その③
◇ ◇ ◇
「――で、だからテストをするのか」
翌日。昨夜思い付いた“最終試験”の全貌を話すとエドは呆れながらも私の考えに賛成してくれました。
「夜中になにしてるのかと思えば書斎籠ってそんなこと考えてたのかよ」
「そんなことってなによ。臨床経験が少ない分、知識を確かめるのは大切なことでしょ」
「そうだけどさ。どうやってテストするんだよ。そんなホイホイ患者は出てこないぞ」
「もちろん患者さんに手伝ってもらう訳にはいかないよ」
「どうするんだよ」
「擬似診療をさせようと思ってる」
「擬似診療? なんだそれ」
「実技試験、って言った方が良いかな」
首を傾げるエドにニコッと微笑む私は描いているプランを伝えます。
私が考えた“最終試験”の課題は師匠が残してくれたカルテを基に作った架空の問診票だけで適切な薬を調薬すること。記された症状だけで正しい薬を適切な量で作れるかを試すテスト。難易度は薬師試験より高いはずです。
「師匠のカルテは症状も詳しく書いてあるし、たぶん大丈夫だよ」
「もし間違ったらどうするんだ」
「その時はその時だね。さすがに“おまけで合格”なんて出来ないからね」
いくら可愛い後輩だからと言って合格基準を下げることはしません。合格ラインはあくまで適切な薬を適量作り、ちゃんと用法用量を正しく説明できるかどうか。一つでも欠ければ独り立ちは延期です。
「まぁ、薬師のことには口挟まないつもりだけどさ?」
「なに?」
「いったいなにを作らせるつもりなんだ」
「ヒミツ。だってサラちゃんにバレちゃうでしょ?」
「別に教えたりしないぞ?」
「ほんと~?」
「なんだよその顔」
「エドってサラちゃんに甘いとこあるから信用出来ないなぁ」
わざとジト目で見つめる私に頬を引き攣らせる旦那様。別に怒ってると言う訳ではなく、これは痛いところを突かれて言い逃れが出来ずに困っている感じかな。
「懺悔するならいまのうちだよ?」
「なにもねぇよ。そうだな、強いて言うなら――」
「言うなら?」
「この間、サラを怒ってただろ?」
「え? ああ。痛み止めと間違えて麻酔薬を処方した時?」
「おまえに怒られて凹んでたあいつにクッキーをあげた」
「クッキー……あ!」
書斎の机の中に隠していたクッキーが無くなっていたけど、やっぱりエドが犯人だったんだ。
「アレはおまえが麻酔薬を出しっぱなしにしてたのが悪いんだろ。なのにあの怒り方は酷いよな~」
「あ、あれはね? うん。ごめんなさい」
「ってことだから、俺があいつの肩を持つようなことはしないから安心しろ」
「だからって試験課題は教えないよ?」
「わかってるよ。なぁ、ソフィー?」
「本当に合格出来るのか」
「大丈夫だよ。試験に手は抜かないけど、あの子なら私が出した課題をクリア出来る」
心配するエドに力強く頷く私。私は試験を出す側だけどサラちゃんなら絶対合格してくれる。そう確信している私はまだ決めていない試験課題を考えようと書斎へ向かいました。




