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エッサホイサッ


 コロシアム前で絡んで来た門番からボクら結果的にを守ってくれた妙齢の女性は自身を《マダム》と呼ぶように言った。

 彼女がボクらを守ったのは、あくまでも結果的に、だ。彼女に最初からボクらを救う意思があったとは思えない。きっと、何やら騒いでて面白そうだから介入したとかそんな理由だろう。

 

 ボクはこの人を信用しようとは一切思えないし、本人もそんなこと望んでいなそうな雰囲気を醸し出してる。この人にとってみればボクら如きにどう思われようと些事だと思ってそうな、冷たい目でボクを見てる。


 ボクらがボーダーランズ(ここ)に来た理由を説明するとマダムは2つの選択肢を提示した。

 

『戦って得るか、失って得るか』


「……、そ、それはどういう意味ですか?」

 ボクはそのマダムの真意が読み取れず訊ねると、先ほどまでの柔和で、どこか気品や余裕を感じる表情から一変。

「それは自分なりに考えた上で聞いてる?とりあえずで聞いてるんじゃないの?!脳みそついてんのアンタ?!アタシはねぇ!自分で思考できない馬鹿が大嫌いなんだよ!」と怒鳴りつけてきた。

 ボクは恐怖にすくみ、『ひぅっ』と小さく息を漏らし肩を震わせる。


 だが、股下にタマ……、じゃなくて……大したタマ。つまり肝っ玉の据わったアヤメは即座に反論する。

「逆にマダムはその程度の言葉で本当に伝わると考えたでござるか?自身が言葉足らずだった可能性は考えないでござるか?」


「アンっ?!……アンタ……。…………なるほど、アナタずいぶん面白い返しね。残念、女じゃなかったらアタシのペットにしてあげたのに」

 マダムはアヤメの顎をぐいっと掴み、残念そうに手を離した。ここだけの話なんですが、その子、男の娘なんですよ。


「この娘に免じて許してあげるわー。今回だけよ」

 マダムはそう言ってアヤメの頬を撫で、先程までの落ち着いた表情、雰囲気、喋り方に戻った。セルフコントロールが非常に長けているんだろうけど、コチラからすれば情緒不安定にも見える。もしくは反社会的な脅し……。

「あー、なんだっけ?なんの話をしてたんだっけ?異世界人がくだらない事言うから忘れちゃったわー」

 

「『戦って得るか――』という話でござる」

「あぁ、そうね、その話ね。『戦って得る』はそのままよ。ここがどこか知ってるでしょ?」


『コロシアム』……ここはモンスターと人間が命を賭けて闘い、観客はそれを愉しむ場所。さっきから割れんばかりの怒声が会場の外であるボクらの元まで届いてる。賭けにアルコール、甘い匂いの煙。視界の端で『ハシシはいらねぇかー』と声を掛けてる怪しい奴も見かけた。非合法の匂いしかしない。


「……コ、コロシアムに闘士として出場しろってことですか?なぜそんなことする必要が――」

 と口に出すと、マダムの右目がピクピクと痙攣し始めた。

「――あるってことですね。……つまりレオナ、ボクらの仲間も、もしかして闘士として出場してるとか?」

 ボクはマダムの怒りを買わないよう、訊ねるのをやめてアヤメに相談する感じに方針を変更。マダムの右目は痙攣を止めた。怖すぎる。


「もしレオナ殿が闘士として出場しているなら拙者たちが出る意味などあまりないのでは?……………………どちらかというと……その、……勝者に与えられる景品になってると考える方がまだ理解できるかと……」

「は……?景品……?レオナがコロシアムの景品……?」

 人が……?まさかそんな残酷なことが……いくらここが治外法権だとしても……ありえるのか?もしそうならなんて話だ!

 しかも、そんな非人道的な扱いがここで当たり前なのだとしたら……、まさか『失って得る』っていうのは……。


「臓器売買……?」

「ほら。ちゃんと考えれば辿り着けるじゃない!いいわ、偉いわー。大正解!おめでとう。……そっちはね」

「そっちは?つまり片方は違うってことでござるか」

 マダムはアヤメに艶かしい視線を送るだけで何も言わない。ボクはもう眼中にないらしい。

「……そもそもマダムは本当にレオナのことを知ってるのかな」

「?どういうことでござるか?ここまで話して実は知らないなんて……」

「でもボクらはこの人に、ここまできた経緯を話しただけで、レオナの身なりについては話してないじゃない。誰か別の人と勘違いしてる可能性も――」

「安心していいわー。アナタたちの探してる『赤毛のお嬢ちゃん』をアタシはちゃーんと知ってるから」


 なるほど……どうやら言ってることは本当らしいな。ボクらはレオナが赤毛ってことは伝えてなかったはずなのに知ってる。


「ウソはつまらないからアタシ嫌いなの。ウソってようは弱者の武器でしょ?そんなの必要ないの。アタシは強者だから!」

 マダムはそう言って全力で笑う。声も動きも大袈裟だが目は笑ってない。

 

「……つまり、ボクらがコロシアムで闘うか、内臓を売れば間違いなくレオナと再会はできるということですね」

「それは違うわ!だってそれじゃ盛り上がらないでしょ?」

 ピタッ!と動きをやめ、首だけでコチラをみるマダム。

「どちらかを選べば、アナタ達だけでなく『赤毛のお嬢ちゃん』の目的も果たされるわよ?再開を約束されるだけより燃えるでしょ?再開だけじゃ空っぽの可能性もあるわー」

「それってどういう――」ボクは食い気味で反応してしまう。

 

「――つまりマダムはレオナ殿の目的も知っているということでござるか」

 マダムの右目が痙攣するより早く、アヤメのフォローが入る。

「それが大事?」

 いかん。別角度で地雷を踏んだらしい。

 マダムは言葉少なく、不機嫌なご様子。

「ボクらは冒険者だ!これまでも、これからも!だからこんな場所で内臓を失うなんて選択はあり得ない!ボクは闘うを選びます!」

「ちょっ、それは早計ではござらぬか?!まだ拙者たちはここへ来たばかり、他の方法で見つけられるかもしれない――」

「――ダメー!選んだわー!今、そのメガネくんは闘うことを選んだわー!」

 


 ……うぷす。マダムはようやく目が笑った。

 いや、目だけが笑って、大声を上げた。

 

「闘うを選んだ」「闘うを選んだ」「闘うを選んだ」「闘うを選んだ」

 どこからともなく現れたガチムチマッチョメン集団が僕の四肢を掴み、持ち上げた。あまりの早技にボクはリアクションすら取れず、なすがままに宙へ浮く。

「運んで!」マダムの指示にマッチョメンは頷き、走り出す。

 

「エッサホイサッ!」「エッサホイサッ」

 息のあった掛け声で軽々ボクをどこかへと運ぶマッチョメン。

 

「サダオどのー?!」



 ボクを呼ぶアヤメの声が遠くに聞こえた。


 ――――――


 そして場面は現在へと戻る。

 現在とは……牛頭のモンスターがボクを咀嚼するところだ。


 マッチョメンに運ばれたボクはあれよあれよと言う間に、コロシアムの闘士にされ、この目の前のモンスターと対峙する運びとなった。


 会場にはなぜかレオナがいて、アヤメと隣り合って座っている。その隣、高そうな席にマダムが座って大喜び。仕組まれてたんだ。


『異世界人が喰われるところを観たい』とかそんなくだらない理由だろう。

 首を噛まれ、ピクピクと痙攣しながらボクはそんな事を考えていた――。



 ――――


  

『なんでだよー!なんで簡単に死んじゃうんだよ!!』

「っ、いてっ」聞き覚えのある声が聞こえたと思ったら頭に何か当たって下に落ちた。……ゲーミングマウス?

『クソー!最後にセーブしたのいつだったっけ……。って2時間前かよ!ふざけんな!2度やらん!アンスコじゃ!ボケェ!』


「…………カミサマ?」

 気づくとボクは真っ白な空間に浮いてるよう、漂っているような、不思議な状態になっていた。

「……ボクは死んだのか?」

 目の前には何もない空間。ただそこに光の球が浮いていて、それ、がこちらへ話しかけてくる。

 

『あ?なんだお前、んだよ!お前、早くも()()()()てんじゃねーか!いくらなんでも早すぎんだろ!』

 

 ……死にかけ?つまりボクはまだ、死んでないのか!


『勿体ねぇな。一度きりの《報酬(ボーナス)》として、死にかけたらココへ来れる権利を与えたのに、もう使っちまったのか……。やっぱお前、資料通りダメダメだな』

「……そんな事言われても、そんなの説明されてないですよ!」

『なんでもかんでも説明して貰えると思うな!ガキかテメーは!感謝されるならわかるけど、文句言われる筋合いはねぇぞ!』

「たしかに……。いや!おかしい!おかしいですよ!ありますよ!筋合い!」

 危うく納得しかけた。

 

『あ?んなもんあるわけねぇだろ?こちとら上位存在ぞ?舐めてんのか?』

「……《追放ボタン》」

 そう。ボクらは、ボクとゆいすんは本来、元の世界に戻されるはずだったのに、この《上位存在》によって異世界へと追放されたのだ!つまり今、ボクには文句を言う権利が――。

 

『はっ!?……そうかそれで元の世界と違う世界に行って……死にかけたわけか。……くそ!完全に忘れてたぜ。…………はぁ、確かにそれはコッチのミスだ。厳密には母ちゃんのせいだから俺は悪くねぇけど……』

 光の球はなにやら小声で言い訳してる。


『特別にもう一個《褒賞(ボーナス)》やるよ。それでいいな?……そうだな。…………存在ごと忘れてたから資料がねぇ……どこだ?』


 なにやらガサゴソ音が聞こえる。

 もう一つボーナスをくれると言っていたな。

「今まで貰ったボーナスは『ジョブ』『異世界語翻訳』、一度きりとはいえ『死ぬ前にここへくる』というもの。……いや!よく考えたらボーナスとか要らないから元の世界に戻してくださいよ!……ボクはその、正直あちらの世界の方が楽しいけど、ゆいすんはきっと……」

 あれ?そう言えば、ゆいすんは今どうしているんだろう。ほとんど気にしてなかったなんて……、ボクもカミサマ(仮)のこと言えないな。


『タカシッ!洗濯物出しっぱなしにするなって何度言うたらわかんのかんね!』

『母ちゃんっ?!勝手に開けんなって何度もいってぺよー!あっ……』


「え?」

 ボクの手元が怪しく光る。

『やべー、ミスった!やっちまった、……お前なら大丈夫!頑張れ!負けるな!力の限り!』

「ふ、ふざけんなぁ!!」

 身体が勝手に渦巻き状に回転して、ボクは元の世界に戻された。


『グオゴオオオオオ!!』

 二足歩行で筋骨隆々の肉体に牛の頭、その手にはレオナの戦斧に少し似た武器を持った化け物がボクの目の前で雄叫びを上げる。


 時間が少し戻ったらしい。ボクはまだ食べられてない。

 とはいえ、……絶体絶命な状況には変わりないんですけどッ!! 

 

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