成功と失敗
ボクらは昇格クエストの対象を危なげなく排除した後、討伐の証拠を集め、王都へと戻っていた、これはそんな道中の会話だ。レオナとアヤメがこれまでの思い出話をし始めたのが聞こえてきた。
「あー!終わった、終わったぁ!これであたし達も晴れてアイアンランクの冒険者ってワケ!長かったなぁ!」
「長かったでござるか?オリヴィア殿は破格のスピードって言ってたでござるよ」
「体感の話!それに言うじゃん、『鉄までは命知らずなら誰でもいける』って」
……聞いたことない。
けどきっとそう言う慣用句が言われる程度のものなのだろう。コチラの世界の人たちは逞しいからな。
「『銅は誰でも、鉄は命知らず、その先は死にかけの亡霊か本物の勇者か』、という話は聞いたことがありますね」
エヴァさんはそう言った後小さく『頭の軽い自称勇者がよく自慢するように言ってましたよ』とため息混じりに呟いたのが聞こえた。
ボクにしか聴こえないほど小さな呟きだったのでレオナとアヤメは気にしてなさそうに話してる。
「あーそうなんだ、じゃああたしたちの……が問われるのはこれからってワケか」「……真価が問われるでござるな」「それそれ!」
なんて本当に普通の雑談だ。しかしボクはそれに興じるわけにはいかない。
エヴァさんは歩調を落とし、レオナたちの後ろを一人歩いていたボクと並行して歩く。
「……で?どうです?進捗のほどは」
「まだ、……少ししか……」
「うーん。どこかでブレイクスルーが起これば良いんですけど、簡単にはいかなそうですね」
ボクの両手のそれを見た後、『まだまだ殻は破れなそうですね』と肩をすくめた。
……ボクのこの手のひらにある、一口で飲み干せるほど少量の水はボクが魔法で出したものだ。
「何度も説明しましたけど、魔法はイメージですからね。……塩、海、水。何度も繰り返し脳内で反芻していますか?」
エヴァさんの言葉にボクは無言で頷く。
「これ以上のアドバイスは余計な先入観に繋がり、マイナスに働く恐れがあるので控えますが、あまり大仰に考えないことをお勧めします。貴方が魔法を使えないままでも、誰一人困らないのですから。――なんか冷たい言い方になってしまいましたね。言葉通りの意味なので他意はありませんよ」
「……そうですね。そう言ってもらえると少し肩の荷が下りたような気になりました」
人によっては突き放すように聞こえたかもしれない彼女の言葉は、事実ボクの心を軽くした。
ボクは、明らかに仲間たちとボクの間で戦力の差がどんどん開いていく、この状況に気負いすぎていたのかもしれない。
「ボクが魔法を使えなくても誰も困らない」
言われた言葉を復唱する。
「……ごめんなさい。私の言い方が悪かったですって、恨みがましく繰り返さないでください」
気を悪くしたのかエヴァさんが申し訳なさそうに眉を顰めて謝罪した。…………のをボクは気に留めず集中する。
「みんなじゃない、ボクが必要なんだ!この魔法は……ボクに必要なんだ。ボクがここにいる理由、ボクが戦力になる。ボクを必要として欲しいんだっ!」
「……サダオさんは《塩》や《砂糖》で充分戦力として貢献していると思いますよ。直接言われることは少ないかもしれませんが、レオナちゃんやアヤメさんも同様に思ってるはずです。《調味料》のバフはもちろん私たちの食生活に於ける貢献……、まぁ私はレオナちゃんの様に食い意地が張ってるわけではないのでそこまで重要視していませんが……冒険者としてクエストをこなす上で遠出をした際の食事のバリエーション、味変が――」
何やらエヴァさんが嘘をついてる。
――貴方はその細い体でボクの数倍は一度に食べるじゃないか!
なんてくだらないツッコミを今は封印する――。
「……な、なんと……」
「え?!なにこれ?!サダオがやったのっ!?」
「凄いでござる!凄いでござる!」
前を進んでいた2人も事態に気づいてきた道を戻ってきた。
――くだらないツッコミをしてる場合じゃない。
「おめでとうございます。ついに来ましたね、ブレイクスルーってやつが」
パチパチと手を叩いて祝福してくれるエヴァさんにボクは水浸しでビチャビチャになりながら笑顔で応える。
「……で?ブレイクスルーってなんだったの?」
それは分からない。
何がキーになって《水属性魔法》を操れたのか。
「前に使えた時と条件が違いすぎて……。……もしかしたら、必要だって思ったからかも」
「「「???」」」
三者三様の表情で『なにいってだコイツ』と訴えてくる。
そんな表情を浮かべていた癖に、1人すぐ理解したのか訳知り顔に切り替えたエヴァさんが『まぁ言語化が難しいのは分かります』とか言ってた。ここ数週間だけの付き合いだけど、この人結構テキトーな人だよなって最近わかりはじめた。
「退いたどいたーー!!」
街道で立ち止まっていたボクらが悪いとはいえ、ぶつかるかぶつからないかの瀬戸際、な距離を馬車が過ぎて行った。それを睨みつけながらレオナが悪態をつく。
「なにあれ?バカみたい、スピード出しすぎ――」
どかっーん!
緩やかな曲がり道を曲がりきれず馬車が横転、積荷を積んでいたであろう荷車が崩壊した。
「……これさ、サダオの出した水のせいじゃない?」
レオナがいっちゃいけない事を口走る。
あぁそうさ、ボクもちょっとそんな気がしてた。
「なんにせよスピードの出しすぎでござるよ」
「私もそう思いますよ?まぁ原因の1つにサダオさんの出した水が関係してるとは思いますけど」
エヴァさんがパーティ加入直後、ボクは自身の《ジョブ》についてと、一度だけできた《水属性魔法》について話した。すると『訓練は続けるべきですね。魔法のことなら私は一家言あるので聞いてください』。そんな優しい言葉をかけてもらえた。
そして『訓練は城下町の外だけにしましょう。ゴブリンの攻撃を受けられるほどの《水の壁》をいきなり生成できたのなら、誤発動が怖いですからね』とも言っていた。
『そもそも発動しないんだから誤発動なんて――』と思わなくもないが、怒られそうなので言われた通りボクは城下町の外へ、クエストで出る生きと帰りだけ練習していたんだ。
……それなのに……まさか。
「で?どうするの?」
「目の前で事故を起こしたでござる。見捨てるのも後味は良くないでござるよ!」
「そうですね。助けるべきでしょう」
自分の魔法により事故が起きたことで、ボクは頭が真っ白になってしまった。
「……サダオ!サダオッ!」
レオナがボクの腹部に軽い正拳突き的なものを入れるまで、どれくらいの時間がかかったか分からない。
一瞬か、……数瞬か。
「何惚けてんの!アンタがリーダーなんだからシッカリしてよ!」
「ごめん……」
「で?どうすんの?憲兵に突き出して終わりじゃあたし達、ムカッ腹が収まらないんだけど?」
?、何を言っているんだ?
レオナに連れられる形で事故の起きた馬車の元へ近寄ると、そこには………………。




