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地下迷路


 暗がりの階段を降りると一枚の扉が現れた。隙間から微かな光が漏れている。

 ボクが扉を開けた瞬間、通路の奥から悲痛な叫びが響いた。

 ――時間が動き出してしまったらしい。


「くそ、懸念した通りだっ」

 《醤油》の魔法には想定通りタイムリミットがあったらしい。強力な能力ゆえに仕方ないだろう。

 急いでポケットに入れた《砂糖》を舐めると運の悪いことに、ちょうど巡回中だったと思しき兵士がボクの姿を見て叫んだ。


「な、なんだお前、ここにどうしてっ、てそれどころじゃない!侵入し――」

「――すみません!」


 ボクは全力で駆け出し、兵士のすぐそばに飛び込んだ。兵士はボクのスピードに翻弄されたのか体勢を崩したのでボクは片手でその口を押さえ、もう片方の腕を使いクビを圧迫する。

「……っ暴れないでください」

 必死にもがく兵士、普段から鍛えてるであろうその肉体を《砂糖》で強化したボクが凌駕する。


「……ふう、うまくいってよかった」

 兵士は小さな呻き声と共に力なく四肢を垂らした。

「……死んで……ないよね」

 …………うん。大丈夫、寝息っぽいのが聞こえる。


 ボクは自分が絞め落とした兵士の安否を確認した後、悲鳴のした方へと走り出す。

 まるで迷路のような地下通路ではあるが、ボーダーランズのコロシアム以降、鋭敏化したボクの聴力なら簡単に場所を特定できた。


「な、なんだお前は!」

「っ、ゆいすんじゃない……」

 悲鳴の主はボクの探し人ではなかった。

「なぜここに?!……お前、異世界人か?何の用だ!さっさと消え――」


 小太りの男の背後に回り込み、今度はしっかりと両手を十字の形にしてチョークをかける。

「……か、かはっ……」

「暴れる方が辛いですよ……」


 ――数秒ほどで男は落ちた。

「すみません、ボクに貴女は救えません」

 金属の鎖で繋がれた女性にボクは謝罪する。

 いくら強化された肉体でも、鎖を千切るなんてことは不可能だからだ。

「え?!……な、なんで?!私を助けにきたんじゃないの?!」

 囚われた女性の言葉は当然のものだろう。

「……すみません。その鎖を外す術がボクにはないので……」

「はぁ?!意味わかんない、……じゃあなんなの……。じゃあなんなよアンタはっ!!そう……カギ!カギ探してきなさいよ!ここまで来たんなら責任持って助けなさいよ!グズ!」


 ………………なんでこんなに偉そうなんだろう。

 

「この今、落とした男が鍵を持ってたら使います。でも、上には警備の兵士たちがいるし、お城の方にもボクを探してる兵士たちがいます。……彼らが貴女の味方とは……」

「なんなのそれ……なんなのよ、私が何したって言うの!!?え?!私が何か悪いことしたの?!」


 さっきのとのとは別種の……、悲痛な叫び。

「ごめんなさい……」

 ボクは謝ることしかできない。


「…………用があって、アンタはここに来たんでしょ?」

「はい。……どうしても救いたい人がいます」

「……はぁ……。じゃあその人救ったら私のこと救いに来てよ。忘れたら呪うから……よろしく」

「はい!必ず助けに来ます!約束します!」

「頼むわよ!……それと、私以外にも攫われてきたコたちがいるから全員助けてきて、あと着替えになりそうなものを見つけたらそれもお願い。あと食べ物と飲み物も――」


 ――昔から、なんとなく思ってたんだけど……もしかしてボクって他人から舐められやすいのかな?だとしたら何が原因なんだろう。顔?態度?


「おい!無視すんな!」

「……わかりました!なるべく助けながら目的の場所を探しますよ!!」



 言われた通り、ボクは迷路のような地下通路を《救助》しながら突き進んだ。

 だが助けるたびに、あーだこーだと理由をつけて小言を吐き捨てられる。……まぁ彼女たちも被害者だし、ストレスとかパニックとかなんだろうけどさ……。



「報われない……」

「え?!なに?!勝手に助けに来といて何期待してんの??気持ちも悪い!」

 鎖に囚われたままとは思えない態度の女性から言葉で刺される。

「てゆーか、そいつ生きてんの?!殺せよ!私にそいつが何したと思ってんだ!」

「……いや、それは知らないですし、やりたいなら自分で勝手にしてください。……ボクはもう行きます」

「はぁ?意味わかんない!」


 ……ほんと報われないわ……。


 《砂糖》を舐めようとポケットに手を入れて気づいた。もう底を尽きかけてる。

 ……《砂糖》は《醤油》と違って魔法的なものではない能力なはず、つまり時間制限や使用制限はない……と思う。

 いや、まさか……。嫌な予感が頭をよぎる。


「《砂糖》に限界があったら……ボクはどう戦えばいいんだ。……かと言って――」


 ――この悲鳴を聞かないフリして突き進めるほどボクは強くない。


「ふ、ざ、け、ん、なー!!!!」

 突如聞こえたそんな声と共に現れたレオナの全力ドロップキックでボクは壁に打ち付けられる。

「っぐはっ……お……え……な、なんで……きみ、たち……がっ」

 

「やり過ぎでござるよ!レオナ殿!ほ、ほら《塩》でござる!サダオ殿、急いでこれを舐めるでござる!」


 ギャグ漫画的な感じでなく、本気で吹き飛ばされたボクはちゃんと致命傷を負ったのだが、アヤメのおかげで助かった。

 壁に思いっきりぶつかって呼吸が出来なくなった瞬間は死を覚悟したぞ、……このヤロウ。


「ふぅ、スッキリした。で?結局なんなのここ?めちゃくちゃ嫌な場所なんだけど?」

 一仕事終えましたみたいに額を拭うレオナ。

 お前マジ、……マジお前……。


「ウワサに聞いたことがあるでござる。王家の抜け穴……を再利用し、貴族のために女の子を攫って来る場所。それがここってわけでござるな?」

「うん、アヤメのいう通り。ここがその場所らしい」

 

「はぁ?!なにそれ、サイテーじゃん。ていうかなんでサダオはそんな場所があるって知ってたの?おかしくない?」

「ウワサを根拠に王城へ乗り込むなんて意味がわからないでござる」


 全てを話す時間はない。かと言ってテキトーに誤魔化すのも無理だろう。

「……ごめん、救いたい人がいるんだ」

「最初からそう言えってワケ!!」

 レオナがボクの背を引っ叩く。

「そうでござるよ!拙者たちを頼って欲しいでござる!」

 アヤメは力強く頷く。


「……それが、こうして王城に忍び込むような、危険なことでも?」

「知らなくてもこうやって入ってんじゃん?」

「……そうでござるよ。王城への橋のところでサダオ殿を見かけた時は正気を疑ったでござるが……」

 ん?


 ……橋のところ?


「いや、見られた覚えはないんだけど……」

「……見かけたでござるよ?」

「ん?おかしいな……」

「まぁ拙者、屋根の上を走っていたでござるから、地上のサダオ殿が気づかないのも仕方ないでござる」

「???……どういうこと?」


「アヤメはね……毎晩、人の家の上を走り回ってんだよ?知らなかった?頭おかしいよね」

「な、なんと?!おかしくないでござるよ!建物の屋根を走るのはニンジャの基本でござる!!」

「仮にそうだとしても、何の用もないのに夜な夜な走り回るのは頭おかしいじゃん!」

 ――レオナとアヤメが無駄な言い争いを始めた。


 こうなると長いのを知ってるボクは2人を放置して先へ急ぐことにする。

「サダオ殿、……拙者たちは鎖に繋がれた女性たちを助けて回るでござる」

「あたしたちの武器なら壊せるからね」


 ありがたい申し出だ。


「うん。お願い!ボクは先を急ぐから」

「もし危険な状況に陥ったら、大声で拙者たちを呼ぶか、逃げるでござるよ?」

「勝手に特攻して負けたりしたら許さないから!あともし黒幕?ここを取り仕切ってるカス見つけたら絶対あたしに一発殴らせて」


 ――止められると思っていた自分に聞かせてやりたい。ボクが遠ざけようとした仲間たちは、こんなにも信頼をしてくれる良い仲間たちなのだ、と。

 


 2人に任せて走り出し、地下通路をどっちに向かっているのかわからなくなるほど進み続けると、聞き覚えのある声が聞こえてボクは一段加速。

 

 勢いそのまま、声の聞こえた扉を蹴破ると、そこには――。

 

 


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