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「テメェ!やりやがったな!冗談じゃ済まねぇぞ!」

 ランドールはボクに殴られた頬へ手を添えながら激昂し、吠える。

 不意打ちのようなカタチで殴り掛かられてすぐ牙を剥く目の前の男。ボクとは違う世界の住人なんだと改めて実感させられた――。


 ――ゴンッ!

 激しい衝撃とともに顔面に激痛、気づくとボクは地面に腰をつけていた。


「いきなり殴り掛かって来といて黙ってんじゃねぇぞ!くそメガネ!」


 殴られた。と気づく間もなくランドールによる追撃が始まる。……結果から言えば、『喧嘩』にすらならなかった。ボクとランドール。そもそもの戦闘能力に大きな差があるのは当然ながら、冒険者としてのランク差、……覚悟の違い。多くの要素でボクは最初から負けていたのだろう。


「……弱えクセに絡んでくんなカスが!」

「ねぇ、ランドールぅなんだったのコイツ?」

「うるせぇ、オメーにゃ関係ねぇんだから黙ってろ!」


「きゃっ!?」


 ランドールは連れ合いの女性が腕にまとまり付くのを嫌そうに払い、女性は突き飛ばされて体勢を崩した。


「……クズだ」ボクは地に付したまま、鼻血の出る顔を押さえながら、思わず呟いた。

 

「あ?!なんか言ったか異世界人!まだ殴られたたんねぇのか!」

「アンタはクズだよ!人として、男として!とうてい許されちゃいけない種類の人間だ!」

 ボクは膝に手をつきながら立ち上がり、啖呵をきる。別になんの勝算もないのに。

 

「ザコが偉そうに説教かましてぇなら実力つけてからにしねぇと痛い目見るってしらねぇのか!?」


 そんな言葉を吐きながら、ランドールは空中を駆け抜ける。

「……って、はあっ?!」

 言葉のアヤじゃない、ランドールは本当に空を走りながらコチラへと《飛び蹴り》を放った。

 ――飛び蹴りの飛びって別に本当に空を飛ぶ必要ないだろ!

「テメェ……なにしやがった!!」

 間一髪間に合った《お酢》の効果でランドールの空中飛び蹴りによるダメージを無効化したボクにランドールは戸惑いに似た感情を露わにする。


「今の感触!人間じゃねぇのか!?」

「……人間だよ。少なくとも、アンタみたいなクズ野郎よりは何倍もマトモな人間だっ!!」

「口だけヤロウは黙ってろってんだ、ザコがあ!」


 殴る蹴る、投げる叩く。

 ランドールのボクに対する容赦ない暴力は、《お酢》の効果で軽減、無効化される。

「……なにこれ?」とランドールの連れていた女性が呆れた様に呟いたのが印象的だった。


「……はぁはぁ……くそ!……テメーから、……始めたクセに……、やる気ねぇのか……よ?」

 殴り疲れたのか、ランドールは肩を上下に揺らしながらため息をついた。

 

「ゆいすんは今どこで何をしてる?」

「……あ?……しらねぇよ!もうとっくにウチのパーティからは追放してる!あんな全然戦闘の役にたたねぇカス!今どこで何してるかなんて知ったこっちゃねーよ!ウゼーな!」

「……カスは……アンタだろッ!」


 ゆいすんが完璧だとは言わない。

 アイドルとしての彼女はボクにとって完璧で究極のアイドルだったが、奇跡的に直接関わることのできたプライベートな彼女は……。

 だからと言って目の前の男に、雑な扱いをされた挙句、捨てられる謂れはないはずだ。


「ったく、本当に嫌いだぜ。テメーみたいな童貞ヤロウは女の顔だけ見てすぐ、惚れただなんだとか抜かして、勝手に盛り上がる。……テメーはなんの関係もねぇだろうが!あの女がオレ様を選んだ、ただそれだけなのになんで殴られなきゃなんねぇんだ」

 

 ランドールは言い訳がましく、そう言うとボクに背を向けた。……ボクは情けないことに、この男の言葉を否定することができない。

 ――思い当たる節があるからだ。


 

「チッ!もういいだろ、2度とツラ見せるな」

「え?ランディ、いいの?アイツ元気なままだよ?」

「……うぜぇ、じゃあテメーがアイツの相手してこいよ。見てわかんねぇのかよ?防御系のジョブスキル持ちだ。……くそっ、無駄に疲れたぜ」


 ……呼び止めることも、後ろから再度殴りかかることも、ボクは選ばない。

 それほどまでにランドールの言葉が深く刺さったからだ。――ボクはなにも関係ないんだ。


 同じ世界からコチラへ来たのは事実ではあるし、それを関係と言えばそうなのだが、コチラへ来たあと、ボクの元から彼女が去ったその瞬間からボクとゆいすんの間に関係はないのだ。


「……帰ろう」


 なんだかドッと疲れた。

 今日はとにかく色んな意味でスッキリしない、嫌な一日だったな。この世界に来て1番、嫌な日だったかもしれない。


 このままギルドハウスへ帰ると、誰になんて言われるか分からない。いつの間にか日が落ちてきたので、帰る頃にはオリヴィアさんは帰っているだろうが、もしタイミング悪くかち合えば、いろいろと聞かれそうだな。


 そんなことを考えていると見覚えのない路に出た。

 帰りたくないという思いが自然と帰路から足を遠ざけたのだろう。

「風俗街か……」


 『童貞ヤロウ』。

 さきほどランドールに言われたセリフを思い出してしまう。

 …………いや、やめておこう。

 こんな所で捨てたとしても、その十字架は消えやしない。それにお金は大事だ。

 …………まぁ、うん。値段くらいは見ておこう。

 別に利用しようとか、そんな感じじゃないけど、社会経験というか、勉強になるし。


 「なんだ兄ちゃん、……?異世界人か?珍しいな!どうした?他国からの遠征か?だとしたらソートー溜まってるだろ?わかるぜ、辛いよな。遠征に来るくらいだ。金も持ってんだろ?ウチで抜いてけよ!かわいい子だらけだぜ!」

 風俗街をおのぼりさん宜しく、キョロキョロしながら歩いていると『キャッチ』とでも呼べばいいのか、そんな感じの男に話しかけられた。

 ボクの事の他国の冒険者と勘違いしているらしい。


 ――うーん、逃げられそうもないし、仕方ないか。

 なんて心の中で言い訳をしながら足を止め、キャッチについて行こうかな。なんて思っていると、男は衝撃的な言葉を吐いた。



「……あぁそう言えば、ついこの前も異世界人の女の子を見かけたけどアンタの知り合いだったりするか?」


 心が騒つくのを感じる。

 くそっ、今日は本当に嫌な日だ。


 

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