裸のマン
一気にグイッと大きくなるのではなく、ゆっくりグングンと大きくなるボクの体についていけなくなった服や下着が四散した。
みんな頑張ってこの場から離れてくれたから良かったけど、もし真下に誰かいたら恥ずかしさから2度とお天道様の元を歩けなくなってたかもしれない。
「まずい、早くなんとかしないと」
城下町で逃げ惑う人たちがボクの存在に気づいて騒ぎになってる様子が見えた。
最悪だ。
足元に置いておいた戦斧ティグレをつまんで持ち上げるが、こんなの爪楊枝くらいの……?!
手に取った瞬間これまたゆっくりと大きくなる。
「うそ……だろ?」
グラスマンの言っていた通り、使用者に合わせて大きくなるのか?!
見た目が大きくなるにつれ、比例して重さも増していく。このままではじきにボクじゃ持ち上げられない重さになる。
一度手から離すか?いや、そんなことして元の大きさに戻ったら見つけられないかもしれない。
「……どうする?!どうすれば?!……砂糖、砂糖だ!」
身体能力を向上させるために《砂糖》を召喚、手のひらから溢れるのを無視して口に入れる。
「う、……うげっ、……ダメだ!効果が……」
ほとんどない。
使いすぎたんだ。
――でも、他に手はない。
《砂糖》《塩》《お酢》《醤油》今召喚できる全てを口に運ぶ、喉が焼けそうだ。
即座に効果が出るはずだが、一日中使いまくったせいか、どの効果も実感できない。
やばい、もういろんなタイムリミットが近い。
古龍はすぐ近くまできてる。
全裸のボクに全市民が気付きそう。
ティグレのサイズがボクの許容重量を超えかけてる。
――じゃあもう……コレしかないか。
……あぁ絶対怒られるんだろうな。って頭の中では、すでに後悔の念が渦巻いてる。
「レオナ!ゴメンッ!!」
小さくなった……、いやボクが大きくなって相対的に小さくなったレオナに謝罪しながらボクは……。
ボクは全力で斧をぶん投げた。
両手斧投げ選手権みたいな大会があったらそれなりに褒められるんじゃないかってくらい良いフォームで投げた戦斧は、今まさに王都城下町を蹂躙せんとする古龍の腹部へ直撃した。
その瞬間、黒い雷のようなものが天空から降り注ぎ古龍を巻き込んだ。
それが、大きくなったボクの見た最後の光景だ。
――――
「……うっ、うえ……」
ボクは……寝ていたのか……。
様々な調味料を直接飲み込んだせいで口の中が地獄みたいになってる。端的に言って吐きそうだ。
「……これからは、雑でも良いから調理したものを……持ち運ばないとダメだな……。お菓子とか……ちゃんとしたものにこだわるべきじゃなかった。……でも大きくなっちゃったら無意味だし……いや、他のものを食べてから……大きくなればいいのか……」
「あら、ブツブツ言うくらい元気なんですね」
「……お姫、じゃなくて王様?」
なぜ目を覚まして最初に会うのが王様なんだ?ていうかココは……どこだ?え、これはベッド?!
……王城の中?
「っ、ていうか服!……着てる?え??夢?」
古龍が出たのは夢だった?え?
「兵士に着替えをさせただけですよ?」
「……え、あぁそうですか、ゴホッ……」
「はい。どうぞ、水です」
「ありがとう……ございます」
渡された水を一気に飲み込み、なんとか喉を潤すボク、をずっと王様は見てくる。……気まずいな。
「……あの、ご馳走様です。えっと……ウチのパーティメンバーは……?じゃなくて、古龍は、王都はどうなりましたか?!」
「大丈夫ですよ。貴方の活躍で古龍の討伐は成功しました」
「っ!?……よしっ!」
ボクはその言葉に思わずガッツポーズをしてしまう。……キャラじゃないな。
「貴方のお仲間は今、古龍の解体作業に従事してます。お仲間だけでなく、王都にいる動ける人すべてが、ですけどね」
「古龍の……」
「はい。あのサイズですから、三日三晩はかかってもおかしくないですね。早くしないと肉は痛むし、モンスター達も寄ってきてしまう。と情報屋のリザードマンが言っていました。なので私が情報屋さんと話し合い、国王権限として御触れを出したわけです」
「……御触れ?」
「はい。それにより王都兵士、および城下町で働ける元気な人たちほぼ全てが古龍の肉、皮、骨を求めて解体作業に参加してくれてます」
「……なんかお祭りみたいですね」
「ははっ、そうですね。皆楽しそうにしていますよ。古龍の素材は何にしても高く売れるので」
「……あぁ、なるほど……そう言うことなんですね」
きっと解体した分は持って帰って良いとかそんな感じなのか。
兵士の人たちや、屈強な冒険者も参加してるのなら奪い合いとかのトラブルにはなりにくいだろうし、良い作戦だ。
……さすがグラスマンと言ったところか。
『サダオはまだ起きないの?!全っ然足りないんだけどっ!叩き起こした方が良くない?!』
『そうは言っても力を使い果たして寝てるのを起こすのはどうかと思うでござるよ!』
扉の外からレオナとアヤメの声が聞こえたと思ったら、まるで蹴破ったのかと思うくらい勢いよく扉が開いた。
「あっ!起きてんじゃん!」
「おお本当だ、良かったでござる!」
「もう起きて平気なんですか?」
エヴァさんもいたのか。
「今起きたばかりですので、少し安静に――」
「――塩も砂糖も足んないんだけど!出せる?!」
王様の言葉を普通にシカトしてレオナが本題へと入った。
「……な、なんの話?」
「だーかーらー、古龍の肉が腐るほどあるでしょ?!でもいちいち料理なんてしてらんないからドバーッて塩漬けとかにして、どうにかしようってワケ!!わかるでしょ!?」
「レオナ殿、起き抜けにそんなこと言われても分からないでござるよ……」
「いや、まぁなんとなくわかったよ。塩と砂糖を出せば良いのね?」
「そ!早くして!大量にね!」
「……レオナ殿……」
アヤメはレオナを落ち着かせようとしているが、エヴァさんに至っては呆れすぎたのか何も言わない。
まぁレオナに振り回されるのはボクらにとっては当たり前と言うか……。
「あと一応、醤油とお酢も出して。料理人も出張ってるからなにか美味しいの作れるかもしれないし」
「……あぁもちろん、……樽は?」
「あっ、もってくる!!」
「拙者もいくでござる!」
レオナとアヤメは脱兎の如く走り出した。
「お城の中を走らない!」という王様の声はきっと届いていないだろう。
「あの……国王様、誠に失礼しました。うちの仲間が……そのいろいろと」
エヴァさんがレオナ達の代わりに頭を下げたのでボクもベッドの上で頭を下げる。
「ああ……いえ、情報屋さんからいろいろと聞きましたよ。貴女達の活躍で今こうしていられると」
「いえ、ほとんどは彼の、サダオさんのおかげです。私なんて最後に少し手伝ったくらいで」
「そんな謙遜やめてくださいよ。エヴァさんが来なかったらボクらは――」
「――つまり、貴女達のおかげですね!」
王様が強引にまとめたのでボクとエヴァさんは次の言葉を失った。
「詳しい話はまだ決まっていませんが、貴方たちにはそれ相応の報酬を用意させます。もし何か言われても私が頑張って交渉するので期待して待っていてくださいね!」
胸の前で両手をグッと力強く握った王様は《がんばるぞい!》って感じだった。
「では、私は『私のことをよく思っていない貴族連中』との話し合いに行ってまいります」
「……おぉ……」
そんなことを言って去っていく王様に、ボクは感嘆の声を上げることしかできなかった。
強い、いや強くなったんだな。彼女になにがあったかは知らないけど……。
「サダオさん、貴方に合わせたい人がいるのですが、構いませんね?」
「え?……はぁ、誰ですか?」
エヴァさんが急に言い出したことを理解できないまま受け入れたボク。
「さぁ、入って」
とエヴァさんが促すと、開けたままの扉から――ゆいすんが入ってきた。
なぜこんな風に畏まったのかは分からないが、今まで見たことのない真剣な表情のゆいすんをみて、ボクはただ事では無さそうだと勝手に想像する。
「……はぁ、……彼女は貴方に謝りたいそうです」
「え?あやま……え?」
謝る……?
なにを………………って思い当たる節が結構多いな。
ボクは驚き、ゆいすんとエヴァさんを交互に見てしまい、それを見たゆいすんは不服そうな顔をした。
「……やっぱやめる」
そう言って踵を返したゆいすんにボクは《らしさ》を感じたのだった。
「それで良いんですか?」
エヴァさんの言葉にゆいさんは足を止める。
「本当にそれでいいと思いますか?」
ゆいすんの背中に向けて追い打ちをするエヴァさん。ワナワナと肩が震えてる様子からして、効いてるらしい。
「あー!っもう!わかった!わかったわよ!謝れば良いんでしょ!?」
ゆいすんはキレながら振り向き、怒りの形相でコチラへと向かってきた。
そして、カーペットに足を取られて転ぶ。
「あぶっ――」
危ない、と思った瞬間、ボクはベッドから飛び出していた。
ゴツンッ!と鈍い音が鳴り、顔面に痛みが走る。
うまく受け止められず、顔と顔をぶつけてしまったらしい。
「樽、持ってきたよ!」
「手の空いた兵士の人たちにも頼んで後から持ってきて貰うでござる」
レオナとアヤメが帰ってきた。
「……なにやってんの?」
「なにか落としたでござるか?」
ボクとゆいすんが向かい合って床に手をついてるのを見て不思議そうにしてる。
……もしかして、ボク今、キス……。
――その瞬間、辺りに謎のファンファーレが鳴り響いた。
パーパラッ、パパパッ、パパパパパパ。
「……うそだろ?!」
「この音って……」
ボクとゆいすんは思い出した。
この世界に来た時の、あの時のことを。




