その②
◇ ◇ ◇
サラちゃんたちが帰り、エドも寝てしまった深夜。いつもなら眠りについている時間。私は書斎に籠り、オイルランプの仄かな明かりの中で師匠から受け継いだカルテ集の整理をしています。
「えっと、これは重篤症例を纏めたやつ……で、こっちは死亡診断書だね」
師匠が残してくれたカルテ集は大きく分けて3種類。壁一面に置かれた書棚の半分以上をそれらが占めています。
患者の名前順に並べられたものと珍しい症例や重症例を纏めたもの。それから死亡診断書。大半が名前順にファイリングされたもので比較的軽い症例について記されています。残りは特異な症例別にファイリングされています。
「考えてみれば師匠って面倒なことしてたよね」
いまさらですが軽症と重傷でカルテを分けて作るなんて面倒だし、診療事故の元になりかねません。まぁ、そう言う私も重篤な症例はカルテを別に作っているのでなにも言えません。きっと師匠がしていたので自然と真似るようになっただけかもだけど、改めて考えると我ながら面倒なことをしています。
「基本的な診療は出来るから……必要なのはこっちだよね」
ここ最近、診療は全てサラちゃんに任せていたので基本的な処置と調薬は一通り出来るようになりました。足りないとすれば生死の淵を彷徨っているような重篤な患者の扱い方。私も年に一度診るか診ないかないのでしっかり教えられた自信がありません。
「師匠のカルテを見ればわかるよね?」
私が作ったカルテは渡せないけど、師匠が書いたものなら大丈夫。保管期限を過ぎているし、カルテの内容も大体頭に入っているので医術書代わりに譲っても問題ありません。とりあえず重篤な症例のカルテで保存状態が良いものを選んでサラちゃんに受け継いでもらおう。
「サラちゃんには私を超える薬師になって貰わないといけないからね」
自分で言うことでもないけど、私はその辺の薬師よりも知識や腕を持っていると思っています。そんな薬師の教え子です。少なくとも師より上を目指して貰わなければ困ります。
「早かったなぁ」
カルテを整理しながらそんなことをつぶやく私。サラちゃんの独り立ちまで残りわずかとなった中でなにが出来るかと考える私は気付きました。
「そうだ。これを使ってテストでもしてみようかな」




