その④
◇ ◇ ◇
2人が戻ってきたのは夕方。日が傾きだした頃でした。リットさんとの久しぶりの再会にアリサさんは喜び、初対面のサラちゃんはウチに来た頃のように少し緊張した様子です。
「えっと……リットさん、ですよね。はじめまして。サラと言います」
「君のことはアリサとソフィーさんから聞いてるよ。故郷で薬局を開きたいそうだね」
「は、はい。そ、その……」
「心配しなくても押し売りはしない。まずはぼくが扱っている薬草の質を確かめて欲しい」
緊張気味のサラちゃんに笑顔で接するリットさんは街から運んできた鞄を彼女の前に置き、私とエドはこれから始まる駆け引きを見守ります。アリサさんも一切口は出さないと決めているようで二人を静観しています。
「今回は乾燥させたものを持ってきたが、もちろん時期になれば生の薬草も用意できる」
「ありがとうございます。これは“ヤジリソウ”ですね。こっちは“スペアソルト”ですか」
「その通りだ。さすが薬師だね」
「この店にもありますし、基本的な薬草として教本にも載ってます」
リットさんが鞄から取り出した薬草の束を手に取るサラちゃんはその一つ一つを丁寧に吟味しています。
(さすがに鑑別は出来てるね。問題は質の見極めだけど)
乾燥させた薬草は鑑別が難しく、薬師試験でも実技試験の一つにもなっています。
(さて、どんなやり方で見極めるかな)
私なら煮出してエキスを舐めて確かめるし、実際に調薬して薬の出来で確かめる薬師もいるそうです。
(アレは食べても大丈夫だけど、さすがに食べないよね?)
サラちゃんが手にしているのは“スペアソルト”というハーブの一種。これに限って言えば“食べて”確かめることも出来ますが、いくら私でも食べて確かめることはしません。
「どうだい? その“スペアソルト”は食用としては出回ってないやつだよ」
「調薬用ってことですか」
「ああ。薬師が営んでいる薬草農園で採れた代物なんだ」
「薬師が営む農園ですか……」
なにか引っかかるところがあったのかサラちゃんは“スペアソルト”を手にしたまま考え込み、そしてリットさんへ思いがけない言葉を発しました。
「一口食べても良いですか?」




