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エッホエッホ!



 ……なにやら人が集まって騒がしくしてるいる様な音が、かなり遠くから聞こえてきた。

 声の主は……レオナたちなのか?


「……いや、違う。声は男の人のものだ」

「はあ?なんの話?」

 隣にいるゆいすんが反応しないのを見るに、ボクにしか聞こえないほど遠いのだろう。 

 

 

『――エッホエッホ!』

 ……この声は近い。

 

『待って言ってんでしょーがっ!』

『エッホエッホ!』

『レオナ殿!コンフェルトの効果が切れてるでござる!ここは補給を優先せねばっ!』


 これはレオナとアヤメの声もした。

 2人ともこっちに向かって来ていたのか?じゃあ遠くで聞こえる声は……??


「……エッホエッホ!」


 中年のオジさんが重そうな体を揺らしながら必死に走ってボクらの正面からやってきた。

 なんだか、うだつの上がらない印象の人だ。

 

「なにあれ?ウケる!オジさんガンバえー」

 ゆいすんは向かいから来るオジさんへ小馬鹿にした様な声援を送る。


 すると背後を気にしながら走っていたオジさんはこちらに気付き、ギョッとした表情を浮かべた。

 なんだ、あのリアクション……、あれ?この人、どこかで見た顔だな。通りすがりざまに顔を見てボクは何かに気づきかけたが、ゆいすんの罵詈雑言に思考を奪われる。


「えー、なにあれ?キモ、ダイエットかよ。オッさんが痩せてもキモイのはかわんねぇのに、必死すぎてキモい」

 通りすがり様、わざと聞こえるようにそんなことを言うゆいすんにボクは頭を抱える。

「……わざわざそんなこと言うべきじゃないよ」

「は?なんで私が何を言うかアンタに決められるの?意味わかんない。私がどう思おうが私の勝手じゃん?ウザっ、だからモテねぇんだよ」

「ボクがモテないのは事実だからどうでも良いけど、どう思うかは言ってないよ。わざわざ口に出すのを咎めてるの。いらないトラブルの元にしかならないんだから心の中で思うだけに――」


「――ソイツが元凶!黒幕!逃すなー!サダオ!」

「サダオ殿!その御仁を逃してはならないでござるよ!!」


 レオナとアヤメが道の向こうから現れ、走る男を指さした。


「元、凶?……あ!そうか、今の人が『ゴーン』だっ!」

「なにあの子たち?マジ痛いんだけど。ござる口調とか忍者かよ」


 

「その男が兵士の大軍を引き連れてきたせいで地上は大混乱でござる!」

「大軍?!なにそれ?!大丈夫だったの?」

「《情報屋》とオニキス卿が武装した人たちを連れてきて、上で乱戦になってるでござる!」


 さっき聞こえた音は大軍同時がぶつかり合う音だったのか――。

 

「はぁはぁ、もー!理由はあとでいいからとにかくソイツを捕まえて!あたしたちは体力の限界!」


「エッホエッホ!」

 ボクは必死に逃げる男の後を追う、過剰摂取のせいか、《砂糖》による身体能力強化は切れてしまった。


「え?!なに?私のこと置いてくつもり?!最後まで責任持ちなさいよ!」

「ふぅ、しかし……なんでござるか、このうるさい人は?」

「さーね?サダオと同じ異世界人みたいだし、前に話してた人じゃん?」


 レオナとアヤメもボク同様、《砂糖》のバフが切れたのか後方を追ってきてはいるがスピードが出てない。


「エッホエッホ!」

「まて!ゴーン!アンタの悪行は全部わかってるんだ!無駄な抵抗はやめろ!」

「……うるさい!私の偉業を悪行だなんて呼ぶな!何も知らないくせに私たちの邪魔をするな!異世界人!」

 

「アンタが《マダム》と繋がってることももうバレてるんだ!」

「なっ、なぜそれをっ……くそ、情報屋か?あの化け物トカゲのせいか!クソトカゲめ!さっさと捕まえて見せ物にするべきだったな……。エッホエッホ!」


 どこか目的地があるのか、ゴーンは迷いなく地下迷路を進んでいく。どれほどの時間追いかけ続けたか分からないが、ボクはついぞ追いつくことなく一定の距離を保ったまま広く開いた場所へ出た。


 その場所はさっきゆいすんが捕えられていた場所よりも広く、まるでなにか大型の兵器でも格納していそうな雰囲気……。


「こ、ここは……?」

「くそっ!まさかここまでついてくるとは……。まぁいい!この国が滅びるところを特等席で見せてやろう!」

「な、何をする気だ、ゴーン!」

「ふ、これ知ってるか異世界人!」


「……くぅ、小さくてよく見えない!」

 ゴーンが乱雑に置かれた机の上から何かを持ち上げたが、ここからは遠くて見えない。

 

「なに?見えないだと?!ほら、これだ!知ってるか?!」

「……ちょっと明かりが……こっちからだと逆光で見えにくいですね」

「ちっ、ほら、こっちへ来い、これなら見えるだろ」

 ゴーンが手招きする方へボクは向かう。

 

「あっすみません。あぁここなら見えます……なんですかこれ?見えてもわかんないですね」

「はぁ、これだから無能は困る。もっと寄れ!こっちにこい!ほら!どう見ても笛だろ?」

「えー、これが笛ですか?なんか独特なカタチすぎて分かんないですね」

「はぁ?!この良さが分からんのか!どう見てもオシャレでカッコいいだろ!よく見ろ!このボデー!曲線美!見た目からしてサイコーじゃないか!」

「うーん……ボクとしてはもっと機能美っていうか、もっとシンプルな方が……」

「はぁ?!お前童貞か?!嘘だろ?モテたくてそんなこと言ってんだろ!素直になれ!こうやってごちゃごちゃしてる方がどう考えてもかっこいいだろ!」

「えー、……まぁ童貞なのは否定しないですけど……」

「え?本当にそうだったのか、なんか悪いな」

「いえ、まぁ、ボクが悪いんですよ多分」

「あんまりそうやって自分を卑下するもんじゃないぞ?見たところ、まだ若いんだろ?私も君くらいの時はそうやって悩んだものさ――」

 


「――何してんのサダオ!バカ!さっさと捕まえたらいいじゃん!」

「「あっ!?」」


 後を追ってきていたレオナの一喝でボクとゴーンは我に帰る。いつの間にか肩と肩が触れるほどの距離になっていたことに気づかなかった。


「切り裂け!《烈風魔法(ファンファンブロウ)》」

「な、速いっ?!」

 ボクと同時に反応したはずのゴーンはいつの間にか取り出した小さな杖をボクに向けて振る。

 指揮棒(タクト)の如く振られた杖の先から生暖かい風が起きボクを襲う。

 突風に煽られてボクは体勢を崩してしまった。


「はぁはぁ……、っ雰囲気だけでたいした魔法じゃないんだから、いちいち大袈裟なリアクションしてんなっ!アホ!」

「はあはぁ……。レオナ殿、……言い過ぎでござる。いきなり杖を向けられたら誰でもビックリするでござるよ!それにサダオどもも拙者たち同様疲労もあるでござろう」

「ふぅ……。いや、まぁ……そうなんだろうけどさ。……うん、ごめん、言いすぎた」


 

 ――ありがとうアヤメ。今は君の優しさがとても沁みるよ。

 ボクは体勢を立て直し、ゴーンと正対する。

 その横に後から来たレオナとアヤメも並ぶ。2人はまだ肩で息をしていて辛そうだ。ボクが頑張らないと!

 

「くそっ!3対1とは卑怯だぞ!」

「は?!お前こそ卑怯だろ!大軍引き連れてきたくせに何言ってんだ!」

「うっさい小娘!だまらっしゃい!」

「……だまら?わけわかんないこと言うな!」

「はぁー学がない貧民は困る!――」


「聞こえてるでござるか?」

 レオナとゴーンが向かい合ってバカみたいな舌戦を繰り返してる横で、レオナが口元を隠しながらボクだけに聞こえる声量で話しかけてきた。

「……正直言って、拙者とレオナ殿は連戦がたたって、もう限界が近いでござる。このあと戦闘になった際、役に立てない可能性が……」


 じゃあなんで来た!

 なんて心無いことは言えない。

 2人とも限界近くになってるのに、ボクを思ってここまで来てくれたのだろうと想像つくからだ。

 本当に、ボクなんかには勿体無い、素晴らしい仲間たちだと思う。


「だから、申し訳ないでござるが……この男はサダオ殿が1人で倒してくれると嬉しいでござる」

「………………うん。……………………うん??」

 誰が?ボクが??


「なにをごちゃごちゃ喋ってる!そこな2人!」

 流石にバレた。……ボクが返事をしたからだけど。


「あんまりこの私を舐めるなよクソガキども!魔法研究員としての実力!今見せてやる!」


 《ピョロ〜!》


 無駄な装飾で飾られたクソダサい笛をゴーンは吹いた!


「な、なんなの……これ?!チ、チカラが……」

「変な音のせいで身体の自由が……奪われるでござる……」

 レオナとアヤメが力なく倒れていく。


 

「はっはー!これぞ《人喰らいの魔笛》の効果よ!この魔笛の音を聴いたものは使用者以外全てガチに伏すという超激レア遺物(レリック)!本来は前時代の対戦で失われていたのだが、この私の研究によりこうしてこの世界に舞い戻ってきた――ってなんでお前は平気なんだ異世界人っ!!!!!」


 ……いや、まぁ……ボクが聞きたい。


 横たわるアヤメがこちらを見て、力なく呟く。 

「あとは……任せたでござる……よ……」

 レオナもそれに続く。

「アイツの……顔面が……変形するまで……殴って」

 ……物騒すぎる。


 

 こうしてボクとゴーン。

 

 2人だけの戦いが今……始ま――。

「おらっああぁッ!!!」


 不意打ちなんてサイテー! 


 

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