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サジタリウス未来商会と「心を映す記録」

日曜の昼下がり、ショッピングモールのフードコートは人々の話し声と食器が触れ合う音で賑わっていた。

その一角で、古谷慎吾は一人、ハンバーガーをつつきながらスマホの画面を見つめていた。


32歳の慎吾は、地方の営業職として働いているが、ここ最近は仕事にもプライベートにも不満を抱えていた。


「何かしっくりこないんだよな……」


仕事は順調とは言えないものの安定している。

恋人との関係も悪くはないが、結婚への踏ん切りがつかない。


「俺の生き方、これでいいのか……」


そんな風に悩むことが増えた慎吾は、ハンバーガーを半分残したまま席を立った。


ふと目をやると、モールの一角に奇妙な店が目に留まった。


それは、仮設のブースのように見えるが、どこかレトロな雰囲気を漂わせている。

入口には「サジタリウス未来商会」と書かれた看板が掲げられていた。


「未来商会……?」


慎吾は足を止め、興味本位で中を覗き込んだ。


中に入ると、そこには一人の老人が座っていた。

白髪交じりの髪に長い顎ひげをたくわえた初老の男が、穏やかな笑みを浮かべて慎吾を迎えた。


「ようこそ、古谷慎吾さん。どうぞお座りください」


「俺の名前を知ってるんですか?」


「もちろん。そして、あなたが心の中で抱えているものも分かっていますよ」


慎吾は半信半疑で座り、男の話を聞いた。


「あなたの悩みは、過去に選んだ道が正しかったのか、それともどこかで間違えたのではないか、というものですね」


慎吾は目を見開いた。


「どうして分かるんだ?」


サジタリウスと名乗る男は、懐から小さな装置を取り出した。


それは、古いビデオカメラのような形状だが、レンズ部分が鏡のように輝いていた。


「これは『心を映す記録』です」


「心を映す記録?」


「ええ。この装置は、あなたがこれまでの人生で選んできた選択肢や行動が、どのようにあなたの心に影響を与えてきたかを映像として再生します。言わば、あなた自身の『心の履歴書』を見ることができるのです」


慎吾は驚いた。


「そんなことができるのか?」


「もちろん。ただし、注意が必要です。この記録を見てどう受け止めるかは、あなた自身に委ねられます。それでも試してみますか?」


慎吾は少し迷ったが、装置を使ってみることにした。


自宅に戻った慎吾は、装置をテーブルの上に置き、スイッチを入れた。


レンズの中に光が広がり、やがてスクリーンのような映像が映し出された。


最初に再生されたのは、大学時代の慎吾が、就職活動をしている場面だった。


映像の中の慎吾は、大手企業の内定を辞退し、地元の安定した中小企業を選んでいた。


「これが正しかったのか……」


その時の自分の心の中が、映像と共に言葉として再生されている。


「安定を選ぶのが正解だろう。でも、本当は東京で挑戦したかった……」


慎吾は胸の奥がざわつくのを感じた。


次に映し出されたのは、恋人と出会った日の記録だった。


その日の彼の心は、恋愛に対する期待と、どこか満たされない思いが入り混じっていた。


「一緒にいて落ち着く。でも、これで本当にいいのか分からない……」


慎吾は装置のスイッチを切った。


「俺は、ずっとこんな風に迷ってばかりだったのか……」


翌日、慎吾は会社の昼休みに再び装置を使った。


映像の中には、職場での些細なやり取りが映し出されていた。


部下への指示が曖昧だった場面や、上司の期待に応えられず落ち込んだ瞬間が再生される。


だが、そこには別の側面もあった。


「部下の成長を見守りたい」

「チームのために頑張りたい」


その思いが、自分の中にしっかりと存在していたことを知り、慎吾は少しだけ前向きな気持ちになった。


数日後、慎吾は再びサジタリウスの店を訪れた。


「ドクトル・サジタリウス、この装置を使って、自分の心の動きを知ることができました。でも、どうすればこれを活かせるのか分かりません」


サジタリウスは静かに頷き、答えた。


「記録を振り返ることが大切なのではありません。その記録から、これからの行動をどう変えるかが重要なのです」


「でも、過去の選択が間違いだったら、どうすればいいんだ?」


「間違いだったかどうかを決めるのは、これからのあなたの行動です。どんな過去でも、未来のために活かすことができるのです」


慎吾はしばらく考え込み、ゆっくりと頷いた。


それからというもの、慎吾は少しずつ行動を変え始めた。


仕事では、部下とのコミュニケーションを増やし、自分の考えをしっかり伝えるように心掛けた。

プライベートでは、恋人との未来について真剣に話し合い、新たな一歩を踏み出す決意をした。


ある日、彼はふと呟いた。


「過去は記録に過ぎない。大事なのは、それをどう未来に繋げるかだな」


サジタリウスはモールの一角で、新たな客を迎える準備をしながら、どこか満足げに微笑んでいた。


【完】

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