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幕間 朝


「ふぁぁあ!」

 窓を開け、朝日を浴びながら伸びをする。

 

 いつもやら日の出より早く目が覚めるのだが、今日は太陽に先を越された。ドラゴンに追われた精神的疲労が残っていたのだろう。顔を洗う為にギルドハウスの階段を降ると、レオナがおよそ人間の朝食とは思えない量の食事をしているのを見かけた。

 その隣でアヤメが皮袋を握りしめて座っている。一昨日、ボーダーランズの帰りに『ぶちまけた』代償として朝食を奢り、レオナが奢りだからと頼みまくったとか、そんな感じだろう。


 ボクは2人に挨拶をしてギルドハウスの裏庭へ行き、朝のルーティンをつつがなく終わらせ、レオナたちに挨拶をする。

「おふぁー」「……おはようでござる」

 口いっぱいに食べ物を頬張ってるレオナの幸せそうな表情と対照的に、サイフであろう皮袋を握りしめたアヤメは切ない顔をしてる。

「レオナが強く抱きついたせいなんだから多少は自重してあげなよ?」

「ふぁーふぁふぁふぁ!」

「飲み込んでから喋りなさい」

「……言って聞くタイプじゃないでござる。拙者はすでに諦めたでござるよ。……それより!今はちょっと離席してるでござるが、オリヴィア殿から頼みたいクエストがあるとの事でござる」

「頼みたいクエスト??」

 こっちで選ぶのが通例なはずなのに?

「《お酢》の召喚訓練をしたいとの事だったので今は保留にしてしまったでござるが……?」

 ……内容次第としか言いようがないので、ボクはまだまだ食事に夢中なレオナを無視してアヤメにだけ訊ねる。

「クエストの内容は聞いたの?」

「……それが、なにやら『簡単な届け物』との事でござる。いわゆる《お使い》でござるな」

「お使いクエストかぁ、レオナの嫌いな奴だね。ルーキーランクで似たようなモノを受けた記憶があるよ」

 『自分で運べばいいじゃん!』ってブチ切れてたのが記憶に新しい。


 しかし、現在のレオナは上機嫌そのもの。

「あたしは受けようと思うんだけどさ――」

 口の中のモノを全て飲み込み、木製のジョッキの中身を一気に流し込んだレオナが口を開いた。

「――その前にやって欲しいことがあんだよね」


「やって欲しいこと?珍しい言い回しだね」

 普段なら『何々して』って言うのに、らしくない言い回しにボクは少し身構える。

「ホントは昨日、言おうと思ったんだけどさ、それどころじゃなかったから――」

 昨日は一日中不機嫌だったもんね。まぁ……ほぼ自分のせいとは言え、頭の上から『ぶちまけた』モノをかけられたら誰だって不機嫌になる。


「――あたしは料理とかてんで分からないんだけど、……なんか簡単に持ち歩ける形で《砂糖》を加工できない?」


「…………ん?」

 なんか、想像以上に普通の頼み事で拍子抜けした声が漏れ出た。

「おとといのさ、ほら!ドラゴンに追われた時とか、アンタが牛頭のモンスターと闘ってる時もなんだけど。《砂糖》をこう……ギュッ!と固めたモノがあれば、ヤバい時にパクッ!と食べてムキムキっ!ってなってウォー!ってなるじゃん?」

 身振り手振り強め、擬音多めでお送りしてくれるが、あまり伝わってこない。


「レオナ殿!……それってまさか、《ヒョーローガン》でござるか?!」

 ヒョーローガン?アヤメは何故かテンションが急に上がって…………もしかして、それって《兵糧丸》のこと?

「なにそれ?ひょーろーがん?」

「《東方絵巻物語》に出てくる携帯食料のことでござるよ!赤とか緑とか色があって、その色に応じたニンジツが使えるという魔法の食べ物で――」

 マズイ、期待値が上がりすぎる悪寒。

 

「《兵糧丸》ね!兵士の食糧で兵糧、ヒョーローじゃないよ。ガンの部分は丸薬っぽい見た目ね。んー、どうだろ、砂糖を丸めてもポロポロしちゃって固まらないからなぁ」

「えー、イイ案だと思ったんだけどな」

「残念でござるな。かくなる上は、各々が分けて持っておくくらいしか……」


 ……砂糖を……丸め……。

「……まって、もしかしたら出来るかも」

 ガタッ!とボクの言葉に反応したレオナが椅子から飛び降りる。

「ホントに?!」

「……うん。金平糖っていって砂糖を水と混ぜて炒めるだけで出来るお菓子がある……はず。正直作ったことないから材料が本当にそれだけなのか定かじゃないんだけど……」

 やってみる価値はあるだろう。

 もし上手くいけばレオナの言った通り、いざという時に役立つはずだ。

「《コンフェイト》?」

「聞いたことないでござるな」

 え?そっちパターンあるの?!

『コンフェイト』を日本人が馴染みある言い方に変えて『金平糖』と呼ぶようになったはずなのに今、逆のこと起きてない?逆輸入されました?


「じゃあそのコンフェイト作ってよ!あたしたちが味見してあげるから!」

 ……甘いものを食べたいだけの子どもに見えてきた。


 と言っても本当にボクが知ってる知識なんて素人以下、スマホで簡単に調べられないコチラの世界で作れるのか?

 ……そもそもアレって普通の砂糖でできるのかな?外国のお菓子だし、ザラメ?いや、グラニュー糖か?

 たしか日本に渡ってきたのは、野田オブ長、はアヤメの好きなお話に出てくるヤバい人だから違くて!織田信長が好きだったみたいな逸話を習った気がするし、砂糖でも出来るのか?


「まだ?!」

「レオナ殿!急かしてダメでござる。こっち側の拙者たちはも仕事でござるよ!」


 ボクはボクら以外に誰もいないのを良いことに、キッチン側へお邪魔した。と、言ってもボクのジョブを知ってるオリヴィアさんやギルバートさんから『暇な時なら勝手に使って良い』とは言われてるので何の問題もないのだが――。


「――できた……かな?」


 とりあえずでやってみたところ、なんとも意外なことにソレらしいものが出来上がった。

 水と砂糖を混ぜたものをフライパンで炒めただけだが、まぁ最低限食べられそうだ。

「出来たって言った?!」

 カウンターの向こうからレオナが上半身を乗り出してくる、わんぱくがすぎる。

「火が強かったかな、もう少し離すべきだったかも。……しかしいいなぁフライパン。ボクも専用のもの買おうかな」

 ゲームやなんかだと武器とか防具に使って作品もあるくらいだし、杖なんかより使い勝手いいかも。


「あまー……いけど、ちょっと苦いし臭い」

「コレでお肉焼いたりしてるから臭いがついてるのかもね」

 テフロン加工とかされてないし、それは仕方がない。やっぱ専用の小さいフライパン買おう、そうしよう。


「でもコレなら持ち歩けるし、3人で分けて持つことも出来るでござるな!」

「しかも、いざという時すぐ食べれる!いいじゃん!あたしたちの戦術広がったんじゃない?!あとは《塩》と《お酢》も――」


「――いやぁそれはどうだろ?さすがに聞いたことないな……。そもそも塩は摂りすぎると頭痛くなったりするから、そこは今まで通り塩漬け肉とかで我慢するしかないかも」


「塩漬け肉か……」「うう、拙者もあまり好きでないでござるよ」

 ボクも同感だ。かと言って焼いたのを持ち歩くわけにもいかないし……。


「あとは、《お酢》だけど……」

 ボクは人差し指の腹を天井に向けながらを前に出す。

 集中して、酢飯のことを思い出すと眉間にチカラがはいる。

「酸っぱそう」「ツラそうでござる……」

 そう。まだ慣れていないので出力が難しいのだ。


 じわっと指先から《お酢》が出る。

「指先から汁が出るの気持ち悪い」

「『(しる)』って言うなよ!表現に気をつけて!」

 レオナの心無い一言にツッコミを入れると《お酢》は魔法陣の中へと引っ込んでしまった。

 繊細な子だ。……子?


「まだ使いこなすには時間がかかりそうでござるか?」

「正直実用って意味だといつになるか想像もつかないね。ひと月はないだろうけど、それなりには……」

「『お酢』の効果って防御系でしょ?使えたらかなり有用っぽいけどねー」

「酢漬けとかも作れたらありがたいでござるな!《塩》も《砂糖》も市場のものより上等でござるし、今から楽しみでござる」

「まぁボクは実のところ酸っぱいのがそんなに好きじゃなくて、梅干しくらいしか……って!そうか!」


「なに急に大声出してんの!?うるさいしキモい!」

 普段はレオナの方がいきなり大声出すだろうが!何で、ツッコミは今必要ない!

「なにか思いついたでござるか?」

「うん!梅干しだよ!あれなら効率よく塩を取れるし、作るのもそんなに難しくないはず!干して水分も浸透圧で抜けてるから日持ちもするし、回復解毒用に最適かも!」

 《回復解毒用の梅干し》なんてセリフを生きていて言うことがあるとは思いませんでした。

 的確ではあるけど自分で言っててちょっと笑っちゃうな。


「……ウメ?」「なにそれ?」

 ………………そうなるかぁ……。

 そういえばヨーロッパで梅って食べないってか流通してないんだもんな。自生してなきゃない時代だし……。あー、なんでそういうところは忠実なんだこの世界!魔法だのジョブだのあるなら梅あれよ!

 


「……ごめん、たぶんこっちにはないや。東の国に行けばあるかもだけど……」

「あー、そういうものなんだ。だったらボーダーランズに行けばあるかもね。あそこは東の国から色んなものが入ってきてるって話だし」

「なるほど!シルクロード的なあれか!いいね!」

 

「……燃えたでござるよ。……ボーダーランズは、全て……燃えたでござる」


 ………………ドラゴンめっ!


 ……というかボク!ボクのせいだ!

「……となると結局、塩漬け肉。……もしくな魚の塩漬け、あとは果物を漬けるくらいか」

「まぁ美味しそうではあるけど、そもそも回復手段はそんなに必要ないかもね。酢漬け?が上手くいけば怪我も少なくなりそうだし」

「解毒用に少しだけでも分けておきたいでござるな!」


 いつになく、というと自己評価が低いかもしれないが。雑談だったり横道に逸れることの多いボクらにしてはかなり有意義な話し合いをしていると、オリヴィアさんが帰ってきた。

 実家の酒蔵からエールを取ってきたらしい。

「あら?その白いのは……?」

「コンフェイト!砂糖を固めたものだよ!ちょっと火が入りすぎてるけど甘くて美味しいよ!」となぜか自慢げにレオナが見せびらかすのでオリヴィアさんも興味が出たらしく、レオナに一粒もらっていた。


「美味しい!なにこれ!?……ずるい!」

 金平糖を食べたオリヴィアさんは目を輝かせている。何がどうズルいのかは分からないが。


「あの、喜んでもらえて嬉しいんですけど、なにかボクらに頼みたいクエストがあるとか?」

 レオナが未だ、自慢するように見せびらかせる金平糖を物欲しそうに見つめるオリヴィアさんにボクは恐る恐る声をかける。


「……あっ、……失礼しました。では、()()()頼みたいクエストについての説明をいたします」 


 今の言い方だと、どうにも個人的なものらしい。 

 

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