ニューカマー 2
レオナに続き、ボクとティモシー?の順で階段を登るとレオナはボクの借りてる部屋の前で立ち止まる。
『中で待ってて、あたし椅子持ってくるから』と言って1人奥へと進んでいった。
「ここで暮らしてるんでござるか?」
ボクの部屋に入ったティモシーは何もない部屋の中を見ながらそう言った。
……今すぐその異様な語尾にツッコミたい。だがもし今、語尾について説明されてもレオナがいないと二度手間になるから我慢だ。
「……す、住んでるというよりは間借りですよ。本当はもっとちゃんとした所で寝泊まりしたいです。でもボクらはまだ駆け出しで――」
――そういえば、昇格クエストについての報告をし忘れていた。結局、アレは失敗扱いなのだろうか?……あれ?レオナってアレどうしたんだろ?部屋に持って帰ったのかな……?
クエストの件はあとで下に降りて聞いてみよう。
「駆け出し、……やはり拙者と同じでござるな!」
……『やはり』?
ボクの部屋に元々あった椅子をティモシーに譲り、ボクはベッドに座る。
うーん。こうして見ると本当に女の人にしか見えない。服装のせいというのも多少はあるが、なによりも顔が完全に女の人のそれだ。語尾がアレじゃなかったら緊張して逃げ出してたかもな。
薄い壁の向こうでバタバタ走る音がした。レオナだろう……ボクらのいる部屋を通り過ぎ、階段を下る音がした。
「……?」「どうしたんでござろうか」
……ござろうか?
まぁレオナはきっと提出し忘れた討伐の証拠、《ゴブリンの耳》を受付へと置きにいったのだろう。
「よし!で?何て呼べばいいの?アンタは『アヤメ』とか名乗ってたけど、本名は違うんでしょ?ティモシーだっけ?それと、そのヘンテコな喋り方についても説明してもらえる?!」
階段を登る音が聞こえたと思ったら勢いよく扉が開き、レオナが椅子を片手に入室。先に座ったボクらと等間隔の位置に腰を落ち着かせた。
「《耳》、提出した?」
「……出し忘れてたって分かってたんなら言ってよ!部屋まで持ってっちゃったじゃん!」
「………………」
沈黙。ティモシーは口を閉ざしたまま虚空を見つめる。
……思ったよりも深刻な話になるかもしれない。
ここはボクのいた世界とは違うので彼らのような人がどういう扱いを受けるかはわからない。男性でありながら女性物の服を着てる理由はなんとなく推察出来なくもないが、それを本人の口から言うのは憚られるのだろう。
中世ベースのこの世界、どれほどの理解があるのか。
「はぁ?ここまで来て何も言わないつもり?」
「レ、レオナ。その……ほら、言いにくいこともあるだろうし、なにか事情がありそうだしさ。今じゃなくても良いんじゃない?パーティにって意味じゃあんまり関係ない話なわけだし」
「事情?まぁ……そりゃそれなりにあるんだろうけど……」
レオナは不服そうな表情で腕組みをして黙ってくれた。
しかし、依然としてティモシーは何も言わない。
……一応、この場において最年長のボクが口火を切らないといけないか……。ボクに向いてるとは思わないが仕方がない。
「本当はボクも色々と聞きたいんですけど……、まずなんて呼んだら良いかだけ教えてください。もし希望がないのならティモシーくんと――」
「――アヤメ、と呼んで欲しいでござる」
ようやく口を開いた。
「わかりました。ではアヤメ、……ボクらは君を男性、女性どちらとして扱うべきなのでしょうか?」
……ボクの質問にアヤメは眉をひそめ、また口を閉ざした。レオナがガタッと椅子を鳴らして立ちあがろうとするがボクは手振りだけで『もう少し待ってくれ』と伝える。
「はぁ……」大きなため息をつくレオナ。うーむ、前途多難だな。
「ではその話は置いておいて、……なぜボクらのパーティに加入したいのか聞いてもいいですか?」
答えてくれそうな事だけ聞くことにする。もしこれを答えてもらえないのなら……彼には悪いが今回の話は無かったことにして、またレオナと2人で頑張っていこう。狩人という中距離から戦闘に参加できそうなジョブは惜しいが、ボク以上にコミュニケーションが大変なメンバーは……ちょっと厳しいからな。
「……理由は簡単でござる」
ティモシー、いや……アヤメは体ごとボクの方へ向き、姿勢を正した。
「貴殿が拙者の憧れの人物に近しい存在だからでござる!」
「……ん?」「えぇ……」
ボクが、誰に近いって?え?
「……な、え?ホントに言ってんの?ええ……、サダオのどこに憧れる要素があるのよ……」
レオナは酷いやつだ。本気で理解が及ばないらしく、アヤメの発言にドン引きしてる。
「そもそもサダオって良い悪いは置いといて、『特徴らしい特徴がない、典型的な没個性人間』なんだけど?ジョブは珍しいけどそれくらいしか……」
……まぁ、レオナの言ってることは何も間違ってないので残念ながらボクには反論することができない。……あっ、1つあった、ボクの個性。
「……ボクが無個性なのは認めるけど、異世界からの転移者、という特徴があるよ」
「あっ!……忘れてた。最初見た時は違和感あったけど、もう見慣れちゃったから忘れてたわ」
「そりゃよかった。いつまでもよそ者扱いじゃ寂しいからね」
他の人からボクがどう見えてるかは分からないが、少なくとも、レオナからはもう違和感を抱かれていないらしい。ちょっとした朗報だな。
「……『東方絵巻物語り《疾風のアヤメの章》』というものはご存知でござりますか?」ござります?どんな語尾だ。
「いや、聞いたことないなぁ」
「サダオ殿は転移者の身、恐らく知らないであろうと拙者も考えてござりました」
あぁ、なるほど。今の質問はボクじゃなくてレオナに聞いたのか。
「……まって!なんか聞いたことあるかも!」
……………………。
待てど暮らせどレオナは何も思い出せず、ただ『うーん……んん?』などと唸るだけ。
「あの、もう話してもらっても?」
「……承知。『東方絵巻物語り』というのはこの大陸の東の果てにあるとされている、とある島国で起きた出来事を書いた物でござる」
……東方見聞録的な物?てゆーか東の島国ってそれ……。
「あー!!そうだ!それそれ!あとちょっと待ってくれたら自力で思い出せたのに!」レオナが悔しがる。なんだこれ?いつからクイズ大会始まってたんだ?
「拙者は幼少期より猟師の家系で生まれ育ち、周りに同世代の子どもがおらず、家業の手伝いに明け暮れていたでござる。そんなある日、王都へ納品に来た際、父がそんな拙者を不憫に思ったのか、お小遣いをくれたでござる」
猟師の家系。狩猟体系は存じてないが、弓の扱いは慣れてそうだなぁ。
「王都の美味しいものを食べようと散策していると見たことのないものが売っているのを発見したでござる」
「それが『東方絵巻物語り』ってワケだ!」
早押しクイズが如く、レオナは立ち上がりアヤメを指差した。
「……ござる」
話の盛り上がりどころを横から攫われたアヤメは少し寂しそうな表情で返事をした。
「その本?巻物?の内容って?」
「あたしが知るワケないでしょ。あたしが知ってるのはタイトルだけ」
だと思ったよ。ボクが聞いたのは――。
「内容としては冒険活劇でござる。東国に生まれ育った《野田オブ長》という人とその仲間である《アヤメ》という冒険者の話で候」
――アヤメは真剣な面持ちでそう言った。
……野田オブ長?え?ふざけてるの?
いや、アヤメの表情は真剣そのものだ。
「拙者は偶然出会った、その1冊しか読んではござらぬし、字を読むのは得意ではござらぬ。故に読み違えた可能性もあるのでござるが、……《アヤメ》は恐らく異世界からの転移者であると推測ができるでござる」
「……そこがボクと似てる部分。って、そこだけ?……転移者ってだけでボクらのパーティに?」
「え?アンタよく分かんない作り話に影響されて冒険者になったの?!家業を捨てて?もったいなくない?」
「家業は兄や親戚がいるから安泰でござる。元々拙者は疎まれてござったし、ちょうど良かったと向こうも思ってるでござろう」
ござる、ござった、ござろうの三段活用。
「……アンタ馬鹿なこと考えてるでしょ?」
「え、えぇ……」なぜバレた。
「先日、美味しいと話題の『スラッタラッタ』にいってみたでござる」
「『スタッタラッタ』ね」
「『スタッタラッタ』でしょ」
「……そこに行ってみたでござる。そしたら評判通りの味で大賑わいでござった!これは美味しい、さぞ良いものを使ってるのでは、と思い店員さんに聞いてみるとサダオ殿の話が出たわけでござる」
あー、あれ以来スタッタラッタにはボクの召喚した塩を多少とはいえ卸していたが、そこでボクという転移者の存在を知ったわけか。
「この国にあの《アヤメ》と同じ転移者がいるだなんて、しかもまだ駆け出し。そう聞いて拙者、居ても立っても居られなくなり、今日その門を叩いたわけでござる」……門を叩かず後ろからスルッと入って驚かせてたけど、まあいいや。
「それに《アヤメ》は架空の人物、作り話ではござらん。かの人の名字は《マツバラ》――」
「――《マツバラ》?!えっ、あの有名な……」
レオナがついに椅子から飛び上がった。誰だろう?聞いたことないけど……マツバラって……松原?ボクと同じ日本人?
「そうでござる。こちらでは聞かない名字なので、おそらくあの《勇者ディエゴ》の祖母が《アヤメ》と拙者は睨んでいるでござる」
「勇者ディエゴが転移者の孫……」レオナはボクを見て「転移者ってだけじゃ特に意味はなさそう」と吐き捨てた。
ボクも同感だが含みがあるなぁ。
「拙者を貴殿のパーティにいれて頂きたいでござる!」
「いや別に今の話聞いて『よし!ぜひウチに入れよう!』なんてならないでしょ?」
……それも同感。結局誰に憧れてるか、と何故変な話し方をしているかしか分からなかったな。
「申し訳ないんですけど、その……いわゆるウチにアナタを入れるメリット――」
なんだこれ……、今のボクはまるで、すごく嫌味な面接官みたいになっているぞ?
「メリットでござるか……」「中距離から攻撃できるのは、……正直魅力だけど……ねぇ?」
「――……『お試し期間』、みたいなのはどうだろう……。一度この三人で簡単そうなクエストに行ってみれば、見えてくることもあるかもしれないし」
クエスト帰りでそのまま、水浴びどころか着替えすらしていないことを伝え、ボクの思いつきの言葉に頷いた2人には先に下へと降りてもらいボクはようやく1人になった。
「……ふぅ」どっと疲れた。そもそもボクは人付き合いが得意ではないのだ。今回は最年長ということで無理をしたが……これから慣れるのだろうか。ボクは着替えをしながら不安に襲われていた。




