ご褒美
地下通路の最奥、いやこれはボクの勝手な予想でしかない。実際どこをどう曲がって、どう進んでここへ来たか覚えていないから。
でも、ここが目的の場所であることは一目でわかった。
「なんだ、なにを考えてる!非常識にもほどがあるぞ!」
魔法使いらしいローブを着た男が板のようなものを持ったまま怒鳴り声をあげる。
ボクが扉を蹴り破ったことに憤慨しているらしい。
「ゆいすんを返してもらいます。あとアナタたちはこの国の法で裁かれるべきです」
「なんだこいつ、突然入ってきておいて不躾に……」
「兵士か?こんなところになんの用が……いやなんだコイツ?異世界人?」
「ウソだろ?こんな幸運、あっていいのかよ」
ボクの声に反応し、ローブ姿の男たちがワラワラと湧いてくる。
彼らは、ここまでの道中にいた、享楽に耽って快楽の奴隷と化した貴族どもと違う、どこか信念すら感じてしまうまっすぐな瞳で男たちはボクを見ている。
「あーーーーッ!!アンタ!名前忘れたけど、私のファンとかってやつよね!よく来た!さっさと助けて!このままだと私、こいつらに殺される!!」
「もちろん!そのつもりで来ました!少し待っていてください!!」
金属製の首輪に鎖、それだけでも十分であろうに、なぜかロープもぐるぐるに巻かれたゆいすんが横たわったまま喚き散らしてる。
久しぶりに見た姿がこれとは……。
「こいつらマジで頭おかしいから!人の事攫っといて、買い手が見つからないとかワケわかんないこと言いだした挙句、《実験体》にするとか言い出したんですけど!!あり得ないんですけど!!オタクマジキモ過ぎなんですけどおおおおおおおお!!!!!!」
――絶好調だな。
「ちっ!ブスの癖にうるせぇな」
「おい異世界人!お前の知り合い、どんな教育されてきたんだ?普通、もっとビビって大人し――」
ドンッ!!!
「は?」
――まず一人。
全力で体当たりされた相手は思いっきり吹き飛び、受け身を取る暇なく壁に叩きつけられ、気絶した。
さっきボクもレオナにやられたからわかるけど、キツイんだよなぁアレ。
ぶつかった衝撃で呼吸が止まる感じとか、もう二度とごめんだね。
「お、おい!やめろ、俺たちはこの国の為――」
ドンッ!!
――これで二人目。
「なんだよその速さ!意味わかんねぇ!」
「くそ!逃げろ!早くこの場か――」
「三人目。……面倒くさいんで、その……逃げないでもらえると助かります」
あと二人か。
ゴーンが姿を現さないのが気がかりだが、今はそんなこと考えてもしかたないのか。
「あと一人。貴方だけですね」
最後に残った一人へボクは声をかける。
1人で大人数を圧倒するというシチュエーションに興奮し柄にもなく、少し気取ってしまったかもしれない。
「おい、おい、待ってくれ!アンタわかるよ。同類だろ!?俺たちと同類なんだろ!」
?
この男はこんな時に何の話をし始めたんだ?
「アンタも日陰者だろ!?運動や飲み会、人付き合いが嫌いで、研究や勉強、友達より本が好き。そんな雰囲気だ!同じだよ!俺も……アンタが吹き飛ばした奴らもだ!」
…………?
聞いてみようと思ったボクが馬鹿だった。
「勝手にカテゴライズしないでもらえますか?……ボクはアナタたちとは違う」
「いいや!そんなことはない!同じさ!同志と言ってもいい!女が嫌いだろ!?子供のころ、あいつみたいな女に、馬鹿にされた経験があるはずだ――」
「――聞くなメガネ!って二人ともメガネか!あーーアンタら紛らわしいわよ!」
「ボクの名前は――」
「――ほら見ろ!王城に侵入してまで助けに来てくれたアンタの名前すら、その女は覚えてくれてねぇ!ああいうやつらにとっちゃ俺たちなんざその程度の扱いなんだ!わかるだろ!ホントは分かってんだろ!ガキの頃、ああいう女から蔑ろにされたから!今さら取り返そうとしてんだろ!意味ねぇよ、そんなの!今なら間に合う!運が良かったな!俺は親父が公爵だ!今なら今日の事を不問にしてやるよ!」
「ふざけんな!!蔑ろにされたとしてもそれは私の責任じゃねぇだろ!クソ陰キャ!いいからさっさと助けろ!ファンだろ!?私のこと推してるんだろ!?一秒も迷わず助けろよ!それがオタクってもんだろうがあぁ!!」
……二人の熱量が当事者であるはずのボクを無視して熱を上げていくのを感じる。
「ファン?オタク?知らないけど絶対いい意味の言葉じゃねーだろ!」
「うるせぇよ陰キャ!キモいんだから黙ってボコられとけ!だからモテねぇんだよ!」
「は?意味わかんない単語で誤魔化すなよ顔平たい癖に!それに言ったろ?俺の父親は公爵だ」
「はぁ?!意味わかんないのはそっちなんですけど!何?講釈?そんなもん知らねぇわ!」
「はんっ!公爵も知らないとはな!顔だけじゃなく脳みそも平らなのか?」
「次、顔平たいって言ったら絶対に殺す!そいつがアンタを吹き飛ばして気絶した、その喉元に噛みついて――」
「――公爵はこの国に於いて、国王の次の位だ」
「え!?……………………え!?」
…………黙って二人のレスバを聞いてたらなんか不穏な状況になってしまった気がする。
あぁさっさと終わらせておけば……とボクは後悔。
「え~、国王の次の位ってことは超お金持ちだったりします~?」
地べたに転がされたままのゆいすんが猫なで声に変わった。
たくましいな、本当に。
「ふん、まぁ俺は三男だが……まぁ金に困ったことはないな。メイドも10人程度しかいないし」
「メイド!?10人もっ?すご~い!え~カッコいい~!やば~い!」
「…………おい異世界人、本気でお前はこんな女を救うためにこんな場所まで来たのか?俺が言うのもなんだが、……コイツにそんな価値があるとは思えないのだが……」
あまりの変容ぶりに頭を抱えるボクを見て、命乞いをしていたはずの男は同情するような目を向けてくる。
「……ボクは彼女に救われた経験があります。なので今度はボクが救う。それだけです」
「そうなのか?それはホントにこれなのか?」
男は足元を指さした。
……男の足元で、まるで今すぐにでも靴を舐めそうな状態のゆいすんを見たボクの心情を誰が慮れるだろう。
四肢を拘束され、芋虫のように這い、男の脚へとすがるよう寄っていくその様に男はたじろぐ。
「なぁ!これは本心から聞くが、ホントにこんな女の為に人生を棒に振るつもりか!?さっきも言ったが、俺は本当に公爵家の人間だ!今なら不問にしてやる!」
「公爵!金持ち!セレブ!何でもします!2番目の妻でも構いません!私を養って!!」
「なんだコイツぅ!?欲望と脳みそが直結過ぎるだろ!あとお前は2番なんかになれねぇよ!自分を高く見積もんな!おい!お前もなんか言え!」
「いやです!」
「は!?これ見てなんも思わないのか!どんな女の趣味してやがる!いかれてんのか?」
「思うは思いますよ!でも、一度でも惚れた女性の悪口は言えません。口には出しません!!」
心の中ではぼろクソに思ってるけどしょうがない。
ボクは悪くない。
「――それに、国王様から今夜の事はすべて不問にするという言質を得ています」
「はああああ!?あのバカ女なんっ――」
「ああああああああ!!!!!公爵様!!!」
――これで、この場にいた相手はすべて片付いた。
「ばか!せっかく私がこの世界で幸せになるチャンスだったのに!人のチャンスをつぶしやがって!このくそメガネ!ふざけんな!独占欲!?マジキモイ!」
ボクはゆいすんに巻きつけられたロープを外しながら近距離で罵声を浴びる。
…………もしかしたら誰かにとってはこんな状況もご褒美なのかもなぁ。
……ボクには違うけど。




