はアイマスクしなかったなぁ。)


ひかりが契約してくれたのがよっぽど嬉しかったのだろう。

リュウもそんなことはすっかり忘れているに違いない。


それでもユウリは思い出して台本を読みはじめる。


まだ朝の5時くらいだ。

どうも最近早く寝ているせいか早起きになってしまった。


普段は2時くらいまで勉強しているので登校ぎりぎりにならないと起きない方だったユウリ。


かなり頭に入ったところでコーンフレークならと思い。

食卓に用意して二人を起こしに寝室へ向かった。


「リュウ!何やってるの?」


寝室のドアを開けるとリュウがひかりに覆いかぶさってキスをしているところだった。


「いや製品チェックを・・・」


ひかりの目は見開いたまま固まっている。


「あ 鮎川くん 大丈夫?」


そっと抱き起こすとひかりの目からは大粒の涙がぽろりんと零れた。


「あ~あ~泣かした。」

ユウリはじろりとリュウをにらみつける。


「ごめっ ひかり君。」


私のときとは偉い違いだ・・・


「ううん 別に謝らないでください。」

赤くなった鼻を両手で押さえながらひかりが涙目でいう。


よしよし「ショックだったよね~」と保護者気分でユウリはひかりの背中を撫でてやる。


(ううん すごく嬉しかったの。)と囁く ひかり。


(あ そうなの?)


驚いてひかりとリュウの顔もまじまじと見つめるが 

本当にファーストキスをしたばかりの初々しい恋人どおしのように二人の空気はぎこちない。


「さあ もう学校いく時間だよ。」


そう声かけると我に返ったようにリュウも動き出した。


三人でコーンフレークを食べてスタジオに向かう道中 ひかりを鮎川家まで送る。


「じゃあ また。」

「ああ 後で。」


いつまでも名残惜しそうにひかりが手を振っているのがサイドミラー越しに見える。


「良かったわね。リュウ ひかり君契約してくれて。」


「ああ でもお前も実際かなりいい線いってるから できればこのままひかり君が入っても続けてほしいと思ってるんだ。」


「いいの? こんな私なんかで?」思わず逆にそう聞いてしまった。


「もちろんだよ! 昨日は撮影中 監督すごく褒めてたよ。特にレイと息がぴったりだもんな~。学校で時々見かけたときから もしかしてとは思ってたんだ。」


「え?私のこと 前から知ってたの?」


「ああ 三ヶ月も前から日参してたら嫌でも ひかり君以外 学校の他の生徒にも目がいくだろ スカウトなんだから。」


「もしかして あの参考書しこんだのリュウさん?」


「ばれてた?ハハハ あの時偶然ひかり君を追いかけてて 君を見かけてさ 何か話し掛ける口実にと書店で君が手にしてた参考書を買っておいたんだ。以外なことで役に立ったけどね。」


でもそのおかげで私は新しい世界を知る事ができたし リュウやレイに出会えて 一クラスメートで終わっていたかもしれない鮎川とも分かり合える機会ができたのである。


「別にもういいよ。」


スタジオ入りするとすぐレイがやってきて「おはよう~」としばらく会えなかった友人のように声を掛けてきた。


「レイ ニュースだ!

ひかり君がとうとうオレンジプロダクションに入ってくれたんだ。」


早速リュウが胸をはってそういうとレイは心底驚いた。


「え~~!まじで? しんじらんねぇ。」


とユウリの方を振り向く。


「本当なのよ 昨夜来てあたしもちゃんと聞いたもの。」


「くっそ~ 俺が一緒に寝たかったのに~。ユウリを選ぶなんて・・・」

とまだ悔しがるリュウ。


「え?泊まっていったの鮎川くん・・・」


するどい眼差しで咎めるようにレイに見つめられ戸惑うユウリ


「だってリュウと寝るのははずかしいっていうんだもの。」


言い訳するように答えたが

「ふ~ん。」と急にしらけた顔をしてレイは立ち去ってしまった。


「なんだアイツ この喜びをもう少し一緒にわかちあってもいいじゃないかぁあぁ!」


とりあえず もだえるリュウを置いておいて ユウリは柴ちゃんにつれられてメイクに入る。


(なんか誤解しちゃってるかな・・・レイ。)


今日は井川 薫の出番もあるようで さすがにベテランが演じるためかスタジオの空気がいつもと違った。


昨日と違って なんども撮りなおしが入っているレイ 薫が落ち着かせるように肩をさすっているのが目に付く。


なんとなく そういう二人を見ているのが嫌で目をそらすユウリ。


そしてひばり役のユウリが入るシーンになった。


今日は角谷との仲を疑った恭介にぶたれるシーンだ。


「遠慮なくいくからな。」

レイが真剣な眼差しでそういった。


「いいわよ 遠慮なくどうぞ。」


「はい 本番3秒前・・」パチン


*********************


ひばり:兄さん ねぇ どうしたの?


ひばりはいつもと違う 兄の態度に怯えて聞いた。


恭介:ひばり!おまえ本当は俺のいない間に 角谷という男を家の中にひきいれているんだろう!


兄はひばりの頬をうった。

バシッとけっこう音が響く


ひばり:違うよ 角谷さんはボランティアで障害のある人たちの家をまわっているだけなんだよ!


頬を押さえ涙を浮かべて ひばりが訴える。


*****************


「はい カット!」


「いいよ~いいよ~ 今日一番のカットね~ 調子もどってきたねえ レイちゃん!」


好々爺監督 大喜びである。


柴ちゃんがさっそく冷たいタオルをもって冷やしてくれた。


かなり本気で殴られたようだ。

口の中も少し切れたのか血の味がする。


「ユウリ ごめん・・・俺。力はいりすぎた。」


監督にべた褒めされたのにレイは泣きそうな顔をしている。


「な にいってるの。・・・迫真の演技ですごかったよ。」

ちょっとしゃべり辛かったがユウリは やっとそう言うと にっこり笑ってレイを見上げた。


「ユウリ・・・。」


今にも抱きしめてきそうな 切ないレイの瞳に ユウリもコクッと息を飲んだ・・・


「レイく~ん さすがね 素人のひばりをうまくカバーするようにすばらしい演技だったわぁ。 さあ次のシーンも頑張りましょうね。」


いきなり薫がレイの腕に絡むように近づいてきて引っ張って行ってしまった。


その後は割と順調に進み、やがてレイの方が先に今日の分を撮り終える。


帰る前にレイが側によってきてそっとユウリに


(もう鮎川となんか 一緒に寝ちゃだめだよ!俺 絶対嫌だ!約束してユウリ!)


と早口で耳打ちしてきた。


「レイ だってひかり君はね・・・」


とあわてて ユウリがひかりのことを説明しようとしたが 


「おつかれさまで~す。」とスタッフに見送られながらレイはあわただしく次の仕事に向かって行ってしまった。


(やっぱり 誰が聞いても16歳の男女が一緒に寝たって言ったら そう思うよね・・・)


レイに誤解されたままでいるのがもの凄く 気になってしかたのないユウリ。


だが そんな風に思い悩んでいる暇もなかった。


レイにぶたれた後はファンデーションやコーンシーラーなどでカバーして何とか遅くまでかかったが撮り終えた。

しかしもうその頃には、リュウは消えていて また福田が迎えに来ていた。


「刈谷さんは鮎川さまのところです。」

福田は今日は羊さんアイマスクを手渡して車を出した。


昨日より更にスムーズにエレベーターまでたどりつきまた盛大に福田を喜ばせたユウリは「昨日は使わなかったから」と台本だけ受け取って夕食代はうけとらずに部屋に戻った。


暗闇のままアイマスクをとらずにリビングまでたどり着きソファに座ると何かをお尻に踏んでしまった。


「ぐぇっ 重い!」

お尻の下から うめき声が聞こえる。


「レイ?」


「なんだよぉ まじめにまだアイマスクしてるのか?ユウリ。」

と勝手にアイマスクをはずす。


「へへへ 来ちゃった。」

とレイは笑い顔をフイにゆがませると 抱っこした状態のままユウリの腰に両手を回して引き寄せた。


「今日は本当にごめん あんなに力任せにぶっちゃって。痛かっただろう。」


「ううん もう平気」すこし腫れの残る左頬をじっと苦笑して見つめるレイ。


「・・・なぁ 聞いていい?」「なに?」


「なんであんな奴と一緒に寝たんだよぉ。ユウリィ・・・」


ユウリの肩に顔を押し付けてレイが泣きそうな声でいう。


「レイ 違うよ 鮎川くんは性同一性障害で心は女の子なんだよ。」


やさしくレイの髪を撫でながら そっと囁いた。


「性どういつ・・・何それ?」


うるんだ瞳でレイがユウリを見上げた。


「あのね 体は男なのに心はそれを認めたくなくて女の子の心を持ってしまう病気だよ。

鮎川くんもそれなの・・・

しかも実はリュウに恋していて 自分を迎えに来た王子様みたいに思っているんだよね。

それで私と暮らしてるのを不安に思って 昨夜さぐりにきたんだよ。」


「それが どうしてお前と寝る事になんの?」


「それがね まだ16歳の初々しい乙女そのままの心だから大人のリュウと一緒に寝るのはかなり勇気がいることみたいで恥ずかしがって 眠れないっていうんだもの。

あたしと一緒なら女の子どおしで安心して寝られたみたい。」


いぶかしげに「ふ~ん」とレイは言ったがそれでも納得して「じゃあ何にもされなかったんだな?」とキスをしてきた。

「うん」とユウリもレイの首に腕をまわして答える。

なんだかレイがいとおしくてたまらない・・・


ユウリはそうして幾たびかレイの唇にキスを落としていく内に だんだん心まで解け合ってひとつに重なっていくのを感じた。


レイはユウリのキスをもっととせがむ様に薄く口を開いて待ち受ける。


(あたし・・・ レイのことが好きになっちゃったかもしれない・・・)


そしてもう一度 彼の唇に触れていった。


10分程そうしていた後・・・

「分かった 安心したよ。じゃ 俺 今日のところは帰る。またリュウに拳骨張られると明日の撮影にも支障が出るから。」


「え もういっちゃうの?」

(もっと側にいてほしいな・・・)


「ごめん これからラジオ番組あるんだ。でもギリギリユウリに会えて良かった。

明日は泊まりにくるから。」


そう言うとレイは足早に去って行った。


(泊まりになんて来れるの?)


何か作ろうかと台所に行くとおそらくレイが作っておいてくれたのであろう チャーハンがラップにくるんで二人分おいてあった。


鍋には具沢山の野菜スープもはいっている。


「レイ ありがとう いただきます。」


レタスやカニ缶の入っているふんわり 優しいチャーハン。


「う~ん 幸せ おいしいよぉ。レイ いっしょに食べたかったな・・・」


夕食を食べて 少し掃除をしたり 洗濯をした後、お風呂に入った。


ハウスキーパーさんが来るとは言っても 二日おきくらいだし 一応ユウリも居候なので気を使う。


洗濯物も自分の下着は乾燥機を使って こっそり片付けていた。(生理が無いときで良かった・・・)

そのうち リュウも戻ってきて ひかりからのノートを写すという いつもながらの作業。


そしてすぐ恋人に会いにゆくべく写し終えたノートを持って

「今日は事務所に泊まりだから、明日の朝 ひかりくんも連れて迎えにくるよ。」とリュウはまた出かけた。


どうやら明日はエキストラでひかりも参加するらしい。


どおりでリュウが浮き足立っているわけだ。


ユウリは一通り台本を読んだ後 ベッドでもノートの写しを読み返し、いつの間にか寝てしまった。


「ユウリ」


(もう朝? あれアイマスクしてないのに暗い・・・)


「ユウリ ただいま」


レイがいつの間にか隣に寝ている。


「レイどうしたの?泊まりに来るのは明日って言ってたよね?」


「もう日付かわってるよ。」


近くのデジタル時計を見ると確かに「00:26」となっていた。


「見つかったら また怒られるよ。」


「リュウは朝まで戻らないって聞いたし、それにユウリに会いたかった。」とレイはユウリのまぶたに唇を這わせる。


その唇が首筋に来たところで「ん?」とふいにレイは顔をあげる。


「ユウリ おまえって本当に全然経験ないの?」


「・・・うん」


暗いからわからないだろうけど、顔は真っ赤だし 目は涙ぐんでいる。


「わかった。じゃあさ 抱っこして寝るだけでHは無し。こんなにドクドクしてたら 心臓麻痺起こすよね。クスッ」


「ごめん レイ 昨夜は鮎川くんと寝た 時は・・・彼 女の子のカッコで・・・顔もまるっきり美少女だったし・・・わた し ・・ううっ」


嗚咽まで出てきた。あたしもまるっきり子供だ・・・。

キスとは違ってやっぱり・・・もの凄く緊張してしまう。


昨日ひかりが愛するリュウの横で寝られないと頑張った訳が分かってきた。


「分かったよ。」とレイがよしよしと抱きしめてくれると少し心臓も落ち着いてきた。


「・・・ねえレイ 今日のチャーハンもスープも最高だったよ。」


「あたりまえだろ。クスッ」


いつしか二人ともそのまま母鳥の羽の下に身を寄せ合う雛のように抱き合って眠りについた。


--------------------


「お ま え ら~~~~」


「「 い 痛た たたたっ!!」」


翌朝 ユウリとレイは同時に悲鳴を上げて 目覚めた。


「リュウ なんだよ。もう帰っ・・」


リュウに思いっきり耳を引っ張られて無理やり起こされたため、ちょっと文句を言おうと思ったが、

リュウの怒った顔を見て言葉を引っ込めるレイ。


「お帰りなさい。」


レイほどではなくともやはり昨日のほっぺたの腫れが引いたばかりなのに まだ耳がジンジンしているユウリ。


「何にもしてねえよ。お姫様には手を出してません。」


「当たり前だ!馬鹿たれが!! 昨日注意したばかりだろ!その耳は飾り物か!」


リュウの罵声は止まらない。


(ちぇ 自分が鮎川と一緒に寝られなかったからってよぉ)


「なんだって! ぁあ?」


「さあ ユウリ朝ごはん作るよ~。今日は何しよっかな~?」

レイがさっさと逃れるように台所に避難する。

「う うん。」

あわててユウリも続いた。


「ちょっとこい レイ。」

リュウの目は座っていてかなり怖い。

「なんだよ~?」


「昨夜のチャーハン見ただけでお前来たのはわかってたけどな・・・ お前我慢できんの?

ユウリは大事なうちのプロダクションの商品なんだぞ!

しかも 慣れるまでってことで彼女の家には1週間だけお預かりさせてくださいって話してあるんだ。

後はご家族も心配するだろうから自宅から通ってもらうつもりでいた。

大事な預かりもんなんだよ。」


珍しくまともな事いうリュウ。


(自分はあんな常識はずれなことしてるのに・・・)


とは思ったが口に出せないユウリ。


「悪かったよ・・・。」

しかし さすがにシュンとしてレイもうなだれてしまった。


「まあな わかればいいんだ。さすが お前の作ったチャーハンはうまかったよ。

お前がいないと食事が・・・あ いや・・・。」


「じゃあ ぼくも一緒に住んじゃだめですか?」


「え! あ 鮎川くん?」

ユウリのすぐ後ろにひかりが立っていた。


「ごめっ ひかり君 あんまり頭 来たんで 君を連れてきたこと忘れていた!!」


ひかりはウィッグをつけているのか ゆるフワカールの髪におそらくリュウスタイリストセレクションのクリームイエローのミニワンピースに白のオーバーニーのハイソックスを履いていた。爪までちゃんとフレンチネイルにキラキラストーンが光っている。


(完全に負けてる・・・私)

呆然と見つめるユウリ。


「鮎川?なんだ・・・すげっ。」レイもかなり驚いている。


「僕も今日からここに泊まります。そして僕と佐々木さんでまた一緒に寝ますから 安心でしょ?

室塚さんは男同士リュウさんとどうぞ。」


「ええっ! また泊まってくれるの!ひかり君!!」


リュウ・・・ 目がハート。口から涎が出てるって。


「お前だって男だろ!なに勝手なこと言ってんだよ!」


レイが引っ張られた耳と同じくらい顔を赤くして怒鳴った。


「キャッ!恐い・・・。」


思わずひるんでひかりはユウリの背中に隠れる。


「レイ・・・ 鮎川くんは中身女の子だって言ったでしょ。」


しかたなく背中のひかりがブルブル震えてるので庇う形になるユウリ。


「そうか これなら劇団時代の合宿所と変わらないもんな~!さすがあったまいいなぁ ひかり君はぁ。さすがあの有名進学校通っているだけあるよぉ。」


しみじみリュウが納得する。


「あの・・・その進学校で常にナンバー3に入っているのは佐々木さんで、ぼくなんかいつも真ん中行ったり来たりですけど・・・。

そういえば前回のテスト なんだか問題の作り方間違えてたらしくて解答が二つあるのがあってね。

佐々木さんはトップに変わってたよ!」


「へぇ そうなの?」やっぱりちょっとほっとするユウリ。

「そうだ。ひかり君みたいな可愛い女の子が一緒だと ユウリの親御さんも安心するな。

じゃあ合宿中で~す。ということで4人で写真をとって二人の家にお届けしておこう。」


調子に乗ったリュウはどこまでも止まらない。


「リュウが鮎川の写真ほしいだけだろ!」


レイが鋭いところを突いたので

「あ じゃあ お前は合宿に入んないのね。」と切り替えされて あわてて

「あ 俺デジカメさがしてくるかな? あれこっちのクローゼットにあったかな~?」

とごまかした。



(たしかに ほとんど拉致された形で携帯も持たずに、数日帰ってないんだもの・・・うちの家族だって心配してるよね。)


「ユウリの家族にはこないだのスタジオ撮影の様子のV 一応届けてあるからな。」


シュンとしているユウリの様子に気がついてリュウが言った。


「えっ本当?ありがとう。」

ちょっと感動した ユウリ。


(やっぱりおにいちゃんだわ。)


「お前の母さん すんごく喜んでたぞ さすがに共演している俳優は全て知ってて ”こんなベテランの方々と一緒に!!”と恐縮していたな。良かったらスタジオ見学にどうぞと言っておいたからもしかして今日あたり来るかもしれない。」


「ええ!そうなの? なんだか恥ずかしいな・・・。」


「なにを言ってるんだ。テレビドラマなんだから日本中の人がこれから目にするんだぞ。」


(本当にそうだ・・・どうせ途中でこんな素人降ろされると思っていたのに 今では真剣に取り組んでしまっている。

誰に見られても恥ずかしくない仕事をしなくちゃいけないんだ・・・)


とりあえず スタジオ入りした4人。


井川 薫がいぶかしそうに揃って現れた自分達に近づいてくる。


「おはようございます。井川さん。

この子 オレプロ新人のひかりです。今日は挨拶がてら ちょっとエキストラでお願いしようと連れてきました。」


「ひかりです。よろしくお願いします。」


ぺこりとひかりがお辞儀するのへ


「あら そうよろしくね。」と割とそっけない井川。


(ひかりってまんまの芸名じゃない?)

(ああ ひかり君 ひかり君言ってるから それ以外で呼びたくないんだろ?)


「レイ君?なにひばりとひそひそやってるの? 昨夜は電話くれなかったわね。

今日は大事なシーンがあるから打ち合わせしたいっていったでしょお。」


「はぁ すみません。」


井川が切なげな目でレイに近寄り あっというまにユウリから引き離される。


「まあしかたないな・・・あれで芸歴15年の先輩だから ここは合わせとけば 怪我しないからな。」


リュウがユウリの頭をクシャと撫でて メイクに押し出す。


「ひかり・・・ちゃんは今日はどの辺りで出るの?」今ユウリはひかりと一緒に柴崎さんにメイクしてもらっている。


「さあ なんだか 看護士さん役らしいですよ。」と柴ちゃんがナースキャップをひかりにのせながら教えてくれた。


「え~僕 看護士なの?うれしい・・・。」


かわいいナースの出来上がり。


「なんだか ひかりちゃんの方がずっと女の子みたい。」と思わず溜息がでる ユウリ。


「え? ひかりちゃん 女の子じゃなかったの?」


「うん でもしばらくはまだ女の子で・・・デビューするときにカミングアウトすることになってる。」


頬を染めてひかりが言っても、まだ柴ちゃんは信じられなさそうだ。


ふたりともメイクを終え 衣装に着替えて 既に撮影中の薫とレイの演技を見ている。


(でも やっぱり本物の女の子のユウリちゃんの方が透き通った肌してるよ。)

羨ましそうに ひかりがユウリの手を持ちシゲシゲと眺める。


(え? そおかな・・・ ひかりちゃんだって そんな綺麗に爪も整えているのに。)


「カーット!」


「どおしたの~? 薫ちゃん。何だか顔色わるいみたいねえ。」


本当に井川の顔色はあまり良くないようだ。「大丈夫です。ちょっと立ちくらみしただけですわ。」


しかし誰が見ても明らかなくらい 脂汗をにじませながら青い顔をしている。


「だめだねえ 無理よ~ 薫ちゃん すこし休むといいよ~。

先にひばりちゃんと恭介のシーン38撮るね。」


(ユウリ お前さっき鮎川に手握らせただろ?)

レイがまた膨れている。

(レイったら・・・ どこからどうみても女の子同士でしょ?)

(違う!! あいつは絶対わざとやってる!)


「なにしてるさあ 本番だよお。」


あわてて二人セットに入る。


********************


恭介:「ひばり どうした熱があるのか?」


恭介 ひばりに近寄り 頬を両手で挟むようにして顔を近づけおでこをつける。


ひばりは少し身を硬くする。


恭介:「ああ やっぱり結構熱があるじゃないか。明日は俺仕事休むから 一緒に病院に行こう。」


ひばり:「大丈夫よ 兄さん。病院くらい 毎月いっている病院も眼科の他に内科だってあるんだから 一人で行けるわ。」


恭介:「何言ってるんだ。お前みたいな目の不自由な女の子をねらった、

角谷みたいな奴がいつどこに出没するかしれないんだぞ! 

おまえ一人で外出なんてとんでもない!!」


恭介はひばりの体を抱きしめ 少し苛立った調子で訴える。


ひばり:「でも兄さんは明日 慶子さんと約束があるんでしょ?

さっき電話があったわよ。」


恭介:「気にするな。あいつはただの幼馴染ってだけで 最近妙に口出ししてきて うるさいんだ。

なにが ”ひばりちゃんのため”だ! 

俺とひばりのことに首をつっこまないでほしいよ!」


ひばり:「兄さん」


兄のひばりを抱きしめる両腕が固く体を縛りつけ、もう一生逃れなれないような強固な楔が打ち込まれたような錯覚にひばりは襲われた。


**********************


「ああ もう少しでキスしちゃうとこだった・・・あぶねぇ」


ふっと漏らしたレイの言葉に顔を赤くするユウリ。


「いいか ユウリ どんなに女の子っぽくてもひかりは男だ!油断するなよ。」


レイが念を押すようにいう。



「いちばん油断ならないのは お前だ。レイ 

午後からはひかり君とからむ病院のシーンだからな。しっかりたのむぞ!!」


「・・・芽衣 元気そうね。」


いつのまにか母がスタジオに来ている。


「ママ いつ来たの?」


もう何ヶ月も会ってなかったような気がする。


「さっき 福田社長さんに送っていただいたのよ。」


「芽衣さんのお母さんですか?

共演している、室塚 レイです。」


とたんに母はもう娘など目に入ってない様子でいきなりレイの手を両手ではさみ持ち目をうるませている。


「ま・・まあまあ 室塚さん?

うちの娘がお世話になっています。やっぱり本物はもっとステキだわぁ。

昼ドラの ”情熱のあかし”見てますわ。

あの・・・ もうしわけないですがサインしていただいていいですか?」


娘とは正反対のミーハーな反応にもひるむことなく 

レイは紀子の要望にこたえて写真集にもサインしてあげている。


「紀子さん よくいらっしゃいましたね。

こちらは合宿所の様子を写した写真です。

また今日のVも後でお渡ししますね。もちろん 紀子さんが室塚や監督と一緒にいるところも入ってますよ。」


リュウあんたって・・・。


まあこれくらい変わり身早くないと理事なんてやってられないのかもしれないわね。


紀子はとにかく大喜びである。


「芽衣ちゃんもやっぱり女の子だって安心したわ。

校長先生にお願いして芸能特待生にしてもらって本当に良かった。」

と感想も漏らした。


どうやら紀子が芽衣の字をまねて芸能特待生の申請書類を提出したらしい。

(公文書偽造!?)

まあ 元々勉強ばかりしておしゃれにも目覚めない娘にやきもきしていたのである。


リュウの申し出は渡りに船だったにちがいない。


その日とうとう井川は体調がもどらず 病院にいったようだった。


十分満足した紀子は午前中に帰り とくにそつなく相手をしていたリュウやレイには好印象を持って帰ったようである。

ひかりに対しても「あなたもひかりちゃん見習って もっとおしゃれに目覚めなさいね。」とすこしも男の子だとは疑わなかった。


(本当のこと知って 娘が一週間男ばかりの中に生活していたと知ったら どんな顔するだろう。)


色っぽい話は皆無だったから逆にエールを送るくらい、紀子の場合はするかもしれないが 高校一年生の親だし一応心配するだろう。

やはり今は本当のことは言わない方が賢明だろう。


「聞けなかったな~。」

レイが紀子を見送りながらつぶやく。


「何を?」


レイったら何を遠い目をしてるんだろう 心なしか哀愁が漂っているようにユウリには感じる。


「いや 娘さんとHしていいですかって。」


「聞くな!馬鹿」


パカーンと今日は台本で頭を張られる。まったく リュウは地獄耳である。




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