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ニューカマー


「意味わかんないんですけど!」

 水浴びを終えたレオナの声がギルドハウス内に響き渡る。ボクら以外この場に誰も居ないとはいえ、多少は控えて欲しいものだ。


「パーティへの参加希望者ですよ?喜ばないと!」

 オリヴィアさんはここ、冒険者ギルド【カスターニャ】に所属する冒険者の少なさを嘆いていたので、この機会を逃さまいという気迫が漏れてる。


 しかし、ボクもレオナに同感だ。

 このブロンドの女性は……なんと言えばいいか。歯に衣着せず言うと、……とにかく怪しい。言葉遣いや偽名っぽい名前。……マトモじゃないということしか分からない。

 見た目だけなら普通にこの世界の、この国の住人なのに言葉はボクのいた世界の……時代劇めいている。ニンニンとか言い出してもおかしくない。

 

「……ここに手を置くだけでいいんでござるな?」

 ほら、ござるって……。ござるって!

 

「ござるござる♪」意味がわかってないだろうに復唱するオリヴィアさん。悪徳セールスマンばりの手際で冒険者としてしの登録を完了させようとする彼女の目がちょっと怖い。

 

 レオナもオリヴィアさんも特に何も言わないあたり、彼女はきっとボクと違いコチラの世界の人間なのだろう。ボクの時と異なり、冒険者についての説明はかなり端折られていた。……ということは彼女の口調はどこから来てるんだ?東の果てにある国には黒髪黒目の人たちがいると聞いたことがあるが、そこには日本と同じようにサムライだのニンジャだのが居たのかな?

 ボクがそんな無駄なことを考えている間に覚悟を決めたらしく、「えい!……でござる」と、ござる口調のブロンド女性が石板に手を乗せた。


 ……これで彼女は正式に《カスターニャ》所属の冒険者になった。なってしまった。


 ギルドマスターのギルバートさんは先程からずっと、そのツルツルの頭に手を当てて『なんだかなぁ』と呟いている。……その姿は『何か知ってる』が、言うか悩んでいる。と言った感じだ。

 ……これもボクが彼女を歓迎しきれない要因の1つだ。

 もしギルバートさんの持ってる情報がマトモなものならきっとすぐ話しただろう。……だが、今も言わずにいるということは、きっと何か都合の悪いことを知っていて黙ってるだろうと推測できる。


「サダオ!アンタいいの?今まさにこの瞬間、勝手にパーティメンバーが増えるのよ?!」

 降って湧いた状況を把握することに必死で口を閉ざしたままでいたボクのところへレオナがやってきた。

 

「……まだ冒険者としての登録だけでしょ?まぁ、確かに変な喋り方だからパーティに入るとなるとボクも気にはなるけど。……でもさ、実際ボクら二人だけじゃこの先、絶対大変な目に遭う気がしない?そう思うと新しい仲間が増えることを悪いとも思えないんだよなぁ……。彼女のジョブがなんなのかにもよるけど」


 ボクはレオナにのみ聞こえるよう、素直に思った事を全て伝えた。

「っ、……」

 レオナはボクの言葉を頭の中で反芻しているのか、何か言いかけ、口を閉ざした。

 彼女なりに思うところがあるのだろう。先の戦闘は、エヴァさんの介入なしではどうなっていたか分からないのだから。

 

 ただ、この世界で生きる事だけを目標にしてるボクと違い、レオナには目的がある……らしい。その目的の為なら、この奇人を仲間として受け入れる必要もある。とでも考えているのかも。残念ながらボクだけじゃ役不足なのは明白だし。


 ……それにしても目標、目的。

 それについてボクもきちんと考えないと、だな。

 

 今までは、この城下町で簡単な、それこそお手伝いレベルのものを(大変ではあったが)こなすだけでよかった。しかし、この先ランクを上げるにつれ、あの大ゴブリンのようなモンスターを相手取る機会が増えるとしたら、……必然的に命のやり取りというものが増えるだろう。

 あえて下のランクで停滞することも悪いことではないだろうが、きっとそれは……レオナの足を引っ張ることになる。そんなこと、ボクがボクを許せなくなる。 

 

「……おぉ、良いジョブですね!サダオさんたちのパーティにピッタリじゃないですか!」

 ボクが黙りこくって余計なことを考えているとオリヴィアさんがコチラをチラチラと意識しながら歓声をあげる。ワザとらしいですねぇ。


「……で?なんのジョブなの?」

 レオナは釣られた。興味津々といった表情でフラフラと近寄っていく。

「教えてもよろしいですか?」オリヴィアさんは『アヤメ』と名乗ったブロンドの女性に訊ねる。

 

「はい、パーティの仲間には知っておいてもらった方が都合良いでござるからな」

 さて、どんなジョブなのだろう。ボクもレオナに倣って近寄る。

「きっとパーティに入れたくなるでござるよ?」


 自信満々と言った表情。ちくしょう、語尾さえマトモなら無茶苦茶可愛いのに!

 

「アヤメさんはなんと、狩人【猟】のレベル2です!」


「狩人……遠中距離か」たしかに、ウチに必要な役割と言える。……人材としては欲しい!

「レベル2?はぁ?!あたし負けてるの!?……こんな変な喋り方のヤツに……」

 レオナは露骨に肩を落とす。そう言えばレオナは()()レベル1なんだっけ?

 ……レオナの歳から考えたら普通らしいが、まぁ悔しいのだろう。その気持ちは大事だと思う。


「えっと、狩人【猟】って言いましたよね?そのジョブについての説明ってしてもらえたりします?」ボクはオリヴィアに頼む。

「拙者からもお願いしたいでござる。今まではあまりジョブのことを気にせず生きてきたので、覚え違いがあると困るでござるからな」

 いちいち語尾が気になるなぁ……。キャラ付けだとしたらやめて欲しい。

 

「では、狩人【猟】についての説明をさせていただきますね」

 オリヴィアさんはそう言って放心状態のレオナを完全に放置したまま説明し始める。


「基本的には《狩人》という名前の通りのジョブですね。……『弓や投げナイフなどを投げたり、放った後、投擲物が対象へ向けて曲がることがある。投擲物は風などの影響を軽減する。』とあります。この2つはレベルによって発動確率と効果量が変動するみたいですね」

 オリヴィアさんは自身の手元の資料を指でなぞりながら読み上げてくれる。……って、え?勝手に曲がって当たる(中る)って事?強くないそれ?どれくらいの発生確率かは分からないが、かなり有用そうだ。


 「後は装備関係ですね。弓、投げ槍の重量が軽くなり命中率に補正、近接武器全般が重く扱いにくくなる。防具は皮、および軽量のものに防御力補正、重装備、鎧系の防具を装備時、機動力低下。……ジョブに関する情報はここまでですね」

 そう言ってオリヴィアさんは分厚い資料をパタンと閉じた。あそこにはジョブについての基本情報のほか、ジョブスキルや魔法についての記述があるらしい。しかしそれらは経験を積み自ら習得しないと効果薄、意味がないらしく、それ故に門外不出とのこと。

 覗き見した方が損をするという事らしい。

 

「拙者は今まで猟師を生業にしてきた身ゆえ、レベルに対しジョブスキルの獲得が乏しいでござる……。即戦力、というわけにはいかない所が歯がゆく候」

 そうろう!?

 そういう語尾も知ってるのか。ますます元ネタの発生源が気になってきたぞ。


「……あれ?」

 

 ……彼女のジョブ自体はボクらのパーティに欲しいが、彼女が入るとなれば、この喋りと付き合うのか……。すでにお腹いっぱいどころか食傷ぎみだけど、耐えられるかな。

 ……ってなんだ?オリヴィアさんが急にそわそわし始めたぞ?


「拙者をパーティに入れてもらえるでござるか?」

「いや、待ってください!そんなことよりオリヴィアさん!どうしたんですか?なにか気になることでも書いてあるんですか?!」

「あっ、えーと、…………その……」

「オリヴィア殿!そのことは内密に――」

「――()()()()()!もういい、もう全て話すべきじゃ!オヌシが本当に冒険者になりたいと言うのなら、仲間には全てを話すべきじゃろ!」


 ようやく口を開いたギルバートさんの一喝で()()()さんは目を丸くした。

「……ティモシー?」

 ようやく放心状態から戻ってきたレオナが呟く。たしかに、ボクもそれが気になる。ボクの記憶違いでなければティモシーは、男性名だ。


「オリヴィア、そこに書いてあるモノを読み上げるんじゃ。メガネのと赤毛のには知らせる必要があるじゃろ」


「……はい。名前は……『ティモシー(ティム)』性別は……『()()』、18歳と書いてます」

「はぁ?!え!なに?アンタそんな見た目して女の子なの?!えええ!!」レオナはバラエティ番組並みのリアクションで場を盛り上げる。

「……そうか、男の()ってやつか。スラっとしてスタイルいいし、見た目も可愛らしくて分からなかったな……」

「はぁ?サダオ!アンタなんでそんな冷静でいられるの?!意味わかんないんだけど!なんで?!おかしあくない?あたしがおかしいの?!」

 レオナはどういう感情をしたらいいのか迷子になり、表情をコロコロ変えてる。

 オリヴィアさんは申し訳なさそうに目を伏せ、ギルバートさんは眉間に皺を寄せ、厳しい表情。

 当の……、アヤメ?ティモシー?はというと――。


「うおーい、やってっかー?」「俺らがいなくて寂しかったかー?」「先日の雨で家の裏んとこの川が増水しちまってよぉ!かけてた小さい橋直してたらこんな時間になっちったわ」「とりあえずいつもの頼む!」「エールと『メガネの兄ちゃんが召喚した塩』で作った蒸しイモな!塩多めで頼むぜ」「ちげぇねぇ!アレがまたうんメェんだ!塩が変わるだけでこんなに味が変わるとは知らんかったぜ!」「しかもなんでかアレ食うと疲れも取れっからなぁ!」「ちげぇねぇ!」


 ――常連客入ってきて場の雰囲気が弛緩する。

 ギルドハウス内は先ほどまでの緊張感から解き放たれ、明るくなった。


「あの、私……」とオリヴィアさんがギルドカウンター横のキッチンを指差し、「あぁ頼む」ギルバートさんが頷く。 

「彼女……彼をパーティに加入させるかどうかは今決めなくても良いんでしょ?」レオナの問いにギルバートさんは頷く。


「じゃあ、とりあえず上で話さない?」

 ボクと……アヤメ?ティモシー?の方を交互に見ながらレオナは親指を上に向けた。


 ボクはそのポーズを見て、なんか不良の呼び出しみたいだな。思った。


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