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『砂糖 召喚』


 ボクは手のひらに乗った白い結晶を口に運ぶ。

 「んっ……うん。甘い、……甘いよコレ、成功だ」

 ボクの中で漠然と湧いていた確信は間違っていなかったらしい。

「うわっ!?ホントだ……。スゴい!あまぁい!」

 いつの間にか寄ってきていたレオナがボクの手のひらに乗ったそれを摘み、口へ。

 

「……砂糖、だよね?塩じゃないよね」あえて分かりきったことを訊ねるボクをレオナは普通に無視してベリーの入った小袋を取りに元の位置へと小走りで戻る。無視されるのは慣れてる……。

 

「はい!」またも小走りで帰ってきたレオナは端的にそう言い、小袋の口を開けた。赤々とした謎ベリーがまだたくさん入ってる。……この中に直接、砂糖を入れろって事か、美味しくなるといいんだけど、どうなんだろ。


「そういえば、なんだっけ……、ああそうだ。ビスケット作るんだっけ?あのお子様に」

「うん。そのつもり、ビスケットなら、この村にあるものだけでも作れそうだし」

 美味しい現代風のモノは難しいだろうし、ボク自身、知識も経験も足りていない。最低限のモノしか作れないだろうが、……はたして満足してもらえるだろうか。

「まぁ、こんな寂れた田舎のお子様なら、そもそと砂糖だけでも大喜びなのは確定として、……お子様が食べる前に、どんな効果があるのか知っておいたほうがいいかもね」

 

 ……正直なところを言うとボクは未だ、レオナの仮説に半信半疑だ。もし彼女の仮説通りなのだとしたら『都合が良すぎる』と感じているが、そのことはまだ伝えていない。自分に自信がないと言う勇気がないのだ。


「別に怪我がどうとかは流石になさそうね。まぁだとしたら塩の時とだだ被りで腐っちゃうし、良かったかな」

 レオナは自身の身体を確認するように触っている。

「てゆーかそもそももう怪我は完治してるからわかんないか。……あー、あとは食べた量が少ないとかもあるかなぁ」

 少し上目遣いでこちらの様子を伺ってくる。

「そのままよりも加工したほうが食べやすいし、効果が上がるとかもあるかもなぁー。誰が砂糖で美味しいもの作れる人いないかなぁ。こっちの世界だと砂糖は高級だからなぁ」

 レオナは上目遣いのまま、畳みかけてくる。そんなに食べたいのか……。


「……わかったよ。とりあえず、なにか作ろう。うーん、そうだな、砂糖漬けは時間がかかるし……。さっきのお婆さんのお宅でカマドを借りられないかな?そしたらベリーを煮込んでジャムみたいなものが作れ――」

 ボクの言葉を待たず、レオナは駆け出した。戦士【軽】の本領発揮だ。


 よく少量とはいえ食後に全力疾走できるな。ボクなら横っ腹痛めちゃうだろうな。


「オッケーだってっ!早く!早く!」

 レオナは遠くからこちらに向けて腕を頭の上に回し大きな丸を作り飛び跳ねている。なんという跳躍力、下手したら直立したボクを飛び越えられるのでは?

 


「無理を言ってすみません。お邪魔します」「ん?あぁ、気にせんでよぉ。あんだけ塩もらったんだぁ。好きに使ってけろ」

 心なしかさっきより元気そうに見えるお婆さんに挨拶して、そのお宅へとお邪魔する。

 

 さっきチラッと見えたが、入ってすぐカマドがあった。ボクが未だ慣れない火打石での火おこしに四苦八苦していると、見かねたレオナが代わりに火をつけてくれた。 

 お婆さんに借りた鍋に先程の砂糖、ベリー、水を入れて煮立てる。もしかしたら塩を入れたら甘味が際立つかも、と思ったが、素人のアレンジほど余計なものはないのでやめておく。何事も基本に忠実にしよう。


 それに、レオナの仮説を確かめる意味もあるし、砂糖だけの方が都合がいいだろう。


「……砂糖も召喚できるたぁ。ほんにスンバラしいのう」焦げ付かないよう鍋をかき混ぜるボクに、お婆さんは分かりやすく目を爛々と輝かせながら話しかけてくる。

「……あとでお譲りしますよ」

「あんらぁー。催促したみたいになってもってー。そんいうわけじゃなかったんにもうねぇー」

「いえ、お邪魔しちゃったんで……そのお礼です。受け取ってください」

「そこまで言われちゃ断れんねぇ……どれ、カラの壺はどこに置いたかんのう」お婆さんはそそくさと離れ、裏口から外へ出ていった。きっとカラの容器を探しているのだろう。……どれほど大きいものも持ってくるつもりなんだ?


「欲望に忠実な婆さんだなぁ」

「レオナ!しっ、聞こえるよ!」


 ……うん。大丈夫そうだ。きっと聞こえていない。

 

「ボクらには他に頼る相手もいないんだ。ちゃんと感謝しないと」

「なにそれ?あたしが感謝してないって思ってんの?それはない!あたしなりに感謝はしてるよ。でもそれと同時に欲張りだなと思ってる。それに悪いことじゃないから。人間、生きていく上で欲って大事なワケだし。あの婆さんみたいに長生きするなら特にね」

「……まぁなんとなく言ってることは分かるけど、口にするべきではないだろ?」

「それ!もう良いんじゃない?あたし試食したい!!」

 もう慣れたからいちいち気にしないけど、キミ最近、ボクのこと無視しすぎじゃない?


「本当だ。うん。……うん。美味しい」

 木杓についたジャムを小指で掬い舐めてみた。

 当たり前だが、熱くてあまり細かい味はわからない。しかし、さっきまでの酸っぱさは鳴りをひそめ、良い塩梅になった気がする。

 

「あたしも!あたしにも食べさせてよ!」

 レオナはそう言うと、どこかから調達してきた木のスプーンを鍋に突っ込み、大きく掬って口へ運ぶ。

「うそだろ、どう考えても熱い――」

 というボクの制止が間に合わず、「ぎいゃあああ!!っ!!」レオナは辺りの家具を巻き込みながら、のたうち回る。


「っ、水!水!」

 レオナに水を渡すと瞬きする間にそれを飲みきった。「ぅぇ……口のなか……痛い……」

「当たり前だろ!何考えてんだ!欲張りはキミじゃないか!」ボクは思わず声を荒げる。


「……お婆……」戻ってきたお婆さんを見てレオナが固まる。

「すみません!カマド貸してもらったのに、こんなに荒らしちゃって……」ボクは暴れたレオナが壊した机や椅子について謝罪する。


 ポンっと、お婆さんは頭を下げたボクの肩に手を置く。

「……本当に申し訳ないです」

「ええのええの、気にせんでええの……砂糖、アレに入れてくれれば、ぜーんぶ許すから」

 

 その言葉に、ボクは顔を上げると、お婆さんは満面の笑みでどこかを指差していた。お婆さんの指差す先には、人一人隠れられそうなほど大きな樽が横たわっている。

 ……経済バランスが崩れる予感しかしない。


 ――――――――


 その後ボクは全てを諦め、お婆さんの言うとおりに大樽いっぱい砂糖を召喚した後、小さな鍋にジャムを入れてもらい、お婆さんの家を後にした。

 あの老婆の道徳観念にこの国の経済状況は握られたかもしれない。……もう終わった話だ。気にしないでおこう。

 

「塩……」

 村外れに再度戻る途中、意気消沈し肩を落としたレオナがボクに向けて手を出した。

 ボクの召喚した塩に回復効果があると信じてるからだろうが、『火傷した口内に塩』なんて自殺行為に等しくないか?と思い、ボクは躊躇する。


「あやく!」早く。かな?

「……絶対沁みるよ?」

「ほれでわはるでそ」

 滑舌が終わってて聞き取れない。

「ほれで、わはるでそ!」

「……これでわかるでしょ?」「んん!」

 力強く頷くレオナ。

「……わかったよ。ちょっと待ってね」

 ボクは渋々了承し、距離を取り、両手で持っていたジャム入りの鍋を地面に置いた。

 

「……?」

「…………もう殴られたくないからね」

「んんー!!」

 レオナは不服そうに地団駄を踏む。


「……ふぅ」

 今までと同じように両手を前に出し、上下に構える。今までと違いしっかりと意識をする。『これは塩を出すためのポーズだ』。今まで頭の中にイメージしていた塩、ではなく……今回は海を想像する。

 塩と言えば海だろう。我ながら安直だ。

 

 しかし、こうやって条件つけておけば、塩と砂糖を必要に応じて召喚する際、間違えずに済むような気がする。もしかしたら無意味かもしれないが、何もかも暗中模索、手探りの中たどり着いたボクなりの召喚方法(やりかた)だ。


「ぎぃやあああ!!」

 レオナはまたして、ものたうち回る。

「よく斧を背負ったまま、そんだけ上手く回れるなぁ」なんてくだらない感想がボクの口から出てきた。


「……ア、アンタ……、他人事がすぎるでしょ」

「自業自得なことは理解してるでしょ」

「……あっ、ほら!ほらほら!」

 大きく口を開けながらレオナが寄ってきて、口内を指さす。……正直見たところでよく分からないが、彼女の滑舌が戻ってる辺り、効果は本物のようだ。


「これで確定したってワケ!アンタの召喚した塩は回復効果と解毒、そして水属性魔法の付与がある!」

「いや、今の段階では回復効果しか確定してないじゃん……」飛躍しすぎだろ。というか、本当にレオナの過程通りなら塩って万能すぎない?

 

「……?何震えてるの?寒いの?」

 ……、何を言って――、いや本当だ。言われて気がついた。いつの間にかボクは拳を強く握り締め、……喜びを隠すように震えていたのだ。


「……嬉しい」自然とそんな言葉が漏れる。

 ボクは……ただの塩を出すだけの面白人間じゃなかったんだ。

「……なに『フヒフヒ』言ってんの?怖いんだけど……。まぁいいや。それよりさ、もう冷めたんじゃない!?食べてみようよ!」

 フヒフヒ?なんだそれは?……え?もしかしてボクはそんな笑い方してたの?

 

「ん!っ……美味しい!あたしコレ好き!!」

 レオナはお婆さんの家から持ってきたであろう木のスプーンを当たり前の様にポケットからだし、鍋にいれ、ジャムを大きく掬う。そしてそらを口の中へと運んで頬を緩ませる。作った、というと大仰だが、ボクとしては嬉しい限りだ。………………その手は止まらない。


  

「ウソだろ!?ちょっと!なに普通に独り占めしようと――」


 


「ゴブリンだぁあああ!!」


 聞き覚えのない成人男性の絶叫が閑静な農村に響き渡った。


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