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どうしてこうなった


『おめでとー!人間如きが全実績解除なんて予想してなかったよぉ!えーと、どれどれ……ふむふむ……え?コレだけ?……あれ?どっかに紛れちゃったかな?』


 突如、光の柱に包まれたボクは何もない真っ白な空間に放り出され、その目の前に光の球?がふわふわと浮いている。

 あまりにも現実感がない光景。

 一瞬、死んだのかとすら錯覚する。

 

「ええ?……なにこれ?今、これが喋ったの?」

「………………うわっ?!」

 この場にいるのはボク一人だと思ったら隣にさっき手を差し出してくれた謎の、優しい女性が真横に立っていたのでボクは驚いてしまう。

 驚いたのはボクだけじゃなかったらしいが。


『はぁ?!おいおいおいおい!なんで二人いるんだ?!……あー!まさか、お前ら二人手繋いだまま転移して来たのかよ!?普通転移する時は手離すだろ!常識だろ!常識!』

 光な球から聞こえる声は慌てふためく様がありありと伝わる。


「はぁ?!なにそれ?!私が悪いっていうの?!ウザっ!」

「……ちょ、ちょっと落ち着いてください。話を聞きましょうよ。まだボクたち何も分からないワケですし」


 光の球を今にも蹴りそうな雰囲気の女性を宥める。


『そうだそうだ!御宅田サダオの言うとおりにしろよ!《葦名小結》!』

「ちょっと!アンタなんで私の名前知ってんの?!わかった!コレ、ドッキリでしょ!カメラはどこ?!何処の制作会社がやってんのコレ?!」


 

「……ちょっと待ってください。もしかして『葦名 小結(アシナ コユイ)』って今言いませんでした?」


 光の球から聞こえてきた単語を聞き逃さなかったボクはゆっくりと一音一音丁寧に発音し光の球に訊ねた。


『あぁそうさ。その名前に聞き覚えがあるだろ?』

「あるに決まってる、その名前はボクの恋した、ボクの最推しのアイドル「『ゆいすん』の本名じゃないか!」


『そうだよ?彼女は君の恋してる、推してるアイドルのゆいすん。……なぁ訊きたいんだが、何処が良いのこんな子?手元の資料見る限り……良いところのほうが少ないんだけど?』

「んだこら!?出てこいや!スタッフぅ!ツラ出せ!面と向かって言ってみろオラ!」


 謎の女性は身体を逸らして上を見ながら『オラ』とか『コラ』とか吠えている。……ボクの恋したアイドルがこんなにイカついわけがない!!

 と、叫びたい心に蓋をする。というかボクの精神衛生的な観点から見て見ぬふりに徹する。


「……光の球さん。アナタはカミサマとかそういう存在ですか?」

『ん?俺?……まぁ近いけど違うんだよな。俺は跏ミ璅マ……って言っても理解できないだろ?お前ら下位存在には』


 ??……今なんて言ったんだ?聞き取れたはずなのに脳が拒否したのか理解はできなかった。


「下位……。つまり、アナタは上位存在であると」

『そゆこと、まぁなんでもいいだろ。……とりあえずさっきも言ったけど、全実績解除おめでとう。今からお前に《褒賞(ボーナス)》をくれてやるからエンドコンテンツとして残りの人生楽しめよ!』


「……ボーナス?」

「ボーナスっ?!いくら?!いくらくれるの?!私、推しの生誕祭にシャンパンタワー入れまくりたいからいっぱい欲しいんだけど!」

『はぁ?葦名小結、なんでお前如きに褒賞が出ると思ってんだこのタコ。勝手について来といてワガママ言うなボケ!黙ってろ!』

 ボクとカミサマ(仮)の会話に割って入ってきた、ゆいすん(仮)にカミサマ(仮)は罵声を浴びせるが、ゆいすん(仮)も黙って聞いていない。


「何偉そうな口聞いてんだコラ!そもそもアンタが勝手に連れて来たんだろうが!払うもん払えボケ!」

『ふーざけんなっ!テメーが勝手に付いて来たクセに何言ってんだバカ!』

 「バカはアンタだ!」

 『いーや!俺は賢いね!少なくとも俺はお前と違って勝手についてきた挙句、自分にもボーナス寄こせなんてわけわからんワガママ言わないからね?』


 二人の口論はこのままヒートアップしそうな雰囲気をしていたが、誰も想像していなかった思わぬ展開を迎える。


『なーに騒いでんのアンタは!』

『か、母ちゃん?!』

「「母ちゃん??」」


 光の球から聞こえる声が二つになったが……母ちゃん?ってなんだ?……母親?……?上位存在の母親とは?一気にきな臭くなったぞ?


『さっきから『ご飯だ』ってずっと言ってんべぇ、返事もせんと騒いで!この子は全く……。食わんのじゃったら片してまうよ!』

『ちょ、いや、それは悪かったけど俺いま仕事して――』

『なーにが、仕事かいねぇ!ちょっと返事するくらいいぐらでも出来るでねーか?母ちゃん無視して遊んでばっかでほんにもう……隣のラファエルくんは嫁さん貰って今度、子どももできたってぇえ言うのに……』


「なにこれ?何聞かされてるの私たち」

「……な、なんなんですかね?」

 聞いてる分には、親子喧嘩?っぽいけど……。

 カミサマ(仮)の声が少し遠くなって聞き取りにくい状況が続く。


『わーった!わーったよ!とにかく一旦出てくれ!終わらせるから、ね!?』


 んっ!んっ!と咳払いするような音が聞こえた。


『おめーら、……お前ら聴こえるか?俺はちょっと用事が出来たから行くわ』

「はぁ?!ふざけんな!ボーナスはどうした!?貰うもん貰うまで私は動かねぇかんな!諦めねぇかんな!」

「……とりあえず元の場所に戻してください!」


『ピーチクパーチクうるせぇな……』

『タカシぃ!なぁに偉そに言ってんだオメーは!こったらもんささっと終わらせてはよ飯食わんと冷めちまうど!』

『違うよ!母ちゃんに言ったわけじゃ……ってダメ!母ちゃん!勝手に触らないで!あっ……あぁ……』



「は?」「え?」


 カミサマ(仮)がなにやら焦り、諦めた様に最後呟いたと思ったらボクらはここへ来た時の様に光の柱に包まれた。


『……あー。……うん、すまん……。とりあえず謝っとくわ』

『とりあえずってなんねー?ちゃんと謝り!』

『ちげーよ!母ちゃんに言ってねぇよ!』


 光の球から聞こえる声は相変わらず聞き取りにくいが、なにか想定外の事態がボクらの身に降り注いでいることだけは理解できた。


「……ふざけんな!ふざけんなよテメー!何しやがった!」

 ゆいすん(仮)がボクの分まで怒ってくれる。


『いやー……すまん。焦って与えるはずのボーナスと変なの間違えたし、帰還ボタン押そうとしたのに追放ボタン押しちゃったわ!すまんすまん』


「「は?」」


 追放?

 ………………追放?


『つーわけでだ、残念ながら技術的な問題でキミたちはこれから別の世界に行くことになったけど許してくれるよな?一応向こうの言葉とか文字が分かるようになるボーナスもおまけしておくわ。んじゃまぁ……お達者で!』

「はぁ?!何言って――」

『タカシっ!いーつまで遊んでんの!終いにゃ怒るよ!もうご飯片しちゃうからね!』

『うぉーい!待ってくれい!今行くよ!いくんだよう!』


 ブォン!という音と共に光の球は消失し…………ボクらのいた真っ白な空間は消え、眼前には見たこともないだだっ広い平原が広がっていた。


「……す、すごい」

 ボクが最初に抱いた感想はそれだった。

 ほんとはもっと色々あるんだろうけど……現実ってやつに愛想を尽かしていたボクは正直ワクワクしていた。


「……はぁ?!意味わかんない!圏外なんですけど!」

 スマホをいじりながらブチ切れるゆいすん(仮)。

「お、落ち着いてください……」

「なんで落ち着いてられんだよ、アンタは!?仕込みか?アンタもこのドッキリの仕掛け人なの?つーかライブどうすんだよ!」


「……分かってるはずですよ。これがドッキリじゃない事……」

 風も匂いも色も全部が全部、超が付くほどリアル。

 地方都市とはいえ、駅前のビルに囲まれた場所から、こんな何もない平原にドッキリで連れて来られるはずがない。


「……なんなのよそれ、……じゃあ何?私たちは本当に異世界とやらに飛ばされたって言うの?」

 飛ばされた……追放された。

「そう考えるのが……自然かと」

「がああああ!ふざっけんな!あの光の球!タカシだったか?次会ったら覚えとけよボケナス!」

 上空に向けて吠えてる彼女にボクは禁断の質問を投げかけることに決めた。


「……あの、アナタは……本当に《チギュラブズ》の《ゆいすん》なんですか……?」

 頼む違うと言ってくれ!ただの同姓同名であるという一縷の望みにかけるボク。

 

 ボクの恋した彼女はもっと、お淑やかで天然で可愛くて――。

「……はぁ?」

 彼女は呆れた様にため息混じりでそう言った後、帽子と眼鏡を外し、纏めていた髪を乱雑に払った。

 たしかに、髪型やメイクの雰囲気こそ違うが、まごうことなき《ゆいすん》その人に見えた。


「私がチギュラブズのゆいすんだよ。なんか文句あんの?えぇっ?!」


 …………どうしてこうなった。


 

 

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