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スラム 後


 レオナのいるであろう場所をグラスマンから教えられた後、ボクらはすぐ、この場を離れることにした。

 去り際、ボクはグラスマンにどうしても聞いておかないと、後々まで気になると思ったことを訊ねた。

『レオナに……その、コロシアムとかいう危険な場所へ行くよう言ったのはアナタですか?』

 ボクの質問にグラスマンはこう答えた。

『はっ!くだらない質問だな!いいだろう。特別に無料で答えてやる。お前のお友達、かの大食い娘が払えるほど、このグラスマンの情報は安くない!それにこのグラスマン、()()()()情報は渡さない』


「……あの情報屋の言い様だと、レオナ殿は間違った情報を掴まされて、『ボーダーランズ』に向かったって事でござるな?」

 アヤメは歩きながらボクに訊ねてくる。

「うん。ボクもそういう意味だと思う」

「うーん、思ったより悪い奴ではござらぬな、あのグラスマンとかいう情報屋。噂では高飛車で嫌味な性格と聞いていたでござるが」

「……まぁその噂、間違ってはないとは思うけどね。たしかに言われるほどではないかも。それよりさ『ボーダーランズ』について教えてよ。ボクはそれ、いや……そこ?について何も知らないんだ」

 ボクはアヤメのあとを追う形で足早についていく。

 

 今ボクらがどこに向かっているのかも、いつものギルドハウスがどちらの方向にあるのかも、もうわからない。背後にうっすら王城が見える、いざとなったらあっちへ行こう。と考える程度にボクは迷子なのだ。


「『ボーダーランズ』は複数の国境が入り乱れた地域のことでござる。ここクレッセント王国とは別の三国、つまり四つの国境が複雑に絡み合って、どの国も干渉しにくい状況が生まれてしまった場所なんでござるよ」


「四つ……四つ?!多すぎでしょ!?なにがどうなったらそんなにめんどくさい事に?普通もう少し色々話し合って、そうならないようにするんじゃないの?」

「元々は仲も悪く、土地の奪い合いをしていたらしいんでござるが、《魔王アスペルギルス》の復活により、そんな場合じゃなくなったでござるよ」

「《魔王》………………え?魔王?!なにそれ、そんなのもいるの?!」

 ファンタジーの定番とはいえ、そんな悪の存在みたいなものが実在するのか……。

 

「え?そうでござるよ?魔王がいるから魔族、魔獣、魔人、総称してモンスターが人間の領域に入ってきてるでござる。ある意味拙者たち冒険者は魔王がいるから仕事があるとも言えるでござる。もちろん人類の敵なので、倒さなくてはならないでござるが」

 

 勘弁してくれ、情報過多で頭が痛くなってしまう。……情報屋は『リザードマン』とかいう爬虫類っぽい人間、魔王がいて、……吸血鬼もいるとか言ってたな。四つの国境が混じって……。


「……とりあえず《魔王》は今、関係ないよね」

「……あー、確かに、そうでござるな。話をまとめると、今拙者たちが向かってるのは『ボーダーランズ』と呼ばれる国境地域。レオナ殿がいるであろう場所はボーダーランズの『コロシアム』。これだけ分かってれば問題ないでござる」

 話をまとめてくれた、ありがたい。

「ボーダーランズは国境が混じり合ってるせいで衛兵などの治安維持部隊が機能してないでござる。ゆえに、違法な取引や違法な商売が盛んで、『コロシアム』もその一つでござる」

「あ、そうなんだ」

 意外だな、というリアクションをしたボクにアヤメもまた、意外だ、というリアクションをする。


「コロシアムは知ってるでござるか?」

「ボクのいた世界にも、同じ名前の施設が大昔、あったから多分知ってるよ。名前が一緒だから同じとは思ってないけど――」


 いつの間にか王都の外周へ着いた。

 

「なんだお前ら、ここから出るのか?まさかボーダーランズに用……ん、異世界人??」

「え?本物?……おお!初めて見た!」

 門衛に囲まれる。毎度のことながら居心地が悪い。


「なんで異世界人がここに?」「ひと月くらい前話題になったろ?」「あぁ、あの『ハズレ』ってヤツか」

 本人の目の前でする話じゃないだろ。

「……通れ」「おい、いいのか?」「いいだろ?『ハズレ』なんだから」「でもよ、女の方は結構可愛いぜ?もったいないだろ」「たしかに……」


「な、そんな!ボクたちはボーダーランズに行かなきゃならないんです!通してください!」

「くっ、サダオ殿!申し訳ない!拙者が!拙者が可愛すぎるばっかりに!」

『すぎる』って勝手に足しちゃうアヤメのポジティブさを見習いたい。


「通せ」

 暇なのか、門衛たちが集まり、わちゃわちゃ騒がしくなった門前に低く、ドスの効いた声が通った。

 

「あ、あんたは……」「ポートマン?!」「グラスマンのところヤツがなんでここに?!」

 

 振り返るとそこには、あのグラスマンの元で用心棒のように振る舞っていた無口な大男、ポートマンが立っていた。

「グラスマン言った。異世界人、変な語尾の男。ボーダーランズ行かせろ」


 ……喋った。

「グラスマンは拙者たちがここで詰まると予測してたでござるか」「……先に言ってくれてもいいのにね」


 門衛たちはボクらの何倍も戸惑った様子で慌てている。

「こいつらグラスマンの仲間なのかよ。この門から出るってことはボーダーランズくらいしか行き先はねぇ、自殺志願者か?」「男?男ってマジか?ふざけんな!」「ウソだろ、……じゃあなにか?あれ付いてんのかよ」「くそッ!騙された!よくもだましたアアアア!!」


 ちゃんと慌ててるのは1人で他の連中はアヤメが男の娘だったことに憤慨してた。こいつらダメだ。ダメダメだ。


 結局、ダメダメな門衛たちはすぐに通してくれてボクらは無事王都を離れることに成功。ポートマンはボクらが門を抜けるのを見届けると無言で去っていった。


 いや、厳密に言うとアヤメになにか耳打ちしていた。ボクに聞かれるのを避けてるような雰囲気だったのでボクはその内容について聞かないが、アヤメはそれ以降少しテンションが高い。

 ……門の外には誰もいない。たぶんボーダーランズへ向かう、この門を利用する人はほとんどいないのだろうと予想できる。だから門衛たちはダメダメなやつらだったのか。


 ――――――


「――――という歴史があるでござる!」

 アヤメは歩きながら『コロシアム』についての説明をしてくれた。おおかたボクの世界にあったそれと遜色なさそうだ。

「違いは、相手がモンスターって所くらいかな」

「そうでござるか。拙者も聞いただけでござるから、ところどころ間違ってる可能性もあるので話半分で聞いて欲しいでござる」

「でもさ、レオナは何故そんな場所に行ったのかな?あんまり関係が見えてこないんだけど……」

「うーん、予測でござるが……。たとえば、レオナ殿の探してる相手がコロシアムで有名な闘士になってるとか?」

 あり得る。詳しく聞いた訳ではないが、レオナの探している人はかなりの『強者(ツワモノ)』らしい。戦斧ティグレの元々の持ち主で、それを片手で易々振るい、ドラゴンすらも単身で倒したとか。


「でも……そんな強者がわざわざコロシアムで闘士になるかな?もっと別の道がいくらでもありそうなのに」

「あとは…………騙されたとか?」


 …………あり得る。正直ずっと頭の片隅で、その考えがこちらを覗いていたのを無視していた。

「レオナ殿は……ほら、えっと……純粋でござるから」

「……そうだね!レオナは純粋だからね。うん」


 よくも純粋なレオナを騙したな!謎の人物!許さない!ボクらは許さないぞ!



 ――――――――


 王都を出て数時間、日が暮れかけてきたのでボクらは野営の準備を始めた。といっても、実はスラムで話が終わると思っていたので軽装備できてしまったから完全に露営だ。

 焚き火を囲み、軽食をつまむくらいしか出来ることはない。


「モンスターとか――」

「――し!そういう話をすると《来る》でござるよ」

 猟師を生業としていたアヤメはボクより何倍もこの手の状況に慣れているのか、焦った様子はない。

「無理に寝る必要はないでござる。とにかく、目を瞑り、ぼーっとしているだけでいいでござる。静かにしていれば勝手に朝が来てくれるでござるよ」


 言われた通り、静かに瞑想するように座っていると、本当に何事もなく朝を迎えた。

「いやぁ危なかったでござるな」

 立ち上がり、昇り始めた朝日に向かって体を伸ばしながらアヤメはそう言った。

「……え?どういうこと?」

「夜間、何度かモンスターが近くを通ったでござるよ。向こうも都合が悪いのか襲ってこなくて助かったでござる」

「ひぇ……」

 アヤメの言葉にキモが冷える。


 その後、また半日ほど大きな川沿いを歩き目的の場所(そこ)に着いた頃には太陽が真上から僕らを照らしていた。


「……これ全部が?」「ボーダーランズでござる。聞いていたよりも広いでござるな」

 

 辺り一面に広がる平原に、幾重にも枝分かれした支流が流れてる。その川を跨ぐように、これまたいくつもの建物が乱雑に建っていた。

「一際大きなあの建物がおそらく、コロシアムでござるな。きっと」

「……たしかに、あそこっぽいね。きっと」

 大量の人が行き交い、ここが街として機能してるのがわかる。その中でも中心にある、平べったい大きな建物から喧騒がこちらまで届く。


 行き交う人に毎度のごとく、ジロジロと見られながらボクらはそこへ向かう。

 しかし、すれ違う人たちの反応は王都のそれとは少し違った。

『異世界人?!なんでここに?!』と大半が最初は驚くが、『んだよ()()()じゃねぇのか、ビビらせやがって……』みたいな言葉が多々並べられた。

 

「……あれ?今のなんだったんだろう?」

「たぶん、自国の異世界人と勘違いしたのではごさらぬか?隣国にいる異世界人といえば、『暴虐のタナカ』『狩殺しのアリエッタ』などという、かなりの猛者がいると知られてるでござる。サダオ殿をそれらと見間違えたとか……」

「あぁ、なるほど、ここは色んな国の人がいるんだもんね」

 通りすがり様にボクを見てビクッ!とする人たちは他国の人間なのか、…………国境警備隊的なのが本当に機能してないんだな。悪い意味で無政府状態なのか?


「さて、どうするでござるか?」

 コロシアムと思しき大きな建物の前でアヤメは立ち止まり、ボクを見る。

「……行くしかないよね」

「いや、だからどう行くでござるか?」

「……とりあえず入場してみる?」


 体格のいい男たちが武器を片手に建物の入り口の両側に立ってコチラを見てなにやら話してる。

「……警戒されてるよね」

「まぁまずそうだと思うでござる。やはり異世界人は目立つでござるからな……」


「おい!キサマら!何の用だ?」

 門番の男が1人、ボクらの方へ向かって歩きながら指を指してくる。

「あ、いや、その、」言葉が出ない。ボクの世界にいた、町の不良なんて目じゃないくらいの威圧感だ。

 近づくとさらにその大きさに圧倒される。……え?この人たち本当に人間?


「人を探してるでござる」

 アヤメが極めて冷静にボクらの状況を伝えた。

「ここには居ない。消えろ異世界人!」

 話しかけたのはアヤメなのに、ボクを恫喝するよう顔を近づけて怒鳴りつけてきた。しまいにゃ泣くぞ、漏らすぞ?ええ?


「おいおい!そいつビビって震えてるじゃねぇか!やめてやれよ、弱いものイジメみたいで情けねぇぜ」

「はっ、これしきのことでお漏らししちゃうガキが来る場所じゃねぇんだ!とっとと帰ってママのオッパイでも飲んでな!ベイビーボーイ!」

 アメリカのいじめっ子みたいな事を急に言い出した門番たち。ここってヨーロッパがベースの異世界じゃないの?


「失礼にもほどがあるでござるよ!こう見えてサダオ殿は立派な御仁!キサマらみたいなゴロつきに馬鹿にされる謂れは無いでござる!」

「おいおい!本人は黙りこくって、彼女に庇ってもらってるぜコイツ!」

「女の方がタマすわってんじゃねぇか?あ?恥ずかしいヤツだな!……そうだ、こいつをコロシアムに出したらオモシレーんじゃねぇか?」

 その通りだ!アヤメにはタマがすわってるぞ!


 


「なるほど、なるほど。おバカなだけだと思っていましたが中々面白い事を思いつくもんですねー」

 いじめっ子ムーブが加速し始めた門番たちに冷や水をかけるが如く、冷たく冷静な声が割って入ってきた。

「っ、……お疲れ様です!」「お疲れ様です!」

 門番たちは急に現れた妙齢の婦人に頭を深々と下げてる。……雇い主とかそういうのか?


「……あら、アナタ異世界人ねー?どう?アタシのペットにならない?」

 ボクは今、人生で初めて顎クイってされた。

「顔平たいわね。やっぱやめとくわ」

 瞬間で興味を失われた。なんだこれ?失礼な!この世界の人間、基本失礼すぎるって!


「……貴女はどちら様でござるか?」

「ここで名乗る名前はないわー。で?アナタたちなんでコロシアムに入りたいの?面白そうだから理由、教えてくれる?……ん?アンタたちはさっさと仕事に戻りなさい!玉潰すわよ?」

「は、はいぃ」「失礼しました!」

 門番たちは行儀良く定位置らしい場所に戻り、姿勢を正した。


「で?どうなの?理由は?」

 デウスエキスマキナ、大いなる存在によって解決困難な状況が一変する技法、まさにそれを今ボクは……「なんかくだらないこと考えてるみたいだけどアタシの時間を無駄にするつもりなら玉潰すわよ?」


 はいぃ!!

 ボクは見ず知らずのご婦人に友人を探してることをかい摘んで説明する。ボクの話を黙って聞いていた、ご婦人は悪意たっぷりの笑顔をボクらに向ける。


 あぁ嫌な予感しかしない。

おかげさまで20pt行きました!嬉しいです!これからも是非によろしくお願いします!

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