その②
「サラ殿、なにかわかったみたいだな」
「はい。まだ答えは出せてないようですけど」
「そんなに難しい薬なのか」
「そうだねぇ、少し難しいかな」
「おまえ、さっき『そこまで難しくない』って言ってたよな」
「そうだっけ?」
惚ける私だけどだからと言って彼女を手助けするような真似は出来ません。大丈夫。サラちゃんならちゃんと答えに辿り着けるはずです。
「……5日前にヘビに噛まれた? でもヘビ毒って――」
そうだよ。その人はヘビに噛まれた。でもそれは5日前。症状が現れたのは2日前。ヘビ毒にしては発症が遅いよね。
「噛まれてから発症まで時間差があり過ぎる……ヘビ毒にしては遅すぎる」
その通り。仮に遅効性の毒だとしてもヘビ毒なら1日以内に症状が出ます。つまりヘビ毒の可能性はかなり下がります。ちゃんと問診票を細部まで読み、己の知識をしっかり使えている証拠です。
(どうやら“引っ掛け”はちゃんと見抜けてるね)
嬉しい反面、悔しさも感じるサラちゃんの成長を誇らしく思いながら最終的にどんな診断を下し、調薬するのか待ち遠しく見届けます。
「――ヘビ毒の可能性は低い。仮に無毒のヘビに噛まれたとして、どうして高熱と呼吸障害が出るの?」
考え込むサラちゃん。きっと彼女の中で『風邪』や『熱発疹』といった一般的な病気の可能性は排除しているはず。ヘビ毒の疑いが低いと判っても「ヘビに噛まれた」という一文が気になって仕方がないみたいです。
「この人は噛まれた後、持っていた薬を飲んで……え?」
なにか気付いたみたいだね。そうだよ。その人はヘビに噛まれた後、なぜか持っていたアレを飲んでる。普通ならあり得ないよね。さ、あとは適切な処置をするだけだよ。
「なぜ持っていたのかわからない。けれどもし、自己判断で飲んだとしたら……アレしかない!」
良かった。答えに辿り着いたみたい。眉間に皺を寄せていた顔がパッと明るくなるサラちゃんは急いで薬草棚へ向かいます。あとはちゃんと調薬出来るかどうかだけど、正解の薬自体はすごく簡単なものです。サラちゃんの実力なら十分調薬可能です。
(ここまで来ればもう大丈夫だね)
必要な薬草を取り出して調薬を始めるサラちゃんに一安心する私はエドたちの顔へ小さく頷き、小声で「もう大丈夫」と伝えました。
「答えがわかったみたいだよ」
「ほんとか?」
「うん。アリサさんはわかりますか?」
「大体の見当は付くが……ヘビに噛まれてなぜアレなんだ?」
「それはサラちゃんに聞きましょう」
調薬を終えたらなぜその薬を作ったのか説明してもらいます。薬が正しくても理由が間違っていれば不合格です。いくら正しいレシピで調薬された薬でも理由、つまり診断名が間違っていれば誤診に繋がります。
(調薬だけならレシピがあれば誰だって出来るよ。正しい診断が出来て薬師だよ)
ウチの店で働くだけなら調薬が出来れば十分だけど、独り立ちするなら正確な診断が出来るスキルも必要です。
(すごく真剣な目をしてる。ちゃんと確信をもって作ってる証拠だよ)
選んだ薬草を薬研で磨り潰す姿は立派な薬師。目の前の患者さんを救おうという必死さが伝わってきます。
(あの作り方ならエキス剤……あれ? “ブラッドマリー”を入れてないね。これは要チェックかな)
レシピ通りの調薬をしていない点は気になるけど、間違いなく正解の薬を作っているサラちゃん。迷いなく調薬を続ける姿を見るとあえて“ブラッドマリ―”を外したと見て良いかな。
――出来ました!
試験開始から20分。調薬を終えたサラちゃんが声高らかに宣言しました。
「調薬終わりました!」
「お疲れ様。それではサラちゃん。下した診断名と処方する薬の説明をしてください」
「はいっ。わたしが出した診断は――」




