新しい仲間と、そして
「仲間になるのはわかりました。コチラとしてもこの先のランクへ行く上で戦力が足りていない自覚があったのでありがたいです。でもその前に聞きたいことがあります、……その大婆様の仰った『予言』ってなんか、……その……」
ボクは焚き火を囲み、焼いたディアトリー肉を食べているエヴァさんに言葉を選びながら話しかける。
ボクだけなんか食べる機会を失っているなぁなんて考えながら。
「《未来視》なんて大仰なものというより『まぁ、そりゃそうなるだろ』って感じですよね?私もそう思いますし、父も同様に言ってました」
「ええ?!ゴホッ!ゴホッ……。はぁ、そんなエル、じゃなくて……エヴァさんやそのご家族は森林教ではないのですか?!」
レオナが大慌てで肉を詰まらせながら立ち上がる。
「森林教徒であること、と大婆様の予言をどう捉えるかは関係のない話ですよ。そもそもアレは『予言』だの『未来視』なんて呼ぶほどたいそうなものでもありません」と冷静に言われたレオナは黙って座り直して不満げな顔で食事を再開する。
――ボクもエヴァさんとおおかた同意見だ。なぜそこまで全幅の信頼を得るに至ったのか、を知ったから多少は理解できる。しかし未来視なんて言うが、その実は想定できる範囲を逸脱してないと思う。
「サダオ殿、どう言う意味でござるか?」
先程までずっとディアトリーの解体作業に忙しくて話の流れを掴めていないアヤメにボクは今まで聞いてきた話を復習がてら説明する。
「――……なるほど。そういう話でござるか」
「どうもボクには『普通の想定』レベルにしか感じないんだよね」
「ん?サダオ殿はエヴァ殿と同意見でござるか?」
「うん、だってよくある話っていうか、エヴァさんも言ってたけど『そりゃそうなるよ』って話でしょ?人間が今、手を入れてない場所って要はモンスターとかの生息域だったりする可能性があるわけだし」
「うむ……そうでござるな」
「つまりモンスターが王国の領土拡大の為に『そこ』を追われる形になれば逆襲に出るのは想定出来るよね?彼らは普通の動物よりも知能があるわけだし」
「もちろん。そしてそうなれば、拙者たち冒険者の出番でござるな」
「冒険者だけで済めばいいよね。だけど王都やその他の都市みたいに冒険者が常駐してない場所もあるわけじゃない?」
「そこはほら王国の兵士とかが出ればいいじゃない!他国の冒険者とかも来るだろうし!なんも問題なくない?」と少し苛立った語気でレオナ。
「そうすると王都は手薄になり、他国の間者が入りやすくなりますね」
「間者……?」
レオナは間者という言葉に聞き覚えがなさそうだ。純粋なレオナらしいと言える。
「回し者のことでござるな。王都の内情を探り、他国へと情報を流すような不届きものでござるよ」
「へー……まぁ知ってたけど……」
良くないな、知ったかぶりはよくないよレオナ。
「と、まぁこんな感じで連鎖的に色々起きるだろうなってことは普通に予見できるわけだから、その大婆様の《未來視》ってやつがあんまりその……」
「――別にそんなに大したもんじゃないんですよ。あの婆様は長命種の中でも長生きしてるから色々知ってて賢い。そこは凄いとは思いますけどね」
なんかヤサグレた感じで吐き捨てるようエヴァさんはそう言う。
よほど好きじゃないんだろうな。
「まぁそう言われるとそんな気がするでござるな。あくまでも想定がすごいと言うか……」
「でも!あのバカなナンパ男は私のことを『陰謀論者』だなんて言葉で罵って!――」
「――ちょっと!いきなりヒートアップしないでください!落ち着いて!」
『あのバカなナンパ男』とはランドールさんのことだろう。確かに嫌な別れ方をしたのをボクも見ていたが、意外と執念深いというか……。
「――はぁ、……なので私はもう《森林教のエルフ》という役から降りたいんですよ。普通の人として生きたいと言いますか、まぁそんな感じです」
「……だから冒険者にってことなんですね」
「そうですね。もうあの村には居場所が無いし、居たいとも思わないです。王都での生活にもようやく慣れたので」
エルフの村は《村》と呼ぶには大きかった。しかしそれは王都のような巨大な街と比べる流石に……。
「王都で暮らすのならやはり冒険者でしょう。よそ者かつエルフの私にはそれくらいしかマトモな選択肢はないですからね」
少し遠くを見るエヴァさんの瞳からは寂しさのようなものが感じ取れた気がする。
「どうせ冒険者を始めるなら、今までのように強者の元でおこぼれに預かるのではなく、シッカリ下のランクから色んなことを学び直したいと思いました」
……『おこぼれ』なんて本人は言うが、過去に2度彼女の戦闘を間近で見たボクからすれば、彼女はすでに一人前。ボクらの誰よりも強者だと思う。
「ここで逢ったのも何かの縁ですし、私をパーティに入れてもらえますか?」
ようやく真っ直ぐ聞かれた気がした。
……荷車に乗り込んでたわけだから《逢った》も《縁》も関係ない気がする。
けど……。
「その言葉を待ってましたよ。もちろん、こちらこそよろしくお願いします」とボクは即答した。
「戦略がかなり増えそうでござるな!」
「……よろしくお願いします」
レオナはどこかまだ、ぎこちない様子だが、きっと彼女のことだ、すぐに慣れるだろう。
というボクの想定は当たった。
エヴァさんがボクらのパーティに加入後いくつかのクエストを受けたのだが、それら全てで彼女は活躍した。単純な魔法の強さもそうだが、長年生きてきた長命種ゆえの知識、単純な戦闘センス。そのどれもがボクらとは格が違ったのだ。
その力を目の当たりにしたレオナはエヴァさんを『森林教のエルフ』ではなく『頼りになる仲間』と認識をアップデート。今では……「エヴァさん!エヴァさん!これ見て!」「……?新しいブーツですか?」「そう!軽さとグリップ感が上がってるんだって!良くない?!」「ええ、良いと思います。歩きやすいですか?」「うん!とっても!」
――なんて雑談をするほど懐いてる。
加入当初は無理に馴れ馴れしくしたり、前のみたいに過剰な崇め奉りをしていたのだが、今はまるで……歳の離れた姉妹かなにかのようだ。
「何を見てるでござるか?」
(自称)優しい目でレオナとエヴァさんを見ていたボクに気がついたアヤメが振り向き声をかけてきた。
「いや、微笑ましい光景だなって」
「?……あぁ2人のことでござるか。たしかに、最近とくに仲良いでござるな!良いことでござる」
「そうだね。パーティ内に不和がないのは良いことだとボクも思うよ」
「鉄ランクからはほぼ全てのクエストで戦闘が予想されることになるでござるからな。コンビネーションがキモでござる」
「……うん。気を引き締めていこう」
《鉄ランク昇格クエスト》
『西側街道に作られたオークの巣を壊滅せよ』
「『せよ』って書いてあったのが気になるなぁ」
「王国側からの依頼みたいでござるよ?」
……ついに個人依頼以外のクエストが始まるわけか。……何が違うのか知らないけど。
「まぁ拙者達ならきっと平気でござるよ」
「……だと良いけど」
慣れたのは事実だし、最近は快調だ。
だからこそ足元を掬われそうな形容し難い感覚でゾワゾワする。こういう時に限ってなにか想定してなかったことが起きるんだ……。
残念ながら、ボクのこの悪い予感は半分だけ当たってしまったのだった。




