その①
前略
師匠、お久しぶりです。こうしてまたあなたに手紙を出す日が来るとは思っていませんでした。今日はどうしてもあなたに伝えたいことがあり手紙を書いています。ついにサラちゃんが独り立ちすることになりました。
サラちゃんがウチにやってきて1年半。定められた修行期間を半分も終えていませんが私もあなたと同じ“抜け道”を使うことにしました。だってあの子には一人前の薬師を名乗る資格があるんですから。
ねぇ、師匠。師匠はどうして私をこの村に送り出してくれたんですか。免状を取ったばかりの私に見せを任せるの不安じゃなかったですか。
本音を言うと、サラちゃんを独り立ちさせるのはまだ不安です。でもサラちゃんなら必ず私を超える薬師になってくれる。そう信じて送り出すことにしました。
だから、これからはサラちゃんのことを見守ってあげて下さい。
ソフィア・ローレン
その日はついにやって来ました。
10月の初め。朝晩は羽織る物が欲しくなってきた秋の昼下がり。店の前には馬車が停まり、その周りには村の人たちが村を去る一人の少女を囲んでいます。
「ほんとに大丈夫なのか。ソフィーちゃんに追い出されたんじゃないのか」
「私はそんなことしませんよ⁉」
「たまに鬼のような形相で怒鳴るもんなぁ」
「それは怪我人が出た時でしょ!」
村の人だけでなくエドまで私の悪口を言ってるけど、完全に否定はできない自分がいます。そんな私を助けるかのようにサラちゃんは笑って「そんなことありません」と疑惑を否定し、そして予想外のことを口にしました。
「ソフィーさんがあまりにも師匠らしいくないのでわたしから『出て行きます!』って言ったんです」
「えぇっ⁉」
「ソフィーさんは見た目通り子供っぽいし、薬師のこと以外はズボラで書斎は片付けないし――」
「サ、サラちゃん……?」
「――でも」
「?」
「誰よりも患者さんのこと思い、最善を尽くす。わたしの自慢のお師匠様ですっ!」
「サラちゃん……」
なによ。弟子のくせに生意気な言い方しちゃって。ウチに来たばかりの頃はオドオドしていて大丈夫かなって不安になる時もあったのに、私を泣かせるまでに成長するなんて。ほんと生意気な後輩です。




