で?進捗は?
「で?進捗は?」
自身の身の丈と同等の戦斧を軽々と担いだレオナが、結果は知ってると言わんばかりの態度でボクに声をかけてきた。
「……ご想像通り、かな。こんなに難しいとは思わなかったよ」
「召喚術ねぇ。少ないワケじゃないとは言え、【調味料】ってなると話が変わってくるだろうし、相談できる相手を見つけるのも骨が折れそうね」
「……うん。ボクもそう思う」
ボクらは村はずれの少し広くなった場所で二人、地に腰を下ろす。「ん!」とレオナが手を出してきた。
「……これは?」パン?にしては黒い。
「薪割り手伝った報酬。いらなきゃあたしが食べるけど?」
よく見ると、レオナの額が少し汗でテカっている。どうならトレーニングがてら村人たちの手伝いでもしていたらしい。
「ありがとう」「うん」
モソモソしたパンを小さく千切って口に運ぶ。一瞬で口の中の水分が持っていかれた。
「昨晩、ミルクに漬けて食べたときは気にならなかったけど……。これは飲み物なしで食べるモンじゃないわ」
レオナもボクと同様、口内の水分を盗まれたらしく渋い顔をしている。
「塩と交換でミルク貰えたりしないかな?」
「……確かに!よし、行こう!」
レオナは正に即断即決。勢いよく立ち上がるとボクらのいた場所から最も近い民家の方へと走り出した。
ボクも遅れずついて行くが、ボクが着いた頃には既に民家から腰の曲がったお婆さんが出てきていた。
「――――という、ワケなのよ」
「あんらぁ。エアレーのミルグで塩が貰えんだら、ありがてこって!いぐらでも持ってってけろぉ」
お婆さんはお手本のような訛りで喜んでいる。カミサマに貰った《翻訳スキル》的なものが無かったら、どう聞こえていたのか気になるな。
「…………多分、くれるみたい。ほら、塩出して」
「キミの方が聞き取れてないのか……」
王都からココまでそんなに離れてないのに、聞き取れないレベルで訛ってたとは。
「なにか、お盆……トレーのようなものはありますか?」
「ほいだら、ちっつぇ樽う持ってくっけ、待っててけろ」
お婆さんはそう言うと家の中に戻り、小さい樽を持ってきた。
ボクはその樽の上に右手をかざし、塩を召喚する。
「おほぉぉぉ」お婆さんは露骨に頬を緩ませ、目を輝かせている。……塩が高価なのは知っているが、こんなに喜ばれるのか。村長の息子っぽい人にも、もっと大量にあげておけば納屋で寝泊まりせずに済んだかもな。
『こんなたくさん貰えっだら、売らんとこで採ったばっかのベリーもいっぺえあんだぁ、持っててけろぉ』というお婆さんからの申し入れにより、ミルクだけでなく、ラズベリー?いや、この形はクランベリー?……まぁそんな感じっぽい果実も頂けた。
「あの婆さん、多分あの塩……売るわね」
「嫌な推理しないでよ」
村外れに戻るやいなや、レオナはアゴに手を当てて言い放った。
「まぁ、あげたモノをどうしようと、あたしらには関係ないからいいけどね」
レオナはそう言って座り、さっそく、ミルクに黒く固いパンを漬けて食べ始めたのでボクも同じように向かい合って地べたに座る。
……ボクはレオナの言葉に、市場がおかしくならないよう気をつけないとな。と思った。どこから塩を召喚してるか知らないが、もしボクが調子に乗って召喚しまくると、この国やこの世界の市場価値に影響が出そうだからだ。
中卒なので経済には詳しくないが、簡単に想像はつく。
「何?食べないの?あたしが食べて良いの?」
「いやいや、そうじゃないよ!ちょっと考え事してただけ……」
「はぁ、アンタはいっつも考え過ぎ!もっと気楽に考えなさいよ。今は暇だから良いけど、そのうち『考えてる余裕なんか無い差し迫った状況』ってヤツに陥る場合もあるんだから」
レオナから割と芯を食った説教をくらう。
……確かに、彼女の言うとおりだ。
「…………なんで何も言い返さないの?アンタが暗いやつなのは知ってるけど、流石になんかおかしくない?もしかして体調悪いの?それともエアレーのミルクが合わなかった?」
貰った説教を反芻してるとレオナは心配したのか、ボクの顔を覗き込むようにしてくる。
「……いや、体調は平気なんだけど、……まさに今ボクが悩んでるのは、そのことでさ。……砂糖を召喚しようとすると塩が邪魔してくるんだよね」
「砂糖が塩の邪魔を?……何言ってるの?意味わかんない」
伝わらないか。……そりゃまあ、そうなんだけど、……感覚の問題だから伝えるのが難しいな。
「……レオナって《ジョブスキル》使えるんだよね」
「なにそれ?話とんでない?……まぁ、うん。使えるよ。昨日使った《影舞》見てた?ってアンタはあのとき、ゴブリンたちを引き連れて逃げてたから見てるワケないか」
昨日、ゴブリン相手に一瞬で位置を入れ替え、奪われた戦斧を取り戻したアレか。
「いや、ちょうど逃走経路がそっちの方を向いてたから見えたよ。見えただけで何をどうやったのかは理解できなかったけど……」
動きの始点と終点だけは分かったが、恥ずかしながら、その過程は見てたはずなのに、よく分からなかった。
「アレはねぇ、加速するスキルだから一般人は見えなくて当然。まぁ、アレともう1つ使えるんだけど……。それはアンタとあたししかいない、このパーティでは使い道ないから知らなくてもいいでしょ」
レオナは喋りながらも食べる手を止めない。
ミルクに漬けた黒パンはわりと美味しく、ボクも気づいたらパクパクと食べていた。
「……そっか、じゃあ今は聞かないでおくよ。今はそれよりも……、レオナはどうやって、その2つのスキルを使い分けているのか。を知りたいんだ」
「どうやって……?んー。どうって言われてもな」
「スキル使うとき、声に出してたよね?アレが、アレだけがトリガーになるの?」
勇者パーティの戦士【重】の人も大きな声を張り上げていたのを思い出す。
「……だけってワケじゃないかな。あたしの場合は『構え』と『イメージ』。相手をどうするかを、しっかり考えてるなぁ」
「イメージ……。塩と砂糖って見た目が似てるんだよなぁ……」
白くない砂糖とか角砂糖をイメージすればうまくいく……かな?角砂糖だとシケって固まった塩と被って失敗するイメージが湧いてしまった。
「そうじゃなくてさ、完成系をイメージすればいいじゃん。あたしはそうしてるよ」
レオナはそう言って自分の分の黒パンを完全に平らげ、ベリーへと手を伸ばした。
「酸っッッッぱっ?!?なにこれ!?レモンっ?!」
「……や、やめてくれ。いきなり大声出さないでよ。びっくりして心臓止まるかと思った」
「ッッパッい!はんっ………………ぱない酸っぱさ、コレ!食べてみて!ホントに半端じゃないから!はい!」
自分は一粒で絶叫、悶絶したくせにボクには三粒も渡してくるあたり、レオナの性格が出てるな。引っ込んで欲しい。
ボクは全力で拒否したが『せっかく貰ったのに?』という言葉に詰め切られて泣く泣く受け取る。
「うわっ、本当だ。……はちゃめちゃに酸っぱい」
一口噛んだ瞬間、顔中の皺が眉間に寄る。ヨダレが止めどなく沸き始め、暫くすると渋みと苦味も少しだけした。イコール美味しくない。重めな罰ゲームって感じ。
『どうだ』と言わんばかりの笑みを浮かべるレオナ。なぜ君がその顔をするのだ。
吐くわけにもいかないので飲み込むとレオナが小袋に入った残りのベリーたちに切ない視線を落とす。
「はぁ、これ残りどうしようね。……砂糖に漬けたら美味しいんだけどなぁ」
「……砂糖漬け?…………あっ、それだ!おっとっ、っと」
ボクはおもむろに立ち上がり、胡座の内腿に乗せていた謎ベリーを落としてしまうが、地面へ到着する前にレオナがそれらを掴んでくれた。
「何を急に盛り上がって……、なにか思いついたの?」
「まずは試してみるよ」今は説明するよりも試したい。試してみたい。
……ダメだと恥ずかしいし。
レオナの言う通り、まずは構えを変えてみる。
左右の手を合わせ、本を読むように開く。
次にイメージ。砂糖をふんだんに使った食べ物。
いろいろと思いつくが、ここは敢えて《カルメ焼き》にしようと思う。
《カルメ焼き》コレは一般的なお菓子に使われる上白糖やグラニュー糖とは違う、いわゆる《ザラメ》から作られている。
砂糖の召喚方法に悩む今、コレを選ぶのが正しくない気もするが、コレはお菓子作りの経験というものがほぼ無いに等しいボクが選べる数少ない選択肢なのだ。
まだ、学校というものが楽しかったあの頃、小学生の時に理科の実験で作った記憶がある。数少ない、ボクの、ボクにとっての学校生活という思い出だ。
「出てくれ。砂糖よ」
自然と倒置法っぽい言い方になったけど、存外それらしくてカッコよかったかもしれない。
「……なんか、白くない?」
レオナの言葉に反応し、ボクは目を開ける。正直にいうと自覚なく目を閉じていた。だが、手のひらに感じるかすかな重みでボクは自らの成功を確信していた。




