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お城


 ボクがココへ足を運ぶのは2回目だ。

 

 この王都で生活をしてると、中央に位置するココを避けるのは容易ではない。しかし今の今まで、ボクは意図的に避けてきた。それは、ここがボクにとって嫌な思い出の場所だからだ。

 

 ……さて、どこから入る?

 お城へと続く橋が今は上がっていて、とても向こうへ渡れそうもない。……堀は水が張られている。泳ぐ?この寒さの中?バカ言っちゃいけない。

 こちらの世界が何月か定かじゃないが、外套なしで歩ける気温じゃないんだ。泳ぐのは現実的な解決策じゃないや。

「こんな時に水を操る魔法が…………」


 ガタッと音がした気がして振り返るが、何もいない。音は建物の上から聞こえた。

「猫……?」

 もしくはタヌキ?アライグマ?テン?何か動いたように見えたが……まぁいい。気にしないでおこう。


「……それより、水属性魔法だ」

 今まで何度も練習してきたが、成功と呼べるものはひとつもなかった。

 エヴァさんは言ってた、『魔法はそんなに難しいものだと思わない方がいい』という言葉。

 ボクはそのアドバイスを敢えて無視する。

 そもそもコチラの人たちとボクは違う、異世界人だ。ならばきっと魔法発動のトリガーとなる感覚も違う可能性があるからだ。


 そして、なぜか今は確信に近いものがある。

 必要なのは、自分がどれだけ『本気でそのチカラを求めているか』ということ。

 練習では、あくまで出ろ!って感覚だった。でも、初めて水の壁を出した時も、あの馬車の奴らに時間魔法を使ったときも、どちらも必死さが違ったはずだ。


 だからたぶん、……今は成功する。


「うおおお!!!」

 夜、ということを忘れて大きな声を上げ、お城の周りの堀へ手を伸ばす。

「動け!動けよォォ!!!!」





「なるほど、どうやら違ったらしい……」

「うっせー!うっせー!うっせーぞ!!何時だと思ってんだ!クソガキがっ!って、テメー異世界人か?!頭のおかしい奴は自分の世界から出てくんな!殺すぞ!」

「ひっ?!す、すみません!すみません!」

 もみあげ以外全てハゲ散らかしてるおじさんが近くの建物から飛び出てきたと思ったらバッチバチにブチ切れて怒鳴り散らしてくる。カミナリおじさんってヤツだ。

 ……まぁ誰がどう考えてもボクが悪いので低頭平身で丹念に謝罪する。

 

「テメーは暇かもしんねぇがな、こちとら明日も朝から仕事なんだ!騒ぐな!寝かせろ!ガキが!……ってなんじゃこりゃあああぅ!??」


「いやいやいや、オジサンの方がボクよりうるさいじゃないです、……か?!ってええ?!」

 ボクの、ボク目の前で、先程まで堀を埋めていた水が、……水の塊が球体を作りながらフワフワと空を漂っている!!?


「「な、な、な、なんじゃこりゃあ!?」」

 奇しくも同じ驚きの声を上げるボクとオジサン。


「ま、魔法か?!お前、眼鏡、異世界人!魔法使いか?!なんでこんなことを?!」

「ぼぼぼぼボクじゃありません……ぬ」


「ぬ?」

 しまった、否定する途中で心当たりが湧いてきたので変な語尾を足してしまった。

 たぶん、この水はボクの……。

 

「じゃあまさかこれはワシの所業!?齢50を超えて魔法使いとしての才覚が突如覚醒――」


 オジサンが自分の手のひらを見ながらワナワナと震えているうちにボクは目立たないよう、中腰でその場を去る。


「なんだこれは!?」「敵国の攻撃かっ!?」

 城の警備兵?たちが異変に気付き続々と出てきたのが向こう側に見える。

「すまーん!ワシ、なんかやっちゃったかもしれん!」

 オジサンが勝手にスケープゴートとして目立ってくれていることに感謝しながら物陰に隠れて様子を伺っていると、警備の兵士たちが橋を下ろして、こちら側に渡ってきた。

 千載一遇。ボクは大急ぎでポケットに入れた金平糖を取り出し、握った分すべてを口に入れる。


 ガリっボリっ!口内の水分が一瞬にして奪われ、糖分を大量に接種したことで血糖値が上がり心拍数の上昇を感じる。


 ――そして、全身に血が回り、身体が熱くなったので外套を脱いで、地面に置く。忘れてなかったら帰りに回収しよう。

 

 運動能力が普段の何倍も強化された脚に力を込めボクは全力で走り出した。


「なっ!?」「なんだアレは!?」

 兵士たちがすれ違いざまにそんなことを言ってた。


 でも、ボクは止まらない。


 橋を渡り切り、ここでようやく、自分の向かうべき場所が分からないことに気付いた。

「ボクは馬鹿か!いくらなんでも見切り発車すぎるだろッ!」

 むなしく自分にツッコミを入れている間に、兵士たちが集まってきた。

「捕らえろ!」「異世界人だ!特殊なジョブスキルを使う可能性があるぞ!」「気をつけろ!安全な距離から――」


 ――ボクは吹き抜けになってるエントランスの真ん中で囲まれた。こうなったら行先なんて「上しかない」。そう決まっているだろう。


「飛んだ!?」「風属性の魔法使いか!」「追え!逃がすな!俺たちが警備担当の日に侵入されたなんてバレたら――」


 二階に無事着地し、安堵していると階下からそんな声が聞こえた。

 ボクも警備員の仕事をしていたから彼らの辛い思いがよくわかる。

「謝っても意味がないことはわかってます!でも、ごめんなさい!!」


「ふざけんな!」「やめてくれ!クビになっちまう!」「なんで今日なんだ!なんで俺が担当の日なんだっ!」

 必死に階段を上りながら、悲痛な叫びを訴えてくる兵士たちに心底同情する。


 でも、もう止まらない。

 そう決めたから。


「ボクは止まりません!アナタたちにボクは止められません!」

「頼むっ!頼むから――」


 涙交じりに叫ばれた言葉を、ボクは無視して吹き抜けの反対へと跳んで移動した。

 

 兵士たちの中でも比較的若そうな顔立ちの青年が不安そうに見つめていた先にある扉へとボクは進む。

 「ダメだ!そっちは――」


 どうやら、()()()らしい。

 こちらへ行かせたくなさそうだと思ったが、正解だったみたいだ。



 さぁ『ハズレ』と馬鹿にされたボクが向かう先は、どんなもんか。


 走る走る。閉ざされた扉は強化されたスピードとパワーでぶち破る。虫みたいに延々と湧く警備の兵士は軽々飛び越える。

 

 兵士たちが必死に行かせまいと塞ぐ方を選び続けると、ひと際豪華な扉を見つけた。

 ここだ。と直感で分かった。


 なんの確証もないのにその豪華絢爛と呼ぶにふさわしい扉を、ボクは蹴り破り、こう啖呵を切った。

 ハイになってたんだ。打ち寄せる高揚感にあらがうことが出来ず、感情に任せてこんなことを口走った直後に恥ずかしさで悶えそうになったので、……許してほしい。


「ゴーンッ!!お前が人身売買を行う卑劣な犯罪者であるとこは分かってる!!そしてゆいすんを攫ったこともだ!!彼女を返せ!彼女は、ゆいすんはボクに生きる希望を与えてくれた素晴らしい人なんだっ!!ボクは彼女の為ならなんだってするぞ!生まれて初めて誰かに喧嘩だって売ってやる!!」

 

 たぶん、人生で一番大声を出した。

 ゴーンは寝ていたのか、暗がりの中、ベッドのようなものの上でがさがさと人が動く。

 廊下から入る明かりでよく見えない。

「動くな!聞いてなかったか!?ボクを舐めるな!本気だ!なんでもやるぞ!ボクは今、自分でも何をするかわからないんだぞ!」

 《砂糖》の過剰摂取で完全にハイになってしまいベラベラと口が回る。



 が、ゴーンは何も言わない。

「おい!いい加減なんか言え!ゆいすんの居場所を吐け!まさか兵士たちが来るまでの時間稼ぎのつもりか!?」


「っ……すみません。その……」


 ……あれ?…………おかしいな。

 ……こんな若い女性みたいな声だったか…………??

 


 「大変言いにくいのですが、その……私はゴーン氏ではないのですよ」



 天蓋付きのベッドから姿を現したのは、同年代くらいの……見目麗しい、たいそう気品のある女性だった!

 ………………なんてこった。

 

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