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性同一性障害

人気俳優のレイが突然乱入 

だが 彼の演技を見て ユウリも演技に興味を持ち始める

ひとり残ったユウリはリュウが戻る前にと お風呂に入る事にした。


(今日はこの黄色いのにしようかな♪)


さわやかな柑橘系の香りの入浴剤である。

夕べも感じたが外国製のシャンプーやボディーソープをはじめ 入浴後のローション・パウダーなどかなり充実している。


普段スーパーやドラッグストアの洗顔剤を使っているユウリは肌も髪も若干しっとりして落ち着いてきている気がする。


(女優を育てるのに そういうとこはお金かけてるのね~)


途中リュウが一度戻ったようで「ノート返しに行ってくる。」とバスルームに声をかけまたすぐ出かけてしまった。


落ち着かなかった昨夜と違い

ゆったりとお風呂からあがるともう既に10時を過ぎている。


「レイも帰るの遅いんだろうな~。」


とりあえず頭を乾かした後 もういちど鮎川のノートから写した授業内容に目を通して 11時を過ぎた頃 寝室に入り眠る事にした。


昨日はアイマスクしたままでわからなかったが 15畳ほどの部屋にダブルサイズのベッドが二つおいてあり 白く大きなラグマットが敷かれてあった。


左壁は一面クローゼットでかなりの数の衣装が入っている。


また寝室にはいる入り口の横壁と対面になった壁にはそれぞれ2×2mほどの鏡があり ちょっとした衣装合わせもできるようであった。


とりあえず手前の昨夜自分が使ったであろうベッドに横になり休む事にした。


その頃になってやっと玄関を開ける音がして リュウが寝室に顔を覗かせた。


「ただいま うん?アイマスクしてないじゃないか。」


リュウがさっそくクローゼットに入り パンダちゃんアイマスクを出してきた。


「もう寝るんだから いいじゃないの。」


「夜中や朝起きたときに 何も見えないって状況が重要なんだ。」


有無をいわさずユウリを起こすとアイマスクをつける。


「おまえ今日は結構頑張ったらしいな。疲れたろ?

ちょっとうつぶせになれ。」


大人しく何も見えなくなったままユウリがベッドにうつぶせになると リュウがすぐベッドにあがってきた。


「!」


突然太い指が背中に食い込んで息が止まる。


腕も持ち上げられ ぐっと曲げられたり 膝も片方ずつ曲げて体重をかけてくる。


全身バラバラになって息も絶え絶えになってくる。 


(ゆうべのあえぎはこれだったのね・・・)と思い知った。


やっとリュウのマッサージから開放された頃 ちょっと枕によだれを染み込ませながらユウリも眠りについたのである。


何時間ほど眠ったろうか

ふいに伸ばした手が何かに触れて目覚めた。


どうやらいつのまにか自分と一緒のベッドに誰かが寝ているらしく さらっとした髪に触れた。


「リュウ?」


髪を触られた人物は「う~ん」と寝返るとユウリの肩に腕をまわしてくる。


「や・・・」


抗議しようと開きかけた口にその人物は覆いかぶさってきてユウリを抱きすくめると唇をやわらかいもので覆ってきた。


「う・・ぅくっ」


はげしく唇を追うように求められて嘗め回され 逃れられない。


相手からここの住人には無いセンスの甘ったるい 香水の香りが漂ってくる。


我慢できずにアイマスクを取り相手の両耳を引っ張って、顔を引き離すと、ユウリを抱きすくめていたのはレイであった。


「やぁ」


驚いて耳を離すと

レイはユウリの額に自分のおでこをコツンとひとつ落とし

もう一度ユウリを抱きしめた。


「やめてよ。なんであっちで寝ないの?」


リュウの寝息が聞こえたのもあって 小さな声でユウリが問うと


「だってなんだか 思いっきり 汚されちゃった気分でさ・・・あの女。ユウリで口直ししたかった。」


悪びれる様子もなくユウリの耳朶に息を吹きかけながらいう。


「あの女って?」


強くユウリを抱きしめながら 耳を甘噛みするレイの愛撫にだんだん体が火照ってくるのを感じる。


でもおそらくレイはさっきまで他の女性を抱いてきたのだ。


「ほら あの顔合わせで俺にまとわりついてた奴。」


リュウスタイリストの用意した乙女チックなネグリジェのボタンをひとつひとつはずしながらもユウリの目をじっと覗き込んでレイが言う。


「あの・・・ 私 ちょっとまって。」


ユウリは男性経験がからっきし無かった。


女の子らしいおしゃれからも縁遠い生活をしてきている。


今まで勉強にしか興味がなかったので こういう場合どう対処していいか分からなかった。


あんまりびっくりして身体がこわばって動けない・・・


「待てな~い。何だかアイマスクしたままの女の子としちゃうのも変なプレイっぽくて興奮するけど、

お互いの表情が見えたほうが盛り上がるでしょ?」


あっというまにユウリは胸をすっかりオープンにされて怯えた目を涙で潤ませる。

レイはというと抵抗しないユウリを了解してると勘違いしているのか、楽しそうにユウリの胸に視線を落として 谷間に顔を沈めようとした・・・


「はい! それまで~」


ガッツン いつにもまして派手な音が響きレイは気絶したままではあるが のぞみ通りユウリの胸に沈んでしまった。


「悪いね 保護監督不行き届きで・・・。しばらく目覚めないと思うから。」

リュウはそういうと軽々とレイを抱いて 隣のベッドに運んでしまった。


翌朝起きると まだ隣のベッドでは二つの寝息が聞こえ、

ユウリはなんとかアイマスクをしたまま そっとトイレにたつ。


空気がしんとしていて冷たく まだ朝早い時間のようだった。


(なにか作ってみようかしら・・・ あたしが作れるものといったらハムエッグくらい?)


とりあえず フライパンを探す。


台所のあちこちに手を伸ばすと壁にそれは掛けられていた。


卵とハムを探しに冷蔵庫を開ける。


卵はすぐにみつかったが ハムがナカナカ分からない。


まあ 目玉焼きも料理でしょ。


諦めて オイルを探す。

これは醤油かみりんかそれとも・・・

蓋をあけてにおいを嗅ぐときつい匂いが鼻を襲い げほげほむせる 

どうやら酢のボトルだったようだ。


「大丈夫?てて」


レイが起きてきたようだ。

昨夜思いっきり殴られて気絶したのだ そうとうこぶになっているのだろう。


「おはよう。油を探しているの。」


「ユウリ 僕やるから良いよ。」


「いいよ 毎回レイがしてくれているんだもの。

それに、私もやってみたい。」


レイは酢をユウリから受け取ると「ふう・・・」とひとつため息をついていった。


「昨夜はごめん・・・。」


「・・・気にしてないよ。でも私 ああいうの慣れてないの。

キスも・・・リュウにチェック?された以外はあれがはじめてだったりするの・・・」


「そうか・・・ごめんよ。

なんとなく 真面目な子だって わかってたはずなのに本当おれ 

自分のことでいっぱいいっぱいで ごめん。

新しい仕事の時ってさ 周りと仲良くやってけるか?

とか監督のイメージに合わせて演れるかな?

とかもう脳みそパンクになるだけ考えちゃうわけ。


初顔合わせの時だって リュウの手握ったまま離せなかったし。

あの時だって 新人の君の世話で手一杯だったリュウを半分とっちゃって 呆れてるだろう?」


(あれって緊張して心細くて握ってたんだ・・・)


すこしレイが可愛くなって ふふっと笑ってしまった。


「笑うな。」


「ごめっ。」


ふたりの間の緊張した空気が入れ替えられて 結局一緒にホットケーキを作る事となった。


泡だて器を持たされて ユウリがボールで卵をあわ立てる。


その間にレイがフルーツサラダを作っている。薄力粉とベーキングパウダーなどをさっくり混ぜて バターを溶かしたフライパンにタネを落とす。


蓋をして弱火で焼き始め 


「匂いで判断してみたら?」


というレイのアドバイスで 香ばしい香りがしてきたところでフライ返しでひっくり返してみる。


「だいじょうぶ 80パーセントうまく ひっくり返ってる。」


(後の20パーセントはどうしたんだろう?)


深くは考えずに またそっと匂いをかぎわけてお皿にとった。


何枚かやっているうちにだいぶコツをつかめてきたため、レイが離れてコーヒーを入れ始める。


だいたい準備が整ったところでリュウも「うぃっす」と起きてきた。


三人で簡単な朝食を食べた後リュウの運転でテレビ局へ向かう。


スタジオに入ってすぐに

昨夜レイが一緒だったと思われる 井川 薫が寄ってきた。


「あら ご一緒にスタジオいりなの?」


じろっとユウリを見ながら薫がレイの腕をとる。


「今日は君のシーンなかったんじゃなかったっけ?」


「いいじゃない 差し入れもってきたのよ。」


薫は大きなバスケットを携えてきており 中にはさまざまなベーグルが入っていた。


「朝一起きて作ってきたのよ。昨夜遅かったから 

朝何にも食べられないでスタジオ入りするかもと思ったの。 

リュウさんもどうぞ。 ああもちろん主役のひばりさんも。」


にっこり薫は笑ってバスケットを差し出した。(私だけ役名で呼ぶなんて嫌味な感じ)


苦手だなとユウリは思った。


「俺ら一緒に今朝はホットケーキ食べてきたからな~ でも美人の手作りだから食べちゃう。」


リュウがひとつとってパクつく。

今朝の少し生焼けで焦げのあるホットケーキじゃ 大食いの彼には全然物足りなかったろう。


「さあ レイ君 これなんか私が考えたソースをかけてあるのよ。どうぞ」


「ああ ども」


レイはどちらかというと小食であるが一応にこっと笑うとひとつ取った。


「ひばりさんもどうかしら お口に合わないかもしれなけど。」


薫がひとつ手渡してくれたため 

「すいません 頂きます。」

とお礼を言って 一口食べようとしたが 途中で固まる。


(なにこれすっごくマスタード臭い)


「おまえにゃ もったいない!よこせ 豚になる。」

と横からリュウが奪い取り さっさと食べてしまった。


薫が思わず目を瞠ってリュウの顔を見つめたところをみるとやはりたっぷりマスタードが入っていたらしい。


「たらたら食ってんな お前のも寄こせ。」

とちびちび食べていたレイのも奪い取って飲み込むと

「ごちそうさん。」

と薫にウインクしている。


薫はあわててその場を離れるように「皆さんもどうですかぁ?」とスタッフ達にも勧め始めた。


「おまえら 気をつけろよ。

レイ お前もあんまり持ち上げて調子づかせるなっちゅーの。」


「ごめっリュウ。」


「大丈夫 リュウ?」


うえっとリュウは胸を押さえるとスタッフからお茶をもらいガブガブ飲んで監督に挨拶に行くようふたりを促した。


監督は小さな初老の人懐こそうなおじさんだった。


「ユウリちゃん レイちゃんよろしくねえ。」


妙なアクセントは沖縄出身だということだった。


恭介とひばりの住むマンションの一室のセットがスタジオに設けられており 

珍しそうにユウリが見ていると いつのまにいたのだろうすぐ後ろから薫が声をかけてきた。


「ねぇ 今朝一緒にホットケーキ食べてきたってどういうことかしら?」


「え?」


あまりにも感情むき出しな表情に思わず 冷や汗がにじむ。


「別にそれが何か?・・痛!」


いきなりの激痛に下をみると薫のピンヒールがユウリの足の甲に思いっきり食い込んでいた。


微笑むと口元のほくろが艶かしく窪んでエロティックになる薫は今 

醜くゆがんだ顔をユウリに近づけてきた。


(あんたなんか 早く消えなさいよ!)


ぼそっと耳元で囁かれた際に薫の体から放たれた香りは

昨夜のレイから嗅ぎ取れた残り香と同じ 甘ったるい毒のある花の香りだった。


「ユウリ そろそろ始めるぞ。」


リュウがまたいつのまにか来ていて薫の肩を抱いている。


「井川さん うちのユウリはまだまだ新人で分かってないんで 

ご迷惑かけると思いますが お手やわらかに頼みますね。」


やさしく薫の耳朶にそう囁くとさっさとユウリの手をひいて片隅に連れて行った。


「大丈夫か?足」


すべてお見通しである。


「柴ちゃん 冷たいタオル持ってきて!」


初顔合わせの時メイクしてくれた柴崎が来ていた。


すこし赤く腫れてはいたがメイクをしている間、タオルで冷やされてさほど気にならなくなった。


ドラマに入って驚いたのが台本の話のとおりに進まない事だ。


同じセットのシーンを拾いまとめて撮るようだった。


しかしレイとあらかじめ合わせてきた為 スムーズに撮影は進められていく。


途中メイク直しをする柴崎が


「なかなか上手ねユウリちゃん。」


にこっと微笑むえくぼが癒される。


井川 薫の妖艶なほくろのエクボとは違うタイプの清潔な笑顔だ。


「わたしうまく演れてるかな?」


自分より小柄だが 年上で優しい彼女になぜか甘えたくなる。


「大丈夫わたしが保証しますよ。」


なんとか初日のひばりのシーン撮影を終えると好々爺の監督が

「いいよ~ユウリちゃん がんばったさあ。明日もたのむね~」

と声を掛けてくれた。


「ありがとうございます。」


なんだかジワッときて自分でびっくりした。


(あれ?わたし才能の無いところを見せ付けてさっさと家に帰りたいんじゃなかったっけ?)



レイはまだ撮影が残っているようで一緒には帰れないらしい。


スタジオを出る前に声をかけると


「おれ今日はいったん自分のマンションに戻るわ。リュウにしかられた・・・」


としょぼんと呟く。


「そう・・・また明日ね。」


今朝いっしょに楽しくホットケーキを作ったことを思い出してなんだかユウリもちょっぴり寂しくなった。


「しょうがねえだろ。ユウリはまだ未成年だし 新人女優と売れっ子男優が同棲?

なんてスポーツ新聞に叩かれてみろ ユウリだって学校に行きづらくなるじゃないか。」


「ああ・・・ わかった。また今度遊びに行くよ。」


よしよしとリュウはレイをハグして背中を何度も撫でてやっている。


(なんだかみんなのおにいちゃんみたいな人だわ)


最初の最悪な印象と違って 今ではあきらかに信頼の気持ちさえ抱いているユウリ。


(わたしってなんて狭い世界で生きてきたんだろう。)


勉強ばかりしてればいいんだと思って人とかかわるのは面倒で避けて通ってきた。

男の子とだって父親以外でこんなに接触したのは初めてである。なのにこの二人には家族のような親近感さえ湧いているのである。


そんなリュウだって鮎川ひかりの前では30過ぎのいい年した大人なはずなのに、中学生の初心な少年に戻ってしまうというのである。

人間って性別も年齢も超えて分かり合えるものなんだなぁ。


参考書を一冊読むより貴重な体験をここ数日でしたような そんなうれしさをユウリは感じていた。


「さ 俺らは帰るぞ。」


リュウがまた猫ちゃんのアイマスクを取り出したところで


「刈谷さん。」


と呼びかけられた。


「おう福田どうした?」


たしかオレプロの人だ。


「鮎川さまが・・・」


福田がそういうとリュウは


「これもって先に車に乗ってろ。」


とアイマスクと車のキーをユウリに手渡し 福田とひそひそ話しこんでいる。


ひとり車に戻ったユウリは先程の話に思いを馳せた。


(鮎川くんオレプロに入るつもりかな? 

もともと鮎川くんのかわりにスカウトされたあたしって そうなるとどうなんだろ?)


(でも ひばり役を鮎川くんができるわけでもないし・・・)


ひとりブツブツ考えていると福田がやってきて車に乗りこんだ。

「刈谷さんはちょっと用ができましたので私がお送りいたします。 

あ 目にアイマスクをちゃんとするようにと仰せつかっております。」


福田は実に静かな発進をして慎重に左右を確かめながらホテルを出た。


「ねぇ 福田さんはオレプロの役員か何かなんですか?」


「私は社長でございます。」


驚いてユウリが「失礼しました。」といっても「いえいえ」と常に低姿勢だ。


「じゃあリュウさんの上司ってことですよね?」


再度そうユウリが問うのに驚いたようにチロリとミラー越しにのぞきみて


「いえ刈谷さまは理事長をしておられます。が趣味でスカウトもマネージャーのようなこともされるのです。」


「そうなんですか。」


驚いたやはり刈谷の方が上司だったのだ。


マンションまで送られて 杖をたよりにエレベーターまでたどり着き ボタンを押して乗り込むと


「アンビリーバボー!すばらしいです。ユウリさん。」

と福田が大袈裟に関心する。


「ユウリさん それでは台本をお渡ししますので明日の撮影までに読み込んでおいてください。

刈谷さんも今日は遅いかもしれません。これでデリバリーでもうしわけありませんが何か取って食べてくださいね。」


と福田社長はユウリに台本と一万円札を渡して帰っていった。


キュルルー お腹空いている。


アイマスクを取って デリバリーたのもうかと電話帳をパラパラめくったが、思い直して冷蔵庫を開けてみる。


レイが入れたのだろうか けっこうな食材が入っている。


パソコンでネットを調べ簡単そうなメニューを選び 自分で作ってみる事にした。

「これ簡単そう 緑黄色野菜も沢山入っているし・・・」


「青 椒 牛 肉」 をクリックしてプリントアウトした。


「えっと まず赤と黄色と緑のパプリカを~色的にいえば・・・これかな?」


ゴロンと取り出したのは黄色いかぼちゃと赤い唐辛子そして緑のピーマン(これは正解)


包丁を出して まずかぼちゃに(ユウリ的には黄色いパプリカ)に刃を入れるが硬くてナカナカ野菜切り包丁では切れない。


とりあえずかぼちゃは横によけ真っ赤な唐辛子(ユウリ的には赤いパプリカ)をとり 包丁を入れる。


「な~んだ 簡単に切れるじゃん。」


調子にのってどんどん赤いパプリカを切る。


「彩りは赤と緑だけでもいいか。」


次に生姜を千切りにする。とある。


「生姜ってどんなのだっけ?」


「生姜はこれだよ。」


レイが戻ってきたのかと振り向くとそこにいたのは鮎川 ひかりだった。


「鮎川くん!」


鮎川の後ろにリュウがいてニコニコしている。


「佐々木さん ごめんね 君をこんな事に巻き込んじゃって。

でもすごく才能あるってリュウさんが言ってたよ。これ今日の分のノート。」


「ありがと・・・。」


「うん。これ・・・ ラー油でも作るつもりだったの?こんなに赤唐辛子刻んで・・・」


まな板の上をみて鮎川が言う。


「え~?これパプリカじゃないの?!」


思わず指を唇に当てるとすぐに触れた部分が熱くなった。


「あ だめだよ。赤唐辛子刻んだ指はすぐ洗わないと やけどしたみたいになっちゃう。」


思わず触れた部分をチロっとなめると相当辛い!!


「僕も手伝うよ 何作ろうとしていたの?」


「チンジャオロースーだけど・・・」


「え?そうなの・・・」


と並んだ食材をみて鮎川は戸惑ったようだったがすぐ気を取り直して


「じゃあせっかくだから この赤唐辛子は油につけてラー油にしておこうか。」


手早く鮎川はかぼちゃをしまうと赤唐辛子を棚から見つけたガラス瓶に詰め込み油を注ぐ。

次に青いピーマンをタタタっと千切りにしてしまう。


「いまどきの男の子は料理得意なんですか?」


ふがいない自分にため息つきながら、リュウを振り向いて見ると鮎川の手つきにうっとりしている。


鮎川を手伝い(邪魔?)しながらも夕食が出来て 3人でテーブルについた。


「鮎川も一応契約してくれたんだ。でもいろいろ事情があってまだデビューはしたくないそうだから 

エキストラってことでお前のドラマにチョイ役で出てもらうことになったから。」


改まった口調でリュウはそういったが 喜びが隠し切れてない。


「よく決心したね 鮎川くん。

何ヶ月も嫌がって断ってたんでしょ?」


鮎川の作ったチンジャオロースー(優しい家庭の味でかなり美味)をもぐもぐ食べながらユウリが聞くと

 「うんでももう吹っ切れたんだ。いつかはカミングアウトしたいって思ってたんだけど・・・。」


(カミングアウト?)


「ひかり君は{性同一性障害}なんだ。」


「えっ そうなの?」


耳まで赤くした鮎川はこくんと頷く。


「うん 以前どうしても着てみたくて 花火大会に姉の朝顔柄の浴衣をこっそり着てヘアピースをかぶって 化粧もして歩いていたところをリュウさんに声かけられて・・・」


「ああ あのときのひかり君は綺麗だったな~。」


目をうるうるさせてリュウは回想に入っているようだ。


「リュウさんにはその時からオレプロ入りを勧められてたんだけど 

女の子として芸能界入りするっていうのがナカナカ決心つかなくて。」


そりゃそうだろう。男なんだから。


「ああ ひかり君が男の子だって分かった時はすごく驚いたけど 

ますます気に入っちゃって少しずつ理解してもらおうと毎日学校に通ってたんだ。」


「ひかり君も芸能特待生としてしばらく休むの?」


「いや僕は まだちょっとだけエキストラで出るだけだから学校には行くよ。

だからノートはちゃんと届けるからね。」

食べ終わった後片付けは珍しくリュウが引き受けてくれて、ユウリは鮎川がいる間にパソコンでノートを写す事となった。


「リュウさんって 優しいでしょ?」


キーボードを忙しく打ち込むユウリの傍らで 授業の説明をしながら ふいにひかりがそう聞いてきた。


「そうね~ 最初はあんまり横暴なんで嫌な奴と思ってたけど、いまはお兄さんがいたらこんなかな~?と思えてきた。」


正直にユウリが話すと なぜか鮎川はほっとしたように笑った。


「鮎川くん もしかしてリュウの事 好きなの?」


はっと体をこわばらせてひかりはユウリを見つめると

「随分 佐々木さんはストレートに話すんだね。」といいながらも認めた。


「本当はね 君がリュウさんのマンションで一緒に暮らしてると知って いてもたっても居られなくって オレプロの事務所にいって 福田社長に契約してもらったんだ。」


ほんのり目元まで赤くしたひかりはたしかに女の子のように色っぽい。


「今日このマンションまで来たのだって 君とリュウさんの仲を疑って確かめたくって きたんだよ。」


「そうだったの~ でも大丈夫だよ。今朝まではずっと 室塚レイも一緒に住んでたんだもの。」


そういうと心底驚いたように ひかりは目を瞠った。


「あの人 いつもリュウにべったりな・・・たしかオレプロでデビューしたんだけど いろいろあって他に移ったって聞いたのに なんでまた?」(そういう仲だったんだ。なるほど)


リュウが洗い物を片付けたのかリビングに戻ってきた。


「レイさんは別の事務所に移ったんですよね?」


ひかりがリュウに問いただすように聞いた。


「レイは甘ったれだからな。少し自立させるために他の事務所に移したんだ。」


(たしかに・・・)ユウリも納得する。


「今日はレイも反省して自分のマンションに帰ったけどな。さあそろそろ写し終わったか?

送っていくよ ひかり君。」


「終わった~ ありがとう鮎川くん 悪いけど、明日も頼むね。」


ひかりにノートを渡して御礼をいった。


「あの リュウさん 今日は僕も此処に泊まっていいですか?」


ひかりが決意したように顔を上げてそういうと うれしい驚きにリュウが「へ?」の顔のままで固まっている。


「この世界のこともいろいろもっと聞いておきたいし、明日早くに送ってもらうことになっちゃうけど・・・だめですか?」


まっすぐ見つめられて リュウの方がドギマギしている。


(本当に中学生みたい・・・)


呆れてユウリが「いいんじゃない?別に ね リュウ?」


と振ってやってはじめて「うんうん」とワンコのように尻尾をパタパタやっているようだ。


(ねぇ 別に私リュウのことかなり年上だし なんとも思ってないよ。)と耳打ちしてやったが、

(いや やっぱり佐々木さん可愛いいし 本物の女子には かなわないと思って心配で・・・)


とにかくリュウは上機嫌で

「ひかり君はせっかくだから これに着替えたら?」

とまたリュウセレクトの危ない乙女チックルームウエアを持ってはしゃいでいる。


しかしひかりもそれを見てうれしそうに頬をほころばせる。


二人は以外に気が合うようだ。


いざ 寝るというときになってちょっともめる。


「だって まだ16歳なのに男性と一緒に同じベッドでは寝られないもの。」


この台詞はひかりの口からでた言葉だ。


お風呂からあがって ほんのりバラ色に染めた体をリュウセレクトのルームウエアで装わせたひかりは、髪型はショートでも立派に女の子に見える。


「鮎川くん あたしも一応 16歳の女なんだけど・・・」


ユウリの訴えにも耳をかさず ひかりはユウリと同じベッドに入ると言い張った。


(ちょっと 鮎川くん せっかくのチャンスじゃないの。なんでリュウと同じベッドで寝ないの?)


こっそり耳打ちするが(そんなのできるわけないよ。はずかしくて眠れない!)


案外初心だ・・・


諦めてユウリはひかりと同じベッドで休むことにした。


一番がっかりしてるのはリュウだ。 背中を向けてシクシクいじけていたが そのうちガーガーいびきをかきだす。


「ごめんね 佐々木さん わがまま言って。」


長いまつげをパサパサさせて美少女ひかりがつぶやく。


「いいよ もう。どうせあと数日だし。」


苦笑してユウリが答える。


「毎日学校に来て僕をまっててさ 俺のお姫様!って声を掛けてくるんだ。


性同一性障害のことは誰にも言ってないから すごく恥ずかしかったんだけど 

でもそう呼ばれる事がだんだんうれしくなっちゃって そのうちリュウさんのこと 

自分を迎えにきてくれた王子様かもと 思えてきた。」


(王子様ねえ・・・)


複雑な思いで聞くユウリ だがあえて口は挟まない。


「何度か 自分は男なんだ もっと男らしくしなきゃって抗って 

空手とか柔道とかやったけど長続きしなくてさ やっぱり裁縫とか料理とかが好きなんだよね。

今回のドラマの盲目の少女役も最初やらないかと言われたけど 

どうしても勇気が出なくて。」


「そうだったの・・・あのバイク雑誌も?」


それを聞かれ思わず手で顔を覆いひかりはうめき声をあげる。



「うん バイクとかって男の子らしい雑誌に興味持った方がいいかなんて 考えてたんだ。

そんなの君には似合わないってリュウさんにいきなり声かけられた時はびっくりしたよ。」



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