シロンとの出会い
シオンは冒険者ギルドを後にし、草原へ向かって歩き始めた。ギルドの掲示板で受け取った初めての依頼、それは草原で薬草を集めるという比較的簡単なものだった。初心者向けの常時依頼であり、経験もなく特別なスキルも持たない冒険者でもこなせる内容だ。
「よし、まずは薬草集めか。簡単そうだけど、きちんとやらないと報酬ももらえないしな」
シオンは道中でこれまでの情報を頭の中で整理していた。冒険者としての一歩を踏み出したばかりの彼にとって、これが初めての挑戦だ。手に持った薬草の見本が描かれた紙を確認しながら、目標の草を探す。
しばらく歩くと、広がる草原に到着した。辺り一面が緑に染まり、穏やかな風が草を揺らしている。ここで指定された薬草を見つければ、依頼は完了だ。
「確か……これが『リーフィア草』か」
見本と同じ形の草を見つけると、シオンは慎重にそれを摘み取った。見た目は簡単そうに見えたが、薬草の質や状態が報酬に影響するということも聞いていたので、丁寧に扱う必要がある。
「よし、これで1つゲット。次は他の種類だな」
薬草は種類によって成長する場所や見た目が異なるため、シオンは目を凝らして周囲を探索しながら慎重に進んでいった。次第に彼の手にはいくつかの薬草が集まり、バッグが少しずつ重くなっていく。
「意外と疲れるな……でも、これで今日の依頼は何とかこなせそうだ」
気づけば、空は青から少しずつ夕暮れ色に変わり始めていた。依頼の最低限の量は集まったので、シオンは一息つきながら周りを見渡した。
「もう少しで終わりか……」
と、その時、草むらの奥で微かに動く影が見えた。シオンは驚きながらもそちらに近づいていく。
「なんだ……?」
草をかき分けてみると、そこには傷ついた小さな魔物がうずくまっていた。全身が白い毛で覆われた犬のような姿で、体は震えている。
「もしかして……怪我してるのか?」
シオンは慎重に魔物に近づいた。魔物の名前は知らないが、攻撃してくる気配はない。むしろ怯えているようだった。
「大丈夫だ……怖がらなくていい。俺は敵じゃない」
シオンは静かに魔物に声をかけ、バッグから手当てできる薬草を取り出した。魔物は警戒しつつも、シオンの手から差し出された薬草を見つめていた。
「少しは楽になるはずだ。無理に動くなよ」
シオンは優しく魔物の傷を手当てし、そのまましばらく見守っていた。魔物は徐々に落ち着きを取り戻し、シオンに対して警戒心を解いたように見えた。
「ふぅ……よし、これで大丈夫そうだな。お前、名前はないんだろうけど……白い体だから、シロンって呼ぶことにしようか」
魔物――シロンは、小さく尻尾を振ってシオンを見つめた。その姿に、シオンは自分の選んだテイムスキルを試してみることを決意した。
「テイムスキル、使ってみるか……」
シオンは心の中でスキルを発動させた。シロンの目が少し輝き、次第にシオンに懐くように寄り添ってきた。
「やった……これで俺もテイマーとして一歩進めたな」
シオンは満足げに笑みを浮かべ、シロンを連れて草原を後にした。冒険者としての初依頼も終わり、彼の冒険はここから本格的に始まることを感じていた。
「さあ、ギルドに戻ろう。そして、次の冒険の準備だ」
シオンは草原で薬草を集め終わり、シロンと一緒に冒険者ギルドへ戻ってきた。シロンが足元にぴたりと寄り添い、傷が癒えた彼はもう立派な相棒としての風格を漂わせている。ギルドの受付へ向かい、シオンは依頼の完了を報告することにした。
「薬草の依頼、これで終わりです」
ギルドの受付に薬草の束を差し出すと、先ほどギルド登録をしてくれた受付嬢はニッコリと微笑んで頷いた。ふと胸につけてあるネームプレートを見るとアンナと書いてあった。
「ありがとうございます、シオンさん。これで依頼完了ですね。報酬はこちらです」
アンナは銀貨数枚をテーブルに置いた。それを見て、シオンは自分がようやくこの世界で稼ぎ始めたことに少し安心した。これで当分は生活費に困らない。
「ところで、そちらのモンスターはテイムされたんですね?」
アンナがシロンを指さしながら尋ねてきた。白い体毛に包まれたシロンは、静かにシオンの足元に伏せており、どこか誇らしげな姿を見せている。
「ああ、こいつはシロンって言うんだ。草原で傷ついていたところを助けたら、懐いてくれて……テイムに成功したんだ」
「それは素晴らしいですね! テイムモンスターを冒険者ギルドに登録することができますよ。登録しておくと、モンスターとの行動が公式に認められ、報酬にも影響することがあるんです」
シオンは興味を持ち、シロンの登録について詳しく話を聞くことにした。
「シロンの登録、お願いできるかな?」
アンナは書類を取り出し、いくつかの質問をしながらシロンの詳細を記入していく。
「まずは、モンスターの種族名ですが、シロンは……何か分かりますか?」
「実はよく分からないんだ。全身真っ白で、特徴的な模様もないし……ただ、凄くおとなしいんだ」
アンナは少し考えた後、メモを取り始めた。
「では、暫定的に『白狼種』として登録しておきますね。シオンさん、シロンにはどんな特性やスキルがありますか?」
シオンは、シロンを助けた時に感じたことを思い出しながら答えた。
「シロンは、どうやら成長を促すようなスキルを持っているみたいなんだ。俺が近くにいると、少しずつ力がみなぎる感覚がある。まだ詳しくは分からないけど……」
アンナはその情報に目を見開いた。
「それは貴重なスキルですね! モンスターの成長を促すスキルは希少ですし、これからシロンがどれほどの力を持つか楽しみですね」
シオンは照れくさそうに笑いながら、シロンの頭を撫でた。シロンは気持ちよさそうに目を閉じ、シオンの手に顔を寄せた。
「それでは、シロンの登録はこれで完了です。これから一緒に冒険する際には、この登録証を持っておいてくださいね」
そう言って、アンナはシロンの登録証を手渡した。シオンはそれを受け取り、嬉しそうにポケットにしまった。
「ありがとう。これでシロンも正式にギルドに登録されたってことだな」
「はい、これでシロンも立派な冒険者の仲間です。これからも二人で力を合わせて頑張ってくださいね」
シオンはシロンと一緒にギルドを後にした。ギルドの外に出ると、日が傾き始め、夕焼けが街を赤く染めていた。シロンはそんな風景の中で、再び元気に走り回り始めた。
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