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お使いクエスト


(カッパー)ランククエスト》

『プリムス大森林(だいしんりん)、入り口にある村へのお届け』

 

 お使いクエストの届け先はここ、城下町ではないらしい。冒険者らしくなってきた。

「プリムス大森林ってウソでしょ?!」

「冗談でござる!?拙者たちはまだカッパーでござるよ?!」

 おっと、レオナたちは雲行きの怪しいリアクション。ってことは、もしかして……。

「ボーダーランズに行った皆さんなら問題ないですよね?」


 やっぱり。

 ……オリヴィアさんはボクらがスラムへ向かった所までは知っていた。ただその後、ボクらは何も言わず、王都を出て国境密集地域、ボーダーランズへと向かった。彼女はそのことを怒っているのだ。昨日ギルドハウスへ帰ってからさんざっぱら謝ったのだが未だに腹の虫は……。

 

「安心してください。もう時期冬なので危険度はかなり低いですよ」

「あっ、そっか!じゃあ安心だ」

「そうでござるな!今年はなかなか暖かい日が続いたから忘れてたでござるよ!」

 アハハハ!


 ボクを置いて3人は笑い声をあげる。どうやら溜飲は下がっていたらしい。

 プリムス大森林か、……毎度ながらボクは聞いたこともない場所だがレオナたちも知ってるらしいし、そこについての話は後で詳しく聞くとしよう。


「では、受けていただけますか?」

「「「はい!」」でござる」


 と返事したまでは良かったが、ボクらの返事を聞いた後、奥に引っ込んだオリヴィアさんが運んできた大量の樽を見てボクは胃が痛くなった。


「こちらをお願いしますね」

 満面の笑みで悪魔みたいなことを仰る。

「こ、こんな大量の……」

「まさか中身は……エールでござるか?」

「液体をこの量運べって?いったいどうやって……」


「ドラゴンから逃げ切った皆さんなら問題ないですよ」


 …………訂正、どうやらボクらまだ許されていないらしい。


 ――――――――


 ボクらはギルドハウスを後にし、アヤメの一族と交流のある行商人に頼み込み、絶対に壊さないことを条件に荷車を借りる事に成功。無事、荷車に荷物を積み込み、王都を離れてから丸一日経った。

 

「ねえ、プリムスまであとどれくらい?もう着く?」

「うーん、まだ半分くらいでござるかな?慣れない場所の地図は読みにくいでござる」

 レオナとアヤメが荷車を後ろから押し、僕が前で引く。昨日、半日試してこの形に落ち着いたわけだが、……かといって楽というわけではない。

 幾分かマシというだけなのだ。

 

「《砂糖》使おうよー」

 1時間おき位にレオナはそんなこと言ってる。

「レオナ殿ー、昨晩話し合ったではござらぬか、危険なモンスターと遭遇する可能性を考慮して、出来るだけ温存するでござると」

「そうだけどさー、流石に疲れるって〜。こんなんじゃモンスター出てきた時、マトモに戦えないよー」


 いつも元気なレオナらしくない、とは思わない。

 昨日進んだ道は行商人や城外の人たちの往来がある道だったので地面が踏みならされていた、そのおかげで進みが早かったし、農村などもあり、景色の違いも楽しめた。

 しかし今日は違う、ダラダラと続く丘のせいで登ったり降りたり、曲がったり戻ったりを繰り返しているのだ。口には出さないがボクもアヤメも割と疲れてる。

 その証拠に、あれこれボクに説明していたアヤメのガイド機能も停止して久しい。


「……あー!見えてきた!!ね?あれそうだよね?!」

 いつの間にか押すのをやめてボクよりも前に来ていたレオナが飛び跳ねてる。

「ほんとだ、丘のせいで見えなかったけど結構……近いか?」

「プリムス大森林は大きすぎてだいたいどこからでも見えはするでござる。問題は見えるけど近づくのに時間がかかるという事、そして拙者たちには……これが」

 ポンっとアヤメが積荷を叩いた。

「これがなかったらもっと早く着いたのに!」

 レオナは仇のように積荷を睨みつける。

 ……気持ちはわかるよ。

 

『プリムス大森林』……あの大森林が王都の東側ほぼ半分を占めるらしい。ここクレッセント王国に於ける最大の原生林で2人の話を聞く限り、相当数のモンスター、主に魔獣が生息しているとのこと。

 知能ある二足歩行の『魔族』や人と同等、もしくはそれ以上の知恵と戦闘力を誇る『魔人』は大森林にいないらしい。曰く、『敵が多すぎる』ようだ。


「今日はこの辺で休んでおく?」

 分厚い雲遠くの空に見える。

「どうせなら着いておきたくない?もっと進もうよ」

「いや拙者はここでの休憩に賛成でござる。降り出したら強そうでござるし、村の位置がここからでは定かではないので探す時間がかかりそうなのが気掛かりでござる」


 ボクの懸念をアヤメが言語化してくれたのでレオナも納得してボクらは野営の準備に取り掛かった。


 二泊目、一応持ってきた食事のほうは足りてるが、問題は水だ。そもそも水筒がないので皮の袋を加工した皮袋を水入れに使ってはいるが、いかんせん内容量が少ない。

 川で補給はしたがそのまま飲むわけにも行かないので煮沸させると量が減る。いっそ雨が降れば解決するのだが。


 翌朝、安物のテントから出ると残念ながら地面は乾いたままだった。雨は降らなかったらしい。

「……水もないし急ごうか」

「あたし達こーして汗だくになりながら飲み物運んでんのに飲み物ないのおかしいでしょ!サダオ!水出してよ!」

 レオナが野営の片付けをしながら文句を言う。

 

「出せたら苦労しないよ。そりゃボクだって出したいさ。でも出せないんだもん」

「いったいどんな条件なんでござろうか、想像もつかないでござるな……」

 あーだこーだ言いながらも手を休ませず片付けを完了し、また荷車を押し始める。


「――何を運んでいるのですか?」


 誰も見かけない、ほとんど人の手が加えられていない丘陵でボクらは不意に声をかけられた。


「あ、あなたはっ!」

 背後からレオナの驚くような声が聞こえた。

 あなた?……ずいぶんと丁寧な言葉遣いをするな、と違和感を感じたが、その理由はすぐにわかった。


「エヴァさん。どうして貴女がここに?」

 ボクは荷車を引くのをやめて声の聞こえた背後へと回るとそこには、白に近い銀髪のエルフ。

 エヴァさんが立っていた。


「私は里帰りですよ。冒険者をクビになったのがバレてしまい、帰ってこいと言われました。……それでアナタたちは何をされているのですか?いつの間にか行商人にでも転職されたんですか?前に会った時は確か、冒険者でしたよね」


 クビ?……あっそうか、エヴァさんは()()()()と入れ替わる形で(自称)勇者ランドールのパーティを追い出されたんだ。あれから一月半近く経っているので、ボクはすぐに思い出せなかった。


「あの時はお世話になりました。あっ、そうだ!あの時の討伐報酬を渡そうと思ってたんですよ!」

「?別に要りませんよ。私が換金したわけじゃないのでご自分で使ってください」

「ええ、そう言われても……」

『どうする?』と訊ねるようにレオナの方を見るが、彼女は固まったまま動かない。


「……あの、サダオ殿?もしよければ拙者に紹介して欲しいでござる」

「え?あっああ、そうか!そうだよね!気が回らなくてごめん!」

 人を誰かに紹介するなんて経験、人生でした事なかったから忘れていた。


「えーと、こちらはエヴァさん。ランドールさんって人のパーティにいて、ボクらがコッチの世界に来てすぐお世話になった人なんだ」

「ボク……ら?でござるか」

「うん、ほら前にも言った気がするけど、『ゆいすん』ってアイドルの女の子とボクはコッチに来てるから……」

「あぁ、そうでござった!そうでござった!……拙者はアヤメと申すでござる。ジョブは狩人、サダオ殿とは冒険者ギルドで出会って現在パーティを組んでるでござる!拙者、エルフのお方と会うのは初めてでござる!」

 アヤメはそう言ってエヴァさんに深々と頭を下げた。……あれ?もしかしてエヴァさんって偉い人?ボクって良くない態度?


「あた、……私はクレッセント王都の修道院で育てられました、レオナと申します。縁あってこちらの方々とパーティを組んでいただいておりますが、預言者様の号令にはいつ何時でも従う準備はできております!」


 んん?

 レオナはらしくない言葉と姿勢でエヴァさんの前で高らかに何か宣言した。予言?……なんだって?


「え?レオナ殿、寝てる時に頭でも打ちつけたでござるか?人が変わってるでござるよ?……まさか魔法攻撃っ!?」

 アヤメが辺りをキョロキョロと見回し始めたのでボクも倣って辺りに目を配るが、なにも見つからない。

 隠れるような物陰も見つからないし夜中に誰かが来たような気配もなかったはずだ。もしあったらアヤメが猟師の経験を生かして飛び起きてたはず。


「……アヤメさん。少し静かにしてください」

「ウソでござる!レオナ殿が、……ひと月あまり、一緒に冒険をしてきたレオナ殿がこんな喋り方するなんて!拙者は信じないでござるよー!」


 よー!よー!よー!よー!


 アヤメの悲痛な叫びがこだま……しなかった。丘陵にいるから別に声が跳ね返ってこないのである。

「アヤメ、言い過ぎだから少し落ち着こうか。そう、ゆっくり息を吸って……吐いて……吸って……吐いて……」

「ふぅ、取り乱したでござる」

 取り乱しすぎだろ。どれだけレオナの子どもっぽい振る舞いに全幅の信頼を置いているのだキミは。


「くふっ!……」


「え?」

 今のはまさか、笑った……のか?


「……失礼。気にしないでください。そちらの赤毛の戦士――」

「――レオナです」

 レオナは畏まったまま答える。

「レオナさんは森林教徒で?」

「はい。あた、――私は生まれてすぐ修道院に捨てられていたとかで、生き方を他に知りません」

「……あぁなるほど、人間でここまで敬虔なのは珍しいとは思いましたが、そういった事情なのですね」


「はい、そう()()――です」

 噛んだ。丁寧な喋りに慣れてない弊害が出たな、とボクとアヤメは少し同情の目を向ける。


「グフっ!……『だす』って……」


「エルフ様……?」

 レオナは目を丸くしながらエヴァさんを覗き込む。


 ――意外だな、こんなに綺麗で聡明そうな人が……いや、意外じゃないし、ありきたりな話か。

「すみ……、すみません。……くっ、先を急ぎましょう!」


 エヴァさんはそう言って肩を震わせながらボクらの先を行くよう、大森林の方へと歩き出した。

「さっ!いくでござる!」

「エルフ様を待たせるなんて許されないからさっさと引いて!」


 ――真面目っぽい人がお笑い好きなんてありふれてるし、気のせいかな。


「…………だす!くっ……ふふっ……」


 うーん、どうやらテンプレでござしたらしい。


「……そういえばさっき、里帰りって――」

「――はい。私の生まれ故郷はあの大森林の入り口にある《エルフの村》なんですよ」


 《エルフの村》…………イッツァファンタジー!


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