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勇者とドラゴン


『――申し訳ないのだけれど、私はもう行かなくては……』

 彼の魔法で作った薄暗い洞窟の中で松原さんがアヤメにそう言ったのが聞こえた。彼はこのドラゴンの襲来を予感していたのだろう。早く来てください!


 ボクは上空を悠々と飛ぶ超大型のドラゴンを見つけたあと、腰が抜けて逃げることもできなくなっていた。

「……はぁ……はぁ……」

 レオナはボクの隣で息苦しそうにしている。

 細かい話をすると、ドラゴンの風圧により気圧とかそんなんがどーにか、こーにかなって呼吸がしにくくなっている。とか説明が付くかもしれないが、今のボクらからすればそんなこと知ったこっちゃなくて、ドラゴンという圧倒的な存在に押し潰されるという恐怖で息苦しいのだ。


「私が相手しますので逃げて下さい」

 猛スピードでドラゴンのいる位置まで上昇していく松原さん、いや勇者ディエゴ。その頼もしすぎる言葉でボクは地に根を張った腰を何とか浮かせる。


「……に、にげよう……」

「はぁ……、はぁ……、うんっ!」

 ドラゴンを背負う形でボクらは逃げ出す。相変わらずボクらって逃げてばっかりだな。

 逃げた先で洞窟から出てきたアヤメと合流。

 アヤメは今更ドラゴンに気づいて驚いているが、悠長にしている時間はない。ボクはアヤメの手を引いてさらに走り続ける。

 背後で何が起きてるか見る余裕もないが、松原さんが数多の呪文らしき文言を唱えているのは耳に入っていた。


『もう無理!』と全員が倒れ込むほど必死で走り抜いたボクらは今来た方向を見る。辺りはすっかり暗くなったが、向こうは赤く光ってみえるのはきっと超大型ドラゴンによって起こされた火災のせいだろう。弱くなり始めた、この程度の雨では打ち消せないのだろう。


「勇者ディエゴはまだ戦っているでござるか……」

 ボクとレオナより体力のあるアヤメが一足早く立ち上がる。

「……ひぃ、ひぃ……ふぅぅう……」

 最も体が小さく、尚且つ最も重量のある武器を背負っているレオナはいまだに呼吸が戻らず肩で息をして地面に大の字で寝ている。

「て、……ていうか……、あんた……砂糖…………はぁはだ……」

 寝転んだ状態でも何か言いたいことがあるらしく、レオナは必死に言葉を繋ごうとする。

「無理に言わなくてもいいよ。多分、もう安全だからゆっくり休んで」

「そうでござるよ。きっと、勇者ディエゴがドラゴンを倒してくれるでござる!」


「ひぃ、ひぃ……そういう……はなしじゃっ――」


 ドッガーンッッ!!

 まるで何かが爆発するような大きな音が聞こえたと思ったら、ボーダーランズの方から風が吹いた。

「い、いまのは!?」

「きっと勇者ディエゴの魔法でござる!」

「ふぅ……ふぅ……、終わった、……ってワケ?」

 這いつくばるようにしてレオナがボクら2人の隣へきた。雨で濡れてるのにそんなことしたら絶対服汚れてるだろうなってボクは思いました。


「ええ、終わりましたよ。お三方ともお怪我はないですか?」


 呆気に取られて口を半開きにしたままボーダーランズの方向を見ながら立ち尽くすボクらの上空から松原さんが声をかけてくる。

「ドラゴンの屍肉を求めて数多くのモンスターたちがやってくる事は必至です。体力、気力が戻り次第この場から立ち去ることをオススメしますよ。私は忙しい身なのでコレで失礼します……っと最後に――」

 松原さんは大仕事の後とは思えないほど落ち着いた様子で、矢継ぎ早に言葉を紡いでいき、最後に何故かレオナの元へと降り立った。


「――私の知り合いが言っていた『小さな赤毛の戦斧持ち』とは君のことであってます?」

「知り合い……?」

 レオナはピンとこない様子でボクらに助け舟を求める。が、当然ボクらも別に何の話かわからない。

 

「あれ?《ギュンター》が戦斧を預けたのは君ではなかったのですか?だとしたら――」

「――なんでギュンターのことをッ?!」

「あぁ、やっぱり正解でしたか。彼とは今、共に旅をしていまして、もし貴女に会う機会があれば伝言を、と言われているのですよ」


「ギュンターって誰のことでござるか?」

 アヤメがボクに耳打ちする。

「……多分、レオナの探してる人、なんじゃないかな?」話の流れから想像しているだけだが。

「……ここにくる経緯になった人でござるな」

「たぶん、だけどね」

 ボクらは小声で話し合う。

 いつかキチンと話を聞こう、と思ってはいたが、聞きそびれていた。

「伝言って、なに!?……っなんですか?」

「そんな大仰なものではないですよ。『聞きたいことがあるなら自分で会いに来い。会えたら教えてやる。オレはもう《人界》には戻るつもりはない』とかそんな感じです。本当に会えると思ってなかったのでうろ覚えになってしまって申し訳ありません」


「……人界?」

「たぶん、ギュンター氏は何処の国にも属さない地域で戦い続けることを選んだ猛者なのでござるな……」

 人間の支配していない地域ってことか?つまり、魔界とかそう言うアレ?……ギュンターさんは狂戦士(バーサーカー)かなにかなのかな?


「……なにそれムカつく……。こっちは最初からそのつもりなんですけど!ウザっ!ギュンターに会ったら言っといて!『あたしをナメんな!』ってね!」

 レオナは地団駄を踏みながら勇者たる松原さんに向かって啖呵を切った。男前がすぎる。


「なるほど、分かりました。この後すぐ会う予定なので間違いなく伝えることを約束します。では――」


 松原さんは端的に、事務的に、冷静にそう言って空へと飛んでいき、すぐにその姿をボクらは見失う。

「はっや……」

「凄いでござるな……」

「そもそも人が空飛んでるのが当たり前じゃなさすぎてボクとしては驚いちゃうや」


 松原さんを見送った後、全体的に気まずい沈黙が訪れた気がする。

 レオナは《ギュンター》という人のこと。

 アヤメは《セイテンの術》とかいう話。

 ボクはアヤメの密談を意図せず聞いてしまった心苦しさからなんとなく、今までのような軽い雰囲気ではいられなくなってしまった。


「……とりあえずさ、帰る?」

「そ、そうでござるな!勇者ディエゴが言う通り、モンスターが集まるかもしれないでござるし!」

「本格的に暗くなる前に出来るだけ離れたいもんね!イイ感じに野営できる場所を探しつつ、急いでこの場を離れよう!」


 ボクらのこの行動は正解だった。

 クレッセント城のある王都へと向かう道すがら様々な種類のモンスターたちとすれ違ったからだ。

 あれらはきっとこの姿がまるで見えない遠くまで匂う、ドラゴンの肉が焼けた香ばしい匂いに釣られているように見えた。


「ドラゴンのお肉ってどんな味がしたんだろう」

 レオナはお腹を鳴らせながらそんなことを呟く。

「超が3つ付いても足りないほどの高級食材でござるからな。惜しいことをしたでござる」

「火が収まるとは思えないし、収まるまで待ってたら寄ってきたモンスターの餌食になっちゃうよ。分相応、今のボクたちにはまだ早いんだよ」


 何となく話したい、伝えたい、話さなきゃならない話題を各々が避け、当たり障りのない会話を繰り返しつつ、野営の準備を進める。

「「そう言えば」」とレオナと言葉が被る。

「えっと、……どうぞ」ボクは譲る。

「そっちからでいいよ。別にあたしの話は今じゃなきゃならないワケじゃないし」

 お互い遠慮してしまい、またも気まずい空気が流れる。

「あー!もう鬱陶しい!あたしこういう感じ嫌い!疲れたし、お腹もすいたし!」

 キー!っと鳴き声をあげてレオナが立ち上がる、アヤメが何かに気付いたのか人差し指を口元に当てて『シッ!』と言った。


『ガザガサ』、暗闇の中、草むらから微かにそんな音が聴こえた気がする。

 アヤメに目配せすると頷いた。

『なにかいる』

 音の大きさ的に――。

「――オラァ!!!!」


 ボクとアヤメの見ている方に向かってレオナが飛び出し、斧を振るった。

「どこだっ!?」

 雑すぎるにもほどがあるだろ!

 文字通り脱兎の如く逃げ出したのは、ピンと上に伸びた長い耳が特徴的な……豚??


「逃さないでござる!」

 アヤメは反応良く、手投げ矢(本人はクナイと呼んでいる)を投げる。

『ピグッ!?』という悲しい鳴き声が暗闇から聞こえた。凄いな、この暗闇で命中させたのか。


 ブタウサギとでも呼べばちょうど良さそうな外見の、ずんぐりむっくりした生き物をアヤメが耳を掴んで運んできた。

 

「おおー!ブタウサギだ!」

「そのまんまだ」どうやら当たったらしい。

 アヤメが手際よく捌き、ボクの召喚した塩を振って持ってきた香草で軽く燻しながら焼くと芳醇な香りにボクのお腹も鳴る。

 3人で別けると流石に1人頭は少なくなってしまったがとても美味しく、満足のいくものだった。

「……これってさ、もしかして――」

「――《カスターニャ》の食事でよく出てるでござるな」

 あの謎肉はこのブタウサギさんのものだったのか!

 特に解く必要のない疑問は解決した。


 さぁ、問題はこれからだ。


 食事の時は和気藹々としていたのにいざ食べ終わるとまた微妙な空気。もういっそ忘れて寝てしまおうかなんて考えも浮かばなくはない。


 ……というわけにいかないな。

 2人の話はまだしも、ボクの話はしないとだ。


「……あのさ、――」

 今度は誰とも被らず話し始めることができた。

 

「実はボク、……コロシアムでミノケラスに一度、食い殺されたんだよね」

「はぁ?」「えっと……それは……?」

 困惑の表情を向けられてボクは自身の会話下手を自覚した。


「――」

 カミサマ(仮)に再度出会ったこと、新たな褒賞(ボーナス)を得たこと、恐らくそれによりアヤメの話を聞いてしまったことを伝える。

 ボクが全てを話し終えた後、レオナは渋い顔を浮かべて黙り、アヤメの言葉を待った。

「……本当に申し訳ないと思ってる。遠くに離れればって思ったんだけど効果がなくて――」

 ボクは追加で謝罪の言葉を並べるが、謝ったところでやった事は変わらないのだ。

「――……いっそ、踏ん切りがついたでござる」


「……え?」

「話す度胸がなかったでござるが、もうサダオ殿に知られているのならイイでござる!レオナ殿、聞いてもらえるでござるか?」


 アヤメはそう言ってボクに怒りもせずに、洞窟の中で松原さんと話した内容をレオナに伝える。

「セイテンの術、……ホンキなんだね」

「もちろんでござる。物心ついた時からずっと願ってた事でござるからな」


 ここまで来ると流石のボクも、ソレがなんなのか分かり、心の中で思っていたことを後悔した。


「アヤメは本気で女の子になりたいんだね」

 ボクは勝手にアヤメのことを男の娘だなんだと思っていたし、失礼なことも考えていた。でも実際、彼女は本気で……。

 

「気持ち悪いと思われても構わないでござる!」

 少し震えた声で強がるアヤメにレオナが抱きつく。

「……あたしはそういうの、よく分かんないけどさ、あたしたちもう仲間じゃん!だからそんなこと思わないよ!」

「ぐへぇっ……」

 強く抱かれたアヤメが苦しそうにしているけどイイ感じの雰囲気なので何も言えない。

 ……ボクが言えるのは「……こっちの世界だとどうか知らないけどボクのいた世界では、……まぁよくあるって言ったら嘘なんだけどさ。稀にある話だったよ。否定的な人はどうしてもいたけど、少なくともボクは否定しないよ」


「よ、良かったでござ、……レオナ殿、無理……ギブアップ……、苦しいでござ……ごぺぇっ?!」



 オロロロロロ。




 アヤメが吐いた……モノが、抱きついたレオナの頭部へ()()にかかる。


「ギャォーンッ!」


 モノに(まみ)れたレオナの咆哮のおかげか、その夜は平和に過ごせた。きっとモンスターたちも怖かったんだろうな!うん!きっとそう!


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