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オニキス


「オニキス卿、アンタが自分でココへくるとは珍しいこともあるもんだ。そうだろ?」

「なに?キミが遣わせたんじゃないのか?」

「……どういう意味だ?」

「どうもこうもないさ。さっき私のところへ《チェダー》がやってきた。ここへ顔を出せということだと思い、急いでやってきたのだが……」

「バカなっ、チェダーは勝手に出ていいったりしない。今もこうしてここにいる!」

「……じゃああれは、……まさかただのネズミだったのか?」

「おっおまっ!まさかただのネズミとこのグラスマンの相棒を見間違えたというのか!!」


「ストップ!ストーップ!もうやめてください!ボクは急いでいるんです!関係ない話をするなら帰ります!」

「……帰ればいいだろ?このグラスマンは言ったはずだ。勝手に立ち上がれば、2度と関与しないと」

「まぁまぁグラスマン、落ち着きたまえ、キミは昔から話が長いくせにコトを急ぎすぎるきらいがあるぞ?そういう時に損するのは決まって自分だって気づいているんだろ?いい加減キミは性分を変えるべきだ。いつ変わるの?今で――」

「――まだ続けるんですか?!もういい!ボクは帰ります!」

 無駄話に付き合うくらいなら1人だけで突入した方が話が早い。……ずっと嫌だったけど、ボクには《調味料召喚》という能力がある。

 これがあれば、たとえ厳重に閉ざされ、守られた場所だとて……。


「オニキス!ポートマン、奴を止めろ!」

 グラスマンは叫ぶが、ポートマンはチェダー(ネズミ)に餌を与えるため、少し離れたところにいた。

 

「?……なぜ?というかそもそも、何でこんなとこに彼がいるんだ?なにか情報を買いに――」

 オニキス卿は動かない、状況が掴めてないらしい。

 

「――こいつ、惚れたクソ女のために《ゴーン》を襲う気だ!今、ここで止めないとこのグラスマンたちの綿密な計画が頓挫するぞ!」


 綿密な……計画……??

 そんなものなかっただろ。なにが『情報屋ウソつかない』だ。もう騙されないぞ。


「……いや、だったら彼には好きに動いてもらった方が都合が良いのでは?」

「……《子龍の呼び笛》をボクに渡したように、またコチラを利用するって寸法ですか。オニキス卿、あなたはもっと優しくマトモな人だと思っていたのに……」

 ボクは出口に向かっていた足を止め、振り向かないままオニキス卿に残念に思う気持ちを伝える。


「その件か、誠に申し訳ないと思うよ?でも今こうしてキミも、キミの仲間も五体満足、悪の巣窟だったボーダーランズも崩壊した。うーん全てがいい方向に転んだね!よかったよかった!」


 …………そう言ったオニキス卿の目は、過去に見た時と同じように澄んでいた。

「なぁ?イカれてるだろ?コイツはそういう奴だ。なにを言っても変わらない。《善》の狂気に飲み込まれて頭が飛んじまったんだ。理解しようとするな」


「酷いなグラスマン。私は君の言うような人間じゃないぞ?キミが幼い頃、亜人蒐集家の変態のもとでオモチャ同然の奴隷だったキミを救ったのが誰だったか忘れたのかい?」

「その変態はお前の父親だったけどな……、もういい。くだらない話だ。はぁ……」


 ……なんかヘビーな話が聞こえたな。


 

「なんだその目は?!同情か?!人間のお前に、異世界人のお前に何がわかる?!」

「……すみません。でも、……いえ、すみません」

「オレはお前らとは違うっ!」


「おっ、オレって言ったな?懐かしいな。情報屋を始めてから変な一人称を使い始めて以来だ」

 ケラケラと茶化すように笑うオニキス卿。

 ……居心地が悪いこと、この上ない。


「もう本当に行きますね。勝手にさせてもらいます」

「うむ!勝手に動いてくれ、我々はキミに併せてうまく立ち回るよ!」

「ちっ、……安心しろ。コイツは頭がおかしいだけで悪人ではない。『常に国のために』を地でいくイカれヤロウってだけだ。……このグラスマンたちはお前を利用するが、お前もコイツを利用しろ。そうすればきっと全てが上手くいく」

「……?なんだ、また戻したのか。このオニキス卿は少し寂しいぞ?」

「うるせぇ!」


 なんだろう、この……クラスの一軍男子がふざけてるせいで教室から出られないみたいな嫌な状況だ。

 ボクは振り切るよう、その場を後にすると、外はすでに真っ暗だった。

 ココまで案内してくれたポートマンが最後に『ポートマン思う。戦う、偉い、間違ってる』と言っていた。あんまり意味がわからなかったけど彼なりのアドバイスだったのだろう。……なんとなくだけど心に響いた。


 

「……遅かったじゃん」

「なんだ、まだ寝てなかったんだ」

「アンタがこんなに遅いのおかしいから心配してたんだけど……」


 ギルドハウスに帰って早々、不機嫌そうなレオナに小言を言われた。

 なんとなく、少し久しぶりに彼女の顔を見た気がしたボクは少し落ち着いた自分にびっくりしたんだよね。


 いつの間にかレオナやココがボクにとって落ち着く場所になっていたなんて。


「で?なにしてたの?」

「……え?いや……あー」

 本当のことを言うつもりはない。巻き込む気もしない。なので嘘を考えるが、口をついた言葉は真実ではあるが、よくないものだった。


「はぁ?!風俗街に行った?!サイテー!死ね!心配して損した!!明日みんなに言うから!」


「明日……うん。おやすみ!」

 ぷんぷんしながら階段を駆け上がるレオナに就寝の挨拶を投げかけ、ボクは部屋に戻る。


 ボクは『ごめん』と心の中で思いながらレオナの部屋の方を見て、着替えを済ませて廊下へと再度戻り階段を降りる。

「また出るんですか?」

 マーヤさんは少し首を傾げる。

「……はい。できたら誰にも言わないでください。絶対戻りますので」

「かしこまりました」


 深く丁寧なお辞儀をするマーヤさんに倣い、ボクも頭を深く下げてからギルドハウスをあとにした。


 向かう先は、王城。


 《ゴーン》がどこに住んでいるのか、ゆいすんがどこに囚われているのか、ボクは知らない。……ということに気づかないまま足早に王城へと向かったのだった。

 


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