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冗談じゃないんですよ


「ここ数日雨なんか降ってねぇんだから、あの水溜りはテメーらのせいだろ!」

「いえ、私たちのパーティに水魔法の使い手は居ません。私は自然魔法、木や土に働きかけるだけですから」

「じゃあテメー以外のやつはどうなんだよ!」


 街道を塞ぐ様に横転した馬車の隣で、さっき通り過ぎた時、ボクらへ向けて怒鳴り散らしていた御者とエヴァさんが言い合いをしている。

 

「こちらは見ての通り狩人」

「狩人でござる」

「あちらは戦士」

 言われたレオナが戦斧を高々と挙げる。

「そして、その横のメガネの男性は……見ての通り召喚術師」 

「んなもん見てわかるわけねぇだろ!」

 ――無理があるか。

「いえ、見て分かりますよ?彼に実際に召喚して貰えば『見てわかる』のでは?」

「……ちっ!確かにそうだな、おいメガネ!こっちに来て召喚術師だって証拠みしてみろ!」

 荒々しい口調の御者はこちらへ手招きしている。

 うーん、ボクのせいであることに相違ないのだから少し気が引けるな。確かに向こうがスピード出しすぎだったし、危険だったのはそうなんだけど。


『……おい、アイツ異世界人じゃねぇか?』

『……みてぇだな。この国にもいるなんて知らなかったぜ。でもよ?無名な異世界人ってことは雑魚なんじゃねぇか?』

 …………横転した馬車の向こう側からそんな会話が聴こえてきた。それはまるでコチラに聴こえない様、内緒話をするかの如く小声で……、なにかよからぬ事を企んでいる雰囲気だ。


「っ、なんだこれは!?」

「《塩》です。……ほら、食べれます」

 御者の男に《塩》を召喚するところを見せ、目の前で口に運ぶ。

「……聞いた事ねぇぞ、なんてジョブだ!?」

「召喚術師【調味料】です」

「……………………はぁ?冗談か?」

 ええ、奇遇ですね、ボクもコチラへきてからずっとそう思っていたんですよ。


「……ぺろっ!これは間違いなく塩だ!しかもかなり上質な舌触り!後に残る嫌な苦みもなくただしょっぱさだけがやって来やがる!」

 回りくどい嫌味なのか素直に褒めてくれてるのか分かりにくいな。

 ――それよりも、馬車の向こうで行われている会話が気になる。


『……なにを騒いでんだ?あんなガキ共ほっておいてさっさと行かねぇと何言われるかわかったもんじゃねぇのに』

『……エルフがいるからだろ?ガキ共だけならさっさと(さら)えるけど、魔法使えるやつがいるとそうはいかねぇからな』

『ちっ、バカの小遣い稼ぎに付き合ってドヤされてたまるか、もういい、行くぞ』


 ()()?、……物騒な言葉が出て来たな。コイツらまさか人攫いか?馬車が壊れた八つ当たりに絡んできていると思ったが、まさかその報復にボクらに乱暴する気か?

 声の感じだと向こうは御者含めて3人、こっちに分があるぞ?


「おい!いつまでウダウダやってんだ!もういいだろ!こっちがスピード出し過ぎて自滅した!それだけの話だ!」

「おいおい!待ってくれよ!オレの馬車捌きは知ってるはずだろ?あの水溜まりが無かったらオレは事故なんて起こすはずがねぇんだ!」

 馬車の影から現れた2人の男は服装こそは高そうな、良いものを着ている。しかし顔のキズや剃り残したヒゲなどの雰囲気から只者ではないことが悟れる。


「……積荷が片方に寄っちまってた。それでいいだろ?幸いウマも無事だし、さっさと行くぞ」

「そうだぞ、()()()をこれ以上待たせると――」

「マダムっ?!」


 その単語にボクとアヤメは反応しそうになるが、間一髪のところで踏みとどまった。

 ……しかし、そうはいかないのがレオナという少女である。

「あ?!なんだテメーら!人の話に入ってくんな!こっちは大人の会話だって……なんだテメーやる気か?」


 戦斧をしっかりと握りしめ、レオナは戦闘態勢に入ってしまった。

 十字傷の男もレオナ同様、武器を構えてしまった。

「……赤毛に異世界人、しかもその斧は『戦斧ティグレ』か。マダムが言ってた『子龍の呼び笛』を使ってボーダーラインを壊滅させたバカってテメーらのことか!」

「おおっ?!コイツらが?!マジかっ!だとしたらヤべーな!テメーらのクビには莫大な懸賞金が掛かってるともしらねぇのか!」

「コイツらマダムに差し出したら『事故』の分のマイナスなんて余裕で返済した上にお釣りまでくるぜ!?ヤバいな!うおー!やる気出てきたぜ!」


「何コイツら、急に……」

 先に武器を手にしたはずのレオナが気圧されて一歩引いてしまった。それもそのはず、さっきまでと違い、男達は3人ともが意気揚々と武器を構え、今にも飛びかかって――。

 

「――まずいっ!」


 

 我ながら無為無策、いや何もしなかったわけではないのでこの言葉を使うのは間違っているな。

 ただの無策。が正解だろう。

「サダオっ!」

「サダオ殿!?」

「……サダオさん」

 レオナに振るわれた凶刃の前に体を投げ出したボクは当然ながら其の一太刀をまともに受ける。


「ちっ、深く入りすぎた」

「コイツはもう助からねぇな。他のやつを攫うぞ」

「ちょうど3対3だ!良いねぇ」

「ばかっ、エルフがいるんだ。油断はするなよ」


 倒れるボクに脇目もくれず、十字傷の男達はレオナ達を舐める様に見ていた。


「…………」

 声が出ない。

 なんだってんだ。

 ……出血が……酷いのか……。

 痛みすら、感じない。


「……ッ!」

 レオナの口が大きく動いたのが見えた。


 なにか……なにか叫んでる。

 バカっ!とか……そんなところか?

 ……またカミサマ(仮)の……ところへ……。

 ……は、いけないのか。……あれは、前のが最後だっけ……。自分でどうにか……しないと。


『こんなところで終わるなんてバカみたいじゃないか』


 ――なんだっけ……。

 誰に言われた言葉だっけ?


 ――あぁ違う。これは文章問題の解答を……途中でやめてしまった事を……父に責められた時の言葉だ。


 今際の際に……思い出すには苦い思い出だな。



 …………もっと甘酸っぱい思い出が……ボクにあれば……こんなときに……最後の力を振り絞る、……糧になったかも……。


 一つでも……たった……一つでも。




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