その①
前略 ソフィア・ローレン様
娘がお世話になっています。サラから手紙を貰いましたが薬草商人の仲介もして頂いたそうで本当にありがとうございます。
さて、薬局の件ですが当家の改装は無事終わりました。ソフィアさんの薬局ほど立派なものではありませんが、ようやく村にも薬局を作ることが出来ました。
ソフィアさん。この度は本当にありがとうございました。サラは素晴らしい師に出会えたと思っています。サラが一人前の薬師になって帰ってくることを心待ちにしております。
末筆ながら皆さんのご健康とご多幸をお祈りいたします。
残暑厳しい初秋の午後。サラちゃんの実家から届いた手紙は嬉しく、そして少し寂しい知らせでした。
「ついにこの時が来たんだね」
手紙を読む限りコヤックの方も準備は整ったみたい。あとは私があの子を送り出すだけになりました。
「――あっという間だったね」
寂しさを紛らわすように呟く私。サラちゃんは往診に出掛け、エドとアリサさんは薬草採りに行っているので診察室には私しかいません。
「そういえば私の分まで手入れしてくれていたんだよね」
部屋の奥にある棚を見つめる私は綺麗に並べられた調薬道具に自然と目が行きます。薬研や乳鉢、天秤ばかり――ほとんどの道具が2組ずつあり、1組はサラちゃんが持ってきたものです。
「自分の分だけで良いって言ってるんだけどなぁ」
道具の手入れは自分の分だけで良いと言っています。それでもサラちゃんはいつも私の道具も手入れしてくれています。気付かないふりをしているけどちゃんと見てるんだよ?
「最初は不安だったけど、いまは私の右腕。誰にも負けない立派な薬師になったね」
こんなことを言うとリリアさんから小言を言われそうですが、いまのサラちゃんは何処に出しても恥ずかしくない私の一番弟子です。そんな彼女の巣立ちまで残り僅か。送り出すその時まで教えられることは全部教えよう。いまさらながらそんなことを思う私は3人の帰りを待ちました。




