エルフの村
「与えられた役割を果たせなかったクセに、よく帰って来られたものだと思ったが、なかなかどうしてやるじゃあないか」「ふん、手土産なしでは帰れないとでも思ったのだろう。浅ましい」「いやいや、来たばかりの異世界人を連れてくるとは、手土産というには破格では?ローランの娘にしてはやるじゃないか」「なににも染まってない転移者。ふっ、都合がいいな」「やめておけ、聞こえるぞ」「……聞こえたところで何もできんだろう。アレからは何の脅威も感じん」
エヴァさんの背を追う形でエルフの村についたボク達はすぐに憲兵らしい人たちによって囲まれた。
『村』と呼ぶには大きすぎるし、なにより人があまりにもたくさんいて驚いたのだが、そんなカルチャーショックに浸る時間すらもらえなかった。
「エルフの村にも人がいるんだね」
「きっと森林教徒でござるよ」
アヤメの言葉はきっと正解だろう。城下町では見ることのない、ローブの様なものを皆着ているのだから。
エヴァさんと話してる憲兵らしき人のところへレオナが挨拶しに行き、なにやら談笑しているのが見えた。
「積荷の確認するぞ」「はい」
壮年の憲兵が若手に指示を出し、荷を検める。問題なかったらしく、若手の憲兵はすぐに壮年の憲兵の元へ戻ると、なにやら耳打ちされ走り出した。
どこの世界も若手は走ってばかりいるらしい。
その後、エヴァさんと一緒にボクら3人はタウンホールと呼ばれる、まぁ役場みたいな所へと憲兵に連れて行かれた。そこにいた長い耳の先が尖った老エルフ達に投げかけられたのが先程のセリフである。
『エルフは長命で博識。ゆえに傲慢、且つ排他的』ボクがお世話になってる商店の店員さんがそう言っていた。聞いたときボクは、彼の事を差別的で偏見にまみれた人だと思ったものだが、いざ前にしてみると……。まぁ、わざわざ言及するのはやめておこう。
『なににも染まってない』とは何のことだろう。あまりいい気がしないな。
「大丈夫ですよ。あの人たちは遠巻きに偉そうなことを言う事しか出来ないから実害はないはずです。あまり気にしないでください」
とボクにエヴァさんが声をかけてきてくれた。わざとなんだろうけど、それなりの声量でそんなことを言ったから老エルフ達は「何と傲慢な物言いよ!」「役目も果たせない分際で……」などと言った誹謗を飛ばしてくる。舌戦が始まりそう――ボクがそう思った瞬間だった。
「なにを騒いどる、このガキども!」
レオナよりもさらに小さい、杖をついたエルフの老婆がそんなセリフと共に登場する。
「大婆様!」「ぅ!失礼しました」
さっきまでエヴァさんを詰めようとしていた老エルフ達は即座に反応、老婆へ向かって頭を下げて静かになった。謝る相手が違うだろ。
「大婆様、わた――」
「――クビになったらしいじゃないかい。他の姉妹達は皆、役割を果たそうと頑張っておるのにアンタと来たら……」老婆がそう言って立ち止まると地面がゆっくりと競り上がり、自然と椅子の様な形になり、老婆はそこへ腰掛けた。
そのスムーズな魔法使い?魔法さばき?にボクは驚き、アヤメとレオナの方を見た。
……2人とも頭を下げて静かにしてる。
つまりそれだけの相手らしい。
ボクも遅くなったが、2人を真似して頭を下げる。
「で?そこなメガネ。アンタぁ――」
しまった捕まった。
「――す、すみません!低頭が遅れてしまいました!ボクは異世界人から転移してきたばかりでして、その、コチラの文化やその他諸々に詳しくないので失礼しました!決してこれは敬意を持っていないとかそう言う類の話ではなく………………」
《五月雨式カウンター謝罪》発動。……相手に怒られる前に怒られそうなことについてバーっと謝罪することで説教を短くするテクニックだ。
「ん?あぁ?んなこたぁどうでもいい。それよりアンタ、転移者なんだろ?どんな《祝福》持ちなんだい?」
「……祝……福?」
「ん?なんだい、アンタんとこは違う呼び方かい。あーそれじゃなんだ?《賜り物》か?それとも《渡り》?どれも違うのか?んじゃあ《報酬》?」
「……《褒賞》のことですか?」
「あぁ、そう言うんかい。名前なんてどうでもいい!さっさとそれを教えんかい!」
老婆は杖を地面に叩きつけて大きな音を立てる。
「……なっ、それはあまりにも失礼――」
「――ダメ!」
老婆の行動に義憤を駆られたアヤメをレオナが制止した。どちらかと言うと普段は逆の役割なのだが、レオナの信心によるものなのか、ここにきてからやけに人が変わった様だ。
「……ごめん、今は……我慢して」
震えながら小声でアヤメに囁くレオナ。
多分、言われたアヤメ以外、ボクにしか聞こえなかっただろう。
「……どれがボーナスなのかボクもまだ分かっていないので説明が難しいんですけど――」
レオナの対応を見たボクは老婆の質問に対し、素直に答えることにした。
「――いいからさっさと教えな!あとそこの2人は必要ない。どっかへ連れてけ!」
老婆がレオナ達に向かって杖を向けると、老婆の背後に控えていた護衛の若いエルフ達が動き出し、レオナとアヤメを別室へと連れていってしまった。
抵抗するアヤメと対照に素直なレオナがとても印象的で目についた。ボクの視線に気がついたレオナは、『悪い人ではないはず。予言の話を聞けばサダオもきっと……』と呟いた。
……予言……?
……アヤメはまだ暴れてる。どうやら護衛のエルフ達は女の子にしか見えないアヤメの扱いに困っているらしい。
「それは女に見えるが男だよ!さっさと連れてけ!」という老婆の一喝でアヤメは雑に連れて行かれた。なぜアヤメが男の娘だとわかったんだ?
「さて、静かになったな。では話せ。無駄な部分は切り捨てて、要点を抑えて、な!」
この人のことは信用できない。だから本当のことを言うと全然、話したくない。でも仲間であるレオナがあそこまで言うなら、彼女の顔を立てる。という表現が正しいかは知らなけど、言ってみようかと思い、ボクは自身の能力について老婆へ話した。
「……珍しいジョブではあるが、ジョブを与えること自体が褒賞とは思えん。【調味料】というのも訳がわからんし、耳が良くなったとかもどうでもいい。くだらん。典型的な《ハズレ》じゃないか。時間を無駄にした。さっさと帰れ!」
ボクの話を聞いた老婆は、最初冷静に分析したかと思えば、いつの間にか憤慨し、杖を振り始めた。
「こいっ!」
護衛の若いエルフ達がボクの両腕を掴み、持ち上げてタウンホールの外まで運ぶ。
「腕、痛いです!歩けます!自分で歩けまーす!」
ボクの声などまるで聞こえていない様に無視して運ばれ続け、最後には投げ捨てられた。
「ひ、ひどい……」
「2度とくるなよ」「2度とくるなよ」
護衛はわざわざ同じことを言う。
「別に来たくて来たんじゃないんですけど……」
去っていく彼らの背中に精一杯の強がりを向けるボクの情けないことたるや。
「やはり、あの老婆はもうダメですね。予言以外はゴミクズなので気にしないでください。ドンマイです」
やけにアッサリとした表情のエヴァさんがボクの肩に手を置いて慰めてくれた。
「え?エヴァさんってそんなキャラでしたっけ?」
「ええ、本来はこんな感じですよ。サダオさんのおかげでお役目から完全に解放されたので感謝します!では!」
エヴァさんは軽やかに敬礼のポーズを取ると颯爽と去ろうとする。
「いや!おかしいでしょ!もっと色々説明してください!なににボクを、ボクらを巻き込んだんですか!?」
「……説明……。めんどくさいですねー」
ほんの一瞬考えるフリをしてエヴァさんは立ち止まり、すぐにまた歩き始めた。
「おかしいだろーっ!!」
ボクはタウンホール前、つまりここエルフの村に於ける最大の往来で絶叫した。エルフの村、いやこの規模から言ってもう街。エルフの街に住まう人やエルフたちがボクに奇異の目を向ける。
そりゃそうだ。往来でいきなり叫ぶやつなんてボクもおかしいと思う。でも止められなかった。コレはボクの魂の叫びだ。
「なにしてんのアンタ?」
「おかしくなったでござるか?」
タウンホールから追放されたであろう仲間達に背後から声をかけられた。
「……うう、いくらなんでも理不尽すぎる!結局なにがどうしてどうなったのか分からないままハズレ扱いされた挙句、子どもみたいに浮かされて追い出されたんだよ?!ボクがなにしたって言うんだ!」
「そんな鬼気迫った顔で聞かれても拙者たちにだって分からないでござるよ!」
そりゃそうだ。アヤメの言葉は納得できる。
でもレオナは違う!何か知ってるはずだ。その証拠に、彼女はさっきから節目がちにしてコチラを直視しない様にしてる!なにか知ってて、隠してる!
「はぁ……分かった。あたしの知ってることを話すよ。と言っても全然詳しくないけど……、場所変えよう?ここじゃ流石にさ」
レオナの言葉にボクは頷き、どこか落ち着けるお店を探そうとすると、さっきも見た若い憲兵がコチラへ向かって走ってきた。
また走らされてて可哀想に、なんて同情したのも束の間。
『《ハズレ》がまだこの村にいたら鬱陶しいからさっさと追い出して来いって言われたんで、出て行ってもらえます?邪魔なんで』
と言われた。……ボクの同情心を返してほしい。
村、いや街の入り口に近づくとボクらの借りてきた荷車が放置されていた。マジでこいつら……。
「なんであそこまで言われるんでござるか?!拙者ハラワタが煮えくりかえりそうでござるよ!」
鼻息荒くアヤメが吠える。ボクも同感だ。
「……王都に帰ってからでいいでしょ?歩きながら話す内容でもないし」
「いーやっ、ダメでござる!今すぐに聞かないと拙者この怒りの矛先をどこに向ければいいか分からなくて頭がおかしくなるでござる!だから今すぐに説明を求むでござる!!」
アヤメがボク以上にブチ切れてるのでボクの溜飲は少し下がった気がする。
それにしてもキレすぎだ。『初対面の相手に男だってバレたのは初めてでござる!』と言っていたがもしかしてそれが関係あるのだろうか。
ボクらは行きと同じよう、今度は空になった荷車を僕は引き、2人は押し、来た道を戻る。
行きと違い軽くなったはずの荷車を押すカラダはドッと疲れ、行き以上にその足取りは重くなっていた。




