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情報屋グラスマン


「……なんで買い物を頼んだのに、手ぶらで帰るだけでなく、訳のわからないお土産を持って帰ってくるのだ!ポートマン、まさかお前っ、このグラスマンの話を聞いていなかったのか?!」


「……ポートマン、忘れてない」


「ウソをつくなぁ!!」

「ポートマン、嘘つかない」

「ウソに決まってる!ならなんで手ぶらなんだ!このグラスマンが『チェダーのためにチーズを買ってこい』と言ったのは確かだ!そうだろ?!」


 放棄されて久しいであろう迷路のような旧地下水路を進むとグラスマンの住処にたどり着いた。そしてボクらをみて早々にこうした言い争いが始まったわけだ。……頼むからボクを巻き込まないで欲しい。


「メガネ困ってる。ポートマン、お客連れてきた。グラスマン怒る、間違ってる。グラスマン褒める、正しい」

「……そうなのか?」

「ええ、間違ってないです。ボクは知りたいことがあります」

「……ふむ、そういえば、お前は《調味料》を召喚できるんだったな。前にここに来た後、《お酢》も召喚できるようになったんだろ?どうだ?《塩》や《砂糖》のようにソレも上質な味わいか?」


 っ、……《お酢》のことを知られてるというのは誤算、というか驚きだ。《塩》や《砂糖》の時と違い、なるべく関係のない他人に知られないよう振る舞っていたつもりだったのに知られているとは……さすが《情報屋》といったところか。


「このグラスマンが知らないことなどない。そうだろ?」


「……では、ボクが何を知りたくてここに来たかは……?」

「ふっ、愚問だな。っと、その前に、……ポートマン!なにを突っ立ってる!?さっさと買い出しに戻らんか!!」

「………………うす」

 不満げに頷き、ポートマンは出口へと向かった。

「ちっ!余計な知恵を付けさせるんじゃなかったな」


 そうやって小さく呟くグラスマンは『まるで普通の人間のよう』に見えた。


「話を戻そう。ハッキリ言って知らん。どうせくだらないこと……じゃないな。そうか、わかったぞ。お前、()()()()から一緒に来た女のコトを知りたいのだろ?そうだろ?」


 ピクッと自らの眉が動くのを感じた。


「あぁ……その反応を見るに、どうやら当たりらしいな。まさに愚問だったな。そうだろ?このグラスマンにかかれば、こんなもの――」

「――教えてください!アナタはなにを知ってるんですか!ゆいすんは今、どうしてるんですか!?彼女は無事なんですか?!」

「ええい!寄るな!鬱陶しい!ニンゲンの肌は好かん!」


《リザードマン》らしくグラスマンは舌をチロチロと出し入れしながら爬虫類の目でコチラを睨む。


「……分かってるだろ?このグラスマンの情報は高いというコトを。……そうだな。塩と砂糖はもちろん、お酢も出してもらおう。この前より圧倒的に『根の深い問題』だからな、ソレら以外にも……うむ。お前の持つ全財産を貰おうか」


「わかりました……全財……って、はああッッ?!」

 ボクはその思いがけない提案に驚き、絶叫する。この声が放棄された地下水路のどこまで反響したことか。


「……うるさい。今のはムカついたぞ?塩と砂糖を樽いっぱい、お酢は瓶に詰めろ、それと全財産。銅貨一枚たりとも値引きはせん。……そうだろ?」


 ……ふざけて……、ないのだろう。

 まだ会うのは2回目だが、なんとなくわかる。この男はそういう奴だ。

「新しい住処の算段は立ってたか?ずっと、長いこといい物件を探していたもんな?……あぁ残念だ。全財産を払ったら借りれないな?可哀想に……。まぁ『アシナコユイ』とやらはもっと可哀想な目にこれから逢うんだがな?そうだろ?」


 悪意に満ちた目、とでも言えばいいのか。

 元々こんな目をしていたとも思うが、目の前のリザードマンは少し口角を上げている風にも見えてきた。


「憎いか?このグラスマンが、それとも『諦める算段』でも立てているか?だとしたら感謝しろ。このグラスマンが無茶な要望を出してきたせいに出来るのだからなっ!はっはっー!ふっ、そうだろ?」


 ――諦める算段。

 たしかに、以前のボクならそう考えていたかもしれない。でも、この地下水路への入り口で誓ったんだ。


「…………ボクは、変わります。変わる、とそう自分に誓ったから」

「……ふむ。面白い、続けたまえ」

「え?!……つ、続けるもなにも……以上ですよ」

「変わる。と言ったのはお前だろ?そうだろ?――さぁ変わった姿を見せたまえ」


 グラスマンはボクの心を見透かすようにジッと見たまま動かず、瞬きすらない。

「……ボクの、ボクの持つ情報を売ります!それにボクの全財産と同等の金額をつけてください!」

「なっ?!……面白い!このグラスマンに情報を売りつけるだと?!はっ、ははっ!あー!」

 甲高い声で膝にを叩きながら笑うグラスマン。


『お前の持つ情報など、俺も知っている。そんなものに価値などない』おおかた、そんなことを思ってるのだろうな。


「……ボクの《新しく召喚できるようになったもの》と《その真の能力》について話します」


「はっはっー……ん?」

 ボクの言葉にグラスマンは笑うのをやめた。

 その目は真剣なものに変わり、丸テーブルに置かれた椅子へと1人戻り、「なにをしてる?お前も座るがいい」とボクに対面へと座るよう促した。


「……さて、はなせ」

 ボクが席につくや否や、前のめりになったグラスマン。


「約束してください、ボクの情報を高く買い取ると」


「……お前とこのグラスマンの違いがわかるか?」

 ……?何を言い出したんだ、この男は?

「このグラスマンは王都でもっとも優れた情報屋として長年やってきた『実績』がある。ゆえに語る前に値を付けられる。だがお前は違う。そうだろ?」


 ボクの話す内容に価値がある『信頼』がないという話か、まったく回りくどい。


「……わかりました。時間が惜しいのでボクが先に話します。値切らないで下さいよ」

「ウソはつかん。それが情報屋の矜持だからな」


 ――そしてボクは《醤油》を召喚できるようになった経緯と、その能力について全て話した。

 《塩》によって水属性の魔法が使えること、《醤油》で時間を止められること、それらが何故発動するのか理解していないことも全て。


「……」


 グラスマンはボクが話している間、ただの一言も発さずに大人しくしていた。相槌の一つもなく、ただボクの目をジッと見つめて……。


「――以上です」 

 とボクが話し終えるとグラスマンが「……レベル6。絵巻物の戯言だとたかを括っていたが、本当だったか」と呟いたのが印象的だった。

 

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