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二つ目のクエスト


 《ルーキーランククエスト》

『城下町の飲食店 《スタッタラッタ》の手伝い』


「名前からしてイヤな予感しかしないんだけどっ!飲食店とか絶対キツいし、あたしの『ティグル』はまたお留守番じゃん!」

 レオナが朝から駄々をこねる。『ティグル』とは彼女の身の丈ほどもある大きな戦斧の名前だ。なぜ成人したてで冒険者なりたて、さらに孤児院を兼ねた修道院育ちのレオナがそのような武器を持っているかボクはまだ教えてもらえていない。残念ながらボクらの関係値はまだまだ低いのだ。

 

「お二人は飲食店のお仕事についた経験は?」

「……ここへくる前に半日だけ働いたことがあります」   その半日でクビになったけど恥ずかしいから黙っておこう。

 

「あたしは当然ナシ!成人してすぐ、修道院を出たから他の仕事も経験ナシ!生粋の冒険者!……なのにこんなクエストばっかりでイヤぁ!オリヴィアさん!ほんとに他のクエストないの!?」

「ないですね。今日はこれだけです」

 手元の冊子に目を落とすふりもせず答えるオリヴィアさんから『我慢して』という強い意志が見えた。

 仕方がない。ボクらは冒険者になって一週間近く経つのに、昨日の『ダーティスライム』のクエストしか成果がないのだ。まだまだ駆け出し、内容を選べるレベルにないと自覚しよう。 


「……そのお店の場所は?」

「ここからまっすぐ、サダオさんが()()()から着てきた服を売却したお店のある職人街へ向かう道沿いにあります。看板があるはずなのですぐに分かると思いますよ」


 あぁなんとなくわかった。あの辺りは職人街で働く人やそのお客さんで人が賑わっているから、食べ物を売るにはちょうどいいのかもな。


「わかりました。よし、レ、レオナ!いくよ?」

「……はいはい。いい加減サラっと呼びなさいよ!サラッと」

 ……未だに年下とは言え女の子を呼び捨てで呼ぶのに慣れないボクへ不満を告げるレオナ。『仲間なんだから呼び捨てにしろ』って言われても難しいものは難しいのだ。


「頑張ってくださいね!」体の前でグっと両手で握り拳を作り応援してくれるオリヴィアさんの可愛いことったらないね。ほんと頑張れる気がする。


 ――――――


「おら!さっさとご提供じゃ!」「待たせんな待たせんなあ!」「冒険者ぁ!さっさと剥けオラぁ!お客様待ってんぞオラ!」「四人前できたぞ!持ってけ!」  厨房の中は当然の如く怒声が飛び交うが、この世界の飲食店はどこもかしこも殺伐としすぎだろ。

 

「はいはーい!四人前でお待ちのお客様はー?見つけた!今行きまーすっ!お待ちですっ!」

 レオナはその小さい身体を駆使して所狭しと並ぶ客の間を抜けていく。

「あの赤毛の嬢ちゃんいい動きしてるぜ。さすが冒険者だな!」「店長が『冒険者にヘルプ頼む』って言った時はどうなることかと思ったが、なかなかどうして」「……それに引き換え、こっちの兄ちゃんは……まぁ頑張ってはいるが……」


 ……せめてボクに聞こえないように話してくれ。

 ボクがずっとこうして、ジャガイモを剥いているから大人気商品の『真っ昼間フライドポテト』を途切れることなく提供できているのだと分かっているのか?


「注文入りました!五人前、四人前、二人前、計十一人前お願いします!」

「……すげーな!計算も早いと来た」「なんでも修道院で育ったから算術もできるらしいぞ」「はー、ちっちゃいのに大したもんだ!」


『それに引き換え……』といった視線が刺さる。ボクだって第一志望に落ちはしたが、中学受験を突破した過去があるんだ。計算は多分、ボクの方が早いぞ。


「しかし良く売れるな、この新商品」「本当だよな!ただイモを油で揚げて塩振っただけでこんな売れるなんて、良く考えついたもんだわ」「ここだけの話だがな、実はコレ、店長のオリジナルじゃねーみたいだぞ」


 ボクをいないものとして進む会話に聞き耳を立てる。……フライドポテトってこっちだとまだ無い食べ物だったのか!?ボクのいた世界ではありきたりだったから盲点だ。もしかしたら他にもそういった食べ物とかあるかもしれないし、うまく売れば、こうして地道に低ランククエストを受けるよりも効率よく稼げるかも……。現代知識無双っていうんだっけ?……なんて考えながらボクは厨房の片隅で一人孤独に耐え、ジャガイモの皮むきに集中。


「オリジナルじゃないってどういう事だよ?」「なんでも仕入れのために隣国へ行った時、食べたもんを真似してるらしいぜ」「マジかよ。大丈夫なのかそれ」「さぁな?他国だから問題にならねぇだろ。細かいレシピは違うはずだしな」「はっ、他人の考えたもんでボロ儲けか。笑い止まんねぇよ」


 フライドポテトがそんなに画期的なのか?だとしたらボクのジョブでなにか作れば……。


「大変だ!」

 厨房の中で誰かが叫ぶ。

「「「どうした?!」」」

 厨房内に激震が走る。何が起きた?注文間違え?客の喧嘩?……まさか食中毒?!


「塩が足んねぇよっ!」

「「「マジかよ!?」」」


 ……あまりの慌てように何事かと思ったら材料不足か。基本のテンションが高すぎて緊急度がわかりにくいな。

「っ?!どうする?!」「どうもこうもねぇだろ!……どうする?!」「俺が買い出しに行ってきます!」

 

 バゴーンっ!ガシャンッ!


 「バッキャロー!俺らの《フライドポテト》はその辺の塩じゃ作れねぇんだよ!」


 ええ?!殴った?!今殴ったよね?軽く人が飛んでたよね?!

「……っ、すんません!俺、俺、すんません!」

 殴られた方が謝るのっ!?いろんな意味で異世界すぎるぞ、この空間。


「そもそもよぉ、今王都(ココ)じゃあ塩が値上がりしてんだ。大量に仕入れて安くしてもらってるからこの値段で提供できているが……」「それによ、今から仕入れるって言っても大量の塩を抱えてる問屋なんて今時ねぇだろ……」「安くていい塩が手に入る方法があればなぁ……」

 うーん、と揃いも揃ってイカつい料理人たちが頭を抱える。


 ボクも悩む。

 一般常識的に考えれば彼らを手助けする術があるなら助けるべきだ。それは冒険者ギルドの掲げる精神とも合致している。……でもなぁ……彼ら怖いんだよ。もしこれでボクの出す塩が彼らのお眼鏡に適わなかったら何を言われるかわかったもんじゃない。


「……あの、」

 おずおずと手を挙げるボク。に誰も気づかない。もしくは皆が気づいた上で無視してる。


「あのっ!」

「ウルセェ!今こっちは忙しいんだ!異世界人は黙ってろ!」「そうだそうだ!一日限りのヘルプで来てるだけの冒険者は黙ってろ!」

 アンタらの方がうるさいだろ。


「……ボク、塩出せます」

 何を言ってるんだと思われるだろう。ボクもそう思う。だいたいなんだよ『塩を出せる』って能力。

「はあ?何言ってんだ、オメー小声でボソボソ言うな!」「わけわかんねぇこと言ってんじゃねぇぞ!」「クレッセント語ぉ喋れバカやろ!」

 キレすぎだろ。なんだか、さすがのボクもイライラしてきたぞ。もういい!やってやる!


 ボクは無言で手のひらを上に向け目を瞑る。

「おい!お前なに勝手なことしてやがる!」「魔法陣っ!?」「ルーキーの魔法なんか暴発する可能性もあんだぞ!やめとけ!」


 罵声も忠告も無視する。


「出ろ!塩!」……語呂が悪い。


 

 サラサラ、サラサラサラサラ〜。


 集中した瞬間、手のひらに砂の粒のようなものが当たる感触がした。


「っ?!」「なんだ、何が出た?!」「こいつ、召喚術師なのか!」「……なんだアレ?飲み物じゃねぇし、生き物でもねぇぞ」


 ボクが目を開けると一人の料理人が近寄ってきてボクの足元でしゃがみ込み、地べたに落ちた塩を人差し指で掬い上げ舐める。


 ボクは『よく地面に落ちたものを口にできるな』と思ったが、この世界の衛生観念はボクの生きた世界、時代とは大きく違うので口を閉ざした。

 

 ぺろっ、「こ、これはっ!?」


「「「「これは?!」」」」

 ボク以外の全員が口を揃えて、一人に注目する。



「塩だ、しかもめちゃくちゃ上質な塩。たぶん、俺たちが普段使ってるものより高級だ。俺はバカだからわかんねぇけど、なんか精製の仕方が違う気がする」

 ……よかった。お気に召した様子だ。

「おい!冗談だろ?」「俺も舐めてみるか」「お、俺もちょっと」

 地面に落ちた塩に群がる料理人たち。

 そしてそれを見下ろすボク。

 ………………どんな光景だコレ。


「すげー!コレはうまい!うまいぞ、異世界人!」肩を掴んでブンブン揺らされる。首がイカれちゃうからやめてください。

「たしかに、普段のより味も舌触りもいい」「口の中ですぐ溶けるな」「これはポテトに合うぞ」


 みんなして地面の塩を舐めては、褒めてくれる。生まれてこの方、こんなに褒められた経験がないからボクはどんな顔していいのか分からず戸惑うことしかできない。


「……きめた!」

 恰幅のいい、割とさっきから先陣を切って話していたおじさんがそう言うと、他の人たちは静かになり、ボクの方を向いた。


「異世界人、いや!冒険者さん!アンタぁこの塩、どれだけ生み出せるんだ?」

 

「生み出す?……えっと、さっき言った通り、ボクは召喚術師なので生み出してるわけじゃなくて……」

「うるせぇ!そういうのはいいんだよ!」

 ……っ、本題と違う話をしたことにさっき殴られてた若そうな料理人がキレる。


「バッキャローっ!!!」恰幅のいい料理人がまた殴った。この職場、嫌すぎるっ!


「俺たちゃなぁ、このお方がいねぇとお客様、満足させられねぇんだぞ!このお方に塩出してもらわねぇと、俺らはただの荒くれとかわんねぇんだ!」

「料理長……」「……くっ、」「そうだ、俺たちは料理人なんだ!」なんかアレだな。盛り上がってるけどテンションについて行けないなぁ……。


「料理長!俺!間違ってましたっ!冒険者さん!すんません!俺!バカだから!無礼なこと言って……」

「あ、はい。大丈夫ですよ。慣れてるんで……」

「冒険者さん!俺を、……俺たちを!料理人にしてくださいっ!!」「「「「お願いします!」」」」


「……あ、はい。じゃあ、その辺のお皿に塩出していくんで、勝手に使ってください。はい。」


「「「「うおおおお!!」」」」


 ……………………。

 …………。

 ……。


 …………こうしてボクらの2回目となるクエストは無事終了した。帰る時、店の人たちから『ぜひ、転職してくれ』と頼まれたが、丁重にお断りして出てきた。


「サダオ!アンタ、人気凄かったね!いつの間にあんな仲良くなったの?途中からお客さんたちが『美味すぎるー!』とか絶叫し始めたのってサダオのおかげなの?」

 配膳担当だったレオナはことの詳細を知らない。が、わざわざ説明するのも恥ずかしいな。

「……まぁその、色々あったんだよ」

「そうなの?……!、そう言えば最後の方に来た()()()のお客さんが水を溢してさ、『水が――」

 レオナの話を半分聞き流しながらクエストの結果報告のためにギルドハウスへと向かう。これでようやく二つ目……、まだ二つ目だ。ルーキーの称号はまだ外してもらえなそうだ。



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