表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先輩薬師の後輩育成日記  作者: 織姫
第28話 師匠からの挑戦状

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/91

その③

 

                 ◇ ◇ ◇


 その日の夜。夕食の席にはアリサさんたちの姿もあり、上座に当たる席にはサラちゃんが恥ずかしそうに座っています。今夜はサラちゃんの合格祝い。無事に私の挑戦状を攻略した後輩を労うパーティーです。

「あ、あの……」

「どうしたの?」

「ありがとうございます。別に薬師試験に受かった訳でもないのにお祝いなんかしてもらって……」

「そんな遠慮しなくて良いぞ。そこの意地悪な師匠のせいで大変だったな」

「ちょっと! そんな言い方しなくて良いでしょ⁉」

「だってなぁ~」

 同意を求めようとサラちゃんの方を見るエド。そんな彼に苦笑いを見せるサラちゃんは問診票にヒントがありましたと言います。

「問診票の中にヘビ毒用の解毒薬を飲んだって書いてありました」

「解毒薬を飲んだ?」

「はい。誰が処方したのかわかりませんが、この人は持っていたヘビ毒用の解毒薬を自己判断で薬を飲みました」

「それで中毒を起こした?」

「わたしはそう判断しました」

 エドの問い掛けに頷くサラちゃんは普通ならあり得ない話ですと付け加え、同意を求めるように私を見ました。

「解毒薬や麻酔薬は使い方を誤ると命に関わる場合があるので患者さんへ渡すことはありません。そうですよね?」

「その通り。でもなぜか男性は解毒薬を持っていた。薬があれば使っちゃうよね……って、2人ともどうしたの?」

「ソフィー、おまえ……」

「え?」

「結局のところ、サラ殿を不合格にする気はなかったのだな」

 エドたちがジト目で私を見ています。どうやら試験課題にちりばめた“ヒント”に不満があるみたいです。

「必要のない薬を飲めば中毒になるって、サラならすぐわかるだろ」

「そ、それはそうだけど――」

「そもそも『行商人が解毒薬を持っていた』というのは少し無理がないか」

「アリサさんの言う通りだな」

「で、でも試験だとしてもヒントは必要だし……ね?」

 エドたちの追求に気を吞まれる私はニコッと笑顔を見せて誤魔化します。まぁ、課題を作った私もちょっと無理があるかなとは思っていたので仕方ない部分はあります。それでもサラちゃんがヘビに噛まれた事実に惑わされず、正しい答えを導き出したのは事実です。

 サラちゃんが下した診断は『解毒薬の誤用による中毒』。高熱と呼吸障害はあるけど経過観察で十分と判断した彼女は症状を緩和させる目的で『風邪薬』を処方する選択をしました。対症療法が主となる中で選択する薬としては最善と言えます。

「薬の誤用による中毒は症状に応じた薬を処方しつつ、安静にして症状が落ち着くのを待つしかないの」

「解毒薬は作らないのか?」

「一応レシピはあるけど、解毒薬に使う薬草は組み合わせを間違えたら毒になるものもあるから止めた方が良いかな」

「だからサラは風邪薬を作ったのか」

「はい。レシピ通りに作れば『風邪薬』なら解毒薬に使う薬草は入っていないので」

 頷くサラちゃんは念のために“ブラッドマリー”を使わなかったと言い、その理由もしっかり説明してくれます。

「毒の回りを早くしてしまうのでヘビ毒に“ブラッドマリー”の使用は禁忌なんです。噛んだヘビの正体がわからない状態で症状が無いからと無毒のヘビいだと断定するのは危険です。」

「でも噛んだ奴は無毒なんだろ? 心配し過ぎじゃないのか」

「問診票に書いてある内容なら無毒の可能性が高いです。でも絶対ではないので」

 その通り。患者さんの言葉に絶対はありません。今回は『模擬』問診票ですがたとえ『模擬』だったとしても確証がない限り、最悪を想定すべきです。そういう意味では“ブラッドマリー”を外したサラちゃんの選択は間違いではありません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ