闘え!サダオ!
「だからもー!っ、なんだってんだ!」
突然戻されたボクは怒り心頭、目の前の牛頭に大声で感情を発露する。
『ぶもっ……?』
膝を震わせ、お漏らしてたボクが大声をあげたことに牛頭は戸惑う。
観客達も『あいつなんだ急に?』『やべぇなあいつ』『昔いたわーああいうやつ』『あー、いたかも。普段大人しいくせに急にキレるんだよな、キチィ……』とか好き勝手言っている。
「そう!そうだよ!その感情だよ!闘えサダオ!闘争の基本は怒りだ!」
レオナが熱く握り拳を震わせながら前のめりに応援してくれる。どこぞの名トレーナーみたいだ。
「サダオ殿!なにか!何か打つ手はないんでござるか?!なんでもいいから召喚するでござる!」
アヤメも特に策がないらしい。そりゃそうだ、ボクが後方支援役を自称して前に出てこなかったツケだろう。
「おいおい、あのメガネ野郎、女2人に応援されてやがる。ムカつくぜ!」
誰かが無責任に吐いたそんな言葉で、観客席の雰囲気が変わる……、悪い予感しかしない。
「うおらー!殺せぇ!そいつを殺せぇ!」「異世界人だからって調子乗んなボケー!《ミノケラス》!さっさとそいつをぶち殺せ!」「ハラワタをぶちまけろー!」
飛び交う怒号、本来なら受けるはずのないであろう声援を一斉に受けるミノケラスと呼ばれたモンスターは自身の腕を見ながら『この、ボクが……応援されてる?』みたいな雰囲気を出してる。
ミノケラスは手のひらをグッと握りしめてボクの方へ飛ぶように駆ける。『みんなの声援が力になる!』じゃないのよ。
「やれー!ミノケラス!」「がんばえーミノケラス!」「シネメガネ!」「シネメガネ!」
観客席は狂喜乱舞だ。
「ッ、出ろ!出ろおおおお!!」
ボクはカミサマ(仮)から貰ったはずの《褒賞》とやらに期待して、最近練習中だった《お酢》の召喚を試みる。
『ブモッ!?』
「っ!」「なんだ?!」「なにしやがる?!」
ボクが手を前に出して大声を上げたことで、ミノケラスは急ブレーキ、観客たちはどよめく。
「って!何も起きないやないかーい!」
――かーい、かーい、かーい、かーい。
誰かのツッコミがコロシアム中に響き渡り、一瞬遅れて場の全員、……ボクとレオナ、アヤメ以外の全てが腹を抱えて笑い始める。
これほどの人間から嘲笑される日が来るなんて……顔から火が出そうだ。……てゆーか涙が出てきた。言葉のあやでなく本当に……。
涙が頬を伝い、唇の端につく、しょっぱい……。ん?……なんだろこれ?なんか……味が……。
『ブモモッ!ブモモッ!』
みんなも笑ってる。ミノケラスも笑ってる。
るーるる、るるーるー、ってモンスターって笑うの?!
「今がチャンスでござるよ……」
アヤメが小さく呟いた。
……そう、小さく呟いたんだ。
これほどの人がいて、大声でボクを馬鹿にするよう、笑ってるいるのに……なぜかその声がボクに届いた。
理由はわからない。でも、アヤメの言う通りだ。
ボクは涙を拭い、目前で大笑いしてるミノケラ――。
「――は?……なんで、涙が黄色っぽいんだ?……これ、すっぱ……、え?お酢だよコレ!なんで!?」
ボクは再度目の端から溢れていた液体を舐めてみる。これは間違いない、絶対に《お酢》だ!ウソだろ?まさか……カミサマ(仮)のくれた《褒賞》ってまさか、『目から召喚できる能力』?!ふざけんな!本当にあの存在……冗談にも程があるだろ!!
「うわっ、アイツ、自分の涙舐めてやがる」「異世界人クレイジーすぎるだろ」「キッモ……」
『キムォォオオ!!』
ミノケラス、お前まさか人間の言葉が分かるのか?
「……っ!そんなことはどうでも良い!それより今はお酢だ!目から出た意味は全然わからないけど、これならボク――」
『グゴオッ!』
「行ったぁ!ミノケラスの全力横殴りだ!」「決まったな!アレはたいていの闘士を一撃で再起不能にしたヤツの必殺技だ!」「ミノケラスはその圧倒的な膂力で、普通の一撃が必殺技になっちまうんだ!」「ジ・エンドだな。まぁいいさ、倍率は低いが勝ちは勝ちだ」
「なんなのこれ?!コイツら、いつから解説者みたいになってんの?!」
「アレは『解説おじさん』でござるよ、レオナ殿は知らないでござるか?」
「知らないし興味ないから説明しないで!」
「承知でござる!」
「ぐはぅ、……って、あれ……?」
ボクを馬鹿にするのに飽きたのか、突如としてミノケラスはボクに向けて牙を剥いた。ボクより一回り以上、大きな体で、防御など考えずに腕を思いっきり振り回した全力横薙ぎ。
それをモロに喰らったボクは宙へ浮き、地面に叩きつけられた。……のに、なんでだろ、あんまり痛くない……。
「なんだアイツ、なんでアレを喰らってピンピンしてやがる!?」「まさか完璧なタイミングで後方へ跳び、威力を軽減させたのか?!」「少しのミスも許されない完璧な立ち回り、それをあんな冴えないメガネが?!」「オレは見てたぜ?まぁお前らには無理だろうな。おそろしく速い体術、オレじゃなきゃ見逃しちゃうね」解説おじさん達は見当違いで盛り上がってる。
ボクは立ち膝に手を置き、ゆっくりと立ち上がる。
「すげー雰囲気あるぞ、なんだこれ?」「何が起きたんだ?!当たりどころか?」「うおー!アツい展開だ!どうなっちゃうんだ?!」
「コレは……もさしかして《お酢》の力か……?」
「オスの力?!何を言ってやがる?!」「オスとしてのパワーが違うってのか?!」「なんて自信だ!?ミノケラスの股間のモノを見て、まだ自分のオス力に自信が持てるって言うのか?!」「ちくしょう!なんてやつだ!もういっそ見てみてぇぜ!」
…………観客の人たちはもしかしたら悪い人じゃないかもしれない。頭は悪いっぽいけど。
「……そうか、お酢は防御に使う調味料なのか……」
……ボクも何を言ってるんだ。観客のおじさん達のこといえないや。
『防御に使う調味料』?どういうワード?コチラの世界に来る前のボクなら死ぬまで思いつかなかっただろうな。こんな意味不明なワード。
自分で言ってて意味が分からないけど、きっとそうなんだ。ボクの召喚する塩は回復、砂糖は身体能力強化、そしてお酢――。
「ぐへっッ、!」
いきなり顔面をぶん殴られて変な声が出るし、体は飛ばされ地面に打ち付けられる。
「今度こそいったぁ!」「顔面崩壊、間違い無し!」「全体重を乗せた完璧な右ストレート!」「アレで生きてたら人間……うわぁぁ!?あいつ人間じゃねぇええ?!!」
「……いてて……ってやっぱり痛くない……」
「うわああぁ!」「きもいいいーー!!」
コロシアム内が今までのそれと違う、悲鳴で溢れかえる。前席でかぶりついて観てる人以外は何故か皆、嫌悪感丸出しの表情で僕を見てる。
「……え、なにあれ?サダオってあんなに柔らかいの……?きもっ」
「レオナ殿!よくないでござるよ!確かに見てくれは気持ち悪いけど……、さっきサダオ殿はビネガーがどうとか言ってたでござる。きっとアレが新しい召喚の効果でござるよ!」
「えー、それであんな風になるなら、……あたし食べたくないかも……」
味方である2人からも忌避の感情を向けられる。
え?何が起きてるの?ボクわかんないんだけど……、あれ?なんか……世界が横向いてる……?
「アンタたちのお仲間は何が、どうなってるの?アタシあのメガネを人間だと思ってここに出したんだけど……、どう見てもアレは人間じゃないわー!」
これはたしか、マダムの声だ。
「……あれ?首が……」
仲間たちに声をかけるマダムの方を見ようと首を動かそうとして気がついた。
もしかしてなんですけど…………ボクの首、伸びてない?
コロシアムは阿鼻叫喚、前席かぶりつきおじさん達除く観客は皆、恐怖に歪んだ表情をコチラに向けたまま我先にと場を後にした。
「あたし達も知らない!どうせ新しい能力かなんかなんでしょ?」
「《お酢》の力で全身が柔らかくなってるのかも知れないでござるな。故に打撃系の攻撃が通らないとかどうでござる?」
「どう?とか言われても分かんないよ!」
なるほど、アヤメの説はおそらく当たりだ――。
「くわっ?!」
さっきからちょこちょこミノケラスに殴られてるけど、当たった箇所が柔らかくてダメージをほとんど受けていない。
「おいおい《オスの力》で全身が柔らかくなってるらしいぞ!」「はぁ?!なんでそうなんだよ!」「そうだぞ!《オスの力》なら硬くなるはずだろ!」「ははっ!ちげーねぇ!」「笑えるぜ!はっはー!」
観客席に残った『下ネタおじさん』……失礼、『解説おじさん』たちは謎のコンビネーションで和気藹々としている。ちょっと楽しそうで羨ましい。ボクもああやってくだらない下ネタを言い合える友達が欲しかったな。……なんて戦闘に全く関係ない事を考える余裕すらある。
『グゴオッ……グォ……ブモォ……』
ミノケラスは肩で息をし始めた。
スタミナ切れか?まぁ、かといってコチラに決め手があるわけではない。
砂糖を摂って攻勢に出るのも考えたが、もし万が一、『効果の上書き』が起きたらと考えると二の足を踏んでしまう。
「……あれ?なんか落としてない?」
レオナがアヤメに話しかける声が聞こえる。
「え……あぁアレは《笛》でござるよ。ここへ来る前に出会ったお貴族様から貰ったでござる。きっとあの牛頭に飛ばされた時落としたでござろう」
「ふーん、笛かー。じゃあ今、別に関係ないか。……てゆーかさ、もう正直、飽きたからさっさと倒してくんないかなぁ」
「……決め手にかけるでござるなぁ……」
死にかけて帰ってきて、この扱いかー。
ボクが悪いんっ……、だけど……、って殴るのをやめてくれない?!
「貴族?笛?……《つさ土人形の呼び笛》か?……いや、あの色、形!まさかアレは《シリュウの呼び笛》!?なぜそんな、遺物をヤツがっ?!」
…………マダムの声だ。
ミノケラスに殴られながらでも確かにそう言ったのが聞き取れた。
「もしアレがこんな所で使われたらアタシ達の作り上げた楽園が崩壊してしまう……。おい!お前ら!さっさとアレを回収しろ!」
「回収!」「回収!」「回収!」「回収!」
マダムの号令にガチムチマッチョメンが乱入してきた。……あの笛、そんなにすごいモノなのか?
「うおい!オス同士の闘いに乱入すんな!」「やめとけ!アレはマダムの子飼いだ、絡むな」「ちぇっ、興醒めだぜ」「つまんねぇー。国に帰るか」
『解説おじさん』すら帰り始めた。
……そういえば、ここに来てから良い事なかったな。
大勢の人前で漏らしたし、嘲笑もされた。聞こえないフリしたけど、見た目のこともいっぱい悪く言われた。……こんな場所、ない方がきっと良いし……吹いちゃおうかな。……うん。そうしよう!
どうなるか分からないけど、今のままよりはきっと良くなるでしょ。
「回収!」「回収!」「回収!」「回収!」
猛スピードで笛へと、一直線するマッチョメン。
「ミノケラス!!そいつらを止めろ!キミの最後の力を振り絞れ!!」
『グゴオッオオオオオオ!!』
ボクの指示に従ったのかは定かではない。
でも、ミノケラスが乱入してきたマッチョメンに向かって攻撃を始めたのは事実だ。
「なにやってんだ!バカ牛!アンタの獲物はそっちのメガネだろうが!」
《馬鹿牛》ってなんか紛らわしいね。
ボクは笛を拾い、口に近づける。
「やめろ!それを吹くな!だめだ!下手したらお前も死ぬぞ?!」
「……マダム、アナタ自分で言ってたじゃないですか?『嘘は弱者のもの。強者である自分は嘘をつかない』と」
「……?言った!たしかにその通り!アタシは嘘をつかない!だからそれを吹くのはやめろ!」
マダムは慌ててる。どうやら図星を突かれるのが怖いらしいな。
「この状況、果たしてアナタは今も強者と言えるのですか?」
「メガネ……アンタぁ何を言ってるんだ?見当違いも甚だしいぞ!やめろ!」
マダムがついに観客席から降り、ミノケラスと交戦中のマッチョメンを避けながらコチラへと駆け出す。
「いいや!言えないね!アンタは今、弱者なんだ!つまり!アンタの言葉はウソなんだッ!!ボクは吹く!今ここでッ!」
「バカが賢いフリするなッ!やめろおおぉ!!!」
――ボクは大きく息を吸い込み、笛を吹いた。
そして――。
そういえば、なんかここにおけるイイネが変わったとかなんとからしいけど、どう変わったんすかね。ってイイネ貰えねぇから関係なかったわガハハハ!
ぐすん




