別れ
突如、光の柱に包まれたボクは何もない真っ白な空間に放り出され、その目の前に光の球?がふわふわと浮いている。
あまりにも現実感がない光景。
一瞬、死んだのかとすら錯覚する。
――なんてことはなかった。
ボクがココへ来たのは3度目、ゆいすんは2度目だからだ。
『おめでとー、人間如きが全実績――ってまーた、お前か。すげーな、2回目って普通ありえな――』
「――私を元の世界に戻して!帰りたい!帰りたい!帰りたーいっ!!つーか帰せ!ギャォーン!」
光の球に向かってゆいすんが吠える。
『はぁ?またお前も付いてきたのかよ。金魚のフンがウルセェな』
「はぁあああ?!アンタが勝手に連れてきたんでしょ!それに私が金魚のフンって意味わかんないんだけど!なんで!私が!こんな地味で、モテなそうで、無能丸出しな男の金魚のフン扱いされなきゃなんないの?!意味わかんない!」
『……いや、資料読む限りオタクダサオは別に無能なんかじゃねーぞ?どっちかって言うとアシナコユイ、お前の方が断然無能……ふふっ、ていうか召喚術師【調味料】って冗談だろ』
何笑ってんだ、このカミサマ(仮)。
アンタが与えたもんだろうが。
『あぁ悪い。笑っちまったよ。だってこれ――』
「ふざけんな!!そもそも私はここに最初来た時だって――」
『お前はもう黙れ。――この空間におけるアシナコユイの発言権を剥奪する――』
……光の球がボッ!と強く光ると同時にゆいすんは口だけを動かし、音を発さなくなった。
金魚のように口をぱくぱくと動かしてはいるが、何も聞こえない。
「……これは?」
『芦名小結の発言はこの空間に届かなくなった。今後2度と奴がここで声をあげることはない。この先ずっと、なにがあろうと』
非情。
というか恐ろしい。
カミサマ(仮)は人のことなんてどうでも良い。みたいな言論を見かけた記憶を思い出し脚が震える。
『……そんなことよりお前、えーと……資料はどこだっけな…………あったあった』
ゆいすんが身振り手振りでコチラへと何かを訴えるが、「ごめん、聞こえないし分からないよ」と答えるしかできない。
『あーそうだ。御宅田運命男。ふーん、なかなか面白い人生じゃないか。……皮肉だな。実の父親だと思っていた男から名付けられた《勝者の運命に生まれた男》という名前に反し、敗者として育ち。親の呪縛から逃れた異世界で勝者の一員になったわけだ』
敗者として育ちって言い方酷すぎるだろ。
「え?……勝者の……一員?」
『王都とやらを救ったのだろう?周りからの扱いは変わるさ。……が、まぁいい。そんなことより褒賞の時間だ。全実績を解除したわけだからな。……さてどんなものがいいかな』
「あの……、それってコチラから選ぶことってできたりしますか?」
『ナメるなよ人間。キサマら如きが口を挟めると思うか?……と言いたいところだが』
――危ない。
あまりの圧に漏らしかけた。……なんて怖いんだ。
『お前は2度目、いや3度目だ。特別に選ばせてやるよ。だが我々への敬意と畏怖は忘れるなよ?』
「……はい。重々感じております」
『ならいい。で?その内容は……。ほう、元の世界に戻りたいってことか』
……何も言っていないのにバレた。
『心を読んだわけじゃない。資料に書いてあっただけさ。で?2人とも帰るのか?』
「……いえ、ゆいすん……芦名小結さんだけ返してください」
ボクの隣でゆいすんが跳んで喜ぶのを視界の端でとらえた。
『ん?あぁなるほど。お前はあの世界に残るわけか』
「はい。そのつもりです。……レオナの探し人。アヤメの求める薬、エヴァさんと一緒に生きる目的探しもしたいです。ボクには仲間達と冒険を続ける理由が山のようにあります」
『ふーん、まぁ正解だな。お前は元の世界に戻っても、たいして面白くない人生しか待っていないからな』
……ひどい。そんなこと言わなくても良いじゃないか。
『よし。アシナコユイを返してやろう。……まぁその女も元の世界は帰ったところで幸せになれないんだけどな』
「え?!」
と、ボクが驚きの声を上げた瞬間。
隣にいた人の気配は消え、横を見ても誰もいなくなっていた。
『まぁあの女の場合、自分のクソみたいな選択のせいでどんどん泥沼に落ちていくだけだから放っておけ。それとも助けるために元の世界へとお前もいくか?今の仲間達を捨てて、あのバカ女を今度はホストやら借金から救ってやるか?』
カミサマ(仮)は試すような口調でそう言った。
「…………いえ。……ボクの責任は、恩返しは果たしたつもりです。ここから先、彼女の人生にボクが関わるつもりはありません。彼女を1人の大人の女性として尊重するためにも、助けません」
『それもまた正解だな。勝手に自滅するバカは何度助けたところで同じ道に戻りやがる。助けたところでお前も傷つくだけだからな』
「え、いや……そういう話じゃないんですけど……」
『まぁいいさ。さて、望み通り返してやったし、お前も帰れ。あの《異世界》とお前が呼ぶ世界へ』
「はい。ありがとうございます――あっ」
ボクは自然とお礼を言ってしまった。
手違いで送られた世界で、何度も命の危険に晒され、訳のわからない能力で苦労させられたのにだ。
『素直に感謝しろ。手違いではあったが、お前は向こうで幸せな思いを多少はしただろ?元の世界では得られなかった信頼ってやつも得たはずだ。……それがきっとお前の運命だったんだろ?』
「……そうですね。ありがとうございます」
『あぁそれでいい。では送るぞ?』
「はい!お願いします!」
ボクがそう応えると、眩い光がボクを包み、ゆっくりと体が消えていく。
『……あと一応、謝っとくわ……。うん。…………実は【調味料】なんて冗談みたいな能力を渡そうとした訳じゃなくてさ。あまりにも全実績の解除のハードルが低い、お前の魅力の無さを補うために、【超魅了】スキルをあげようとしたんだ』
………………去り際になんてことをッ?!!!
『召喚術師【調味料】なんて冗談みたいだよな?ははっ、笑えるぜ。じゃあな!』
「カミサ、……いやお前!ふざけ――」
【調味料】と【超魅了】ってダジャレじゃねぇかぁぁぁああああーーーー!!!!!!
――――――
「ダジャレじゃねぇかっ!!」
「うわああっ?!驚かすな!」
「ええっ?!なにこれ?!どういうことでござるか?!」
「っ?!私の知らない魔法?」
レオナとアヤメとエヴァさんが腰を抜かしそうなほど驚きの表情でコチラを見ている。
「えっと……ただいま帰りました」
「いや!意味わかんないから!」
「……急に光に包まれて消えたと思ったら現れたでござる。……時間を止めてたでござるか?」
「あれ?小結さんはどうしたんですか?さっきまでいたはずなのに」
ボクは自身の身にあったことを3人に伝える。
3人は三者三様の面持ちでボクの言葉を咀嚼し、受け入れていった。
「……上位存在。やはり存在したわけですね」
と、エヴァさんが呟いたのが印象的だった。
「じゃあ、もうあのバカはいないワケ?」
「……ゆいすんのことね?うん。彼女は元の世界に帰れたよ」
「……サダオ殿は、その……本当に良かったでござるか?」
「うん。前にも言ったけど……ボクは向こうに居場所がなかったからね。誰にも必要とされていない場所でイヤイヤ生きるより……こっちで必死に生きたいなって思ったから、なんの後悔もないよ」
「小結さんとのことはいいのですか?……その、好きだったのでは?」
好き。といえばそうだった。
でも、それが本心だったかも今は分からない。
結局のところ、彼女をまっすぐ見れていたのは最後の時くらいで、ずっとボクが見ていた彼女は……『都合よくボクが作り上げた偶像のゆいすん』だったかもしれない。
「もう、なにも感じていないよ。ボクが本当に必要としてるのは、都合のいい偶像じゃないって気づいたから……」
「……よくわかんないけど、もういいならさっさと調味料出してよ。みんな待ってるよ」
「レオナ殿!せっかくサダオ殿がなんかよくわかんないけどいい感じの事言ってる空気出してるのに可哀想ではござらぬか?!」
「……よくわからないけど、みんな待ってるのは事実だし、手伝いに行きましょう?古龍の解体作業はまだまだ残ってますから」
――そう言って笑う3人の笑顔がいつもより優しい気がした。




