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ハンティングインザナイ


 ボクとレオナ、アヤメの3人は空腹でフリーズしたエヴァさんを野営地に残したまま、夜の丘陵を探索していた。

 

 土地勘のない場所ではあるが、コチラの世界の夜は向こうと違い、わりと明るい。空気が澄んでいるのかもしれないし、もしかしたら月の大きさなんかが違う可能性もある。とはいえ安全のために松明は必須だ。……この辺りは本当に何もないので王都よりもさらに明るく感じる。


 そんなことを考えながら、ふと上空を見上げて満点の星空が放つ眩さに感嘆の声を上げると「星なんて見たってお腹は膨れないんだけど」と怒られた。

 レオナは《森林教徒》だからエルフであるエヴァさんに尽くすとか言ってたけど、実際のところ自分が腹減ってるだけなんじゃないかなってボクは思う。

 ……だって、なんかカリカリしてんだもん。

 

「ごめん。……でもさ、こんなに見つからないものなんだね。もしかしてモンスターも寝てる?」

 もう、かれこれ小一時間は歩き回っているのに何も見つからない。

 

「寝てるのは間違いないでござるが、それ以上に夜なこともあって痕跡が見え難いのが問題でござるな」


 遠く、辺りを見渡そうと姿勢良く歩くボクやレオナと違いアヤメは中腰で視線を下に向けて歩いている。

「痕跡……」

「日中なら見える足跡はもちろんの事、糞や食事の跡、草木の倒れ方なんかで大体の居場所が推測できるでござる。しかし、今は夜の暗さがそれらを隠してるでござるな」

 さすが元狩人、……よく考えたら彼女1人に任せといた方が効率よくない?という邪な思考が湧きかけた。

 

「……、」アヤメが無言でコチラを見て頷いた後、進行方向を指差した。

 ボクには見えない何かを見つけたらしい。


「……羽根?」

 先に進むアヤメが何か拾った。それは大きさにして約1メートルほどにもなる大きな羽根だった。

「……ノーブルディアトリーの羽根でござる。拙者達、知らぬ間にヤツのナワバリに入ってしまったやもしれんでござるよ」

「……ナワバリ」

 ディアトリーは確か、王都でよく食べられる食材になっているハズだ。家禽(かきん)として飼育されてるとかって話だったが……。

「《ノーブルディアトリー》、いわゆる野生のディアトリーは超がつくほど危険でござる。いつ襲われてもおかしくない程、獰猛で好戦的。2人とも戦闘準備を――」


 と、コチラへ助言してる最中、アヤメが目の前から消えた。


 大きな衝突音。

 遅れて感じた風圧。

「ぐはっ……」という吐き出すようにアヤメの声が聞こえたのだが、ボクもレオナもそちらへ駆け寄れない。

 アヤメを押し退け、その場に居座る怪鳥がコチラを睨みつけているからだ。


「ぐふっ、……はぁ、はぁ」

 というアヤメの呻き声だけが静寂に包まれた闇の中で響いてる。手に持った松明をアヤメは落とした。

 ノーブルディアトリーと思しき怪鳥は火など恐れていないらしく、『カチカチカチ』とクチバシを鳴らす。その生態に明るくないが、これが威嚇行為の一種だという事くらいは理解できた。


 ……それにしてもデカい。ボクの頭よりも高い位置から頭を降ろしてコチラを見てくる。クチバシだけでレオナの上半身ほどの大きさだ。

 名前からディアトリマを想像したが全然違う。

 羽をバサバサと広げてさらに威嚇行為を続ける怪鳥。その羽はおよそ『飛べない鳥』の退化したそれとは違い、数メートルはありそうだった。


『キピイィィィ!』

 と甲高い声で叫んだディアトリーにレオナが松明を投げつける。

 投げられた松明に臆する事なく頭でうまく弾き、そのまま走り出すディアトリー、標的は松明を投げたレオナではなく何もできずに立ち尽くしたボクだった。


「ごげっ!?」

 言葉にならない言葉が口から漏れる。全速力で突っ込んできたディアトリーにボクは轢かれた、いや、撥ねられた。その衝撃でメガネもどっかに飛んでいってしまった。 

 ぶつかった衝撃でメガネ同様ボクは宙を舞い、……まるでゴムボールのように地面を跳ねて着地する。


「間に合ったか……」

 ぶつかる直前、親指を口に突っ込んで《お酢》の召喚を試みたのだが、どうやら上手くいったらしい。

 恐ろしいほどの即効性。

 

 ゴムにんげ……っとそれはマズイ。『スーパー体柔らか状態』になったおかげでダメージは擦り傷を除けば皆無だ。

「サダオっ!」

 レオナがコチラとは少しズレた方向を見ながら大声で叫んだ。ぶつかった時に松明を落としてしまった為、コチラが見えないらしい。

「大丈夫!《お酢》が間に合ったからダメージはない!」

「拙者も《塩》を持っていたおかげで、なんとか回復してるでござる!」

 暗闇の中からアヤメのそんな言葉が聞こえた。

 よかった。まだ全員戦える!

 とはいえ相手はボクらの誰よりも大きいし機敏だった。ボクの落とした松明の周りにいるディアトリーを見ていてもボクには戦略なんて……。


 鳥?夜?……鳥目!

「そうだ!そうだよ!ディアトリーは鳥なんだから火を消せば順応が遅れて見えないハズ!アヤメ!レオナ!松明の灯りから離れるんだ!」


 こんなに良くできた作戦を思いついたのはコチラに来て――――初めてかもなぁ。なんて思いながらボクは暗闇の中、空を舞う。夜風が寒く冷たいし痛い。冬が近いんだ……ろう……なっ!

 っとボクは地面をゴロンゴロンと転がりながら考えた。


「人の思考中に突進してくるな!」

『ピギィイイ!!』

 ディアトリーは突進攻撃の効かないボクにお怒りのご様子。この隙にレオナとアヤメは松明を地面に差し込みでもしたのか暗闇の中へと姿を消した。

 月明かりのみでも明るいが、それは人間だけの話だろう。鳥目のディアトリーは果たしてどうか――。


「ごへぅ?!」

 またかッ!!――だから人が頭ん中で色々考えてる最中に攻撃してくるな!って――ヤバい!

「うわっ!?ひえっ!?くっ!おおっ!ほっ!」

『クエッ!クエッ!クエッ!クエッ!クエエッ!』

 倒れてるボクに向けてディアトリーはクチバシをハンマーみたいに何度も啄む様、叩きつけて攻撃してきた。ボクはそれを側方に回転しながら避ける!《ローリングエスケープ》!!間一髪!てゆーか肩に掠った。

 ……固く重いのであろうクチバシの刺さった地面が綺麗に抉れてる。《お酢》のチカラはあくまでも打撃系にしか効かないっぽいし、「当たったら死んじゃうだろ!」

 ボクは体勢を立て直しながらディアトリーに文句を言うが相手は意にも介していない様子。


 てゆーかコイツ、鳥目じゃないのか?!

 それとも目以外の何かでコチラを感知してる?鳥と言えば目がイイという向こうの世界での常識に囚われていたボクは思考が追いつかない。

 …………もしそうなら……ボクらは光源を失い、ただ単に窮地に陥った?!


 レオナとアヤメの助けは来ない。

 さっきまでは眩しいくらいの月明かりがあったのに、都合悪く今は雲に隠れてしまったからだ。

 ディアトリーの荒い息遣いが聞こえるだけで宵闇に包まれたボクは今にも漏らしそうだ。幸い、向こうもコチラの細かい位置がわからなくなってるらしい。

 

 ……ていうかボク、こっちに来てから何度漏らした?


「サダオ殿!()()が整いましたでござる!!」


 アヤメの声が、声だけが聞こえた。

『準備』とは――、おそらくいつものコンビネーションのことだろう。


「ボクはここだっ!!」

 ボクはアヤメの声が聞こえた方に向けて大きく声をあげ、ポケットに入れておいた金平糖を数粒、雑に掴んで口へ運ぶ。当然、ボクの叫び声はディアトリーにも聞こえ、詳細な位置がバレた。


『グゲェェ!!』

 ドッドッドッ!と重い足音がコチラへと向かってくる。宵闇に慣れた目が威圧感の正体を捉える。


「『蒼天一撃(ブルーインパクト)』!!」

 青白い光がそんな言葉と共に突如現れ、辺りを眩いくらいに照らす。アヤメのスキルだ。

 ()()()()()矢は地面に突き刺ささる。きっと間違ってボクに中るのを避けて地面を狙ったのだろう。

「ディアトリー、お前はもう終わりだだだだダダダダダダ!!!」

 地面に刺さった矢から放たれてる青白い光が連結し、辺り一面に《麻痺効果》を発生させた。ディアトリーは痺れて倒れ込む!そしてもちろん、ボクもその範囲内にいる!

 痛くないけど体は痙攣し、痺れて動けない。倒れたままボクは目だけで戦況を見る。

 

「みーつーけーたー!!」

 今度はレオナの声。頼む!君の火力にかかってる!


「うおおぉぉぉ!!」

 アヤメのスキルによって照らされたディアトリーの上空から落ちる様に現れたレオナ。《砂糖》で強化された身体能力をフルに活用し跳躍したのだろう。


 左手でグリップ――つまり握りの部分の端を持ち、右手はポール――つまり柄の部分を握っていた。左足を大きく引きながら回転する力も加えて全力の一撃。


『グエッ!』

 と大きく短い断末魔を残し、ノーブルディアトリーは、その生命を散らした。……散らされた。

「一撃!一撃だよ!見た?!」

 レオナは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる。

「流石でござる!」

 アヤメが火をつけ直した松明を持って寄ってくる。

「ほら、前に言ったろ?」

「『命を奪ったんだから敬意を示す』とかってやつ?意味あるのそれ?お互い奪い合ったんだから必要なくない?」

 ディアトリーの落ちた首に手を合わせるボクをレオナは相変わらず不思議そうな目で見る。

 これをし始めたのはアヤメの影響だ。

 猟師として働いていた彼女とその一族の伝統らしい。

「やりたい人がやればいいんでござるよ」

「なにそれ?!あたし別にやりたくないなんて言ってないんですけど!」


 お子様(レオナ)をコントロールするのはボクなんかよりアヤメの方が得意だ。

 その証拠にレオナがしっかりと両手を合わせてる。


「気づいてないみたいだから教えてあげるけど、アンタ今、『失礼なことを考えてます』って顔してるからね」

「……そんなことないんだけどなぁ」


「あれ?そう言えばアンタ、メガネは?」

「あぁ、さっき飛ばされた時に飛んでいったみたいなんだけど、……この暗さじゃ見つけられそうもないなぁ」


 ……ん?

「んー、このサイズを捌くのは至難の業でござるな。お二人にも手伝ってもうでござるよ」

「もちろん!あたしが倒したんだから最初の一口は……さすがにあのエルフ様に譲らないとダメか……」


 レオナはそう言って落ち込んだ表情を浮かべる――のがボクの目に映る。

「メガネなしで見えてる……だと?」


「《塩》で目が悪いのも治ったんじゃない?」

「いやいやいや、そんなこと……」

 ……あるのか?確かにさっきディアトリーに弾き飛ばされた時の擦り傷を治すために《塩》を舐めたんだけど……。

「まぁなんにせよ良かったのではないでござるか?戦闘の時など、いつも邪魔そうにしてたでござるし」

「そーそー、なくて問題ないならない方が良くない?」


 アヤメがディアトリーを捌くために灯りが必要というので、さっき松明を落としたであろう場所へ向かう途中、パキッと何かを踏んだ音がした。

「そ、そ、そ、そんなぁあああ!!」


 ボクはこうして半身とも言える大切なメガネを失った。向こうの世界からずっとボクを支えてくれた、大切な……仲間を……。


「作り直せばイイじゃん」

「そっか、こっちにもあるんだっけ」

「あるでござるよ。サダオ殿が使っていたようなシッカリとした造りのものは、お貴族様を始めとした一部のお方しかもってないでござるが」

「……高いってこと?」

「そりゃもちろん」

「……どれくらい?」

「王都中心部近くに部屋を借りて、その家賃一年分くらい」

「……たしかに、それくらいしそうでござるな」


 …………ボクはこうして半身とも言える大切なメガネを失った。向こうの世界からずっとボクを支えてくれた、大切な……仲間を……。


「とにかくさ、難易度の高いクエストこなして、ランクを上げて、お金を稼ぐ!冒険者なんてそれに尽きるでしょ?」

「そうでござるよ!他の職業よりも危険な分、実入も良い!冒険者稼業の利点でござるな」

「……そうだね」

 ディアトリーを捌き、体のあちこちに血を飛ばしたレオナとアヤメがとても逞しく見えた。


 がんばろ、とボクは今更ながらに顔を出してくれた月に向かって呟いたのだった。

 

 

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