表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/70

冒険者について 2

「オリヴィアさんも召喚術師なんですか?」

 

「え?はい。よくわかりましたね。私のジョブは召喚術師【飲み物】といって、ありがちなものなんです」


 …………召喚術師【飲み物】?!

 あまりにもストレートすぎるだろ!

 召喚術師【調味料】って冗談みたいなジョブを与えられたボクに言えたことじゃないので心の中でツッコミをいれる。


「……ありがちなんですね。たしかに戦闘に活かすのは難しそうですけど、その、実生活では便利そうだなって思いました」

「こんな美味しいリンゴジュース出せるならリンゴジュース屋さんでも開けばいいのに!あたしなら毎日飲んでも飽きない自信あるよ!」

 細すぎる。

 たとえ流行ったとしても数年持たずに畳むパターンにしか思えない。白い鯛焼きとか生食パンみたいに一過性のブームどまりにしか思えない。そもそもマスメディアのないであろう、この世界でそんな一過性のブームなんてものは生まれるのか?


「ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいですね。……一応説明すると、召喚術師には【飲み物】と【生き物】の二種類がありまして、どちらも非戦闘職扱いで『全武器種、全防具に対する補正無し、習得しやすいスキル、魔法特に無し』となってます」


「あーそうなんだ。……だから受付嬢なんだね!」

「はい、そうですね。と言っても、私は仮に戦闘職持ちに生まれたとしても冒険者を選ばなかったかも知れません。あまり運動は得意なほうではないですから。……ってあれ?サダオさん、どうかしました?」


「………………あの、ボク、召喚術師なんですけど……」


『全武器種、全防具に対する補正無し』という言葉の重みが今のボクには分からない。分からない。が、深刻なことはなんとなく伝わってくる。


「あちゃー……」

 赤毛の少女『レオナ』は自らの頭に手のひらを軽く当てる。それは異世界ではなく江戸っ子のリアクションだろ。


「奇遇ですね。【飲み物】ですか?【生き物】ですか?【生物】なら冒険者さんにも少ないですけどいるにはいて、過去『勇者パーティ』にも所属した召喚術師【生物】の方もいて――」


 

「召喚術師【調味料】と言われました」

「――あ、あはっ……」

 オリヴィアさんは乾いた笑いをしてすぐに『すみません……』と口を塞いだ。

「あはっ!あははは!調味料?調味料って!あはははあはははっ!!」

 赤毛の……いや、レオナという少女は机をバンバン叩いて笑ってる。コイツっ!……。


「はぁ……まぁ笑われても仕方ないので気にしないでください」

 ショックなのには変わりないが、笑われるのは慣れている。ボクの言葉にオリヴィアさんが憐れみの目を向けているのも気にならない。


「……はぁはぁ……。あー笑わせてもらったわ」

 レオナはなんかちょっと涙すら流してる。笑いすぎだろ。……そんなに面白いのかな?こちらの世界に慣れてないからどれくらい面白いジョブなのかもわからない。


「……ところで、『調味料』って何?」

「じゃあ、なんであんなに笑えたんだよっ!」


「えぇ?!」「な、何急に?!」


 しまった!!

 心の中のツッコミを口に出してしまった。

 お手本みたいに手も横に出し、言い逃れできない姿勢でボクは固まる。

 そもそもこの世界のベースは西洋だ、ツッコミなんて文化はあるわけない。……いきなり大声で怒ったみたいに思われてしまうぞ。考えろ考えろ。どう立ち回るのが正解だ?


 なんて必死に考えたところで、正解が出てくるはずもなく、……というかここでリカバリーできる能力があるなら『無キャラ』になってないというか……。


「……てかさ、そもそもなんで異世界人なのに《ジョブ鑑定》済みなの?あれってアンタのいた世界にもあるもんなの?だとしたらジョブについて知らないっておかしくない?」

 レオナは変なポーズで止まってるボクを無視して話を始めてくれた。意外と優しいというか、スルースキルが高めだ。


「……たしかに、サダオさんはこちらへ来たばかりなんですよね?」

「あぅ、はい。そ、そうなんですけど――」

 と、言って何事もなかったように振る舞うが、脇の下は汗で凄いことになってる。


「――縁あって、勇者パーティの方達に出会い、お城へ橋渡ししてもらったんです。それで《ジョブ鑑定士》にジョブを鑑定してもらいました」


「勇者?!」とレオナは飛び上がる。

「勇者……?」とオリヴィアさんは首を傾げる。

「勇者……」とボクらとは少し離れたところで何がしかの作業をしていたマーヤさんが意味ありげに呟く。


 文字通りの三者三様、あんなチャラついた態度だったが、やはり勇者。彼らはどうにも有名らしい。

 ……ゆいすんがこの先、幸せでいることを改めて願おう。きっと、彼らなら……。


「勇者様は先月お亡くなりになったはずですが?」

「ですね。オリヴィア同様に私もそう記憶しております」

「あたしも!」


 ……?どういうことだ。

「……勇者ランディ、『ランドール』と名乗る剣士が『自分は勇者だ』と言っていたのですが……?」

「あー……なるほど」「そういう事ですか」オリヴィアさんとマーヤさんは思い当たる節があるらしく、顔を見合わせ、少し苦笑いした。

「あたしは知らん名前だなぁ」

 行儀良く席に戻るレオナ。


「……申し訳ないんですけど、その方は《勇者》ではなく、『勇者志望』の冒険者さんですね」

「……え?……えぇ、じゃあ、あのパーティは……ただの一般人……?」

 ボクを、……ボクらを騙したのか?あのホスト系剣士!?確かにボクもゆいすんもこの世界について何も知らないから騙し易かっただろうけど、……なんのために?


 ボクは『勇者』の意図が読めず頭が混乱する。


「……彼らは決して『一般人』ではございませんよ?」

 箒を片手にマーヤさんがそう言った。

 たしかに思い返すと、彼らはたった三人で、十人近くいた山賊たちを()()で制圧していた。そんな彼らが一般人なわけがない。

 

「この話は冒険者の『ランク』に繋がるのでオリヴィアに話してもらった方がいいですね。では、私は掃除に戻ります」

 マーヤさんはそういうとカウンターの横からトイレのあった裏庭へ向かった。


「……ランク」

 塾で成績ごとにランク分けされた中学受験してた頃を思い出し、寒気がする。

「この辺からあたしもちゃんと聞いた方が良さそうだな」とレオナは姿勢を正す。


「ごほん、では説明させてもらいますね。冒険者さんたちにはそれぞれ、功績、実績に応じた『ランク』というものが存在し、下から《(カッパー)》《青銅(ブロンズ)》《(アイアン)》《(シルバー)》《(ゴールド)》の五つに分けられています」

 ……マジで受験期思い出して鳥肌が……。


「はい先生!オリハルノンはどうして説明しないのですか!?」

 レオナが元気よく手を挙げて質問する。

「オリハルコンですね。一応、他国では存在していますが……」

「……この国には今いない、ということですね」

「はい、もう何十年も」

 つまり、オリハルコンだけは功績を上げていけば、いつか辿り着く。というものではないわけだ。

 ……ん??どういうことだ?


「オリハルコンは魔王クラスの相手を倒した方にのみ与えられる称号で、イコール《勇者》と呼んでも過言ではないのですよ」

「……じゃあ、ランドールさん達は……?」

「彼らは《銀級(シルバーランク)》、一般人の壁の向こう側の人たちです。彼らは自ら勇者と名乗り、《オリハルコン》を目指す挑戦者として有名です。彼らは、こことは違う冒険者ギルド、《マンドルーラ》を活動拠点にしてるので直接は会ったことはないですけどね」


『この街にいると噂はよく聞きます』とオリヴィアさんは続けて言った。

 つまり彼らの言ったことは、嘘。ではないのか?騙すとかそんなつもりは毛頭なく、背水の陣を敷き、自らを追い詰め奮い立たせる。……思っていた人とは大違いだな。

 

「まぁようは嘘つきって事だ」

 レオナはなんとなく『()()勇者ランドール』を評価する流れになりかけていた空気を身も蓋もない表現で一刀両断した。


「それで?どうするの?」

 レオナの言葉にボクは戸惑い、『な、な、なにがですか?』と声が上擦る。


「だーかーらー、あたしと組むの?組まないの?」

 …………?いつからそんな話になったんだ?!

「あれ?サダオさん、冒険者になるんでしたっけ?」

 オリヴィアさんも話の展開について行けてないご様子。そりゃそうだ。この子は何をいきなり言い出したのか。


「だってさ。異世界から転移してきたって事は仕事ないんでしょ?さっきの話聞く分には、この世界の常識とかもないみたいだし。だったらさ、あたしとパーティ組んで冒険者になろうよ」


 そう言ったレオナはまるで『全然いらないのに死にかけのセミを咥えてきて褒めて欲しそうにしている猫』みたいな表情でコチラを見ている。

 彼女を見ていると忠犬とは程遠い奔放な猫を思い浮かべてしまう。目の形だろうか。


「……たしかに、『アリ』かも知れませんね」

 両手を組み、天井を見ていたオリヴィアさんがレオナに賛同したが、理由がわからない。

「ボクもオリヴィアさんと同じ、非戦闘職なんですよ?」教わりたての言葉で場の空気に逆らう。

「でも私は【飲み物】、サダオさんは【調味料】という違いがあります。もしかしたら……という可能性を信じてみても……?」

 オリヴィアさんは両手を顔の前で合わせて頭を傾げた。ハッキリ言ってドチャクソ可愛い。推せる。


「まぁとりあえず登録してさ、いくつかクエスト受けてみて無理そうなら辞めてもいいじゃんね?でしょ?」とレオナは軽く言って席から降り、近寄ってきた。

 

「ちゃんと自己紹介するね。あたしはレオナ、16歳。生まれてすぐ修道院に捨てられて、そこで育てられたから合ってるはず。冒険者になる目的は……いつか話すよ」レオナは手をコチラに出し、握手を求める。その小さな手がボクには震えているように見えた。

 見間違えかもしれないが、恐らく、彼女も緊張しているのだろう。

「……もしボクが断ったら、キミは一人で冒険者になるの?」


「……まぁ、うん。そうなるね。私には目的があるから」


 きっと個人的な事なのだろう。今ここで言うつもりは無さそうだけど、レオナの瞳からは()()()()()()()という雰囲気を感じた。隠してるわけじゃない。まだ話すほどの関係がお互いに築けていないだけ。

 

 誰よりもまっすぐボクを見つめる、彼女の瞳にボクは圧される。強がりかも知れないが、()()できる。そんな気がした。

 

「うん――。ボクの名前は御宅田サダオ。ダサオじゃないよ。年齢は二十歳。元の世界では警備員として働いてたから長時間歩くのには慣れてるけど、逆に言えばそれしか特技も特徴もない。それでもよければ……」


 よろしくお願いしますと言ってボクは彼女の出した手を取った。

 女性の手に触れるのは人生で二度目だが、前回と違い今回はなんのファンファーレもならず、転移も起きない。

 が、ボクはそんなことより――。


「こちらこそ、よろしくお願いしますっ!!」


 ――小さく、幼い見た目に反して、幾つもの固くなったマメがある手に意識が持っていかれた。

 彼女の座っていた椅子に立て掛けられた大きな武器、きっとレオナはアレを使えるよう努力してきたのだろうということが交わした手のひらから伝わった。


「では、早速でもうわけないんですけど冒険者登録といきましょう!」

 オリヴィアさんはそう言って何やらゴツゴツした石板を取り出した。


 


 ボクがこの世界に来て三日目、ようやくボクは無職から脱却し、冒険者となった。


 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ