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本物の勇者


「いやいやいや、そもそも誰なの?なんなの?……あれ?もしかして……サダオと同じ異世界人?」

 《シリュウの呼び笛》とやらをボクが吹いたせいで、あのドラゴンが現れたのだとしたら、ボクは今すぐに名乗り出るべきだろう。

 だがレオナが犯人探しを始めた剣士の前に立ちはだかる。

「サ……ダオ?……?あぁそこのメガネの子も転移者なのかな?」

『も』ということは、やはりこの人も。

「……はい。そうです。ボクはひと月ほど前にこの世界に()()()でやってきた、御宅田サダオと言います」

「手違い?そうなんだ。大変だね、私は『松原大吾(マツバラダイゴ)』。こっちに来てからもう20年になるかな――」

「……っ、やっぱりでござるか!」

 剣士の名乗りを聞いたアヤメが急に大声を上げる。

「『ござる』?」

 松原さんはアヤメの語尾が引っかかるらしい。

 ……ん?やっぱりって?


「貴方があの、『勇者ディエゴ』でござるな!」

「ええっ!ホントに!?あの勇者ディエゴがこんな冴えない見た目してるってワケ!?……でも確かに複数属性の魔法使ってたし……」

「ドラゴン相手に単独で勝利するなんて《勇者》であるこれ以上ない証拠でござるよ!」


 ……《勇者》?

「……え?あれ?勇者って確か……先月、いや、あの話を聞いたのがひと月前だから……。ふた月前に亡くなったって話では?」

「あっ!そうだよ!クレッセント国内でも大々的に報じられてたじゃん!それに『ディエゴ』じゃなくて『ダイゴ』って名乗ってなかった?」

 レオナの言う通りだ。……ちょっと似てるけど明らかに違う名前。

「……実は誤報だった可能性もあるでござるよ。現にこうして目の前で生きてるでござる!」


「あちゃー……」と松原さんは頭を抱えている。

 こんな、うだつの上がらないサラリーマン風の人が《勇者》だなんて大それた二つ名を冠してるとは、失礼ながら思えない。


「……この際だから言っちゃいますけど、その、……私が『勇者ディエゴ』で間違いないです」


「ほらやっぱり!合ってたでござる!拙者が合ってたでござるよ!」

 アヤメはぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ。なんでだろうって考えたけど、そうか、アヤメの憧れてる《アヤメ》は確か《勇者ディエゴ》のご先祖様なんだっけ?


「でも、申し訳ないんですけど、私と会った事は決して誰にも漏らさないで欲しいんです。『死んだと思われたまま』のほうが色々と都合が良くて……」

 自分が死んだと思われてる方がイイ。なんて考え方、どんな生活を送ってたら思うんだろう。

 白髪混じりの頭と、目の下のクマ、およそマトモな生活を送っていなそうな不健康丸出しの顔つき。

 きっとボクなんかじゃ想像もつかないような毎日なんだろうな。


「……分かりました。決して誰にも言いません」

「分かった。まぁ別に誰かにわざわざ言う必要もないしね」

「もちろん言わないでござる!代わりと言ってはなんでござるが、聞きたいことがいくつもあるでござる!」

 松原さんの状況を慮って、少しナイーブな雰囲気になったボクやレオナと違い、アヤメはグイグイ前に出ていく。

 

「勇者ディエゴは疾風のアヤメの血縁というのが拙者たちの間では専らのウワサでござるが――」

 ……拙者()()?え?それってボクらのこと?それともボクらが知らないアヤメのお友達のこと?


「――ごめんなさい。あんまり無駄話をする時間はないんです。《呼び笛》を吹いた犯人を早く見つけないといけなくて……」


「……無駄話……でござるか……」

 一蹴されたアヤメは後ろからでも分かるくらい落胆している。かわいそうに……。

「……どうすんの?」

 レオナがボクに肘打ちして小声で話しかけてくる。

 自白するか、シラを切り続けるか。と言ったところだろう。選ぶべき選択肢はたった一つだ。

  

「……ボクが、ボクが吹きました……」


「……そう、それは()()()()。ここに吹いた人がいなかったら、探すのに骨が折れただろうからね。……じゃあ教えてもらえる?吹くに至った経緯と、なぜこんなモノを持っていたのかということについて」


 松原さんはいっさい怒ったような雰囲気をさせず、穏やかに……いや、事務的に話を進めた。


 ボクが《シリュウの呼び笛》を手に入れた経緯について語り始めるとレオナが横入りして、自身に責任がある。と言い始めた時、雨が降り始めた。

「……責任の所在については其方で――雨ですか」


 さっきまで別に雨雲も見えなかったのに降り始めた雨がメガネに落ちる。

「ドラゴンが暴れたせいで、雨宿りできそうな場所がないですね。しかたない、私が作ります」

 松原さんはそう言って地面に両手をつける。

 魔法陣が広がり、地面がゴゴゴと音を立て始めた。


「な、な、なにこれ!?」慌ててアヤメに飛びつくレオナ。

「お、重いでござるよ……、抱きつくならせめて斧を置いてからにして欲しいでござる……」


「よし、こんなもんでいいでしょう。簡易的ではありますが、雨避けには問題ないはずです。さぁ、お三方とも、こちらへ」

 隆起した地面が作ったドーム状の小さな洞穴の中へと松原さんは先んじて入り、ボクらも後に続いた。


 中に入ると、これまた土で作られたイスが4つ地面から生えており、ボクらはそれぞれ席についた。



  

「……なるほど、分かりました」

 一連の流れを説明したところで松原さんは口を開いた。細かい詳細には興味がないらしい。

「クレッセント王国とは関わりがないのでよく知らないですが、例え間違い、勘違いの類だとしても、誰か人を雇ってオニキス卿にはお説教をしなくてはならないですね」

 貴族相手にお説教?と一瞬思ったが、この人は勇者なんだ、きっと可能なのだろう。


「おおよそのことは分かりましたので、もう皆さん行って構いませんよ。というより早くこの場を離れた方がいいですよ?」

「え?そんな感じ?」

 松葉さんの言葉にレオナが目を丸くする。ボクも同感だ、なにがしかの罰則、もしくは最低でもお説教はくらうと思っていたのに。

 最後まで事務的だった。


「あの、……どうしても!どうしても聞きたいことがあるでござる!」

 基本、沈黙を保っていたアヤメが立ち上がり、大きな声を上げた。


「……、本当に急いだ方がイイんですけどね。……分かりました一つだけ、一つだけお答えします」


 松原さんはそう言って立ち上がり、外の雨模様を確認しに行った。

「何について聞くワケ?アンタはホントに《疾風のアヤメ》の一族ですかー?とか?」

「いや、松原さんは20年前にコッチの世界に来たって言ってた。きっと話そのものが作り話か、誰か違う人の可能性があるんじゃない?」

「あー、そっか、じゃあ聞くことなんてある?」

 

 ボクとレオナの話を聞いているのかいないのか、アヤメは相槌すら打たずに何やら考え込み、しばらくして松原さんが戻った頃、ようやく口を開いた。


「……2人だけでもいいでござるか?」

 アヤメのその言葉に、レオナは「なんで?」と言いかけたが、言葉の途中で区切り、分かった。とだけ言った。ボクも頷き2人でまだ、少し雨の降る外へ出た。


「……何話してんだろ?」

「さぁ?……でも聞かないことを選択したんでしょ?ボクもだけどさ」

「まぁね。『仲間』が本気なら仕方ないし」

 レオナは小さいし、可愛らしい容姿ではあるが、こういうところが割と男前だ。


『――で?質問って?』

 洞窟の中から松原さんの声が聞こえた。

 

 レオナはなにも聞こえてないらしく、どこ吹く風で空を見ながら『止めーやめー』なんて祈ってる。

『――《セイテンの術》について教えて欲しいでござる』

 アヤメの声も聞こえた。

 まずい!聴くべきじゃないとボクは思い、遠くに見えた出店のテントを目指して走り出す。

「雨宿りならもっと近くのテントで良くない?!」

 レオナはボクの後を追いながら文句を言う。

『――セイテンの術?なぜ……ってもしかして貴女、男性になりたいのですか?』

 ダメだ。距離を置いても声が聞こえる。なんだこれ?コロシアムでも離れた位置にいたレオナたちの会話が聞こえてきたが、…………まさかこれが新しい褒賞(ボーナス)?!だとしたらなんて使い勝手の悪い、悪趣味なチカラなんだ!


『――拙者は……肉体は男でござる』

『――え?……なるほど、そういう事ですか。……その喋り方、《疾風のアヤメ》でしたっけ?あの東方諸国で広まってる絵巻物語の』

『――その通りでござる。拙者はあの絵巻物語に出てくる《アヤメ》と《セイテンの術》に憧れたでござる!』


「雨、止まないね?どうしよ、……勇者ディエゴはさっさと帰るべきって言ってたけど濡れて帰るの普通に嫌じゃない?」


「……」近くにいるレオナの話し声と遠くにいるアヤメたちの会話が混じってくる。

『――セイテンの術は存在しますよ。貴女たちは冒険者ですよね?きっと、今よりずっと上のランクに上がれば手に入ると思いますよ。希少性って意味では無いに等しい術ですから』


 ……『セイテンの術』というのが何かは知らないが、どうやら『手に入るモノ』らしい。なんだろ、呪文の書かれた巻物(スクロール)とかで、読むと魔法が使えるようになるとかそんなのかな?ゲームっぽいなぁ。

「目の前で話してんのに無視すんな!」

「ご、ごめん!ちょっとボーッとしてた!ごめん!」

 レオナを少しだけ放っておいたら大変なお冠だ。

 時々、沸点が低すぎる。

「で?どうすんの?帰る?帰らない?」

『――それを聞けて良かったでござる。もしかしたら作り話かと不安でござった故……』

『――あぁ、安心してイイですよ。あの絵巻物語に出てくる魔法は全て現実のものです。ちなみに言うと、私は《疾風のアヤメ》と偶然、同じ名字なだけです』


「そうか、たしかに少なくない名字か――」

「え?何言ってんの?」


 あっ、間違えた。


「今何の話して――って!何このテント!全然意味ないじゃん!」

 急に吹いてきた横殴りの風に雨が流されてボクらは濡れてしまう。

「……暴風雨か?!」

 そんな雰囲気なかったはずだ。あまりにも唐突すぎる。

『――じゃあ悪いけどそろそろ行ってもらえますか?さっきのドラゴンの《親》が来そうなんで』


 ……親?



「ああぁっ!テントが!」

 暴風に負けてテントが空を舞った。


 ボクとレオナは飛んでいくテントを見上げて、そこに現れた超が付くほど大型の飛行物体を発見する。

「…………うそ?」

「あれが……ドラゴン……」


 そっか、……《シリュウ》って《子龍》なんだ。

 ははっ……、ヤバいな……もう何も出ないや。

 

 

 

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