エルフのエヴァさん
アヤメの捌いてくれた肉に片っ端から《塩》を塗して焼いていく、胡椒があったらイイのになって思って試したけど上手くいかなかった。
辺り一面に新鮮な肉の焼けるいい匂いが充満すると、「あぁなんてイイ匂いなのでしょう」なんて言いながらエヴァさんがやってきた。
「コレを今持っていこうと思ってました!」
レオナは『味見♪味見♪』なんて言いながら奪った骨付き肉をエヴァさんに差し出す。食い意地汚いレオナが手に取った食べ物を他人に渡すとは、それだけで彼女の忠誠心、信仰心が垣間見えた気がする。
「前から言おうと思っていたのだけれど、その、私がエルフだからと言ってあまり気を使わなくて良いんですよ?えっと赤毛の……」
「レオナです!」
「レオナさん、貴女は森林教の悪い側面に触れすぎです。別にエルフが偉いだなんて、そんなことは決まっていないのですから」
少し離れたところから聞こえてきた会話は、とても興味深いものだった。ボクは焦げない様、肉を見るという大事な仕事よりも2人の会話に集中してしまう。
「ですがっ――」
「――お願いします。私を普通の人間のように扱ってもらえませんか?居心地が悪いんですよ。……人間様なんて呼ばれて貴女は良い気がしますか?私はエルフではありますけど、『エヴァ』という名前を持った一個人でしかないのですから」
エヴァさんはそう言って地面に手を向けると魔法陣が現れ、切り株の様なものが地面からせり出てきた。彼女はそれを椅子がわりに座り、食事を始めた。
――確かにな、ボクも異世界人だの転移者だのって呼ばれるけど別に嬉しくなんてない。それどころか言われる度に『あぁ、ボクはよそ者で違う扱いなんだ』と再確認させられるくらいだ。
「コレからは同じパーティメンバーなんですから、ぜひ対等に扱って欲しいです」エヴァさんは肉に口をつける直前で思い出した様に止まり、レオナにそう言った。
「そんなっ、対等だなんて……」
「対等、いえ……私は新人になるわけですし後輩として扱ってもらっても構いませんよ」
……レオナが困ってるそりゃそうか、いきなりあんなこと言われたら誰だって困るわなぁ。
「あの、……サダオ殿?」
「ん?どうしたアヤメ」
すぐ近くで解体作業に勤しんでいたアヤメが、羽毛や血などによる感染対策で着けていた口元の布を外しながらコチラへやってくる。
ディアトリーはその巨体に見合った血液量を保有していたらしく、B級スプラッタ映画ばりに血みどろのアヤメがナイフ片手に寄ってくる様はとても恐ろしいものに見えた。
「あの、拙者が聞き逃していたのだとしたら申し訳ないのでござるが、その……いつからあのエルフ、エヴァさんはウチのパーティに入ることになっていたでござるか?」
……………………………………本当だぁ。
「なんか聞き流してたけど、そうだね!そんな話してなかったよね!」
「そうでござるよね?!拙者の間違いじゃないでござるよね!良かったでござる!」
「ちょっと!何急に騒いでんの?!」
美味しそうに肉を頬張るエヴァさんの元からレオナがこちらへ文句をつけてくる。
「人の食事中に騒がないでよね?!」
「んー!野生味のある良い味です!塩が効いてますね!!美味しい!」
レオナやボクらの事など意に介さぬと言わんばかりに食を進めるエヴァさん。
「あの、その……食事中、申し訳ないんですけど、エヴァさん。さっき貴女、ウチのパーティに入るとかそんなこと仰ってませんでしたか?ボクの聞き間違いならいいんですけど――」
ボクは恐る恐る訊ねる。
「はぁ??」とレオナは呆れた様にため息交じりに言った。一番近くにいたのに聞こえてなかったのか?!
「言いましたよ?」
「あの、……えーとっ――」
「――え?!うちに入ってくれるんですか?!」
なんて言ったら良いのか言葉が浮かばずまごつくボクを押し退けて、切り株に座っているエヴァさんの元で膝をつく。……まるで騎士か何かのように。
「でも、そういうのはやめて下さい。本当に嫌です。対等にお願いします」
「……え?そういうの……?」
エヴァさんの言葉をレオナは理解しきれていないらしい。
「……レオナ、その傅くようなポーズのことだと思うよ。ボクらを相手にそんなことはしないだろ?」
「なっ?!……」レオナはボクの言葉でピンときたのか立ち上がり、バツの悪そうな顔をした。
「森林教ってなんなんですか?」
ボクはふと、疑問に思っていたことを口にした。
「……失礼を承知で言うと、少し歪んで見えますよ。絶対的すぎると言うか……階級制?とでも言えば良いんですか?」
「ここまでの道中、貴方たちが話していた通りですよ?」
……道中ってこの人やっぱり、『エルフの村』からずっと荷車に乗ってたんだな。
「……ずっと荷車に乗ってたでござるか?!」
「…………」
アヤメの言葉をエヴァさんは無視する。
「その話は今いいじゃない」レオナはまだ自然とエヴァさんを擁護する。
「まぁそうでござるけど……、はぁもういいでござる。ここはリーダーであるサダオ殿に任せるでござるよ」アヤメはそう言って解体作業へ戻った。
「ボクに一任されても……ってええ?いつからボクがリーダーになったの?!」
そもそもボクらにリーダーなんて必要ないじゃないか。どうせ都合が悪いと2人とも無視するんだから!と思ったが流石に口にしない。『何を言わないかが品性』ってやつだ。
「リーダーなの?メガネ……あれ?貴方メガネは?してたよね?私の勘違いだったかしら?」
「すみませんエヴァさん、話がブレるんでやめて下さい」
「あたしはサダオがリーダーでいいと思う」
「当然ながら拙者もでござる。拙者たちはどこまでいってもサダオ殿の召喚した《調味料》ありきでござる故」
意外なことにレオナも賛同していた。
「……アヤメのいうとおりなんだよね。結局、あたしもアヤメも『ジョブ適正』に適った戦い方じゃないわけだし……」
「その『差』を埋めてくれてるのはサダオ殿の《調味料》なわけでござる。したらばリーダーはサダオ殿ということになるのは必然でござる」
2人は勝手に頷いてる。……なんか面倒ごとを押し付けられたような感じがしなくもないが。
「……笑ってるの?」
骨についた肉を嬲るように舐め回すエヴァさんがボクの顔を見てる。
……ボクが、笑ってる?
「そうかもしれないですね。誰かに頼られたりするのは人生において初めての経験なので」
「なんか辛い人生だったようですね?――お肉新しいの焼けてませんか?持ってきて下さい。これも貴方を頼ってますよ?」
そういうんじゃないんだよなぁ。
「……はい」
「ありがとうございます。これ本当に美味しいですね」
「それはよかったです。……話を戻しますけど本当にウチのパーティに入るんですか?たしかエヴァさんは元々、銀ランクの冒険者でしたよね?ボクたちはまだルーキーから上がったばかりですよ?」
「……。さっき貴方たちが話していたとおり、私には役割がありました」
肉を頬張りながらエヴァさんは身の上話を始める。意外とこの人喋り方の割に、お高くないっていうか庶民的だよなぁ。
「10年前、魔王アスペルギウスが復活したと言われた頃、私のような見目美しいエルフが集められ、『魔王へ挑む実力と覚悟のある人間の仲間になること』という役割を与えられました」
「自分で言っちゃうんだ」
「そりゃ事実なんだからいいでしょ!」
思わず口をついたツッコミのせいでレオナに小突かれる。……見目美しいなんて自分で言われたらツッコんじゃうだろ。
「す、すみません、その役割って要は『予言?』で言われた『人間のせいで世界が崩壊する』とやらへの武力的な対抗手段って意味なんですか?」
「……そう思われるのも当然ですね。実際のところは、魔王を倒すことにより得るであろう《褒賞》が目的です」
っ、ボーナス?!ボクがあのカミサマ(仮)から授かったものと同じ名称だ。
「そもそも、人間による崩壊については――」
「――何も知らないです」「あたしもです」
小国、であるはずのクレッセントがなぜ世界の崩壊に繋がるのか、ボクたちは何も知らない。
「大婆様曰く、クレッセント国王は領土拡大を計画しています。自身の治める国が他国から小国であると思われていることが耐えられないのでしょう。小さい男です」
一言余計だなぁ。まぁ同感だけど……。
「それゆえ数年以内に国内の整備、無計画な森林伐採、開墾、開拓などの手段に出て、その際多くのモンスターを刺激してしまい国内は大いに荒れるでしょう」
ん?…………ん??
「それに連動するよう他国も動き始め、人類は未曾有の戦争状態に、魔王もその機を逃さまいと――。どうしましたか?手を挙げてどうしたいんですか?」
ピンと夜空に向けて手を挙げるボクにエヴァさんが指をさす。
「これは発言したいアピールです」
「許します。メガネの……ってなんでメガネやめたんですか?」
「それはもういいじゃないですか、……はぁ、さっきのディアトリーとの戦闘で落として壊れたんですよ」
ボクは大切な親友の亡骸をエヴァさんにみせる。
「レンズはどうなんですか?」
「……問題ないっぽいですね」
「では直しましょう」
「……?」
そう言うとエヴァさんはボクの宝物に手をかざす。すると魔法陣が浮き出て地面から木の根がウネウネと踊るように生えてきた。
「な、なにをしてるんですかっ?!」
「木製でも構わないですよね?大事なのは見えること、かけられることなわけですから」
ボクの手元で壊れていたメガネはあっという間に木製のものに変わった。……スーパーダサいけどありがたい。
「で?えーと木製メガネの……」
「サダオです」
「覚えにくいですね」
「仲間になるつもりなら覚えて下さいよ!」
「……失礼しました。貴方の言うとおりですね。ダサオさん、話を戻してください」
「……サダオです」
久しぶりにその間違いされたよ。
「……はぁ、じゃあ戻しますね」
今更だがレオナがずっとおとなしいな、と思ったら当たり前のように、この場から離れて肉を食べていた。ズルい、ボクだって食べたいのに。
「あちらに移動しましょうか?冷えてきましたし」
ボクがそういうとエヴァさんは立ち上がり、地面に生えていた切り株はそのまま残った。
ボクが不思議そうにそれを見ていると「あれはそのうち普通の木として生えるんですよ」と教えてもらえた。すげーな魔法って。
焚き火の近くに移動し、エヴァさんがまた切り株の椅子を魔法で作ってくれた、今度は四つ。
ボクらが座る分もだ。
解体作業をあらかた終え、体をキレイにしてきたアヤメも戻り4人全員で焚き火を囲む。
「改めて自己紹介しますね。エルフのエヴァです。ジョブは……人間で言うところの『魔法使い【自然】』。木属性や土属性の魔法で、植物を操ったり地面を操作したりなんかが出来る、って知ってますよね?これからよろしくお願いします」
エヴァさんが頭を下げたのを見てレオナが大急ぎで真似する。
……入ること確定なんだね。
まぁありがたいんだけどさ。




